第三章 〜夜叉〜(70P)
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時は暫し遡る。
「おじさんがこの扇子のおもちゃを作った、カラクリ師の畑中久重さん?」
松陽が連れ去られた翌日。
肩の傷も落ち着かぬままに訪れた万屋でカラクリ師の情報を得た柚希は、その足で畑中の家を訪れていた。そこはまさかの万屋の離れ。どうやら畑中は、万屋の店主と何かしらの深い繋がりがあるようだ。
鍵の無い障子を開けると、部屋の奥には一人の男が玄関を背にして寝そべっている。よれよれの着流しをだらしなく着ているが、そこから覗く首筋や腕、ふくらはぎの筋肉は逞しかった。
「ああそうだ。……ここに来たって事は、そいつが扱えるって事だな」
「何で分かるんですか?」
「万屋の店主に言ってあったからな。扱えない云々の苦情は回すなってよ」
横になっていた体をだるそうに起こすと、畑中は柚希の元へとやって来る。
見た所四十代に入ったくらいだろうか。無造作に後ろで髪をひっつめ無精ひげを生やした風貌には、正直柚希も苦笑いをするしかなかった。
「見せてみろ」
そう言って当たり前のように柚希から扇子を取り上げた畑中は、開いたり部品を回したりと弄り始める。そして先端の割れてしまった玉を引っ張り出しながら言った。
「随分ボロボロになってるな。付着しているのは血か? 年の割には随分と修羅場を潜り抜けてきたようだな」
「……そうですね……」
悲し気に言う柚希をチラリと見た畑中は、無遠慮に柚希の右手を掴む。驚く柚希を無視して手の平と甲をひっくり返しながら数回確認するとふむ、と一つ頷いた。
「嬢ちゃんの手にこの扇子は少し大きいな。もう一回り小さい物があるからそれをやる。玉は二つ組み込んであるが、試してみるか?」
「――はい!」
大きく頷く柚希に畑中はニヤリと笑うと、部屋の隅に置いてある葛籠から扇子を取り出して柚希に渡す。
「一つと複数では重さと重心の感覚が全く違うが、手には馴染むはずだ」
そう言って畑中が顎で指したのは、壁にかけられた数個の瓢箪。
あれを狙えと言われたのだと理解した柚希は、扇子を開いて構えると、狙いを定めて扇子を振り下ろした。
一瞬肩の痛みが柚希を硬直させたものの、ヒュンッと鋭く空を切り裂きながら玉は飛んでいく。だが一つは瓢箪に命中するも、もう一つは的を外れて壁に突き刺さってしまった。
「おじさんがこの扇子のおもちゃを作った、カラクリ師の畑中久重さん?」
松陽が連れ去られた翌日。
肩の傷も落ち着かぬままに訪れた万屋でカラクリ師の情報を得た柚希は、その足で畑中の家を訪れていた。そこはまさかの万屋の離れ。どうやら畑中は、万屋の店主と何かしらの深い繋がりがあるようだ。
鍵の無い障子を開けると、部屋の奥には一人の男が玄関を背にして寝そべっている。よれよれの着流しをだらしなく着ているが、そこから覗く首筋や腕、ふくらはぎの筋肉は逞しかった。
「ああそうだ。……ここに来たって事は、そいつが扱えるって事だな」
「何で分かるんですか?」
「万屋の店主に言ってあったからな。扱えない云々の苦情は回すなってよ」
横になっていた体をだるそうに起こすと、畑中は柚希の元へとやって来る。
見た所四十代に入ったくらいだろうか。無造作に後ろで髪をひっつめ無精ひげを生やした風貌には、正直柚希も苦笑いをするしかなかった。
「見せてみろ」
そう言って当たり前のように柚希から扇子を取り上げた畑中は、開いたり部品を回したりと弄り始める。そして先端の割れてしまった玉を引っ張り出しながら言った。
「随分ボロボロになってるな。付着しているのは血か? 年の割には随分と修羅場を潜り抜けてきたようだな」
「……そうですね……」
悲し気に言う柚希をチラリと見た畑中は、無遠慮に柚希の右手を掴む。驚く柚希を無視して手の平と甲をひっくり返しながら数回確認するとふむ、と一つ頷いた。
「嬢ちゃんの手にこの扇子は少し大きいな。もう一回り小さい物があるからそれをやる。玉は二つ組み込んであるが、試してみるか?」
「――はい!」
大きく頷く柚希に畑中はニヤリと笑うと、部屋の隅に置いてある葛籠から扇子を取り出して柚希に渡す。
「一つと複数では重さと重心の感覚が全く違うが、手には馴染むはずだ」
そう言って畑中が顎で指したのは、壁にかけられた数個の瓢箪。
あれを狙えと言われたのだと理解した柚希は、扇子を開いて構えると、狙いを定めて扇子を振り下ろした。
一瞬肩の痛みが柚希を硬直させたものの、ヒュンッと鋭く空を切り裂きながら玉は飛んでいく。だが一つは瓢箪に命中するも、もう一つは的を外れて壁に突き刺さってしまった。