第三章 〜夜叉〜(70P)
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「あ~……嫌な記憶を思い出しちまった」
時を現在に戻し、銀時が大きくブルリと体を震わせて言った。気付けば外は日が傾き始め、部屋の中も薄暗くなり始めている。
「松陽先生との出会いを思い出すだけのつもりだったのに、どっかの誰かさんが調子に乗ってどんどん話を進めちまったせいで、無駄な記憶まで呼び起こしちまったぜ」
途中から話が長くなる事を想定し、ソファへと移動していた二人の目の前には、すっかり冷めてしまったお茶と茶菓子が並べられていた。
「もう、そういう事言わないの。私も記憶が戻ったとはいえ混乱している部分もあったから、おさらいが出来て良かったよ。それにしても、畑中さんに鍛えられたって話は聞いてたけど、未だに震えが来る程って事は相当厳しかったんだね」
「そりゃもうあのおっさん、本気で俺たちを仕留めにかかってたからな。気絶してる所に止めを刺そうとして来るしよ。もうお腹一杯地獄を味わわせてもらっちまった」
湯飲みに残っていたお茶を飲み干し、大きなため息を吐く銀時に笑いながら、横並びに座っていた柚希がお代わりのお茶を注ぐ。トポトポと聞こえる水音は、先ほどまでの殺伐とした記憶を洗い流すかのように耳に心地良かった。
「畑中さんって『カラクリ師』だとか言いながらも、高度な格闘技術を持ってたでしょ。伊達に戦場から生きて帰ってないよ。……今も元気にやってるのかな?」
「あのおっさんなら、殺しても死なねーだろ。まァ気になるならその内会いに行ってみるか?」
「あ、それ良いね」
自らの湯飲みにもお茶を注ぎ足し、一口含む。長い時を振り返って語り合った事で、自分が思っている以上に喉は乾いていた。
「攘夷戦争より前の出来事をこんなに話したのって、ほとんど無かったよね。戦場で再会しても、お互いあまり過去の話をしなかったし」
「そうだな。……なんつーか、あの場で過去に縋ってるようじゃ、負けちまう気がしててよ。お前もだったんじゃねェの?」
「うん。戦争が終わって平和になったら、ゆっくり語り合えば良いと思ってたから……」
銀時と目を合わせ、小さく微笑む柚希。その瞳には複雑な感情が綯交ぜになっている。そんな柚希に、銀時はわざと拗ねたように言った。
「まァ実際、腰を据えて話す時間も無かったしな。お前が姿を消してひと月ほど経った頃か? 俺たちが噂を頼りにお前を探し出したは良いが、最初はお前に声もかけらんなかったしよ」
「大人たちの計らいで最前線には回されなかったけど、救護班の最前線には所属してたからね。元々戦うつもりで紛れ込んだのに、一人怪我人の治療をしたらもうそこからは医者扱いだったんだもの。医療知識のある人間がほとんど残っていなかったから、シロたちが来ていた事は分かっていても、手を休める暇が無かったのよ」
時を現在に戻し、銀時が大きくブルリと体を震わせて言った。気付けば外は日が傾き始め、部屋の中も薄暗くなり始めている。
「松陽先生との出会いを思い出すだけのつもりだったのに、どっかの誰かさんが調子に乗ってどんどん話を進めちまったせいで、無駄な記憶まで呼び起こしちまったぜ」
途中から話が長くなる事を想定し、ソファへと移動していた二人の目の前には、すっかり冷めてしまったお茶と茶菓子が並べられていた。
「もう、そういう事言わないの。私も記憶が戻ったとはいえ混乱している部分もあったから、おさらいが出来て良かったよ。それにしても、畑中さんに鍛えられたって話は聞いてたけど、未だに震えが来る程って事は相当厳しかったんだね」
「そりゃもうあのおっさん、本気で俺たちを仕留めにかかってたからな。気絶してる所に止めを刺そうとして来るしよ。もうお腹一杯地獄を味わわせてもらっちまった」
湯飲みに残っていたお茶を飲み干し、大きなため息を吐く銀時に笑いながら、横並びに座っていた柚希がお代わりのお茶を注ぐ。トポトポと聞こえる水音は、先ほどまでの殺伐とした記憶を洗い流すかのように耳に心地良かった。
「畑中さんって『カラクリ師』だとか言いながらも、高度な格闘技術を持ってたでしょ。伊達に戦場から生きて帰ってないよ。……今も元気にやってるのかな?」
「あのおっさんなら、殺しても死なねーだろ。まァ気になるならその内会いに行ってみるか?」
「あ、それ良いね」
自らの湯飲みにもお茶を注ぎ足し、一口含む。長い時を振り返って語り合った事で、自分が思っている以上に喉は乾いていた。
「攘夷戦争より前の出来事をこんなに話したのって、ほとんど無かったよね。戦場で再会しても、お互いあまり過去の話をしなかったし」
「そうだな。……なんつーか、あの場で過去に縋ってるようじゃ、負けちまう気がしててよ。お前もだったんじゃねェの?」
「うん。戦争が終わって平和になったら、ゆっくり語り合えば良いと思ってたから……」
銀時と目を合わせ、小さく微笑む柚希。その瞳には複雑な感情が綯交ぜになっている。そんな柚希に、銀時はわざと拗ねたように言った。
「まァ実際、腰を据えて話す時間も無かったしな。お前が姿を消してひと月ほど経った頃か? 俺たちが噂を頼りにお前を探し出したは良いが、最初はお前に声もかけらんなかったしよ」
「大人たちの計らいで最前線には回されなかったけど、救護班の最前線には所属してたからね。元々戦うつもりで紛れ込んだのに、一人怪我人の治療をしたらもうそこからは医者扱いだったんだもの。医療知識のある人間がほとんど残っていなかったから、シロたちが来ていた事は分かっていても、手を休める暇が無かったのよ」