短編
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※性的描写が含まれます。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
菊田の部屋で2人だけの晩酌。
独身になって久しぶりに訪れた部屋。いつもの飲み仲間がいないことに、少しだけ緊張する。それを隠すように冷えたビールを思い切り飲み干した。
テーブルの上には所狭しと並べられた料理。菊田が作ったものもあれば、さくらが道すがら購入してきたデリも合わせて4人前はある物量だ。同期の中でも特に仲の良かった4人で久しぶりに飲もうと話していたのが、つい先週のこと。独身時代は頻繁に飲み会を開いていた4人だ。さくらの離婚の傷心を癒すというのと、菊田が家庭用のピザ窯を購入したというので、満場一致で菊田宅でピザパーティーだと盛り上がっていたのだ。それが当日になり、1人は仕事のトラブル、1人は体調不良と参加人数が減っていき、さくらが意気揚々とピザに合うラザニアやカプレーゼと料理を選んでいるうちに参加人数は2人となっていたらしい。
マンションの玄関で出迎えてくれた菊田が申し訳なさそうに頭をかきながらさくらに説明してくれた。
「沢山買ってきてくれたのに、すまねえな。」
「私は買ってきただけだからいいよ。それより菊田くんはこんなに料理準備してくれて…来れなかった月島くんと家永さん勿体無いね。」
パリパリに焼けたマルゲリータを頬張る。家庭用の割には本格的な生地の焼け具合だ。焦げ目のついた生地とぐつぐつと湯気を立てるチーズは手が止まらなくなる美味しさだ。テーブルには皆が好みの具材を使えるようにさまざまな材料が取り揃えられている。乗せるチーズもいくつか種類があり、買い揃えるのも大変だっただろう。
「まあ……、材料はどうとでもなるさ。今日は日向の好きなだけ食っていってくれ。酒もたんまりあるぜ?」
キッチンカウンターに並べられた大小様々な酒瓶には一通りの酒が揃っている。
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて」
きらり、と目を輝かせたさくらはカウンターに並べられた1つを手に取った。
「ショットグラスはもちろん用意してくれてるんでしょ?」
テキーラのボトルを嬉しそう抱えるさくらの言葉に、菊田は「もちろん」と答えるといたずらっ子のような笑みを浮かべて冷蔵庫から冷えたショットグラスを取り出した。
「お前と家永は絶対飲むと思ってた。若い頃、何人の男を潰して回ってたか…。」
その頃を思い出したのか渋い顔をする菊田。
「昔のことでしょ?今は落ち着いて飲めますよ」
菊田からショットグラスを受け取り、安心させるように言い聞かせる。
「もういい大人なんだから、ね。」
なおも言い募るも、菊田は信用しているのか信用していないのか、曖昧に相槌を打つだけだった。
テーブルには空になった酒瓶が転がり、予想以上に料理が食べ尽くされた傍らで、さくらはくだを巻いていた。赤らんだ顔を自身の腕で支えてはみるものの、ずるずるとテーブルへ項垂れるように顔を突っ伏している。菊田の方はと言えば、多少顔は赤いものの正気は保っているらしい。ゆったりと椅子に腰掛け、言わんこっちゃない、とさくらに視線を送っている。
「水、飲めるか?」
菊田はグラスに水を注ぐと、うなだれているさくらの前に置いた。
「これ…いつものより度数強いんじゃない?」
顔を上げたさくらはじとり、と菊田を睨みつけた。
「ラベル見てみろよ。一緒だろ?」
しかし、酔っ払いのジト目に何の効果もなく、冷静に返答される。
「俺たちも『いい大人』なんだからよ。酔いも回りやすくなるさ。」
子供に言い聞かせるような優しい口調だ。先程と形成逆転したことにさくらは不満そうに口を尖らせた。
「なんで菊田くんは余裕そうなのよ。昔は私の方が強かったのに…!」
