第二章 ~松陽~(83P)
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「全員家に帰らせたぜ」
日が傾き、少しずつ空が赤く染まり始める頃。最後の一人を見送った銀時は、報告の為松陽の部屋を訪れた。
どうやら松陽は誰かに手紙を書いているらしく、机に向かって手を動かしながら返事をする。
「お疲れさまでした。ではもう一つ仕事をお願いしても良いですか?」
「もう一つ? 役人を迎え打つ準備でもすんのかよ」
「違いますよ。ちょっと待って下さいね」
そう言って急いで手紙を仕上げた松陽は、手紙を封筒に入れると銀時に渡した。
「これを緒方先生に渡して来て下さい」
「今からか? 何が書いてあるんだよ」
「内緒です。大人の話ですからね。君は必ず先生が手紙を読み終えるまでそこに待機していて下さい」
「何だそりゃ。……とりあえず渡せば良いんだな。んじゃひとっ走り行ってくるわ」
「ええ、お願いします」
「転ばないように気を付けて下さいよ」と銀時の頭を撫でながら言う松陽の笑みは、いつもと同じはずなのに何かが心に引っかかる。だがそれについては何も言わぬまま、銀時は緒方の診療所へと走り向かった。
診療所に着くと、そこは戦場だった。
建物から溢れんばかりの患者が並んで待っており、確かに柚希が急いで呼び戻されたのが分かる状況だ。となると多分、緒方がすぐに手紙を読むというのは無理な話だろう。
どうしたものかと慌ただしい診療所を遠巻きに見ていた時、ふと頭を過った不安。
一度浮かんでしまえば消す事の出来ないその感情は、躊躇うことなく銀時を突き動かした。
「……やっぱり、か」
いけない事だと分かっていながらも見てしまった手紙の内容が、銀時の表情を曇らせる。
そこには今日これから起こるであろう事の子細と共に、自分に何かあれば柚希と銀時を頼むと書かれていた。
「柚希の事は予想がついてたけど、俺までかよ……冗談じゃねェ! 先生一人に全てを押し付けて逃げられるわけねェっての」
グシャリと手紙を握り潰した銀時は、この後どうするべきかをしばし考え込む。この手紙を直接緒方に渡しに行けば、間違いなくここに留まれと言われるだろう。そうなってしまえば朝まで柚希には事情を話すなと書かれてある以上、自分が下手に診療所を抜け出すわけにもいかない。
それならば、と銀時が出した答えは単純だった。
手紙を再び封筒に入れ、丁度診察待ちの列に並んでいた顔見知りの女に手紙を渡し、緒方に渡すよう言付けたのだ。
そしてそのまま銀時は踵を返すと、緒方と顔を合わせることなく診療所を立ち去る。
女が診察室に入り、柚希の目の前で緒方に手紙を渡した頃にはもうかなりの時が経っており。緒方が慌てて診療所を飛び出すも、銀時の姿は影も形も無かった。
日が傾き、少しずつ空が赤く染まり始める頃。最後の一人を見送った銀時は、報告の為松陽の部屋を訪れた。
どうやら松陽は誰かに手紙を書いているらしく、机に向かって手を動かしながら返事をする。
「お疲れさまでした。ではもう一つ仕事をお願いしても良いですか?」
「もう一つ? 役人を迎え打つ準備でもすんのかよ」
「違いますよ。ちょっと待って下さいね」
そう言って急いで手紙を仕上げた松陽は、手紙を封筒に入れると銀時に渡した。
「これを緒方先生に渡して来て下さい」
「今からか? 何が書いてあるんだよ」
「内緒です。大人の話ですからね。君は必ず先生が手紙を読み終えるまでそこに待機していて下さい」
「何だそりゃ。……とりあえず渡せば良いんだな。んじゃひとっ走り行ってくるわ」
「ええ、お願いします」
「転ばないように気を付けて下さいよ」と銀時の頭を撫でながら言う松陽の笑みは、いつもと同じはずなのに何かが心に引っかかる。だがそれについては何も言わぬまま、銀時は緒方の診療所へと走り向かった。
診療所に着くと、そこは戦場だった。
建物から溢れんばかりの患者が並んで待っており、確かに柚希が急いで呼び戻されたのが分かる状況だ。となると多分、緒方がすぐに手紙を読むというのは無理な話だろう。
どうしたものかと慌ただしい診療所を遠巻きに見ていた時、ふと頭を過った不安。
一度浮かんでしまえば消す事の出来ないその感情は、躊躇うことなく銀時を突き動かした。
「……やっぱり、か」
いけない事だと分かっていながらも見てしまった手紙の内容が、銀時の表情を曇らせる。
そこには今日これから起こるであろう事の子細と共に、自分に何かあれば柚希と銀時を頼むと書かれていた。
「柚希の事は予想がついてたけど、俺までかよ……冗談じゃねェ! 先生一人に全てを押し付けて逃げられるわけねェっての」
グシャリと手紙を握り潰した銀時は、この後どうするべきかをしばし考え込む。この手紙を直接緒方に渡しに行けば、間違いなくここに留まれと言われるだろう。そうなってしまえば朝まで柚希には事情を話すなと書かれてある以上、自分が下手に診療所を抜け出すわけにもいかない。
それならば、と銀時が出した答えは単純だった。
手紙を再び封筒に入れ、丁度診察待ちの列に並んでいた顔見知りの女に手紙を渡し、緒方に渡すよう言付けたのだ。
そしてそのまま銀時は踵を返すと、緒方と顔を合わせることなく診療所を立ち去る。
女が診察室に入り、柚希の目の前で緒方に手紙を渡した頃にはもうかなりの時が経っており。緒方が慌てて診療所を飛び出すも、銀時の姿は影も形も無かった。