第二章 ~松陽~(83P)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「何だこりゃ? まともに飛ばねーじゃねェか」
「あれ? さっきはちゃんとまっすぐ飛んだんだけどなぁ。ちょっと貸してよ」
柚希が扇子を振ると、やはり一直線に狙った場所へと飛んで行く。それが悔しかったのか、銀時がその後数回試してみたものの、結局一度もまともに飛ぶことはなかった。
「ふざけやがって……これじゃおもちゃっつーより柚希専用の武器じゃねェか。さっきからお前が狙ってる箇所、穴が空いちまってるぜ」
見ると柚希の放った玉は寸分違わず同じ所に当たっていたようで、深い穴となっている。
「元々お前って器用だったしな。こういうトコでもその実力を発揮したってか」
気怠そうに言う銀時は、自分が扱えないと分かり完全に興味を失ったのだろう。扇子をポンと投げて返すと、「じゃ、俺はもう行くけどお前も……」とまで言って口ごもる。
「私が何? これから出かけるんだったら気をつけて行ってらっしゃい」
「……行ってくる」
笑顔で送り出そうとしたのに、銀時は何故か不機嫌な表情でその場を立ち去ってしまった。
「……何で怒ってんのよ、アイツ」
垂れ下がったままの糸を手繰り寄せながら銀時の後ろ姿を見ていれば、合流したのは高杉と桂。いつものようにぶつかり合いながらも楽しそうな三人の姿に、柚希はようやく気付いた。
「そっか……シロなりに気遣ってくれてたんだ」
柚希の口元に、小さな笑みが漏れる。
高杉と桂が正式に入門して暫くは、仕事の合間を縫って柚希も稽古をしたり、一緒に遊んだりもしていた。
だが時間は子供たちの心と体を光の速さで成長させて行く。
少しずつ、でも確実に開いて行く体力と感情の差は、自然な形で彼らに距離を置かせていた。
特にここ最近は仕事が忙しい事もあり、柚希は1日の大半を診療所で過ごしている。松下村塾に戻れば趣味の写真に没頭する事が多く、ますます関わりも薄れていた。
「さっきのって、私を誘おうとしてたって事だよね。そう言えば、最近はゆっくり話す機会も無かったしなぁ。……久しぶりにアイツらとも一戦交えたいし、追いかけてみよっかな」
手にしていた扇子をパチリと閉じて懐に入れた柚希は、銀時たちを追ってパタパタと走り出す。行き先が分からないため、とりあえず門までやってきた柚希が左右を見回すと、遠くに複数の影が見えた。その身長差からあの悪ガキ三人組と、更に合流した松陽だろう。
今からなら十分追いつけると思い、柚希が一歩を踏み出した時だった。
「あれ? さっきはちゃんとまっすぐ飛んだんだけどなぁ。ちょっと貸してよ」
柚希が扇子を振ると、やはり一直線に狙った場所へと飛んで行く。それが悔しかったのか、銀時がその後数回試してみたものの、結局一度もまともに飛ぶことはなかった。
「ふざけやがって……これじゃおもちゃっつーより柚希専用の武器じゃねェか。さっきからお前が狙ってる箇所、穴が空いちまってるぜ」
見ると柚希の放った玉は寸分違わず同じ所に当たっていたようで、深い穴となっている。
「元々お前って器用だったしな。こういうトコでもその実力を発揮したってか」
気怠そうに言う銀時は、自分が扱えないと分かり完全に興味を失ったのだろう。扇子をポンと投げて返すと、「じゃ、俺はもう行くけどお前も……」とまで言って口ごもる。
「私が何? これから出かけるんだったら気をつけて行ってらっしゃい」
「……行ってくる」
笑顔で送り出そうとしたのに、銀時は何故か不機嫌な表情でその場を立ち去ってしまった。
「……何で怒ってんのよ、アイツ」
垂れ下がったままの糸を手繰り寄せながら銀時の後ろ姿を見ていれば、合流したのは高杉と桂。いつものようにぶつかり合いながらも楽しそうな三人の姿に、柚希はようやく気付いた。
「そっか……シロなりに気遣ってくれてたんだ」
柚希の口元に、小さな笑みが漏れる。
高杉と桂が正式に入門して暫くは、仕事の合間を縫って柚希も稽古をしたり、一緒に遊んだりもしていた。
だが時間は子供たちの心と体を光の速さで成長させて行く。
少しずつ、でも確実に開いて行く体力と感情の差は、自然な形で彼らに距離を置かせていた。
特にここ最近は仕事が忙しい事もあり、柚希は1日の大半を診療所で過ごしている。松下村塾に戻れば趣味の写真に没頭する事が多く、ますます関わりも薄れていた。
「さっきのって、私を誘おうとしてたって事だよね。そう言えば、最近はゆっくり話す機会も無かったしなぁ。……久しぶりにアイツらとも一戦交えたいし、追いかけてみよっかな」
手にしていた扇子をパチリと閉じて懐に入れた柚希は、銀時たちを追ってパタパタと走り出す。行き先が分からないため、とりあえず門までやってきた柚希が左右を見回すと、遠くに複数の影が見えた。その身長差からあの悪ガキ三人組と、更に合流した松陽だろう。
今からなら十分追いつけると思い、柚希が一歩を踏み出した時だった。