第三章 〜夜叉〜(70P)
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「柚希っ!」
息を切らせて三人が駆け寄ると、倒れた天人達は全て額を撃ち抜かれ、絶命していた。
「まさか……」
医者として命に執着し、『殺す』と言う行為からは最も縁遠い存在だと思っていた。
治療が間に合わずに死んだ患者がいれば、いつも夜中に一人で静かに泣くような心の優しい娘。それが銀時たちの知っている柚希だ。
しかし今目の前にいる柚希は涙ひとつ溢さず、まるで感情のこもっていない空虚な眼差しで天人を見下ろしている。
――柚希が天人の命を奪った。
はっきりと自分たちの目で見ていたはずなのに信じられず、何度も瞬きをしながら、銀時たちは柚希と天人の死体を交互に見つめていた。
「もう分かったでしょ。どちらが戦場に相応しいか」
そう言った柚希は地に落ちた玉を引き戻し、扇子に納める。その時、玉に付着していた天人の血液が跳ねて柚希の頬に飛んだ。白い肌を伝う赤はとても生々しく、狂気をはらんでいるにも拘らず、どこか悲し気で美しい。三人は言葉を失い、ただ柚希に見惚れた。
そんな銀時たちに、柚希は微笑んで見せる。
「アンタたちが強い事は、私が一番よく知ってる。経験さえ積めばまだまだ成長できると思うよ。だから……その強さで皆を護ってね」
そのままゆっくりと銀時に歩み寄り、先ほど銀時が拾って懐に入れておいた柚希の扇子を抜き取った。そして小さく囁くように、
「ごめんね、シロ」
と言った柚希は、ハッとして柚希の方を掴もうとした銀時の手をするりとかわす。
「松下村塾の塾生に、誰一人弱い奴なんていないわ。この調子でもっともっと強くなって、いつかまたアンタたちが松下村塾を作ってよ。その日を楽しみにしてるからね。あと、緒方先生に伝言をお願い。『今までありがとうございました。この御恩は生涯忘れません』って」
「おい、何言ってんだよ柚希!」
柚希の言葉に、嫌な予感がして銀時は慌てた。
「言いたきゃ自分で直接言いに行けよ! っつーか、おかしな事言ってんじゃねーっての。何だよその別れ際みたいなセリフはよ。そんな話より、さっきの天人の説明をしやがれ!」
「銀時の言う通りだ。それに未だ勝負はついちゃいねェぞ。一人で勝ったような顔して逃げんじゃねェよ」
「柚希! お前は一人で抱え込み過ぎだ。何か悩みでもあるのなら、俺たちと共に……」
「無理だよ」
ピシャリと言った柚希だったが、その目には、光る物が浮かんでいる。それを零すまいとしてか一旦空を見上げ、数回瞬きをしてまたすぐに銀時たちを見た。
「私とアンタたちとの差は開き過ぎた。……それで良いんだよ」
そう言った柚希は、診療所の裏手へと歩き出す。
息を切らせて三人が駆け寄ると、倒れた天人達は全て額を撃ち抜かれ、絶命していた。
「まさか……」
医者として命に執着し、『殺す』と言う行為からは最も縁遠い存在だと思っていた。
治療が間に合わずに死んだ患者がいれば、いつも夜中に一人で静かに泣くような心の優しい娘。それが銀時たちの知っている柚希だ。
しかし今目の前にいる柚希は涙ひとつ溢さず、まるで感情のこもっていない空虚な眼差しで天人を見下ろしている。
――柚希が天人の命を奪った。
はっきりと自分たちの目で見ていたはずなのに信じられず、何度も瞬きをしながら、銀時たちは柚希と天人の死体を交互に見つめていた。
「もう分かったでしょ。どちらが戦場に相応しいか」
そう言った柚希は地に落ちた玉を引き戻し、扇子に納める。その時、玉に付着していた天人の血液が跳ねて柚希の頬に飛んだ。白い肌を伝う赤はとても生々しく、狂気をはらんでいるにも拘らず、どこか悲し気で美しい。三人は言葉を失い、ただ柚希に見惚れた。
そんな銀時たちに、柚希は微笑んで見せる。
「アンタたちが強い事は、私が一番よく知ってる。経験さえ積めばまだまだ成長できると思うよ。だから……その強さで皆を護ってね」
そのままゆっくりと銀時に歩み寄り、先ほど銀時が拾って懐に入れておいた柚希の扇子を抜き取った。そして小さく囁くように、
「ごめんね、シロ」
と言った柚希は、ハッとして柚希の方を掴もうとした銀時の手をするりとかわす。
「松下村塾の塾生に、誰一人弱い奴なんていないわ。この調子でもっともっと強くなって、いつかまたアンタたちが松下村塾を作ってよ。その日を楽しみにしてるからね。あと、緒方先生に伝言をお願い。『今までありがとうございました。この御恩は生涯忘れません』って」
「おい、何言ってんだよ柚希!」
柚希の言葉に、嫌な予感がして銀時は慌てた。
「言いたきゃ自分で直接言いに行けよ! っつーか、おかしな事言ってんじゃねーっての。何だよその別れ際みたいなセリフはよ。そんな話より、さっきの天人の説明をしやがれ!」
「銀時の言う通りだ。それに未だ勝負はついちゃいねェぞ。一人で勝ったような顔して逃げんじゃねェよ」
「柚希! お前は一人で抱え込み過ぎだ。何か悩みでもあるのなら、俺たちと共に……」
「無理だよ」
ピシャリと言った柚希だったが、その目には、光る物が浮かんでいる。それを零すまいとしてか一旦空を見上げ、数回瞬きをしてまたすぐに銀時たちを見た。
「私とアンタたちとの差は開き過ぎた。……それで良いんだよ」
そう言った柚希は、診療所の裏手へと歩き出す。