「いやいや…充分強いぞ、日向は今日も俺より飲んでるんだから、潰れるのが早いのも当たり前だろ?」
さあ、水飲んで。と菊田が再度促すとさくらはグラスの水を一気にあおった。勢いあまって口から溢れ出たのが首筋を伝ってブラウスを濡らした。
「おっと……っタオル」
急いで立ち上がる菊田に、さくらは手のひらを軽く振って必要ないと伝えた。
「ちょっと濡れたくらい……そのうち乾くわよ」
さくらはパタパタと濡れたブラウスを揺らして、乾かそうと試みた。しかし、その様子に菊田の方は自身の手のひらで目元を覆うと、長いため息をついた。低く、いつもより響く声が何となく様子が違うように思え、さくらはしばらく動かなくなった菊田を訝しそうに見上げた。
「何?菊田くんも酔ってきたの?大丈夫?」
鍛えられた腕がぴくり、と反応した。そして、目元においていた手のひらを少しずらして、さくらの方に視線を落とした。大きな手が影になり、普段の温厚な菊田とは違った鋭い視線を向けられているように感じた。本能的に僅かに肩を上げる。それが自身の身を守れる行動とは到底言い難いが、身を固くして災難が過ぎるのを待つように、意味のない行いをするより他になかった。恐る恐る、声をかける。
「菊田…くん?」
さくらの呼びかけに、今度は短く息を吐くと、菊田は手のひらを顔から退けた。現れたのが眉間に皺を寄せた表情で、いつもの困った時に見せる表情であったが、視線は相変わらず鋭いままだった。…怒っているのだろうか。離婚でヤケになった気持ちを隠すように、おどけて杯を進め、菊田に絡み酒をし、しかも本人の部屋で好き勝手にやっているのだ。『いい大人』を長年やってきた身として、これはまずかった……。とようやく気づくに至った。
「ごめん、調子に乗りすぎた。今日はもう、お暇しようかな…ああ、グラスとか片付けはしてくからさ。」
そう言って、立ち上がり、使った食器をかき集め始める。
「……お前、前もそんなことしてたのか?」
呟くような声が、やけに部屋に響いた。
「……え、なに?」
「男の部屋で、二人きりで、無防備で」
食器をまとめ始めていたさくらの腕を、菊田の手が制止するように掴んだ。
「前の男にも、そうやって隙を見せてたのか?」
こちらをなじるような物言いに、さくらの方も眉間に皺を寄せた。
「何の話してんの?今日は4人で集まる予定だったでしょ?」
まるで尻の軽い女のように言われて、さくらの語気も強まる。
「ただ水こぼしたくらいで細かいのよ、なんで」
そんなこと言われなくちゃいけないのよ?と言い返すつもりが、菊田が言葉を遮るようにかぶせてくる。
「『それ』はお前にとって細かいことか?」
菊田が顎でしゃくってさくらの胸元を指し示した。菊田の視線に合わせて自身の胸元へ目線を移す。少しこぼれただけと思っていたのは酔っ払い特有の感覚だったようで、下着の形がわかるほどには、しっかり濡れている。予想外の事態に、さくらは掴まれていた腕を振り払うようにして、上半身を隠すように身をひねらせた。
「ちょっと…!それならそうと早く言ってよ!」
恥ずかしさでなじるように言葉を返してしまう。
あ、と思った時にはすでに菊田の視線から厳しさは薄れ、いつものような困ったような表情へと戻っていた。
「悪い、悪い。流石に俺も言い出しづらくてよ。」
菊田はバツが悪そうに頭を掻いて視線を逸らした。
「私も焦っちゃって、ごめ…」「やっぱりタオルいるだろ?」
さくらの謝罪の言葉に被せるように菊田が口を開き、リビングから出るとすぐに大きめのタオルと菊田の私服の上着が手渡された。心なしか視線が泳いでいるように見える。
「それじゃ帰れねえだろうから、羽織っていけよ。」
さくらの方も気まずい雰囲気に、菊田の顔を直接見ることができない。素直に借りた上着を羽織って、ブラウスの濡れた部分にタオルを当てた。その間も菊田は甲斐甲斐しく、いやむしろ無理矢理にでも忙しくしているように帰りのタクシーの手配だとか、料理の片付けに勤しんでいる。さくらは、待っている間に用意されたホットコーヒーをすすり、菊田の忙しない様子を眺めている。コーヒーで酔いのさめた頭でふと、思い至る。
