原田左之助【完結】

 何時だったかなぁ。土方さんが言ってたっけ。

「俺達は時代に取り残されちまってんだとよ。刀や槍は時代遅れなんだそうな」

 悔しそうに刀を見つめていた姿が、今でも忘れらんねぇや。

 自らの手と一つになった刀や槍で、敵の命を奪う。
 相手の命の火が消える瞬間までの感触が、臭いが。生々しく感じられるからこそ、その重みが分かるはずだってぇのに。
 今となっては、手に触れるのは無機質なカラクリで。そこから飛ばされる鉛玉は、時に相手の姿さえ見る事なくその身を粉砕する。
 そんな戦い方が当たり前になりつつあるってのが、どうにも気に入らねぇんだ。
 人の命を奪うってのは、相手の人生を背負うって事だろうが。最後の瞬間まで顔を突き合わせて、お互いの生き様を尊重しあって初めての武士道じゃねぇのかよ!?

――なんつった所で、この戦況は変わんねぇんだろうな。

 あんなにいた彰義隊の仲間達も、一人、また一人と銃弾の前に倒れていき。俺も土手っ腹に食らっちまった。
 金物の味を知ってる腹も、鉛玉には弱かったみてぇだな。

 焼け付くような痛みが脳天まで駆け抜け、膝をついた。
 何でだろう。今更だが、肩を撃たれた時の近藤さんを思い出しちまった。
 あの人はあの時、この痛みに耐えながら屯所まで戻ってきたんだな。やっぱスゲェや、局長は。
 考え方の違いから袂を分かったが、俺は新選組が大好きだったよ。あいつらと一緒にこの時代を生きられた事、素直に誇りに思ってる。

 つい過去を振り返れば、様々な記憶が蘇ってきた。止めどなく溢れるってのは、こういう事を言うんだな。

 新八も今頃は苦戦してんのかなぁ。あいつの事だから、弾の方が避けてるかもしんねぇな。また一緒に酒を飲みてぇや。

 おまさ。茂。せめてもう一度会いたかったなぁ……それだけが心残りだ。

 俺は懐から、小さな巾着を取り出した。以前おまさに頼んで作らせた、『誠』の文字の刺繍が入った巾着だ。中にはおまさと茂の髪が入っている。
 そこに自分の髪を入れ、再び懐にしまった。

「いつか生まれ変わる事が出来たら、また家族になろうな」

 きっとこの願いは叶えられる。誠がこの胸にある限り。何故かそんな確信があった。
 今、心はとても晴れやかだ。

 気がつけば、四方八方から敵が近付いて来ていた。痛む体に鞭を打ち、槍を構える。

「俺は新選組十番隊組長、原田左之助! 死にてぇ奴はかかってきやがれ!」

 残された全ての力を振り絞り、槍を振るった。それが俺の最後の記憶。

 その後虫の息だった俺は、神保山城主邸に運び込まれたものの意識が戻る事はなく――そのまま静かに息を引き取ったのだった。


~了~
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