第二章 ~松陽~(83P)
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話はトントン拍子に進んだようで、翌日から柚希は診療所で働く事となった。
元々柚希は手先が器用で、子供ながらに医術に明るい事は知られている。加えて人当たりも良い事から、半日も経たずして柚希は患者たちに受け入れられていた。
「初日からこんなに仕事ができるとはね。時間をかけて僕色に染めて行こうと思ってたのに、既に君の色が出来上がっちゃってたよ」
笑いながらそう言ったのは、この診療所の医者である緒方灯庵 。少々腹の出た初老の彼は、見た目のほほんとした気のいい中年だ。しかし医者としての実力はお墨付きで、将軍の御典医である『松本皇順 』とも交流があるらしい。
「柚希ちゃんには、うちの孫が怪我をした時に手当てをしてもらったことがあるんですよ。将来はお医者様かと話していたら、まさか本当にここで会えるとはねぇ」
たまたま診察に来ていた老婦人がニコニコと柚希の話をすれば、うんうんと大きく頷く緒方。
「僕も以前から彼女の実力を買ってましてね。いやぁ、こんな逸材を助手にできて本当にありがたい」
「そんな、私は……」
照れくささに顔を真っ赤にした柚希は、処置に使う道具一式を緒方に渡しながら言った。
「未だ何も知らないひよっこですから。これから精一杯頑張って学ばせて頂きますので」
「そんなにかしこまらなくても良いよ。あまり頑張られちゃうと、僕の立つ瀬が無くなっちゃうし」
「本当ねぇ。こんな可愛らしい先生だったら、お医者嫌いの人たちも通っちゃいそう」
「ちょっとヨネさん、それって僕の魅力じゃ足りないって事?」
「たるんだお腹が六つに割れたら考えてあげてもよくってよ」
「絶望的じゃないですか~!」
和気あいあいとする診察室は、とても居心地がよくて。
夕べ松陽から働く許可を得て以降、不安と緊張で眠る事が出来なかった柚希だったが、今となってはそれが嘘のようだ。
「もう、僕は拗ねましたからね。柚希ちゃん、ヨネさんの治療は宜しく。う~んと痛くして良いよ」
「まぁ緒方先生。柚希ちゃんを悪の道に引きずり込んじゃダメよ。柚希ちゃんも、何を見習うべきかはきっちり取捨選択しましょうね」
緒方の言葉を受けてヨネがニッコリと微笑みながら言った。その笑みの奥に恐ろしい何かを感じた柚希がふと視線を移せば、おどけながらも震え上がる緒方に気付いてしまう。
「……は~い……」
――ヨネさんって、実はこの界隈のボス的存在? 医術もだけど、人間関係もしっかりと把握しておいた方が良さそう。
小さく身の危険を感じた柚希は心の中でそう呟きながら、引きつり笑いでヨネの治療に当たったのだった。
元々柚希は手先が器用で、子供ながらに医術に明るい事は知られている。加えて人当たりも良い事から、半日も経たずして柚希は患者たちに受け入れられていた。
「初日からこんなに仕事ができるとはね。時間をかけて僕色に染めて行こうと思ってたのに、既に君の色が出来上がっちゃってたよ」
笑いながらそう言ったのは、この診療所の医者である緒方
「柚希ちゃんには、うちの孫が怪我をした時に手当てをしてもらったことがあるんですよ。将来はお医者様かと話していたら、まさか本当にここで会えるとはねぇ」
たまたま診察に来ていた老婦人がニコニコと柚希の話をすれば、うんうんと大きく頷く緒方。
「僕も以前から彼女の実力を買ってましてね。いやぁ、こんな逸材を助手にできて本当にありがたい」
「そんな、私は……」
照れくささに顔を真っ赤にした柚希は、処置に使う道具一式を緒方に渡しながら言った。
「未だ何も知らないひよっこですから。これから精一杯頑張って学ばせて頂きますので」
「そんなにかしこまらなくても良いよ。あまり頑張られちゃうと、僕の立つ瀬が無くなっちゃうし」
「本当ねぇ。こんな可愛らしい先生だったら、お医者嫌いの人たちも通っちゃいそう」
「ちょっとヨネさん、それって僕の魅力じゃ足りないって事?」
「たるんだお腹が六つに割れたら考えてあげてもよくってよ」
「絶望的じゃないですか~!」
和気あいあいとする診察室は、とても居心地がよくて。
夕べ松陽から働く許可を得て以降、不安と緊張で眠る事が出来なかった柚希だったが、今となってはそれが嘘のようだ。
「もう、僕は拗ねましたからね。柚希ちゃん、ヨネさんの治療は宜しく。う~んと痛くして良いよ」
「まぁ緒方先生。柚希ちゃんを悪の道に引きずり込んじゃダメよ。柚希ちゃんも、何を見習うべきかはきっちり取捨選択しましょうね」
緒方の言葉を受けてヨネがニッコリと微笑みながら言った。その笑みの奥に恐ろしい何かを感じた柚希がふと視線を移せば、おどけながらも震え上がる緒方に気付いてしまう。
「……は~い……」
――ヨネさんって、実はこの界隈のボス的存在? 医術もだけど、人間関係もしっかりと把握しておいた方が良さそう。
小さく身の危険を感じた柚希は心の中でそう呟きながら、引きつり笑いでヨネの治療に当たったのだった。