第二章 ~松陽~(83P)
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やがて夜も更けた頃。
銀時は一人、役人たちが向かってくるであろう松下村塾までの道を逆方向に歩いていた。
つい先程、松陽が松下村塾の中にいる事は確認している。だからこそ役人がたどり着く前に打ち倒しておこうと画策したわけだ。それが無謀な行為だとは分かっていても、あの場所を守る為にはこの方法しか浮かばなかった。
ところがその計画は、思いがけない形で呆気なく幕を閉じる事となる。
歩く道すがら、自分と同じ考えを持って役人を待ち伏せていた高杉と桂と偶然に合流。彼らと共に、丁度やってきた役人たちに立ち向かおうとした銀時だったが、一太刀も浴びせる事なく、決着がついてしまったのだ。
鯉口を切った全ての役人の刀を、一瞬にして使い物にならなくする事で、真の強さを見せつけた松陽の登場によって。
役人たちはあたふたと逃げ帰り、高杉と桂はこの時をもって正式に松下村塾の門下生となる。
既に講武館には見切りを付け、このまま一緒に松下村塾で暮らしたいという二人を説得した松陽は、彼らを各々の家の前まで送り届けた。
そして今。
ようやく銀時と二人きりになった松陽は、歩きながら月を見上げて言った。
「あの手紙を読んだのですね、銀時」
ビクリと体を震わせた銀時は、バツが悪そうに上目遣いで松陽を見る。勝手をした事を怒られるのだろうとゲンコツを覚悟して身を竦める銀時に、松陽は苦笑いを見せた。
「怒ってはいませんよ。……むしろ私は喜んでいるのかもしれません」
「喜んでる?」
考えもしなかった言葉は銀時の歩みを止める。不思議そうに自分を見つめる銀時の正面に立った松陽は、銀時の頭に手を乗せると優しく撫でながら言った。
「ええ、同じ過ちを繰り返さずに済んだのですから」
「は? 何を言ってんだよ。過ちって何の事だ?」
銀時が尋ねても、何かを思い出しているのか悲しげな瞳で銀時を見ながら頭を撫で続ける松陽は、それ以上の事を話そうとはしない。その姿に銀時も何故だか深入りしてはいけない気がして、何も言えなくなった。
やがて松陽の手が離れ、「帰りましょうか」の一言でようやく二人は歩き出す。しかしそれ以降、二人の間に会話は無かった。
沈黙を保ったまま松下村塾へとたどり着き、人気の無い真っ暗な門をくぐる。前を歩いていた銀時が戸を開けて足を一歩踏み入れると……。
「お帰りなさ~い……」
「ひぃっ!」
思わず悲鳴をあげて松陽の後ろに隠れる銀時。そっと顔を覗かせて見るとそこには、懐中電灯で顔を照らした柚希が立っていた。
銀時は一人、役人たちが向かってくるであろう松下村塾までの道を逆方向に歩いていた。
つい先程、松陽が松下村塾の中にいる事は確認している。だからこそ役人がたどり着く前に打ち倒しておこうと画策したわけだ。それが無謀な行為だとは分かっていても、あの場所を守る為にはこの方法しか浮かばなかった。
ところがその計画は、思いがけない形で呆気なく幕を閉じる事となる。
歩く道すがら、自分と同じ考えを持って役人を待ち伏せていた高杉と桂と偶然に合流。彼らと共に、丁度やってきた役人たちに立ち向かおうとした銀時だったが、一太刀も浴びせる事なく、決着がついてしまったのだ。
鯉口を切った全ての役人の刀を、一瞬にして使い物にならなくする事で、真の強さを見せつけた松陽の登場によって。
役人たちはあたふたと逃げ帰り、高杉と桂はこの時をもって正式に松下村塾の門下生となる。
既に講武館には見切りを付け、このまま一緒に松下村塾で暮らしたいという二人を説得した松陽は、彼らを各々の家の前まで送り届けた。
そして今。
ようやく銀時と二人きりになった松陽は、歩きながら月を見上げて言った。
「あの手紙を読んだのですね、銀時」
ビクリと体を震わせた銀時は、バツが悪そうに上目遣いで松陽を見る。勝手をした事を怒られるのだろうとゲンコツを覚悟して身を竦める銀時に、松陽は苦笑いを見せた。
「怒ってはいませんよ。……むしろ私は喜んでいるのかもしれません」
「喜んでる?」
考えもしなかった言葉は銀時の歩みを止める。不思議そうに自分を見つめる銀時の正面に立った松陽は、銀時の頭に手を乗せると優しく撫でながら言った。
「ええ、同じ過ちを繰り返さずに済んだのですから」
「は? 何を言ってんだよ。過ちって何の事だ?」
銀時が尋ねても、何かを思い出しているのか悲しげな瞳で銀時を見ながら頭を撫で続ける松陽は、それ以上の事を話そうとはしない。その姿に銀時も何故だか深入りしてはいけない気がして、何も言えなくなった。
やがて松陽の手が離れ、「帰りましょうか」の一言でようやく二人は歩き出す。しかしそれ以降、二人の間に会話は無かった。
沈黙を保ったまま松下村塾へとたどり着き、人気の無い真っ暗な門をくぐる。前を歩いていた銀時が戸を開けて足を一歩踏み入れると……。
「お帰りなさ~い……」
「ひぃっ!」
思わず悲鳴をあげて松陽の後ろに隠れる銀時。そっと顔を覗かせて見るとそこには、懐中電灯で顔を照らした柚希が立っていた。