第三章 〜夜叉〜(70P)
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実際柚希が所属した救護班の詰め所は、最も大怪我をした者たちを運び込んでいた為、どの戦場よりも戦場らしい場所だった。
本来なら死んでいてもおかしくない程の大怪我でも、柚希の手にかかれば生存率が格段に上がるという事実は、戦場の男たちに希望を与える。当時劣勢の中にいた攘夷志士たちが勢いを盛り返して戦う事が出来たのは、柚希の存在が大きかった。
「忙しくてってだけなら分かるさ。でもあれは明らかに邪魔してやがったぞ。過剰にお前を可愛がってるおっさんどもが俺たちを通さなかったんだぜ。『どこの馬の骨かも分からねェガキを、俺たちの娘に会わせるわけにはいかねェ!』とか何とか言って、しばらく詰め所にも近寄らせなかったんだからな。ったく、いつの間にお前の親父はあんな増殖してたんだって―の」
「あはは。良い人たちばかりだったよね。シロたちだってすぐに懐いてたじゃない。ただ相手を倒すだけじゃ無く、地の利を生かした戦い方や、天人たちの特徴、情報の集め方。その他諸々、ある程度の安全を確保しながら実戦経験させてくれてたでしょ」
「……まァ、な」
二人の脳裏に浮かぶのは、あの頃一緒に戦っていた大人たち。
苦しい戦況の中でも、柚希や銀時たちには出来る限りの笑顔を見せてくれていた『もう二度と会えない』彼らに思いを馳せれば、悲しみに胸が痛んだ。
うっすらと涙をにじませる柚希の肩に、銀時が腕を回す。グイと引き寄せ自分の胸に柚希の頭を押し付けると、もう片方の手で優しく髪を撫でながら言った。
「なァ柚希。あの時……戦場でお前が行方不明になって、こうして再会するまでの間、一体何があったんだ? そもそも天人に追われて戦場に行っちまった事自体、俺たちは詳しい話を聞いてねーんだ。さっきの天導衆の話も気になるし、全部話して聞かせろよ」
何度も髪を撫でながら、柚希の返事を待つ。しかし柚希は頭を押し付けたまま、首を縦にも横にも振る事無く固まっていた。
「俺には話せねェのか?」
銀時が少し怒ったように言えば、小さく身を竦める柚希。それでも口を開こうとしない柚希に、銀時はどうしたか。
「そっか。んじゃ、仕方ねェな」
「え……?」
ぐい、と体を押された柚希が驚いて銀時を見れば、真剣な面持ちで自分を見ている。
「お前が話したくねーんなら、無理して聞きゃしねェよ」
その眼差しは、かつて柚希が見て来た銀時からは想像できない、大人としての物。本当は怒鳴りつけてでも聞き出したいはずなのに、柚希の心を慮って感情を押し殺している。お互いが側にいられなかった長い年月の間に彼も又、壮絶な運命と戦い続けてきた事を柚希は感じ取っていた。
本来なら死んでいてもおかしくない程の大怪我でも、柚希の手にかかれば生存率が格段に上がるという事実は、戦場の男たちに希望を与える。当時劣勢の中にいた攘夷志士たちが勢いを盛り返して戦う事が出来たのは、柚希の存在が大きかった。
「忙しくてってだけなら分かるさ。でもあれは明らかに邪魔してやがったぞ。過剰にお前を可愛がってるおっさんどもが俺たちを通さなかったんだぜ。『どこの馬の骨かも分からねェガキを、俺たちの娘に会わせるわけにはいかねェ!』とか何とか言って、しばらく詰め所にも近寄らせなかったんだからな。ったく、いつの間にお前の親父はあんな増殖してたんだって―の」
「あはは。良い人たちばかりだったよね。シロたちだってすぐに懐いてたじゃない。ただ相手を倒すだけじゃ無く、地の利を生かした戦い方や、天人たちの特徴、情報の集め方。その他諸々、ある程度の安全を確保しながら実戦経験させてくれてたでしょ」
「……まァ、な」
二人の脳裏に浮かぶのは、あの頃一緒に戦っていた大人たち。
苦しい戦況の中でも、柚希や銀時たちには出来る限りの笑顔を見せてくれていた『もう二度と会えない』彼らに思いを馳せれば、悲しみに胸が痛んだ。
うっすらと涙をにじませる柚希の肩に、銀時が腕を回す。グイと引き寄せ自分の胸に柚希の頭を押し付けると、もう片方の手で優しく髪を撫でながら言った。
「なァ柚希。あの時……戦場でお前が行方不明になって、こうして再会するまでの間、一体何があったんだ? そもそも天人に追われて戦場に行っちまった事自体、俺たちは詳しい話を聞いてねーんだ。さっきの天導衆の話も気になるし、全部話して聞かせろよ」
何度も髪を撫でながら、柚希の返事を待つ。しかし柚希は頭を押し付けたまま、首を縦にも横にも振る事無く固まっていた。
「俺には話せねェのか?」
銀時が少し怒ったように言えば、小さく身を竦める柚希。それでも口を開こうとしない柚希に、銀時はどうしたか。
「そっか。んじゃ、仕方ねェな」
「え……?」
ぐい、と体を押された柚希が驚いて銀時を見れば、真剣な面持ちで自分を見ている。
「お前が話したくねーんなら、無理して聞きゃしねェよ」
その眼差しは、かつて柚希が見て来た銀時からは想像できない、大人としての物。本当は怒鳴りつけてでも聞き出したいはずなのに、柚希の心を慮って感情を押し殺している。お互いが側にいられなかった長い年月の間に彼も又、壮絶な運命と戦い続けてきた事を柚希は感じ取っていた。