「菊田くんてさ、好きだよね。」
「……はぁ?!」
食器を洗っていた菊田の手から皿が滑り落ちる。シンクで大きな音を立てたものの、割れずに済んだようで、「おいおい、突然何を言い出すかと……」とぶつくさ言うのを尻目に、さくらが言葉を続けた。
「人の世話焼くの好きだよね。昔からさ、私と家永さんが飲みの席で無茶し始めると、冷静に止めるのが月島くんで、介抱してタクシーまで乗せるのが菊田くんて、流れが決まってたよね。……本当に昔からお世話かけてます。」
ありがとう、とさくらが頭を下げると、菊田が小さく笑った。
「そんなこと、いつものことじゃねえか。今更だよ。」
「確かに……ほんと変わってないわ」
年齢を重ねても、人というものは大して変わらない。一つバツがついたところで、物分かりの良い大人になったわけでもない。見た目だけは確実に年相応になっていくけれど、中身も同じように成熟していくわけでもない。これまでの自身の生き方を思うと、若い頃から、4人で騒いでいたあの頃から、何も変わっていないように思えた。
ピンポーン
インターホンが鳴った。菊田がいそいそとディズプレイを確認しにいくと、タクシーが到着したらしい。さくらは借りていた上着を脱ごうとするのを、菊田の手に止められた。
「それは今度でいいから。」
代わりに手の中にあるタオルを、ひょいと奪われる。
「ちゃんとクリーニングして返せよ。」
冗談めかしていうのにさくらはつられて笑った。
一人残った部屋で、菊田は残りの洗い物を終えると、ふうっと息を吐いた。使用済みのタオルを数枚手に持つと、洗面所へと向かう。そのまま洗濯機に投げ込もうとしたところで、手を止めた。
さくらに渡したタオルが目に止まった。濡れたブラウスが下着の線を拾い、その曲線を強調するようだった。年甲斐もなく目が離せなかった。
何年も思いを寄せていた人物の姿とあれば、尚更だった。
入社してから、ほとんど一目惚れだった。数多いる新入社員の同期たちの中でさくらの存在だけが際立っているように、菊田の視線を捉えて離さなかった。さくらへの思いを知っている月島と家永だけに伝えると、「そんなに目立ってたか?」「恋は盲目って言葉はまさに菊田くんにぴったりね」と面白がられたものだ。それから何度となく4人で飲みに行く機会を作り、親睦を深め、優しく介抱して、このままいけば……と淡い期待を持っていた。しかし、さくらはいつの間にか彼氏が出来、飲み会の頻度は減り……結婚式の招待状が届いた。ただ『いい人』だった昔の自分に教えてやりたい。優しいだけじゃ、さくらは掻っ攫われちまうぞ、と。
しかし、今日とて菊田は意気地がなかった。
せっかく2人きりで、アクシデントさえ男としての自分を見せる絶好の機会ではなかったか。嫉妬に任せてさくらの腕を掴んだ時、自分の思いを伝えていれば……。傷心のさくらの心につけ込んででも、あのまま……。
そこまで考えたところで、自身の思考を打ち消すように頭を振った。
「そんな卑怯な真似…」
菊田の普段見せない男の部分にさくらは戸惑っていた。何なら、怯えていたようにもみえる。そんな相手に、一体なにができただろうか。
「はぁ、やめだやめだ。どうせ俺は意気地なしさ。」
1人愚痴ると、洗濯機にタオルを投げ込んだ。
しかし、一枚だけ、大きめのタオルだけは手元に残ったままだ。
ごくり、と喉が鳴った。
理性では、やめろと声がする。しかし、手に持ったタオルは徐々に顔は近付いていく。柔らかなタオルの感触を鼻先に感じる。そこから家の洗剤とは違うさくらの香水の香りがした。いつもなら、ほのかに香る芳香が、今ははっきりと感じられる。まるで抱きしめた時にさくらの首筋から香るように…。その場面を思い浮かべてみると、先ほどの濡れたブラウスが蘇ってくる。雫のこぼれる胸元へ口付けを落とし、服に隠れた中を暴いて……。
