藤堂平助【完結】

 稽古では、何度もやりあっていた。嫌と言うほど見せつけられていたその実力、いつだって羨ましかったよ。
 今こうして刀を交えていると、そんな余裕なんて無いはずなのに、懐かしい日々が思い出されるんだ。

 マメの潰れた手で、一緒に木刀を振り回した事。
 意見の相違で思い切り殴り合った事。
 羽目を外して酒を酌み交わした事。
 土方さんの部屋に忍び込んで、皆で叱られた事もあったっけ。
 不逞浪士相手に命懸けで戦った事なんて、数え切れないほどあったよな。

 どれも忘れられない思い出で。
 ほんの少し前までいつも一緒だったのに、何だか遠い昔の出来事のようだ。

「頼むから逃げてくれ! 生き延びるんだ!」

 ごめんよ、新八さん。折角道を開けてくれたのに、俺は活路を見出せなかった。

「こっちから抜ければ誰もいない!」

 ごめんよ、左之さん。俺が離隊をすると言った時、最初に怒って止めてくれたのに。

 俺はどこで道を間違えたのかな? でもあの時の俺には、選べる答えが一つしか無かったんだ。
 結果的に俺は、あんた達を裏切ったんだよ? それなのに……何でこんな俺を助けようとしてくれるんだよ!

「近藤さん達も、お前を逃がせと言ってるんだ! だから……」

 ほんと、嫌になるなぁ。お人好しばかりで、決心が鈍っちまうよ。
 俺はここに斬られに来たのに。あんた達を裏切った罪を、精算しに来たってのに。そんな風に言われたら、生きてまた一緒にいたいと、希望を持ってしまいそうだ。

 だからもう……終わりにしよう。

 俺は先に行ってるよ。あんた達の事だから、どうせすぐにまた会えそうだしね。
 でも、できればゆっくりきてくれよ。俺はいつまででも待ってるからさ。

 迫り来る白刃の向こうに、誠の旗が見える。
 不思議と心が温かくなった。

「ありがとな……」
「平助ぇっ!!」



 伊藤甲子太郎の遺体を持ち帰らんと油小路にやってきた御陵衛士の中で、真っ先に討ち死にした平助の顔は、何故か微笑んでいるように見えた。
 全てが終わった時、平助をよく知る隊士達は皆、遺体を前に涙していたという。

 屯所にて報告を受けた近藤達も同様であり、最期まで惜しまれ、愛された若者だった――。

~了~
1/1ページ
応援👍