第二章 ~松陽~(83P)
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血の気の引いた顔で気を失っている柚希の体は冷たいのに、どこからともなくゆるゆると流れ出て来る赤い液体は火傷しそうに熱くて。
「……何故こんな事を……あなた方の狙いは私でしょう」
柚希を抱きしめ、絞り出すように言う松陽の顔は怒りに満ちている。
「この子が何をしたと言うんですか……っ!」
「初めは丁重に扱っていましたが、激しい抵抗にあった結果です」
松陽の問いに答えたのは、廊下を歩いて来る一人の男。ゆっくりと声が聞こえた方を向いた松陽は、編み笠の下の顔に目を見開いた。
「君はまさか……!」
「お久しぶりですね、先生。ご健勝で何よりです」
「……生きていたのですね。朧……」
松陽の顔に浮かぶのは、喜びとも悲しみとも取れる複雑な表情で。
しかし松陽の側へと歩み寄る『朧』と呼ばれた顔に傷のある白髪の青年は、冷たい眼差しで松陽を見下ろしながら言った。
「早速ですが、先生をお迎えに上がりました。一緒に来ていただきましょう」
他の者たちと同じく手にしていた錫杖で床を叩くと、新たに姿を現した男たちが一斉に松陽を取り囲む。咄嗟に刀を握り直した松陽だったが、すぐに思い直したようにフッと小さく微笑むと、刀を床に置いた。
「……私は逃げも隠れもしませんよ。ですからこの子の手当てくらいはさせて下さい。関係の無い人間を巻き込む必要は無いでしょう」
「あそこの救急箱を取って下さい」と棚を指差したが、朧は承諾しない。
「その娘は子供ながらに我々の精鋭を二人も倒しました。あのようなおもちゃ一つでそれだけの事を成し遂げられるような人間を、無関係とは言えません」
「おもちゃ?」
意味が分からず松陽が改めて柚希を見ると、動揺のあまり見逃していたが柚希の手は扇子を握り締めていた。先端から垂れた糸の先には、割れてしまってはいるが血で赤く染まった玉が付いている。
「この扇子で……?」
「貴方を捕らえるための人質だと分かった途端、逃げようとしたのですよ。身のこなしからただの小娘では無い事は分かっていましたが、正直手こずりました。……さすがに貴方の娘と名乗るだけの事はありますね」
「そう……ですか……」
松陽が悲しげに笑う。
話の流れから、柚希が逃げ出そうとさえしなければこのような目に合う事はなかったのだろう。いつかこういう日が来るかもしれないと、様々な身を守る術を教えては来たが、それがアダになってしまうとは。
「ならば尚更この子は助けてやりたい。私は抵抗しませんから、もうこれ以上この子を苦しめないでやって下さい」
静かにそう言った松陽は、手で柚希の出血個所を探る。右の肩口に傷を見つけて懐の手ぬぐいで応急処置を施すと、朧に顔を向けた。
「……何故こんな事を……あなた方の狙いは私でしょう」
柚希を抱きしめ、絞り出すように言う松陽の顔は怒りに満ちている。
「この子が何をしたと言うんですか……っ!」
「初めは丁重に扱っていましたが、激しい抵抗にあった結果です」
松陽の問いに答えたのは、廊下を歩いて来る一人の男。ゆっくりと声が聞こえた方を向いた松陽は、編み笠の下の顔に目を見開いた。
「君はまさか……!」
「お久しぶりですね、先生。ご健勝で何よりです」
「……生きていたのですね。朧……」
松陽の顔に浮かぶのは、喜びとも悲しみとも取れる複雑な表情で。
しかし松陽の側へと歩み寄る『朧』と呼ばれた顔に傷のある白髪の青年は、冷たい眼差しで松陽を見下ろしながら言った。
「早速ですが、先生をお迎えに上がりました。一緒に来ていただきましょう」
他の者たちと同じく手にしていた錫杖で床を叩くと、新たに姿を現した男たちが一斉に松陽を取り囲む。咄嗟に刀を握り直した松陽だったが、すぐに思い直したようにフッと小さく微笑むと、刀を床に置いた。
「……私は逃げも隠れもしませんよ。ですからこの子の手当てくらいはさせて下さい。関係の無い人間を巻き込む必要は無いでしょう」
「あそこの救急箱を取って下さい」と棚を指差したが、朧は承諾しない。
「その娘は子供ながらに我々の精鋭を二人も倒しました。あのようなおもちゃ一つでそれだけの事を成し遂げられるような人間を、無関係とは言えません」
「おもちゃ?」
意味が分からず松陽が改めて柚希を見ると、動揺のあまり見逃していたが柚希の手は扇子を握り締めていた。先端から垂れた糸の先には、割れてしまってはいるが血で赤く染まった玉が付いている。
「この扇子で……?」
「貴方を捕らえるための人質だと分かった途端、逃げようとしたのですよ。身のこなしからただの小娘では無い事は分かっていましたが、正直手こずりました。……さすがに貴方の娘と名乗るだけの事はありますね」
「そう……ですか……」
松陽が悲しげに笑う。
話の流れから、柚希が逃げ出そうとさえしなければこのような目に合う事はなかったのだろう。いつかこういう日が来るかもしれないと、様々な身を守る術を教えては来たが、それがアダになってしまうとは。
「ならば尚更この子は助けてやりたい。私は抵抗しませんから、もうこれ以上この子を苦しめないでやって下さい」
静かにそう言った松陽は、手で柚希の出血個所を探る。右の肩口に傷を見つけて懐の手ぬぐいで応急処置を施すと、朧に顔を向けた。