年甲斐もなく自身の下半身が熱くなってくる。罪悪感を感じながらも下着から取り出せば、硬さを持ち始めている。自身の手で、それを掴んだ。
さくらの乱れた姿を想像する。
半ば脱がされたブラウスから下着で隠された豊かな胸が現れる。胸元はまだ雫が垂れている。それは丁寧に舐め取っていく。その度にさくらの肩が揺れる。下着の内まで垂れた雫を追うように、胸を覆う下着をずらしてその頂まで舌を這わせていく。固くなったそれに吸い付けば、さくらの口から甘い声が漏れる。
『菊田くん……』
悩ましい視線をこちらに向ける。想像するだけでさらに自身が固くなった。
さくらの手が菊田のズボンへと伸びていく。その手が硬くなった自身の形をなぞるように動く。それを想像したように、菊田は自分の手を上下させた。タオルに押し付けた口から荒い息が漏れる。
さくらは菊田の弱い部分を何度も撫で上げていく。筋をなぞるように緩急をつけて上下され、その快感を逃すようにさくらの胸をきつく吸い上げた。舌で転がし、先端をつつけばさくらの息も上がってくる。
甘い声が断続的に上がり、いつものスカートへ手を伸ばす。ストッキング越しに下着に指を這わせると、すでにそこは湿っている。さくらの手が菊田のそれを上下に扱くように、菊田もさくらの割れ目を上下になぞった。
『あっ、ぁっ、きく、た…くん』
さくらの声が上擦る。その声が更に菊田を熱くさせる。なぞるたびに濡れるさくらのそれと、熱くなる自身の先端から先走りの液が出ている。
『も、だめ、っぁ、ぁぁ』
さくらの太ももが震える。互いに限界か近いようだ。互いに強く擦り合うと、指先が愛液で濡れた。菊田は小さくうめくと自身から欲を吐き出した。
脱衣室にどろり、とした性液が飛び散る。
「……なに、やってんだ」
自分の行った行為に、すぐさま罪悪感と情けなさが襲ってくる。若造のように、こんなバカな真似を。気を紛らわせるように、菊田は自身の髪を乱暴に掻きむしった。
ピンポーン
インターホンに気を取り直してディスプレイをみると、月島と家永2人の姿が映っている。
…こんなのがバレた日には、どれだけネタにされるか。そう思うと、急いで脱衣室の吹き上げ、証拠を隠滅する。
しかし、さくらを無事に返した菊田の意気地のなさを2人にいじられることになるとは、焦っている菊田は思い至ることもないのだった。
菊田の部屋で2人だけの晩酌。
独身になって久しぶりに訪れた部屋。いつもの飲み仲間がいないことに、少しだけ緊張する。それを隠すように冷えたビールを思い切り飲み干した。
テーブルの上には所狭しと並べられた料理。菊田が作ったものもあれば、さくらが道すがら購入してきたデリも合わせて4人前はある物量だ。同期の中でも特に仲の良かった4人で久しぶりに飲もうと話していたのが、つい先週のこと。独身時代は頻繁に飲み会を開いていた4人だ。さくらの離婚の傷心を癒すというのと、菊田が家庭用のピザ窯を購入したというので、満場一致で菊田宅でピザパーティーだと盛り上がっていたのだ。それが当日になり、1人は仕事のトラブル、1人は体調不良と参加人数が減っていき、さくらが意気揚々とピザに合うラザニアやカプレーゼと料理を選んでいるうちに参加人数は2人となっていたらしい。
マンションの玄関で出迎えてくれた菊田が申し訳なさそうに頭をかきながらさくらに説明してくれた。
「沢山買ってきてくれたのに、すまねえな。」
「私は買ってきただけだからいいよ。それより菊田くんはこんなに料理準備してくれて…来れなかった月島くんと家永さん勿体無いね。」
パリパリに焼けたマルゲリータを頬張る。家庭用の割には本格的な生地の焼け具合だ。焦げ目のついた生地とぐつぐつと湯気を立てるチーズは手が止まらなくなる美味しさだ。テーブルには皆が好みの具材を使えるようにさまざまな材料が取り揃えられている。乗せるチーズもいくつか種類があり、買い揃えるのも大変だっただろう。
