山崎丞【完結】
ゆらゆらと、体が揺れる感覚の気持ち悪さに目を覚ました。
ぼんやりとした視界に入ってきたのは、見覚えの無い部屋。
「ここは……どこや?」
体を起こそうとすると、腹部に激しい痛みを覚えた。思わず呻いて体を丸めたが、同時に意識がハッキリする。
「そうか……千両松で撃たれたんやったな……」
いつの間にか着せられていた寝間着の帯を解き、傷口を確認する。手当てはされていたが、あの戦火の中ではきちんと消毒が出来ていたはずもなく。傷口は見事に膿んでいた。
こういう時、医者の知識を僅かばかりでも持ってしまっていることが悔やまれる。
「こら……助からんな」
小さくため息をつき、寝間着を直した。たったこれだけの動作が、こんなにも苦しい。多分熱も高いのだろう。
「も少し……生きたかってんけどなぁ……」
何だか無性に寂しくなった。
「おい山崎! 無理するな!」
痛みを堪え、足を引きずるように出てきた甲板で、副長に見つかった。倒れ込みそうになった俺を、慌てて受け止めてくれる。
「お前は馬鹿か! そんな傷で動き回ってんじゃねえよ。近藤さんだって大人しく寝てんだぜ?」
「……そら……すまんこって……」
憎まれ口を叩いてやりたかったが、その気力も湧かない自分が情けなかった。
「いつの間に……船に……?」
「今日で三日だ。お前はずっと眠ったままだったんだぜ? とりあえず起きてくれて良かった。江戸に着いたら仕切り直しだ。頼りにしてるからな」
「こんな重傷……なんに……未だこき使お……いうんか……」
「当たり前だ。だからさっさと治しやがれ!」
こんなになった自分を、未だ必要として貰えるのが嬉しかった。雨霰と降り注ぐ銃弾の中を潜り抜け、被弾した俺をここまで連れて来てくれただけでも有り難いというのに。
「おおきに……そんなん言われたら……気張らなあか……ん……な……」
もう、副長に凭れかかる力すら無い。
ずり落ちるように倒れた俺に、副長が真っ青になった。
「おい、山崎! しっかりしろっ!」
叫ぶ副長の声が甲板に響く。その声を聞きつけて、走り寄る者達の足音が幾つも聞こえてきた。
どの足音が誰のものか。全て分かってしまう自分が可笑しくて。
ああ、俺は骨の髄まで新撰組に染まっていたんだな、と気付いた。
「山崎!」
「山崎さん!」
名を呼ばれるのがこんなに嬉しいものだと、死の間際になって知る事になるとは……
「何や……全然寂しないやん……俺は……幸せ……や……」
薄らいでいく意識の中、誰が持って来たのか、風にはためく誠の旗が見えた。
「おおきにな……また……」
いつか、どこかで。彼らと共に。
そんな思いを胸に抱きながら、俺は静かに息を引き取った――
~了~
ぼんやりとした視界に入ってきたのは、見覚えの無い部屋。
「ここは……どこや?」
体を起こそうとすると、腹部に激しい痛みを覚えた。思わず呻いて体を丸めたが、同時に意識がハッキリする。
「そうか……千両松で撃たれたんやったな……」
いつの間にか着せられていた寝間着の帯を解き、傷口を確認する。手当てはされていたが、あの戦火の中ではきちんと消毒が出来ていたはずもなく。傷口は見事に膿んでいた。
こういう時、医者の知識を僅かばかりでも持ってしまっていることが悔やまれる。
「こら……助からんな」
小さくため息をつき、寝間着を直した。たったこれだけの動作が、こんなにも苦しい。多分熱も高いのだろう。
「も少し……生きたかってんけどなぁ……」
何だか無性に寂しくなった。
「おい山崎! 無理するな!」
痛みを堪え、足を引きずるように出てきた甲板で、副長に見つかった。倒れ込みそうになった俺を、慌てて受け止めてくれる。
「お前は馬鹿か! そんな傷で動き回ってんじゃねえよ。近藤さんだって大人しく寝てんだぜ?」
「……そら……すまんこって……」
憎まれ口を叩いてやりたかったが、その気力も湧かない自分が情けなかった。
「いつの間に……船に……?」
「今日で三日だ。お前はずっと眠ったままだったんだぜ? とりあえず起きてくれて良かった。江戸に着いたら仕切り直しだ。頼りにしてるからな」
「こんな重傷……なんに……未だこき使お……いうんか……」
「当たり前だ。だからさっさと治しやがれ!」
こんなになった自分を、未だ必要として貰えるのが嬉しかった。雨霰と降り注ぐ銃弾の中を潜り抜け、被弾した俺をここまで連れて来てくれただけでも有り難いというのに。
「おおきに……そんなん言われたら……気張らなあか……ん……な……」
もう、副長に凭れかかる力すら無い。
ずり落ちるように倒れた俺に、副長が真っ青になった。
「おい、山崎! しっかりしろっ!」
叫ぶ副長の声が甲板に響く。その声を聞きつけて、走り寄る者達の足音が幾つも聞こえてきた。
どの足音が誰のものか。全て分かってしまう自分が可笑しくて。
ああ、俺は骨の髄まで新撰組に染まっていたんだな、と気付いた。
「山崎!」
「山崎さん!」
名を呼ばれるのがこんなに嬉しいものだと、死の間際になって知る事になるとは……
「何や……全然寂しないやん……俺は……幸せ……や……」
薄らいでいく意識の中、誰が持って来たのか、風にはためく誠の旗が見えた。
「おおきにな……また……」
いつか、どこかで。彼らと共に。
そんな思いを胸に抱きながら、俺は静かに息を引き取った――
~了~