市村鉄之助【完結】
俺が新選組に入隊したのは、慶応三年(1867)の秋頃。
池田屋を初め、数々の武勲を上げてきた新選組に入れただけでなく、土方副長の御側付きとなれた事はとても誇らしくて。あの日はなかなか眠る事が出来なかった事を覚えている。
噂に名高い鬼の副長は、隊務においては決して妥協せず、鬼にふさわしい仕事ぶりを発揮していた。でも仕事を離れてしまえば、俺が言うのもおかしいが、ごく普通の心優しい一人の青年だったと思う。
俺は、誰よりも土方副長に心酔していた。
新選組には隊士が数多く存在していたが、その中の誰よりも誠の武士であり、新選組を真に束ねていたのは土方副長だった。常に周りを気遣い、先を読み。俺が今まで見てきた男達の中で間違いなく、最も強くて優しい人物であろう。
そんな土方副長によって命ぜられた最後の任務は、残酷で優しすぎるものだった。
「箱館を脱出して、日野にある俺の実家にこの包みを渡してくれ。中には俺の遺品が入っている。お前の事を頼む手紙も入れてあるから安心しろ」
突然の命令に驚いたものの、即座に俺は断った。
「その命令は承諾できません。私もここで副長と共に戦い、果てる覚悟でおります。そのお役目は他の者にお命じ下さい」
新選組に入隊したあの日から、俺の命は新選組と……土方副長と共にある。そう思い続けていたから、この命令を受けるつもりなどさらさらなかった。
だが、副長は拒むことを許さず。それでも一縷の望みをかけて拒否の姿勢を見せれば、即座に鬼の面を被った副長の怒りがぶつけられた。
「副長命令は絶対だ! それを拒むという事がどういう事なのか、お前も新選組隊士なら分かっているだろう」
『副長命令』
この言葉が、どれほどまでに重く心にのしかかったことか。
頭の中が真っ白になりながら承諾すれば、鬼の面は外され、副長に穏やかな笑みが戻る。
「お前なら必ずやり遂げてくれると信じている。……気を付けて行けよ」
「はい……土方副長も必ず……必ずご無事で!」
涙を堪えながら言う俺の頭をポンポンと優しく撫でてくれた副長の手の温もりは、今も忘れてはいない。
池田屋を初め、数々の武勲を上げてきた新選組に入れただけでなく、土方副長の御側付きとなれた事はとても誇らしくて。あの日はなかなか眠る事が出来なかった事を覚えている。
噂に名高い鬼の副長は、隊務においては決して妥協せず、鬼にふさわしい仕事ぶりを発揮していた。でも仕事を離れてしまえば、俺が言うのもおかしいが、ごく普通の心優しい一人の青年だったと思う。
俺は、誰よりも土方副長に心酔していた。
新選組には隊士が数多く存在していたが、その中の誰よりも誠の武士であり、新選組を真に束ねていたのは土方副長だった。常に周りを気遣い、先を読み。俺が今まで見てきた男達の中で間違いなく、最も強くて優しい人物であろう。
そんな土方副長によって命ぜられた最後の任務は、残酷で優しすぎるものだった。
「箱館を脱出して、日野にある俺の実家にこの包みを渡してくれ。中には俺の遺品が入っている。お前の事を頼む手紙も入れてあるから安心しろ」
突然の命令に驚いたものの、即座に俺は断った。
「その命令は承諾できません。私もここで副長と共に戦い、果てる覚悟でおります。そのお役目は他の者にお命じ下さい」
新選組に入隊したあの日から、俺の命は新選組と……土方副長と共にある。そう思い続けていたから、この命令を受けるつもりなどさらさらなかった。
だが、副長は拒むことを許さず。それでも一縷の望みをかけて拒否の姿勢を見せれば、即座に鬼の面を被った副長の怒りがぶつけられた。
「副長命令は絶対だ! それを拒むという事がどういう事なのか、お前も新選組隊士なら分かっているだろう」
『副長命令』
この言葉が、どれほどまでに重く心にのしかかったことか。
頭の中が真っ白になりながら承諾すれば、鬼の面は外され、副長に穏やかな笑みが戻る。
「お前なら必ずやり遂げてくれると信じている。……気を付けて行けよ」
「はい……土方副長も必ず……必ずご無事で!」
涙を堪えながら言う俺の頭をポンポンと優しく撫でてくれた副長の手の温もりは、今も忘れてはいない。