第二章 ~松陽~(83P)
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あれ以降、数日置きにではあるが同じお寺の境内に足を運び、その度に試合をして見せていた柚希と銀時は、回を重ねる内に確実に顔見知りを増やして行っていた。
次第に竹刀を一緒に振ったり、柚希があらかじめ準備をして読み聞かせた絵本に興味を持ち、読み書きをしたいと親にせがむ子どもも出てきて、正式に松下村塾に通う子どもが増え始めている。
初めは警戒していた大人たちも楽しそうな子供たちの姿に安心したのか、ひと月もすると松下村塾の存在をあからさまに否定する者はいなくなり、寺子屋らしい佇まいとなって行った。
そんな平和な日々が続いていたある日の事。
「道場破りぃ?」
町に買い物に行っていた柚希が帰るなり、銀時から聞かされた言葉に思わず叫び声をあげた。
「声がでけェよ」
「でっかくもなるわよ。だってうちは寺子屋であって、看板のある剣術道場じゃないのよ? そんな場所に道場破りって何なわけ?」
「んな事俺が知るかっつーの。向こうが勝手に来たんだからよ」
買い物袋につまみ食いの出来る物が入っていないか、ガサガサと探りながら銀時が答える。その手をピシリと叩いて静止した柚希は、「いてェな!」と怒る銀時の口の中に小さなチョコレートを一つ放り込んでやった。
「買い物でもらったおまけよ。それよりもシロが相手したわけ? どんな奴なのよ、その道場破りって」
柚希が聞くと、モゴモゴとチョコを咀嚼しながら銀時は答える。
「俺くらいの年の生意気なガキだぜ。少しは出来る奴だったけど俺には遠く及ばねェし、あっさり叩きのめしといたわ」
「道場破りって子どもだったんだ」
「まァな。多分本当は先生に習いたかったんだろ。何が気に食わねェのかは知んねーけどわざわざ吹っかけて来やがったから、その実力を見せてもらったってわけだ」
「……そうなんだ」
松陽の教えを請いたいのなら、正面から来て入塾を申し込めば良い。柚希が予想していた通り松陽は、貧しい子供達から金を取る事は無く、学びたいと望む子供たちを全て受け入れているのだから。それが出来ないのは何かしらの理由があるのだろう。
柚希と松陽以外の人間には手を抜く銀時が『叩きのめした』と言うほどに出来る相手なのだ。既にどこかの道場に所属しているか、自由に師を選ぶ事を許されぬ家の者なのかもしれない。
「親父様もその子を知ってるの?」
「ああ、知ってる。何日か前に一度、な。俺にやられた後も、先生が介抱して色々話してたみてーだしよ」
「ずるーい、知らないのは私だけなんだ。次に道場破りに来た時は呼んでよね? 私も手合わせしてみたいし」
「多分明日も来んだろ。アイツ無駄に根性ありそうだしな」
そう言った銀時の顔はどこか嬉しそうだ。
正直それを見た柚希は複雑な気持ちを抱いたが、銀時にこんな表情をさせた相手がどんな人間か、興味もわいている。
「明日は私も稽古に出るからね」
買い物袋の中身を整理しながら、柚希は宣言しておいた。
次第に竹刀を一緒に振ったり、柚希があらかじめ準備をして読み聞かせた絵本に興味を持ち、読み書きをしたいと親にせがむ子どもも出てきて、正式に松下村塾に通う子どもが増え始めている。
初めは警戒していた大人たちも楽しそうな子供たちの姿に安心したのか、ひと月もすると松下村塾の存在をあからさまに否定する者はいなくなり、寺子屋らしい佇まいとなって行った。
そんな平和な日々が続いていたある日の事。
「道場破りぃ?」
町に買い物に行っていた柚希が帰るなり、銀時から聞かされた言葉に思わず叫び声をあげた。
「声がでけェよ」
「でっかくもなるわよ。だってうちは寺子屋であって、看板のある剣術道場じゃないのよ? そんな場所に道場破りって何なわけ?」
「んな事俺が知るかっつーの。向こうが勝手に来たんだからよ」
買い物袋につまみ食いの出来る物が入っていないか、ガサガサと探りながら銀時が答える。その手をピシリと叩いて静止した柚希は、「いてェな!」と怒る銀時の口の中に小さなチョコレートを一つ放り込んでやった。
「買い物でもらったおまけよ。それよりもシロが相手したわけ? どんな奴なのよ、その道場破りって」
柚希が聞くと、モゴモゴとチョコを咀嚼しながら銀時は答える。
「俺くらいの年の生意気なガキだぜ。少しは出来る奴だったけど俺には遠く及ばねェし、あっさり叩きのめしといたわ」
「道場破りって子どもだったんだ」
「まァな。多分本当は先生に習いたかったんだろ。何が気に食わねェのかは知んねーけどわざわざ吹っかけて来やがったから、その実力を見せてもらったってわけだ」
「……そうなんだ」
松陽の教えを請いたいのなら、正面から来て入塾を申し込めば良い。柚希が予想していた通り松陽は、貧しい子供達から金を取る事は無く、学びたいと望む子供たちを全て受け入れているのだから。それが出来ないのは何かしらの理由があるのだろう。
柚希と松陽以外の人間には手を抜く銀時が『叩きのめした』と言うほどに出来る相手なのだ。既にどこかの道場に所属しているか、自由に師を選ぶ事を許されぬ家の者なのかもしれない。
「親父様もその子を知ってるの?」
「ああ、知ってる。何日か前に一度、な。俺にやられた後も、先生が介抱して色々話してたみてーだしよ」
「ずるーい、知らないのは私だけなんだ。次に道場破りに来た時は呼んでよね? 私も手合わせしてみたいし」
「多分明日も来んだろ。アイツ無駄に根性ありそうだしな」
そう言った銀時の顔はどこか嬉しそうだ。
正直それを見た柚希は複雑な気持ちを抱いたが、銀時にこんな表情をさせた相手がどんな人間か、興味もわいている。
「明日は私も稽古に出るからね」
買い物袋の中身を整理しながら、柚希は宣言しておいた。