第二章 ~松陽~(83P)
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「何怒ってんのよ。小鳥は嫌い?」
「別に」
「じゃあ何なのよ、そんな怖い顔して。勧誘が上手くいかなかった事を気にしてるのなら、私の説明力が足りなかっただけだし、未だこれからだから大丈夫よ」
「そんなんじゃねェ」
「だったら何? 何でそんな目で私を睨むのよ」
すうっと柚希の目が細まると同時に、纏う空気が変わった事を察したのだろう。バサリと翼を広げた小鳥が柚希の手から飛び立った。
「言いたい事があるなら言えば良いじゃない」
手の平に残った麩菓子の粉を払い落としながら、柚希は銀時に歩み寄る。
「私は人の心なんて読めないからね。言葉にしてくれなきゃ分からないよ」
そう言って正面から見つめてくる柚希にチッと舌打ちをした銀時は、手にしていた水筒の水を一口飲んで大きく息を吐いた。
「――何で俺を『シロ』って言わなかった?」
「は?」
「帰り際にあいつらと俺の話をしていた時、俺の事を『銀時』って言ってたよな。何でだよ」
「何でって……名前を聞かれたから『銀時』だって教えただけよ」
一体何を言っているのかと、呆れたような表情の柚希。だが銀時は首を横に振りながら言った。
「そうじゃねェ。お前が俺を呼ぶ時にまで、何で『銀時』呼びだったんだって事だよ」
「それは……本来の名前は銀時なのに、シロって呼んでたらややこしいじゃない。現に混乱してた子もいたみたいだしさ」
「それだけの理由か?」
「当たり前でしょ」
「……そうか」
柚希から視線を外して何かを考え込んでいた銀時だったが、再び一つ舌打ちをしてグイっと水を飲み干すと、「おら、さっさと帰んぞ。いい加減先生が腹を空かせて待ちくたびれてるだろうしよ」と言ってスタスタと歩き出す。
「え? ちょっと、何なのよそれ」
慌てる柚希を置き去りにしたまま、銀時は振り向きもせず歩いて行ってしまった。
呆然と立ち尽くす柚希だったが、完全に銀時の姿が見えなくなったところでポツリと呟く。
「……だって、嫌だったんだもん」
――兄ちゃんの名前、銀時なのに何で姉ちゃんは『シロ』って呼んでたんだ?
「『シロ』は、私が付けた名前なんだから」
――シロの方が呼びやすいし、俺たちもシロって呼んで良いか?
「親父様だって呼んでない、私だけの呼び名なんだから」
不貞腐れたように言う柚希の顔に浮かんでいるのは、まぎれもなく嫉妬。試合後に周りを取り囲む子供たちが、銀時に親し気に話しかける姿を見た時から感じていた物だ。
あまり他人と交流した事の無い銀時に、いつか友達を作ってやりたいとは思っていたが、いざこうして現実のものとなると、最も銀時の側にいる存在が自分ではなくなってしまうという事に気付いてしまったらしい。
それは、柚希の心に初めて生まれた感情だった。
「別に」
「じゃあ何なのよ、そんな怖い顔して。勧誘が上手くいかなかった事を気にしてるのなら、私の説明力が足りなかっただけだし、未だこれからだから大丈夫よ」
「そんなんじゃねェ」
「だったら何? 何でそんな目で私を睨むのよ」
すうっと柚希の目が細まると同時に、纏う空気が変わった事を察したのだろう。バサリと翼を広げた小鳥が柚希の手から飛び立った。
「言いたい事があるなら言えば良いじゃない」
手の平に残った麩菓子の粉を払い落としながら、柚希は銀時に歩み寄る。
「私は人の心なんて読めないからね。言葉にしてくれなきゃ分からないよ」
そう言って正面から見つめてくる柚希にチッと舌打ちをした銀時は、手にしていた水筒の水を一口飲んで大きく息を吐いた。
「――何で俺を『シロ』って言わなかった?」
「は?」
「帰り際にあいつらと俺の話をしていた時、俺の事を『銀時』って言ってたよな。何でだよ」
「何でって……名前を聞かれたから『銀時』だって教えただけよ」
一体何を言っているのかと、呆れたような表情の柚希。だが銀時は首を横に振りながら言った。
「そうじゃねェ。お前が俺を呼ぶ時にまで、何で『銀時』呼びだったんだって事だよ」
「それは……本来の名前は銀時なのに、シロって呼んでたらややこしいじゃない。現に混乱してた子もいたみたいだしさ」
「それだけの理由か?」
「当たり前でしょ」
「……そうか」
柚希から視線を外して何かを考え込んでいた銀時だったが、再び一つ舌打ちをしてグイっと水を飲み干すと、「おら、さっさと帰んぞ。いい加減先生が腹を空かせて待ちくたびれてるだろうしよ」と言ってスタスタと歩き出す。
「え? ちょっと、何なのよそれ」
慌てる柚希を置き去りにしたまま、銀時は振り向きもせず歩いて行ってしまった。
呆然と立ち尽くす柚希だったが、完全に銀時の姿が見えなくなったところでポツリと呟く。
「……だって、嫌だったんだもん」
――兄ちゃんの名前、銀時なのに何で姉ちゃんは『シロ』って呼んでたんだ?
「『シロ』は、私が付けた名前なんだから」
――シロの方が呼びやすいし、俺たちもシロって呼んで良いか?
「親父様だって呼んでない、私だけの呼び名なんだから」
不貞腐れたように言う柚希の顔に浮かんでいるのは、まぎれもなく嫉妬。試合後に周りを取り囲む子供たちが、銀時に親し気に話しかける姿を見た時から感じていた物だ。
あまり他人と交流した事の無い銀時に、いつか友達を作ってやりたいとは思っていたが、いざこうして現実のものとなると、最も銀時の側にいる存在が自分ではなくなってしまうという事に気付いてしまったらしい。
それは、柚希の心に初めて生まれた感情だった。