第二章 ~松陽~(83P)
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「私はこの寺子屋の娘よ。松下村塾は老若男女問わず誰にでも門戸を開いてるから、こんな怪しい登場の仕方じゃなくて正面から来なさいよ」
隙を見せないよう意識しつつゆっくりと立ち上がった柚希は、青年を真っ直ぐに見つめながら言う。案の定、柚希の言葉に青年は目を見開いた。
「多くの門下生を抱えるだけでなく、娘までいたとは……」
ポツリと呟いた青年の瞳がゆらりと揺れる。その表情は、今にも泣きそうな程に悲しげで。思わず息を飲んだ柚希だったが、瞬きした次の瞬間には一転した恐ろしい顔を見せられ、全身から血の気が引いた。
「……やはりこのまま捨て置くわけにはいかぬな」
「一体……」
「何をする気?」と言いたかったのに、恐怖で声が出ない。
逃げなければと頭では分かっていたが、柚希の足はすくんで身動き一つできなかった。
――シロ……親父様……っ!
心の中で叫んでも、声が届くはずも無い。
抵抗する術も無いまま腹部に強い衝撃を受けた柚希は、ゆっくりと意識を失っていった。
それから数時間の時が過ぎ。
高杉、桂と別れ、夕焼けを背に松下村塾へと戻って来た銀時と松陽は、門の前で立ち止まっていた。
「なァ先生、これ……」
「ええ、ちょっとまずいですね。私が中を見てきますので、君はここで待っていて下さい」
「俺も一緒に行くぜ!」
「いえ、私一人の方が動きやすいので。誰かがここに近付くようでしたら、足止めをお願いします」
「……分かった」
いつもの銀時なら、松陽の言葉など聞かずに駆け出すのだろうが、そこかしこから自分たちに向けられている敵意は、自分よりも遥かに強い者ばかりだというのが感じられるから。
松陽の足を引っ張りたくなくて、銀時は素直に指示に従った。
「大丈夫ですから。すぐに戻りますよ」
そう言って笑顔を見せた松陽は、門をくぐって家の中へと入っていく。その数秒後には激しく刀を交える音が聞こえてきた。
「松陽先生!」
思わず叫ぶも、松陽からの返事はない。心配になり、中へと駆け込もうとはしたが、自分にできる事が無いのは分かっており、歯噛みしながらただ待つ事しか出来なかった。
その頃屋内では、何人もの男たちが倒れていた。
編み笠を被り、錫杖を持って待ち構えていた輩が容赦なく襲いかかって来る。いつになく真剣な表情で斬り伏せる松陽の顔に余裕は無い。ただ一点を見つめながら、前に進もうと必死だった。
「柚希……っ!」
松陽の視線の先には、こちらに背を向けて倒れている柚希の姿がある。
「邪魔をするな!」
冷静さを失いながら何度も刀を振り下ろし、ようやく柚希の元へとたどり着いた松陽は、
「柚希! しっかりして下さい! 柚希っ!」
と叫びながら手を伸ばした。
隙を見せないよう意識しつつゆっくりと立ち上がった柚希は、青年を真っ直ぐに見つめながら言う。案の定、柚希の言葉に青年は目を見開いた。
「多くの門下生を抱えるだけでなく、娘までいたとは……」
ポツリと呟いた青年の瞳がゆらりと揺れる。その表情は、今にも泣きそうな程に悲しげで。思わず息を飲んだ柚希だったが、瞬きした次の瞬間には一転した恐ろしい顔を見せられ、全身から血の気が引いた。
「……やはりこのまま捨て置くわけにはいかぬな」
「一体……」
「何をする気?」と言いたかったのに、恐怖で声が出ない。
逃げなければと頭では分かっていたが、柚希の足はすくんで身動き一つできなかった。
――シロ……親父様……っ!
心の中で叫んでも、声が届くはずも無い。
抵抗する術も無いまま腹部に強い衝撃を受けた柚希は、ゆっくりと意識を失っていった。
それから数時間の時が過ぎ。
高杉、桂と別れ、夕焼けを背に松下村塾へと戻って来た銀時と松陽は、門の前で立ち止まっていた。
「なァ先生、これ……」
「ええ、ちょっとまずいですね。私が中を見てきますので、君はここで待っていて下さい」
「俺も一緒に行くぜ!」
「いえ、私一人の方が動きやすいので。誰かがここに近付くようでしたら、足止めをお願いします」
「……分かった」
いつもの銀時なら、松陽の言葉など聞かずに駆け出すのだろうが、そこかしこから自分たちに向けられている敵意は、自分よりも遥かに強い者ばかりだというのが感じられるから。
松陽の足を引っ張りたくなくて、銀時は素直に指示に従った。
「大丈夫ですから。すぐに戻りますよ」
そう言って笑顔を見せた松陽は、門をくぐって家の中へと入っていく。その数秒後には激しく刀を交える音が聞こえてきた。
「松陽先生!」
思わず叫ぶも、松陽からの返事はない。心配になり、中へと駆け込もうとはしたが、自分にできる事が無いのは分かっており、歯噛みしながらただ待つ事しか出来なかった。
その頃屋内では、何人もの男たちが倒れていた。
編み笠を被り、錫杖を持って待ち構えていた輩が容赦なく襲いかかって来る。いつになく真剣な表情で斬り伏せる松陽の顔に余裕は無い。ただ一点を見つめながら、前に進もうと必死だった。
「柚希……っ!」
松陽の視線の先には、こちらに背を向けて倒れている柚希の姿がある。
「邪魔をするな!」
冷静さを失いながら何度も刀を振り下ろし、ようやく柚希の元へとたどり着いた松陽は、
「柚希! しっかりして下さい! 柚希っ!」
と叫びながら手を伸ばした。