第三章 〜夜叉〜(70P)
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「おい、柚希?」
銀時が追いかけたが、柚希は気にする事なく物置として使われている小さな蔵に入り、中身のぱんぱんに詰まったリュックに手を伸ばす。
「何だよその荷物」
柚希の背後から覗き込んだ銀時は、リュックの隙間から見えた数本の扇子に目を見開いた。
「まさかお前、一人で……」
「シロ」
目を見開いたまま、銀時が固まる。不意に自分の体を締め付けた柔らかい物が、柚希だと理解するまでには数秒の時が必要だった。
「お、おい、柚希?」
出会って間もない頃は、幼さ故に手をつなぎ、時にふざけて腕を組むことはあった。鍛錬の際に怪我をして、背中に負ぶったり抱き上げた事も数回はある。それでもこんな風に抱きつかれた事は無く、初めての感覚に銀時の頭はパニックを起こしていた。
「ちょ、ちょっと柚希さん? 一体何が起きてるんですかね? 俺はどうすれば良いんですかァッ?」
押し付けられている胸の感覚が妙に生々しくて、煩いくらいに心臓が跳ねてしまう。そんな銀時の動揺を知ってか知らずか、柚希は更に強く銀時を抱きしめた。
「シロ……緒方先生を……松下村塾の皆をお願いね」
「いやこの状態でお願いって何? 皆よりまず俺が色々とお願いしたいんですけどッ!」
「……あと、高杉くんと桂くんにごめんねと伝えて」
「どんだけたくさん頼み事してんだよ。そんなのはお前が自分で責任もって……」
「畑中さんにも、迷惑をかけてごめんなさいって」
「だからお前……」
「大好きだよ、シロ」
「……ッ!」
衝撃的な告白と共に銀時の頬に触れたのは、柚希の唇。
「今までありがとう。シロに出会えて幸せだったよ」
少し頬を赤らめながらも、寂し気な笑顔を見せた柚希はトン、と銀時を倉庫の奥に向けて軽く突き飛ばす。バランスを崩して倒れかかった銀時が、咄嗟に受け身を取って立ち上がった時にはもう、柚希は倉庫を飛び出ていた。
「柚希ッ!」
慌てて追いかけようとするも、どこからか転がってきたボールに足を取られ、動きが鈍る。倉庫を出た時には既に柚希の姿は遠い。しかもその後ろを再び、天人らしき者たちが追いかけているのが見えた。
「くそッ! また変なのが湧いてやがる」
この距離ではどう考えても追いつけそうにない。だが放っておくこともできず、何とかしなければと思った矢先に気付いた違和感。
「高杉? 桂?」
つい先ほどまで一緒にいたはずの二人の姿が無い。この状況で先に帰る事は考えられず、キョロキョロと辺りを見回していると、少し離れた草むらの向こうに座り込んでいる人影が見えた。
銀時が追いかけたが、柚希は気にする事なく物置として使われている小さな蔵に入り、中身のぱんぱんに詰まったリュックに手を伸ばす。
「何だよその荷物」
柚希の背後から覗き込んだ銀時は、リュックの隙間から見えた数本の扇子に目を見開いた。
「まさかお前、一人で……」
「シロ」
目を見開いたまま、銀時が固まる。不意に自分の体を締め付けた柔らかい物が、柚希だと理解するまでには数秒の時が必要だった。
「お、おい、柚希?」
出会って間もない頃は、幼さ故に手をつなぎ、時にふざけて腕を組むことはあった。鍛錬の際に怪我をして、背中に負ぶったり抱き上げた事も数回はある。それでもこんな風に抱きつかれた事は無く、初めての感覚に銀時の頭はパニックを起こしていた。
「ちょ、ちょっと柚希さん? 一体何が起きてるんですかね? 俺はどうすれば良いんですかァッ?」
押し付けられている胸の感覚が妙に生々しくて、煩いくらいに心臓が跳ねてしまう。そんな銀時の動揺を知ってか知らずか、柚希は更に強く銀時を抱きしめた。
「シロ……緒方先生を……松下村塾の皆をお願いね」
「いやこの状態でお願いって何? 皆よりまず俺が色々とお願いしたいんですけどッ!」
「……あと、高杉くんと桂くんにごめんねと伝えて」
「どんだけたくさん頼み事してんだよ。そんなのはお前が自分で責任もって……」
「畑中さんにも、迷惑をかけてごめんなさいって」
「だからお前……」
「大好きだよ、シロ」
「……ッ!」
衝撃的な告白と共に銀時の頬に触れたのは、柚希の唇。
「今までありがとう。シロに出会えて幸せだったよ」
少し頬を赤らめながらも、寂し気な笑顔を見せた柚希はトン、と銀時を倉庫の奥に向けて軽く突き飛ばす。バランスを崩して倒れかかった銀時が、咄嗟に受け身を取って立ち上がった時にはもう、柚希は倉庫を飛び出ていた。
「柚希ッ!」
慌てて追いかけようとするも、どこからか転がってきたボールに足を取られ、動きが鈍る。倉庫を出た時には既に柚希の姿は遠い。しかもその後ろを再び、天人らしき者たちが追いかけているのが見えた。
「くそッ! また変なのが湧いてやがる」
この距離ではどう考えても追いつけそうにない。だが放っておくこともできず、何とかしなければと思った矢先に気付いた違和感。
「高杉? 桂?」
つい先ほどまで一緒にいたはずの二人の姿が無い。この状況で先に帰る事は考えられず、キョロキョロと辺りを見回していると、少し離れた草むらの向こうに座り込んでいる人影が見えた。