「――行くよ！」

　声と同時に振り下ろされる扇子。放たれた玉は、先ほどの数倍の速さで高杉を襲った。

「くっ！」

　想像以上の速さに驚きながらも、絶妙なタイミングで避ける高杉。しかし柚希の方が一枚上手なようで、移動する先々を玉が襲っていた。

「遠隔攻撃ってのは、とことん厄介だな」

　避けてばかりでは埒があかないと、高杉が反撃に出る。迫り来る玉に繋がる糸を数本竹刀で絡め取ると、グイと引っ張って柚希の動きを止める作戦に出た。
　腕力でなら決して負けはしない。事実柚希の動きは止まり、必死に扇子を手放すまいとしている。

「形成逆転か？」

　このまま扇子を奪い取ってしまえば、柚希の戦力は大幅に削がれるだろう。高杉は糸の絡まっている竹刀を、勢いよく引っ張った。
　すると驚いた事に、竹刀は軽々と引き寄せられてしまう。しかし扇子は柚希の手の中に残っていて。

「チッ……糸を切りやがったか」

　糸が絡まったままの竹刀に視線を向ける高杉に、柚希が冷たく言い放つ。

「敵から視線を外すなんてね」

　柚希がそう言った時にはもう、残りの玉が高杉に襲いかかっていた。
　玉の数は減ったが、その分操りやすくなったのか狙いは益々正確になり、更に速さも増している。
　一つ跳ね返している内に二つが別の角度から襲ってくるこの状況に、高杉は対応しきれない。しかも新たな玉は既に頭上へと迫っていて。

――避けられねェ……！

　思わず高杉が目を瞑った時だった。

「そこまでだ！」

　パァン！　とはじけるような音とともに、高杉の頭を掠めて横切る風圧。ハッと目を開けると、そこには銀時が立っていた。

「銀時！」
「高杉、この程度であっさり諦めてんじゃねェよ。柚希はあれでも手加減してんだ」
「何だと！？」
「お前が思ってる何倍も柚希は上手だ。勝ちたいなら本気で潰しにかからなきゃ無理だぜ」
「潰すってお前、それじゃ……」
「言葉の綾に決まってんだろ！　そのくらいの覚悟がなけりゃ、柚希には勝てねぇ」

　高杉の横で竹刀を構えた銀時は全神経を柚希に集中すると、「全力でかかれよ」と言って高杉の一歩前へと出る。

「なァ柚希、俺も混ぜてくれるよな？」
「シ……銀時。随分いきなりだね」
「まァな。だがお前も複数相手の方が、今の自分の実力を確認できるんじゃねェのか？」

　ニヤリと笑いながら言う銀時だったが、決して余裕があるわけでは無い。例え二人がかりでも簡単に勝てる相手では無いという事を、既に何度も手合わせしている銀時は熟知していた。