「まあ……、材料はどうとでもなるさ。今日は日向の好きなだけ食っていってくれ。酒もたんまりあるぜ?」
キッチンカウンターに並べられた大小様々な酒瓶には一通りの酒が揃っている。
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて」
きらり、と目を輝かせたさくらはカウンターに並べられた1つを手に取った。
「ショットグラスはもちろん用意してくれてるんでしょ?」
テキーラのボトルを嬉しそう抱えるさくらの言葉に、菊田は「もちろん」と答えるといたずらっ子のような笑みを浮かべて冷蔵庫から冷えたショットグラスを取り出した。
「お前と家永は絶対飲むと思ってた。若い頃、何人の男を潰して回ってたか…。」
その頃を思い出したのか渋い顔をする菊田。
「昔のことでしょ?今は落ち着いて飲めますよ」
菊田からショットグラスを受け取り、安心させるように言い聞かせる。
「もういい大人なんだから、ね。」
なおも言い募るも、菊田は信用しているのか信用していないのか、曖昧に相槌を打つだけだった。
テーブルには空になった酒瓶が転がり、予想以上に料理が食べ尽くされた傍らで、さくらはくだを巻いていた。赤らんだ顔を自身の腕で支えてはみるものの、ずるずるとテーブルへ項垂れるように顔を突っ伏している。菊田の方はと言えば、多少顔は赤いものの正気は保っているらしい。ゆったりと椅子に腰掛け、言わんこっちゃない、とさくらに視線を送っている。
「水、飲めるか?」
菊田はグラスに水を注ぐと、うなだれているさくらの前に置いた。
「これ…いつものより度数強いんじゃない?」
顔を上げたさくらはじとり、と菊田を睨みつけた。
「ラベル見てみろよ。一緒だろ?」
しかし、酔っ払いのジト目に何の効果もなく、冷静に返答される。
「俺たちも『いい大人』なんだからよ。酔いも回りやすくなるさ。」
子供に言い聞かせるような優しい口調だ。先程と形成逆転したことにさくらは不満そうに口を尖らせた。
「なんで菊田くんは余裕そうなのよ。昔は私の方が強かったのに…!」
「いやいや…充分強いぞ、日向は今日も俺より飲んでるんだから、潰れるのが早いのも当たり前だろ?」
さあ、水飲んで。と菊田が再度促すとさくらはグラスの水を一気にあおった。勢いあまって口から溢れ出たのが首筋を伝ってブラウスを濡らした。
「おっと……っタオル」
急いで立ち上がる菊田に、さくらは手のひらを軽く振って必要ないと伝えた。
「ちょっと濡れたくらい……そのうち乾くわよ」
さくらはパタパタと濡れたブラウスを揺らして、乾かそうと試みた。しかし、その様子に菊田の方は自身の手のひらで目元を覆うと、長いため息をついた。低く、いつもより響く声が何となく様子が違うように思え、さくらはしばらく動かなくなった菊田を訝しそうに見上げた。
「何?菊田くんも酔ってきたの?大丈夫?」
鍛えられた腕がぴくり、と反応した。そして、目元においていた手のひらを少しずらして、さくらの方に視線を落とした。大きな手が影になり、普段の温厚な菊田とは違った鋭い視線を向けられているように感じた。本能的に僅かに肩を上げる。それが自身の身を守れる行動とは到底言い難いが、身を固くして災難が過ぎるのを待つように、意味のない行いをするより他になかった。恐る恐る、声をかける。
「菊田…くん?」
さくらの呼びかけに、今度は短く息を吐くと、菊田は手のひらを顔から退けた。現れたのが眉間に皺を寄せた表情で、いつもの困った時に見せる表情であったが、視線は相変わらず鋭いままだった。…怒っているのだろうか。離婚でヤケになった気持ちを隠すように、おどけて杯を進め、菊田に絡み酒をし、しかも本人の部屋で好き勝手にやっているのだ。『いい大人』を長年やってきた身として、これはまずかった……。とようやく気づくに至った。
「ごめん、調子に乗りすぎた。今日はもう、お暇しようかな…ああ、グラスとか片付けはしてくからさ。」
