第二章 ~松陽~(83P)
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「あちらには親父様がいるから。私たちが攘夷戦争に参戦でもしない限り、あの男が私たちに手を出す事は無いんじゃないかな」
「戦争に参戦……」
柚希の言葉を拾い、高杉が言う。
「つまり先生を取り戻すには、攘夷戦争に参戦するしかねェって事か」
ようやく柚希の言わんとしている事が分かり、その場にいた全員の表情が強張った。
これまではただ松陽を取り戻す事だけを考えていたが、戦に出るとなれば遥かに事は大きく、命の危険も増すだろう。
「少なくとも、今私が持っている親父様との繋がりはそれだけよ。私が皆を止めた意味、これで分かったでしょう?」
懐の扇子を掴むように胸元を押さえた柚希は、更に続けた。
「この件は、悔しいけれど私たち子どもにはどうする事も出来ないのよ。下手に動けば親父様を連れ戻す事が出来ないばかりか、攘夷戦争に参戦した報復として自分の家族が殺される事だってあるわ」
ギリ、と柚希の胸元から音がする。それに気付いた銀時が柚希の手元を見ると、指が真っ白になっていた。それ程までに強い力で着物越しに扇子を掴む柚希の顔は、何かを必死に堪えているようだ。
そしてその理由を知っているのは、銀時しかいない。柚希は自分が松陽と出会う前の事を、高杉や桂を初めとする松下村塾の者たちには話していなかった。
「柚希……」
何かを言ってやりたいのに言葉が見つからなくて。ただ名前を呼ぶ事しか出来ないもどかしさにイラつく銀時。
だがそれを察したのか、柚希は銀時にニコリと笑みを向けてきた。
「大丈夫、だよ。私は大丈夫」
ゆっくりと手の力を抜けば、指が桜色に戻っていく。血の流れを感じながら柚希は言った。
「だからまずは大人になろう。大人になって、強くなって。親父様を取り戻しに行くのはそれからでも遅くは無いよ」
「そんな悠長な事を言ってられるかよ! 大人だなんて、何を基準に言うんだ? 年か? 見た目か? 時間任せにしてたって何の解決にもならねェだろうが! 大体その間先生が無事でいられるって保証がねェ。だったら少しでも早く――」
ヒュッ!
空を裂く音が聞こえたと同時に、興奮していた高杉の体が硬直する。
その時にはもう、高杉の体には柚希の糸が巻き付いていた。
「私が本気で糸を引けば、高杉くんの体は二つに分かれるよ。この程度の実力で戦場に行けば、入り口でこの世とお別れだって事、未だ理解できない?」
「くっ……」
必死に糸から逃れようとするも、緩める事すらできない高杉が悔しさに歯噛みする。
高杉ですら全く歯が立たないという現実に、これ以上誰も柚希に対して反論しようとする者はいなかった。
「戦争に参戦……」
柚希の言葉を拾い、高杉が言う。
「つまり先生を取り戻すには、攘夷戦争に参戦するしかねェって事か」
ようやく柚希の言わんとしている事が分かり、その場にいた全員の表情が強張った。
これまではただ松陽を取り戻す事だけを考えていたが、戦に出るとなれば遥かに事は大きく、命の危険も増すだろう。
「少なくとも、今私が持っている親父様との繋がりはそれだけよ。私が皆を止めた意味、これで分かったでしょう?」
懐の扇子を掴むように胸元を押さえた柚希は、更に続けた。
「この件は、悔しいけれど私たち子どもにはどうする事も出来ないのよ。下手に動けば親父様を連れ戻す事が出来ないばかりか、攘夷戦争に参戦した報復として自分の家族が殺される事だってあるわ」
ギリ、と柚希の胸元から音がする。それに気付いた銀時が柚希の手元を見ると、指が真っ白になっていた。それ程までに強い力で着物越しに扇子を掴む柚希の顔は、何かを必死に堪えているようだ。
そしてその理由を知っているのは、銀時しかいない。柚希は自分が松陽と出会う前の事を、高杉や桂を初めとする松下村塾の者たちには話していなかった。
「柚希……」
何かを言ってやりたいのに言葉が見つからなくて。ただ名前を呼ぶ事しか出来ないもどかしさにイラつく銀時。
だがそれを察したのか、柚希は銀時にニコリと笑みを向けてきた。
「大丈夫、だよ。私は大丈夫」
ゆっくりと手の力を抜けば、指が桜色に戻っていく。血の流れを感じながら柚希は言った。
「だからまずは大人になろう。大人になって、強くなって。親父様を取り戻しに行くのはそれからでも遅くは無いよ」
「そんな悠長な事を言ってられるかよ! 大人だなんて、何を基準に言うんだ? 年か? 見た目か? 時間任せにしてたって何の解決にもならねェだろうが! 大体その間先生が無事でいられるって保証がねェ。だったら少しでも早く――」
ヒュッ!
空を裂く音が聞こえたと同時に、興奮していた高杉の体が硬直する。
その時にはもう、高杉の体には柚希の糸が巻き付いていた。
「私が本気で糸を引けば、高杉くんの体は二つに分かれるよ。この程度の実力で戦場に行けば、入り口でこの世とお別れだって事、未だ理解できない?」
「くっ……」
必死に糸から逃れようとするも、緩める事すらできない高杉が悔しさに歯噛みする。
高杉ですら全く歯が立たないという現実に、これ以上誰も柚希に対して反論しようとする者はいなかった。