第二章 ~松陽~(83P)
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「……これだけ言っても帰らない馬鹿がいるんだね」
ポツリと言った柚希の瞳が揺れる。そこにはもう先ほどまでの恐ろしさは無い。
「夜叉みたいで怖い、かぁ。言いたい事言ってくれちゃって」
扇子を懐にしまった柚希は自嘲の笑みを浮かべると、踵を返して診療所の中へと戻ろうとする。しかしそれを後ろから銀時が引き留めた。
「待てよ柚希。お前、松陽とアイツらとの関係について何か知ってるんじゃねェのか? 門下生の奴らを危険に晒したくねェと思っての事かもしれねェけど、お前がここまで強引なやり方をするなんて、よっぽどの理由が無きゃ考えられねェよ」
「さあね。どうかしら」
振り向かず、背中で答える柚希に銀時のイライラが募る。
「ごまかしてんじゃねェよ! お前、何を一人で抱え込んでんだ?」
「そろそろカルテをまとめないと、緒方先生が発狂しちゃう。仕事に戻るわ」
「ふざけんな! 今大事な話をしてんだからこっち向けよ、柚希!」
銀時の問いを受け流そうとする柚希に我慢が出来ず、柚希の肩に手をかけた銀時は強引に引っ張った。
「や……っ!」
「……っ!」
思わずその場にいた者たちが息を飲む。
柚希が振り向いた事で、大粒の涙をボロボロと流しながらも、泣いている事を悟られまいとしていた事に気付いてしまったから。
「な、何でも無い! 目にゴミが入っちゃって……」
慌てて顔を隠してごまかそうとした柚希だったが、信じる者などいるはずもない。
「嘘を吐くなよ、柚希。そんなにも悲しそうな顔で言われても説得力が無いぞ」
それまで口を挟まず銀時とのやり取りを見ていた桂だったが、手ぬぐいを出して柚希の頬を伝う涙をそっと拭うと言った。
「先ほどの小夜殿の言葉は気にするな。いつも笑顔を絶やさぬお前があれ程までに恐ろしい表情で皆を怯えさせたのは、深い理由があることくらいここにいる者たちは分かっているさ。あの戦いぶりも、何も分かっていない俺たちに、お前が実際に経験した命のやり取りを分からせるための物だろう。嫌な役回りをさせてしまったが、だからこそここに残っている俺たちにはお前の抱えている物を分けてくれないか? 先生を取り戻す事は確かに大事だが、お前のお陰でまずは敵を知らねばならぬという事はよく分かった」
思慮深く学もあり、知恵の働く桂は誰よりも早くこの状況を理解していたようだ。そして今、自分たちが何から行動すべきなのかも分かっているらしい。
そんな桂の言葉は、少しだけ柚希の心を癒す。「ありがとう」と受け取った手ぬぐいで自ら涙を拭き取ると、桂に向けて小さく微笑んだ。
ポツリと言った柚希の瞳が揺れる。そこにはもう先ほどまでの恐ろしさは無い。
「夜叉みたいで怖い、かぁ。言いたい事言ってくれちゃって」
扇子を懐にしまった柚希は自嘲の笑みを浮かべると、踵を返して診療所の中へと戻ろうとする。しかしそれを後ろから銀時が引き留めた。
「待てよ柚希。お前、松陽とアイツらとの関係について何か知ってるんじゃねェのか? 門下生の奴らを危険に晒したくねェと思っての事かもしれねェけど、お前がここまで強引なやり方をするなんて、よっぽどの理由が無きゃ考えられねェよ」
「さあね。どうかしら」
振り向かず、背中で答える柚希に銀時のイライラが募る。
「ごまかしてんじゃねェよ! お前、何を一人で抱え込んでんだ?」
「そろそろカルテをまとめないと、緒方先生が発狂しちゃう。仕事に戻るわ」
「ふざけんな! 今大事な話をしてんだからこっち向けよ、柚希!」
銀時の問いを受け流そうとする柚希に我慢が出来ず、柚希の肩に手をかけた銀時は強引に引っ張った。
「や……っ!」
「……っ!」
思わずその場にいた者たちが息を飲む。
柚希が振り向いた事で、大粒の涙をボロボロと流しながらも、泣いている事を悟られまいとしていた事に気付いてしまったから。
「な、何でも無い! 目にゴミが入っちゃって……」
慌てて顔を隠してごまかそうとした柚希だったが、信じる者などいるはずもない。
「嘘を吐くなよ、柚希。そんなにも悲しそうな顔で言われても説得力が無いぞ」
それまで口を挟まず銀時とのやり取りを見ていた桂だったが、手ぬぐいを出して柚希の頬を伝う涙をそっと拭うと言った。
「先ほどの小夜殿の言葉は気にするな。いつも笑顔を絶やさぬお前があれ程までに恐ろしい表情で皆を怯えさせたのは、深い理由があることくらいここにいる者たちは分かっているさ。あの戦いぶりも、何も分かっていない俺たちに、お前が実際に経験した命のやり取りを分からせるための物だろう。嫌な役回りをさせてしまったが、だからこそここに残っている俺たちにはお前の抱えている物を分けてくれないか? 先生を取り戻す事は確かに大事だが、お前のお陰でまずは敵を知らねばならぬという事はよく分かった」
思慮深く学もあり、知恵の働く桂は誰よりも早くこの状況を理解していたようだ。そして今、自分たちが何から行動すべきなのかも分かっているらしい。
そんな桂の言葉は、少しだけ柚希の心を癒す。「ありがとう」と受け取った手ぬぐいで自ら涙を拭き取ると、桂に向けて小さく微笑んだ。