「それじゃあまた明日」

「銀さんに襲われないよう気を付けてくださいね」とわざと銀時に聞こえるように耳打ちした新八が、追い立てられるように万事屋を後にするのを見届けると、ふわぁと神楽があくびをする。気が付けば時計の針は夜の11時を回っていた。

「私のせいで遅くまでごめんなさい。このお布団、神楽ちゃんのじゃないの？」
「それは来客用ネ。私のは押し入れの中アルよ」

　もう一度大きくあくびをしながら、のそのそと押し入れに入っていく神楽に柚希が驚く。

「まさか、そこを寝室にしてるの？」
「そうアルよ、ドラ○もんとお揃いネ。一人部屋みたいで結構寝心地良いアルよ。そんじゃお休み〜」

　もうこれ以上話すのもだるいのか、さっさと襖を閉めた神楽は、数秒後には寝息を立てて眠ってしまったようだ。その一連の動きの速さがおかしくて、柚希はくすりと笑った。

「可愛い子達ね」

　二人とも、十代半ばといったところだろう。柚希から見れば子供だが、本人たちはもう大人の仲間入りをしていると思い始める年代だ。

「私にもあんな頃があったのかなあ」

　思いを馳せるように呟いた柚希だったが、すぐにその表情は曇ってしまう。それを見て、柚希の横に自分の布団を敷いていた銀時は言った。

「本当に何も覚えてねえんだな……今のお前は、どこまでなら自分の記憶を遡れるんだ？」

　銀時の言葉をきっかけに、過去を思い出そうとする。だがすぐにため息をつくと、小さく頭を横に振った。

「それが分かっていればこんな所にいないわよ。あるのは断片的な記憶だけ。それすらも曖昧だわ」

　柚希が今思い出せるのは、春雨配下の天人の元で命令を受けながら働かされていた事と、ある日突然襲われた記憶の違和感をきっかけに春雨を抜け出し、追われる身となった事。だがそれを銀時に話すつもりはない。

「名前が『柚希』で春雨に追われてる事と、多分地球人だって事くらいね。おかしな話だけど、自分の年すら分からないのよ」
　
　鏡に映る姿と世の中の女たちとを見比べてみれば、何となく二十代では無いかと想像はしていた。だが正確な情報は何一つ持ち得てはいなかった。