第二章 ~松陽~(83P)
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柚希が診療所で働くようになってから暫くの時が過ぎ。
仕事を終えて松下村塾に戻った柚希は、台所の隅にしゃがみ込み、いちご牛乳をすする銀時を目にした。
そのあまりの異様さに、柚希は台所に入ることなく回れ右をして松陽の元を訪れる。
「ねぇ親父様。いちご牛乳の妖怪を見つけちゃったんだけど、きれいさっぱり祓う方法ってある?」
「帰宅早々辛辣ですねぇ。理由を聞いてあげて下さいよ」
「少なくとも、パックを何本も空にしちゃうような妖怪に、気を遣うつもりはないわよ」
「まぁあれは確かに飲み過ぎですが、今夜だけはヤケいちご牛乳を許してあげましょう。なんてったって、無敗神話が破られたんですから」
「……え? とうとう高杉くんに負けたの?」
「うるっせェ!」
二人は台所から少し離れた部屋で話していたのだが、地獄耳の銀時には聞こえていたらしく、怒鳴り声が飛んで来た。
「あれは負けたんじゃねぇ! 勝たせてやったんだっての!」
パァン! と派手な音が響き、慌てて台所に戻ってみれば、無残に潰れて壁に貼りついたパックと、新たないちご牛乳を飲み始めている銀時の姿がある。
数えるとそれは六本目と分かり、さすがにこれはよくないと柚希は銀時の手からいちご牛乳を取り上げた。
「いい加減にしないとお腹を壊すでしょ。たかだか一回負けたくらいでそんなに落ち込まないの! 次に勝てば良い話じゃない」
「んなあっさりと受け入れられるかよ! 他の奴らも一緒になって喜びやがるし、変なおにぎりヤローまで紛れ込んでるし……」
「ちょっと待って。おにぎりヤローって何よ」
全く理解の出来ない話に柚希が尋ねれば、よほど鬱憤が溜まっていたのか堰を切ったようにその時の状況を語り出す銀時。
相槌を打ちつつ一通りの話を聞いた柚希は、そのあまりのバカバカしさに吹き出しながら言った。
「誰にも気付かれず道場におにぎりセットを設置して、しかも親父様の胃袋まで握るなんてなかなかのやり手じゃない? 要するに楽しかったんでしょ。高杉くんは強くなったし、そのおにぎりくんもなかなかの実力者だったって事で、良い刺激になったわけだ」
どうやら銀時は高杉に負けた後、紛れ込んでいた少年とも一手交えたらしい。
『桂小太郎』と名乗ったその少年は、高杉には及ばないものの剣の技術は確かなようで、基本がしっかり出来ていると松陽が絶賛していたそうだ。
「今より強くなるには、身近に強い存在がいる事が一番じゃない。人数がいれば尚更得る物も多いでしょ。良かったわね」
「良かねェよ! しかもあの握り飯、中に辛子明太子を入れてやがったし」
「シロは辛いのが苦手だもんねぇ……って、気にしてんのそっち!?」
論点のズレた返事に呆れはしたが、心底嫌がっているのでは無く、むしろ彼らを気に入っている証だろう。
「とにかく明日は、俺の本当の実力を見せつけてやるぜ! 今日のはまぐれだったって事を分からせてやんねーとな」
「そうなんだ。シロってばほんと素直じゃないねぇ」
「あん? 何が言いてェ!?」
「べっつにぃ」
柚希からの何とも言えない視線に納得いかないながらも、それ以上追及する気は無いらしい。そんな事より銀時の頭の中は今、いかに高杉を打ち倒すかで埋め尽くされているようだ。
「ボッコボコのギッタギタにしてやる!」といきり立つ銀時を見ながら、柚希はため息をつく。
「こりゃ、明日も往診決定だ」
やれやれと眉間にしわを寄せながら言った柚希だったが、その表情は明るい物だった。
仕事を終えて松下村塾に戻った柚希は、台所の隅にしゃがみ込み、いちご牛乳をすする銀時を目にした。
そのあまりの異様さに、柚希は台所に入ることなく回れ右をして松陽の元を訪れる。
「ねぇ親父様。いちご牛乳の妖怪を見つけちゃったんだけど、きれいさっぱり祓う方法ってある?」
「帰宅早々辛辣ですねぇ。理由を聞いてあげて下さいよ」
「少なくとも、パックを何本も空にしちゃうような妖怪に、気を遣うつもりはないわよ」
「まぁあれは確かに飲み過ぎですが、今夜だけはヤケいちご牛乳を許してあげましょう。なんてったって、無敗神話が破られたんですから」
「……え? とうとう高杉くんに負けたの?」
「うるっせェ!」
二人は台所から少し離れた部屋で話していたのだが、地獄耳の銀時には聞こえていたらしく、怒鳴り声が飛んで来た。
「あれは負けたんじゃねぇ! 勝たせてやったんだっての!」
パァン! と派手な音が響き、慌てて台所に戻ってみれば、無残に潰れて壁に貼りついたパックと、新たないちご牛乳を飲み始めている銀時の姿がある。
数えるとそれは六本目と分かり、さすがにこれはよくないと柚希は銀時の手からいちご牛乳を取り上げた。
「いい加減にしないとお腹を壊すでしょ。たかだか一回負けたくらいでそんなに落ち込まないの! 次に勝てば良い話じゃない」
「んなあっさりと受け入れられるかよ! 他の奴らも一緒になって喜びやがるし、変なおにぎりヤローまで紛れ込んでるし……」
「ちょっと待って。おにぎりヤローって何よ」
全く理解の出来ない話に柚希が尋ねれば、よほど鬱憤が溜まっていたのか堰を切ったようにその時の状況を語り出す銀時。
相槌を打ちつつ一通りの話を聞いた柚希は、そのあまりのバカバカしさに吹き出しながら言った。
「誰にも気付かれず道場におにぎりセットを設置して、しかも親父様の胃袋まで握るなんてなかなかのやり手じゃない? 要するに楽しかったんでしょ。高杉くんは強くなったし、そのおにぎりくんもなかなかの実力者だったって事で、良い刺激になったわけだ」
どうやら銀時は高杉に負けた後、紛れ込んでいた少年とも一手交えたらしい。
『桂小太郎』と名乗ったその少年は、高杉には及ばないものの剣の技術は確かなようで、基本がしっかり出来ていると松陽が絶賛していたそうだ。
「今より強くなるには、身近に強い存在がいる事が一番じゃない。人数がいれば尚更得る物も多いでしょ。良かったわね」
「良かねェよ! しかもあの握り飯、中に辛子明太子を入れてやがったし」
「シロは辛いのが苦手だもんねぇ……って、気にしてんのそっち!?」
論点のズレた返事に呆れはしたが、心底嫌がっているのでは無く、むしろ彼らを気に入っている証だろう。
「とにかく明日は、俺の本当の実力を見せつけてやるぜ! 今日のはまぐれだったって事を分からせてやんねーとな」
「そうなんだ。シロってばほんと素直じゃないねぇ」
「あん? 何が言いてェ!?」
「べっつにぃ」
柚希からの何とも言えない視線に納得いかないながらも、それ以上追及する気は無いらしい。そんな事より銀時の頭の中は今、いかに高杉を打ち倒すかで埋め尽くされているようだ。
「ボッコボコのギッタギタにしてやる!」といきり立つ銀時を見ながら、柚希はため息をつく。
「こりゃ、明日も往診決定だ」
やれやれと眉間にしわを寄せながら言った柚希だったが、その表情は明るい物だった。