第二章 ~松陽~(83P)
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しかしそれから数日経っても、彼らは姿を現さなかった。
少なくとも高杉くらいは顔を出すかと思っていただけに、拍子抜けしたのか銀時もやる気が起こらず、ますます松陽の授業にも身が入らない。
唯一楽しめる剣術の時間ですら、銀時は道場の隅でつまらなそうに座っていた。
そして今日も又、道場の隅で惰眠を貪っていると――。
「な~にやってんの? シロ。もう皆稽古をやめてお昼を食べに行っちゃったよ」
声をかけてきたのは柚希。寝ぼけ眼に飛び込んできたのは、ここ最近見る事の無かった道着姿で、銀時は目を丸くした。
「こんな時間に戻ってくるなんて珍しいな。とうとう診療所をクビになったか?」
「馬鹿な事言わないでよね。何かどこぞの道場の子供たちが大怪我をして、先生が往診に呼ばれたのよ。いつもなら私が診療所に残るか一緒に行くんだけど、何故か今回は私が関わらない方が良いって言われちゃって。先生が戻るまで自由時間をもらっちゃった」
ニコニコと笑顔を見せる柚希は、久しぶりの竹刀の感触が嬉しいのか振り回して喜んでいる。
「お仕事としては忙しいし遣り甲斐もあるんだけど、やっぱりどうしても体がなまっちゃうのよ。ねぇシロ、久しぶりに相手してくれない?」
そう言って銀時にビシリと竹刀を突きつけた柚希は、挑戦的な目で銀時を睨みつけた。
ここの所稽古から遠ざかっていたとはいえ、これまでずっと培ってきた剣の実力は衰えているはずも無く。しかも竹刀の切っ先が急所を指してピタリと止められていた事が、一瞬で銀時の眠気を吹き飛ばした。
「仕方ねェな。付き合ってやるか」
湧き上がる高揚感に胸を躍らせながら、銀時は立ち上がる。
道場の真ん中へと移動してゆっくりと竹刀を構える二人。お互いが一つ大きく深呼吸をし、視線が絡んだ瞬間。
「はぁっ!」
まずは柚希から仕掛けた。
上段で構えた竹刀を、駆け込みながら銀時に振り下ろす。あっさりとかわされた竹刀が空を切ると、柚希の左側から竹刀が襲ってきた。
咄嗟に回転しつつ銀時の竹刀を避け、そのままの勢いで自らの竹刀を一文字に振る。ギリギリ銀時の胴をかすめたが、本体にはかすり傷一つ負わせる事が出来ずに振り抜かれた。
動きを止める事無く竹刀の反動を足に乗せて蹴りを繰り出すと、銀時が咄嗟に柚希の肩を使って側転の要領で飛び上がる。自分に重心がかかったのを見計らい銀時の体勢を崩しにかかった柚希の手が触れる直前、銀時の体は後ろへと飛んでいた。
「う~ん、やっぱり体が思い通りに動かないなぁ」
「十分動いてんじゃねェか。っつーかお前、えげつない攻撃してくんじゃねェよ。竹刀だけじゃなくて、さりげなく手や足で急所を狙って来やがって」
「いやぁ、最近緒方先生から人間の急所の手ほどきをしてもらってね~。ソコを攻めればか弱い女性でも一撃必殺って言うから、ちょっと試してみようかと」
「俺で試すなってーの! っつーかもうこれって剣術じゃなくて、何でもありの格闘技になってんじゃねーか」
「あはは、そうとも言う」
顔を真っ赤にして怒る銀時に、悪びれもせず笑顔で答える柚希。会話の内容は物騒だが、それでもこんな風に二人で立ち合えるのは、久しぶりで楽しいようだ。
「そんじゃ、気を取り直してもう一本」
「今度はちゃんと竹刀でかかって来いよな。――行くぜ!」
