第二章 ~松陽~(83P)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「骨は折れていないようですが、打ち身と擦り傷の数が多いですね。きちんと治療してから帰ってもらわなくては。多分そろそろ到着すると思いますので、ここで少し待って……」
と松陽がそこまで言った時。
「緒方診療所より出前治療班、到着致しました〜!」
聞き覚えのある元気な声が、松下村塾の建物いっぱいに響き渡った。続いてドタドタと近付いてくる足音に、松陽が吹き出す。
「貴女の治療は出前だったんですか? 柚希。ついでに店屋物も頼んでおけば良かったですね」
「だって往診より出前の方が、到着が早そうに聞こえない?」
余程急いで走って来たのか、肩で息をしながら答える柚希。薄桃色の割烹着に身を包んだ柚希の姿は、とても生き生きとしていた。
「たく坊が半泣きになりながら診療所に駆け込んでくるんだもん。『銀ちゃんがドカーンってなる前に来てくれなきゃ、先生がキュピーンってなっちゃう』って、どんな伝言よ。まぁ一応分かったけどさ。お陰で緒方先生はてんてこ舞いよ」
どうやら診療所に伝言が届いたのは、最も患者の多い時間帯だったようだ。新しい助手が入ったという噂を聞きつけて、いつもなら受診する事を敬遠するような者までが訪れているらしい。
よって待合室から溢れる程の患者を捌かねばならないからと、出来るだけ早く戻るよう厳命と言う名の懇願をされながら走ってきたわけだ。
「それはすみませんでしたね。急を要した為、門下生で一番足の速いたく坊に伝言を頼んだんですよ。ちょっと内容が変わってしまっているようですが、何にしても良い時に来てくれました。彼の治療をお願いします」
「……おっ、高杉くんじゃないですか。今日も活きの良い傷を作ってますねぇ」
松陽に促されて高杉の姿を確認した柚希は、おどけた口調で言いながら歩み寄る。だが最初に高杉を見たほんの一瞬小さく体が震えた事に気付けたのは、一握りの人間だけだった。
「道場破りも良いけど無茶はしないようにね。小さな怪我だって、数が増えればそれなりに体への影響は出て来るよ」
「……ああ」
自分を見る高杉の視線が複雑そうな事には気付かないフリをしながら、テキパキと処置を行っていく柚希。念のため骨や筋に異常無いかを確かめて、松陽にも確認を取る。
最終的に包帯やガーゼの範囲は広かったものの、無駄の無い処置は痛々しさを緩和していた。
「さてと、後は? 患者さんを途中で置いて出て来たんだからね。サクッと終わらせて診療所に戻るから、他にも怪我人がいるならさっさと申し出てよ」
そう言って道場内を見回した柚希に答える者はいない。どうやらもう怪我人はいないようだと理解した柚希は、ホウッと大きくため息を吐いた。
と松陽がそこまで言った時。
「緒方診療所より出前治療班、到着致しました〜!」
聞き覚えのある元気な声が、松下村塾の建物いっぱいに響き渡った。続いてドタドタと近付いてくる足音に、松陽が吹き出す。
「貴女の治療は出前だったんですか? 柚希。ついでに店屋物も頼んでおけば良かったですね」
「だって往診より出前の方が、到着が早そうに聞こえない?」
余程急いで走って来たのか、肩で息をしながら答える柚希。薄桃色の割烹着に身を包んだ柚希の姿は、とても生き生きとしていた。
「たく坊が半泣きになりながら診療所に駆け込んでくるんだもん。『銀ちゃんがドカーンってなる前に来てくれなきゃ、先生がキュピーンってなっちゃう』って、どんな伝言よ。まぁ一応分かったけどさ。お陰で緒方先生はてんてこ舞いよ」
どうやら診療所に伝言が届いたのは、最も患者の多い時間帯だったようだ。新しい助手が入ったという噂を聞きつけて、いつもなら受診する事を敬遠するような者までが訪れているらしい。
よって待合室から溢れる程の患者を捌かねばならないからと、出来るだけ早く戻るよう厳命と言う名の懇願をされながら走ってきたわけだ。
「それはすみませんでしたね。急を要した為、門下生で一番足の速いたく坊に伝言を頼んだんですよ。ちょっと内容が変わってしまっているようですが、何にしても良い時に来てくれました。彼の治療をお願いします」
「……おっ、高杉くんじゃないですか。今日も活きの良い傷を作ってますねぇ」
松陽に促されて高杉の姿を確認した柚希は、おどけた口調で言いながら歩み寄る。だが最初に高杉を見たほんの一瞬小さく体が震えた事に気付けたのは、一握りの人間だけだった。
「道場破りも良いけど無茶はしないようにね。小さな怪我だって、数が増えればそれなりに体への影響は出て来るよ」
「……ああ」
自分を見る高杉の視線が複雑そうな事には気付かないフリをしながら、テキパキと処置を行っていく柚希。念のため骨や筋に異常無いかを確かめて、松陽にも確認を取る。
最終的に包帯やガーゼの範囲は広かったものの、無駄の無い処置は痛々しさを緩和していた。
「さてと、後は? 患者さんを途中で置いて出て来たんだからね。サクッと終わらせて診療所に戻るから、他にも怪我人がいるならさっさと申し出てよ」
そう言って道場内を見回した柚希に答える者はいない。どうやらもう怪我人はいないようだと理解した柚希は、ホウッと大きくため息を吐いた。