永倉新八【完結】

 初めて映画を目にした時の衝撃は、今も忘れられない。
 フォトガラですら、魂が吸われると怯えていたあの頃には、こんな物が出来るなど想像だにしていなかった。

 箱館戦争の終焉と共に新選組は解体し、生き残りの隊士は散り散りとなった。ある者は怯え隠れ、ある者は誠を胸に自らの命を絶ち。明治の世の表舞台からは、新選組の名残を残す物は消え失せていた。
 遺された者達が必死に隠しておいた元隊士達の遺品も、時と共に失われていき。同時に記憶も薄れ、あれだけ突き合わせていた顔も既に朧げだ。

「もう少し早く映画が出来ていれば、俺は新選組を撮っていたかもしれないなぁ」

 フィルムの中にいる者達は、終焉を迎えてもまた再び息を吹き返し、同じ人生を歩む。

「例えそれが悲劇であっても、もう一度見られる事で記憶が鮮明に甦るなら、俺はあいつらをフィルムに残したかったな」

 そうすれば新選組が、決して単なる殺戮集団ではなかった事を世に伝えられる。新聞の文字だけでは伝わらない、誠の心を感じられる。

「なぁ、近藤さん……土方さん……こんな夢物語を語れるくらい、平和な世の中になったんだぜ。あんた達にも、この不思議を見せたかったよ」

 ゆっくりと目を瞑る。
 瞼の裏には、全ての座席に新選組の隊士達が座っていた。流される映像は試衛館の頃からの物で、皆がやんややんやと盛り上がる。

「俺の記憶のフィルムなら、あの世でも上映できるかもしれないな」

 フッ……と笑みが零れた。

「早速……試してみるか……」



 記録には無いが、眠るように逝った永倉の手には、自らが書き記した『新撰組顛末記』が握られていたという。
 それが何を意味するのか、知る人はいない――

~了~
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