再び試合は始まり、激しい打ち合いの音が道場に響き渡る。
それは、客の来訪が銀時に伝えられるまで、暫く続いたのだった。
少なくとも高杉くらいは顔を出すかと思っていただけに、拍子抜けしたのか銀時もやる気が起こらず、ますます松陽の授業にも身が入らない。
唯一楽しめる剣術の時間ですら、銀時は道場の隅でつまらなそうに座っていた。
そして今日も又、道場の隅で惰眠を貪っていると――。
「な~にやってんの? シロ。もう皆稽古をやめてお昼を食べに行っちゃったよ」
声をかけてきたのは柚希。寝ぼけ眼に飛び込んできたのは、ここ最近見る事の無かった道着姿で、銀時は目を丸くした。
「こんな時間に戻ってくるなんて珍しいな。とうとう診療所をクビになったか?」
「馬鹿な事言わないでよね。何かどこぞの道場の子供たちが大怪我をして、先生が往診に呼ばれたのよ。いつもなら私が診療所に残るか一緒に行くんだけど、何故か今回は私が関わらない方が良いって言われちゃって。先生が戻るまで自由時間をもらっちゃった」
ニコニコと笑顔を見せる柚希は、久しぶりの竹刀の感触が嬉しいのか振り回して喜んでいる。
「お仕事としては忙しいし遣り甲斐もあるんだけど、やっぱりどうしても体がなまっちゃうのよ。ねぇシロ、久しぶりに相手してくれない?」
そう言って銀時にビシリと竹刀を突きつけた柚希は、挑戦的な目で銀時を睨みつけた。
ここの所稽古から遠ざかっていたとはいえ、これまでずっと培ってきた剣の実力は衰えているはずも無く。しかも竹刀の切っ先が急所を指してピタリと止められていた事が、一瞬で銀時の眠気を吹き飛ばした。
「仕方ねェな。付き合ってやるか」
湧き上がる高揚感に胸を躍らせながら、銀時は立ち上がる。
道場の真ん中へと移動してゆっくりと竹刀を構える二人。お互いが一つ大きく深呼吸をし、視線が絡んだ瞬間。
「はぁっ!」
まずは柚希から仕掛けた。
上段で構えた竹刀を、駆け込みながら銀時に振り下ろす。あっさりとかわされた竹刀が空を切ると、柚希の左側から竹刀が襲ってきた。
咄嗟に回転しつつ銀時の竹刀を避け、そのままの勢いで自らの竹刀を一文字に振る。ギリギリ銀時の胴をかすめたが、本体にはかすり傷一つ負わせる事が出来ずに振り抜かれた。
動きを止める事無く竹刀の反動を足に乗せて蹴りを繰り出すと、銀時が咄嗟に柚希の肩を使って側転の要領で飛び上がる。自分に重心がかかったのを見計らい銀時の体勢を崩しにかかった柚希の手が触れる直前、銀時の体は後ろへと飛んでいた。
「う~ん、やっぱり体が思い通りに動かないなぁ」
「十分動いてんじゃねェか。っつーかお前、えげつない攻撃してくんじゃねェよ。竹刀だけじゃなくて、さりげなく手や足で急所を狙って来やがって」
「いやぁ、最近緒方先生から人間の急所の手ほどきをしてもらってね~。ソコを攻めればか弱い女性でも一撃必殺って言うから、ちょっと試してみようかと」
「俺で試すなってーの! っつーかもうこれって剣術じゃなくて、何でもありの格闘技になってんじゃねーか」
「あはは、そうとも言う」
顔を真っ赤にして怒る銀時に、悪びれもせず笑顔で答える柚希。会話の内容は物騒だが、それでもこんな風に二人で立ち合えるのは、久しぶりで楽しいようだ。
「そんじゃ、気を取り直してもう一本」
「今度はちゃんと竹刀でかかって来いよな。――行くぜ!」
再び試合は始まり、激しい打ち合いの音が道場に響き渡る。
それは、客の来訪が銀時に伝えられるまで、暫く続いたのだった。