第二章 ~松陽~(83P)
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「親父様……っ! どうして一緒に戦ってくれないの!? 何で逃げようとしないの!? 約束したじゃない、私たちを護るって……シロと私を……」
無理に叫んだ事で酸欠になり、上手く声にならない。それでも柚希は松陽を呼び続けた。
「親父様……おや、じ、さま……っ!」
自分がピンチになればきっと、松陽が助けてくれる。諦めかけていたとしても、自分や銀時の為に立ち上がってくれるはず。そう思って無謀な戦いを挑んだのに――。
「朧」
松陽が静かに言ったのは、たった一言。ただしそれは柚希に絡む腕の力を間違いなく削ぐものだった。
途端に流れ込んできた大量の空気に咳込みながら柚希が感じていたのは、触れた個所から伝わってくる小さな震え。
――親父様とこの男の関係は何? こんな酷い事ばかりしている癖に、どうしてこの男は……
ゆっくりと仰ぎ見た朧の顔には、冷たさよりも切なさが色濃く見えた。
探るような柚希の視線に気付いた朧は、一瞬瞼をピクリと動かし、眉を顰める。
「連れて行け」
朧の言葉に、松陽を囲んでいた男たちが動き出した。
引かれていく松陽の後ろ姿に「松陽先生~~ッ!」と叫ぶ銀時は、別の男たちの錫杖に阻まれて追う事が出来ない。
「親父様ぁっ!」
力が緩んだとは言え、未だ朧に捕らわれたままの柚希も身動きが取れず、叫ぶ事しか出来なかった。
そんな二人に松陽が見せたのは、笑顔。
「なァに、心配はないよ。私はスグにみんなの元へ戻りますから。だからそれまで仲間を……みんなを護ってあげてくださいね」
そう言って背を向けた松陽は、縛られた手の小指を立てて見せた。それを見た柚希に蘇る指切りの記憶が、逆に不安をあおる。
「戻るっていつ!? 私たちはどれだけ待ってれば良いのよ。松下村塾を……私たちの家を燃やされたんだよ。それなのにどうやって護れって言うのよ!」
「ここから離れたら、俺たちの先生じゃなくなっちまうじゃねーか! もう『先生』って呼んでやんねーぞ!」
引き留めようと必死に叫ぶも、松陽は振り向かない。
「私の『先生』としての役目はとうの昔に終わっています。これからは自分たちで、自らの腕を磨いて下さい。そして『化物 』を超えて……倒してみせて下さいね。その日が来るのを楽しみにしていますから」
そう言った松陽はそれ以降、柚希たちがどんなに名を呼んでも振り返る事は無く。遠ざかる後ろ姿に見える小指の約束だけが、その場に悲しく取り残されていた。
その間にも松下村塾は燃え続け、形を失っていく。
松陽の姿も完全に見えなくなり、絶望に打ちひしがれる二人を見ながら、朧は言った。
「吉田松陽と関わりさえしなければ、望んだ『平凡な生活』とやらが送れるだろう」
茫然と佇む柚希を銀時の横へと押しやり、腕を放す。
「お前たちへの師の想いを無駄にはせぬことだ」
周りを確認するように見回した朧が小さく頷くと、残っていた男たちが一斉に姿を消した。
彼らがここにいた痕跡を残さないためだろうか。屋内で松陽に打倒され、外へと運び出されていた数々の死体も、同時に消え去る。
やがて火事に気付いて人が集まって来た時には朧の姿も無く。
柚希と銀時だけが、燃え盛る炎を記憶に焼き付けるかのように静かに立っていた。
無理に叫んだ事で酸欠になり、上手く声にならない。それでも柚希は松陽を呼び続けた。
「親父様……おや、じ、さま……っ!」
自分がピンチになればきっと、松陽が助けてくれる。諦めかけていたとしても、自分や銀時の為に立ち上がってくれるはず。そう思って無謀な戦いを挑んだのに――。
「朧」
松陽が静かに言ったのは、たった一言。ただしそれは柚希に絡む腕の力を間違いなく削ぐものだった。
途端に流れ込んできた大量の空気に咳込みながら柚希が感じていたのは、触れた個所から伝わってくる小さな震え。
――親父様とこの男の関係は何? こんな酷い事ばかりしている癖に、どうしてこの男は……
ゆっくりと仰ぎ見た朧の顔には、冷たさよりも切なさが色濃く見えた。
探るような柚希の視線に気付いた朧は、一瞬瞼をピクリと動かし、眉を顰める。
「連れて行け」
朧の言葉に、松陽を囲んでいた男たちが動き出した。
引かれていく松陽の後ろ姿に「松陽先生~~ッ!」と叫ぶ銀時は、別の男たちの錫杖に阻まれて追う事が出来ない。
「親父様ぁっ!」
力が緩んだとは言え、未だ朧に捕らわれたままの柚希も身動きが取れず、叫ぶ事しか出来なかった。
そんな二人に松陽が見せたのは、笑顔。
「なァに、心配はないよ。私はスグにみんなの元へ戻りますから。だからそれまで仲間を……みんなを護ってあげてくださいね」
そう言って背を向けた松陽は、縛られた手の小指を立てて見せた。それを見た柚希に蘇る指切りの記憶が、逆に不安をあおる。
「戻るっていつ!? 私たちはどれだけ待ってれば良いのよ。松下村塾を……私たちの家を燃やされたんだよ。それなのにどうやって護れって言うのよ!」
「ここから離れたら、俺たちの先生じゃなくなっちまうじゃねーか! もう『先生』って呼んでやんねーぞ!」
引き留めようと必死に叫ぶも、松陽は振り向かない。
「私の『先生』としての役目はとうの昔に終わっています。これからは自分たちで、自らの腕を磨いて下さい。そして『
そう言った松陽はそれ以降、柚希たちがどんなに名を呼んでも振り返る事は無く。遠ざかる後ろ姿に見える小指の約束だけが、その場に悲しく取り残されていた。
その間にも松下村塾は燃え続け、形を失っていく。
松陽の姿も完全に見えなくなり、絶望に打ちひしがれる二人を見ながら、朧は言った。
「吉田松陽と関わりさえしなければ、望んだ『平凡な生活』とやらが送れるだろう」
茫然と佇む柚希を銀時の横へと押しやり、腕を放す。
「お前たちへの師の想いを無駄にはせぬことだ」
周りを確認するように見回した朧が小さく頷くと、残っていた男たちが一斉に姿を消した。
彼らがここにいた痕跡を残さないためだろうか。屋内で松陽に打倒され、外へと運び出されていた数々の死体も、同時に消え去る。
やがて火事に気付いて人が集まって来た時には朧の姿も無く。
柚希と銀時だけが、燃え盛る炎を記憶に焼き付けるかのように静かに立っていた。