第三章 〜夜叉〜(70P)
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「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて玉を取りに走る柚希に、畑中が笑う。
「気にすんな。我慢してるみてぇだが、肩に傷を負ってんのくらいは分かってる。その状態でこの腕前は立派なもんだ。お前さんの名前は?」
「柚希です。吉田柚希」
そう答えながら壁と瓢箪に刺さった玉を取り、糸を巻き取る。そして扇子を閉じ、両手でギュッと握りしめた柚希は、不意に何故か緊張した面持ちになると、畑中を見ながら言った。
「突然ですが、畑中さんは『大地の荒鷲』をご存知ですか?」
「お前――!」
ハッと驚いた畑中の顔から笑顔が消え、殺気を纏った鋭い眼差しが柚希に向けられる。だが柚希は何故かホッとした表情を見せていた。
「やっぱりご存知でしたか。もう随分前になりますが、攘夷志士の中におもちゃを使ったカラクリ武器を得意とする男がいると聞いた事があったんです。思い切ってお聞きして正解でした」
「……何故嬢ちゃんみたいな子供がそんな話を? まさか……」
「はい、『大地の荒鷲』と呼ばれていた男は私の父です。とは言っても私は父が攘夷志士であり、戦場での呼び名がそれだったという位しか聞かされていないのですが」
「お前さん、あの男の娘だったのか!?」
目を丸くして柚希を見る畑中からはもう、殺気は完全に消えていた。
「おもちゃのカラクリ武器って情報だけで、よく俺を攘夷志士と結び付けたな。見当違いだったら面倒な事になってたかもしれねーってのによ」
「ただのカラクリおもちゃだったら聞けませんでした。でも扇子の材質や作り、刀でも簡単には切れない強靭な糸、殺傷能力が異常に高い玉を見てしまえば、明らかに戦を意識していると思いますよ」
「くくっ……違ぇねぇや」
畑中はそう言って笑うと、柚希の頭に手を置いてぐしゃぐしゃとかき回した。
「アイツとはほんの一時だが一緒に戦場で戦った。嬢ちゃんの事も聞いた事あるぜ。やたら口うるさい娘が一人いるってよ」
「酷い事を言ってたんですね、父さまは」
「ただし顔はデレッデレだったけどな。可愛くて仕方ないって面してたぜ」
「そうですか……」
ぐっと胸の詰まる感覚に、柚希が小さく唇を噛む。その様子を見た畑中は、未だ聞いていない疑問の大筋を悟る事が出来た。
「――いつだ? 相手は?」
ただし、これだけは聞かなければ分からない。酷だとは思いながらも、畑中は尋ねる。
大切な部分は言葉になっていないにも拘らず、何を求められているのかが分かってしまった柚希は、唇を震わせながら答えた。
慌てて玉を取りに走る柚希に、畑中が笑う。
「気にすんな。我慢してるみてぇだが、肩に傷を負ってんのくらいは分かってる。その状態でこの腕前は立派なもんだ。お前さんの名前は?」
「柚希です。吉田柚希」
そう答えながら壁と瓢箪に刺さった玉を取り、糸を巻き取る。そして扇子を閉じ、両手でギュッと握りしめた柚希は、不意に何故か緊張した面持ちになると、畑中を見ながら言った。
「突然ですが、畑中さんは『大地の荒鷲』をご存知ですか?」
「お前――!」
ハッと驚いた畑中の顔から笑顔が消え、殺気を纏った鋭い眼差しが柚希に向けられる。だが柚希は何故かホッとした表情を見せていた。
「やっぱりご存知でしたか。もう随分前になりますが、攘夷志士の中におもちゃを使ったカラクリ武器を得意とする男がいると聞いた事があったんです。思い切ってお聞きして正解でした」
「……何故嬢ちゃんみたいな子供がそんな話を? まさか……」
「はい、『大地の荒鷲』と呼ばれていた男は私の父です。とは言っても私は父が攘夷志士であり、戦場での呼び名がそれだったという位しか聞かされていないのですが」
「お前さん、あの男の娘だったのか!?」
目を丸くして柚希を見る畑中からはもう、殺気は完全に消えていた。
「おもちゃのカラクリ武器って情報だけで、よく俺を攘夷志士と結び付けたな。見当違いだったら面倒な事になってたかもしれねーってのによ」
「ただのカラクリおもちゃだったら聞けませんでした。でも扇子の材質や作り、刀でも簡単には切れない強靭な糸、殺傷能力が異常に高い玉を見てしまえば、明らかに戦を意識していると思いますよ」
「くくっ……違ぇねぇや」
畑中はそう言って笑うと、柚希の頭に手を置いてぐしゃぐしゃとかき回した。
「アイツとはほんの一時だが一緒に戦場で戦った。嬢ちゃんの事も聞いた事あるぜ。やたら口うるさい娘が一人いるってよ」
「酷い事を言ってたんですね、父さまは」
「ただし顔はデレッデレだったけどな。可愛くて仕方ないって面してたぜ」
「そうですか……」
ぐっと胸の詰まる感覚に、柚希が小さく唇を噛む。その様子を見た畑中は、未だ聞いていない疑問の大筋を悟る事が出来た。
「――いつだ? 相手は?」
ただし、これだけは聞かなければ分からない。酷だとは思いながらも、畑中は尋ねる。
大切な部分は言葉になっていないにも拘らず、何を求められているのかが分かってしまった柚希は、唇を震わせながら答えた。