第二章 ~松陽~(83P)
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「彼一人なの? なーんだ、だったら親父様でも十分処置出来たじゃない。もう、出張費はちゃんと請求するからね!」
「えー、身内割引とか無いんですかぁ?」
「むしろ割増にしたいくらいよ」
「親父様を甘やかす気は無いからね!」と言って笑いながら立ち上がろうとした柚希だったが、ふと何かに気付いてもう一度道場の中を見回す。手習いの時間はともかくとして、剣術の稽古の時は間違い無く参加している銀時の姿が見えない事を不思議に思った柚希は、誰とは無しに尋ねた。
「銀時はどうしたの? 高杉くんの怪我って、銀時と試合をしたからだよね?」
治療の際、口にはしなかったが、剣術の試合にしては随分と傷が多かった。
腕の立つ高杉にこれ程の怪我を負わせられるのは、柚希の知る限り銀時か松陽くらいだ。だからこそ、銀時がこの場にいないのはおかしい。
よく見れば道場の真ん中には、真新しい抜け落ちた穴もある。例の如くゲンコツが落とされたのだろうと理解した柚希は、松陽に視線を向けた。
「ついさっきまでそこにいたんですけどね。……どこに行っちゃったんでしょう」
腕組みをしながら柚希に視線を返す松陽。それは暗に探しに行けと言っているのだと、長い付き合いの柚希は分かってしまうわけで。
「全くもう、最初からそのつもりだったわね!」
ぷくっと頬を膨らませ、松陽を睨んだ柚希の目に映っているのは満面の笑み。これはもう埒が明かないという事まで理解できてしまい、柚希は頭を抱えた。
わざとらしく大きなため息を吐いて見せても松陽の笑みを崩せなかった柚希は諦めたのか、往診箱から数枚の湿布を取り出して袋に入れる。そして高杉に「昨日より腹部の打ち身が酷いから、今夜は出来るだけ安静にしてね。はい、寝る前にこれと貼り換えるように」と袋を渡して一言添えると、パタパタと小走りに道場から出て行った。
残された高杉は、袋を抱えながら何か言いたげに松陽を見る。それに答えるように、いつもの笑みを浮かべた松陽は言った。
「ね? だから明日には元気になってるって言ったでしょう?」
「元気っつーか、ありゃどう見たってカラ元気じゃねェのかよ」
「『元気』の文字が付けば同じですよ。どんな形であれ、前に進む事が出来れば良いんですから。君も早く傷を治して元気になって、また道場破りにいらっしゃい」
「……やっぱここは、おかしな奴しかいねーんだな」
呆れたような表情をしながらも、高杉の口角は少し上がっているように見える。本人が気付いているかは分からないが、この数日の出来事をきっかけに、少しずつ高杉の中にある何かが変わり始めているようだった。
「えー、身内割引とか無いんですかぁ?」
「むしろ割増にしたいくらいよ」
「親父様を甘やかす気は無いからね!」と言って笑いながら立ち上がろうとした柚希だったが、ふと何かに気付いてもう一度道場の中を見回す。手習いの時間はともかくとして、剣術の稽古の時は間違い無く参加している銀時の姿が見えない事を不思議に思った柚希は、誰とは無しに尋ねた。
「銀時はどうしたの? 高杉くんの怪我って、銀時と試合をしたからだよね?」
治療の際、口にはしなかったが、剣術の試合にしては随分と傷が多かった。
腕の立つ高杉にこれ程の怪我を負わせられるのは、柚希の知る限り銀時か松陽くらいだ。だからこそ、銀時がこの場にいないのはおかしい。
よく見れば道場の真ん中には、真新しい抜け落ちた穴もある。例の如くゲンコツが落とされたのだろうと理解した柚希は、松陽に視線を向けた。
「ついさっきまでそこにいたんですけどね。……どこに行っちゃったんでしょう」
腕組みをしながら柚希に視線を返す松陽。それは暗に探しに行けと言っているのだと、長い付き合いの柚希は分かってしまうわけで。
「全くもう、最初からそのつもりだったわね!」
ぷくっと頬を膨らませ、松陽を睨んだ柚希の目に映っているのは満面の笑み。これはもう埒が明かないという事まで理解できてしまい、柚希は頭を抱えた。
わざとらしく大きなため息を吐いて見せても松陽の笑みを崩せなかった柚希は諦めたのか、往診箱から数枚の湿布を取り出して袋に入れる。そして高杉に「昨日より腹部の打ち身が酷いから、今夜は出来るだけ安静にしてね。はい、寝る前にこれと貼り換えるように」と袋を渡して一言添えると、パタパタと小走りに道場から出て行った。
残された高杉は、袋を抱えながら何か言いたげに松陽を見る。それに答えるように、いつもの笑みを浮かべた松陽は言った。
「ね? だから明日には元気になってるって言ったでしょう?」
「元気っつーか、ありゃどう見たってカラ元気じゃねェのかよ」
「『元気』の文字が付けば同じですよ。どんな形であれ、前に進む事が出来れば良いんですから。君も早く傷を治して元気になって、また道場破りにいらっしゃい」
「……やっぱここは、おかしな奴しかいねーんだな」
呆れたような表情をしながらも、高杉の口角は少し上がっているように見える。本人が気付いているかは分からないが、この数日の出来事をきっかけに、少しずつ高杉の中にある何かが変わり始めているようだった。