そう言って、立ち上がり、使った食器をかき集め始める。
「……お前、前もそんなことしてたのか?」
呟くような声が、やけに部屋に響いた。
「……え、なに?」
「男の部屋で、二人きりで、無防備で」
食器をまとめ始めていたさくらの腕を、菊田の手が制止するように掴んだ。
「前の男にも、そうやって隙を見せてたのか?」
こちらをなじるような物言いに、さくらの方も眉間に皺を寄せた。
「何の話してんの?今日は4人で集まる予定だったでしょ?」
まるで尻の軽い女のように言われて、さくらの語気も強まる。
「ただ水こぼしたくらいで細かいのよ、なんで」
そんなこと言われなくちゃいけないのよ?と言い返すつもりが、菊田が言葉を遮るようにかぶせてくる。
「『それ』はお前にとって細かいことか?」
菊田が顎でしゃくってさくらの胸元を指し示した。菊田の視線に合わせて自身の胸元へ目線を移す。少しこぼれただけと思っていたのは酔っ払い特有の感覚だったようで、下着の形がわかるほどには、しっかり濡れている。予想外の事態に、さくらは掴まれていた腕を振り払うようにして、上半身を隠すように身をひねらせた。
「ちょっと…!それならそうと早く言ってよ!」
恥ずかしさでなじるように言葉を返してしまう。
あ、と思った時にはすでに菊田の視線から厳しさは薄れ、いつものような困ったような表情へと戻っていた。
「悪い、悪い。流石に俺も言い出しづらくてよ。」
菊田はバツが悪そうに頭を掻いて視線を逸らした。
「私も焦っちゃって、ごめ…」「やっぱりタオルいるだろ?」
さくらの謝罪の言葉に被せるように菊田が口を開き、リビングから出るとすぐに大きめのタオルと菊田の私服の上着が手渡された。心なしか視線が泳いでいるように見える。
「それじゃ帰れねえだろうから、羽織っていけよ。」
さくらの方も気まずい雰囲気に、菊田の顔を直接見ることができない。素直に借りた上着を羽織って、ブラウスの濡れた部分にタオルを当てた。その間も菊田は甲斐甲斐しく、いやむしろ無理矢理にでも忙しくしているように帰りのタクシーの手配だとか、料理の片付けに勤しんでいる。さくらは、待っている間に用意されたホットコーヒーをすすり、菊田の忙しない様子を眺めている。コーヒーで酔いのさめた頭でふと、思い至る。
「菊田くんてさ、好きだよね。」
「……はぁ?!」
食器を洗っていた菊田の手から皿が滑り落ちる。シンクで大きな音を立てたものの、割れずに済んだようで、「おいおい、突然何を言い出すかと……」とぶつくさ言うのを尻目に、さくらが言葉を続けた。
「人の世話焼くの好きだよね。昔からさ、私と家永さんが飲みの席で無茶し始めると、冷静に止めるのが月島くんで、介抱してタクシーまで乗せるのが菊田くんて、流れが決まってたよね。……本当に昔からお世話かけてます。」
ありがとう、とさくらが頭を下げると、菊田が小さく笑った。
「そんなこと、いつものことじゃねえか。今更だよ。」
「確かに……ほんと変わってないわ」
年齢を重ねても、人というものは大して変わらない。一つバツがついたところで、物分かりの良い大人になったわけでもない。見た目だけは確実に年相応になっていくけれど、中身も同じように成熟していくわけでもない。これまでの自身の生き方を思うと、若い頃から、4人で騒いでいたあの頃から、何も変わっていないように思えた。
ピンポーン
インターホンが鳴った。菊田がいそいそとディズプレイを確認しにいくと、タクシーが到着したらしい。さくらは借りていた上着を脱ごうとするのを、菊田の手に止められた。
「それは今度でいいから。」
代わりに手の中にあるタオルを、ひょいと奪われる。
「ちゃんとクリーニングして返せよ。」
冗談めかしていうのにさくらはつられて笑った。
一人残った部屋で、菊田は残りの洗い物を終えると、ふうっと息を吐いた。使用済みのタオルを数枚手に持つと、洗面所へと向かう。そのまま洗濯機に投げ込もうとしたところで、手を止めた。
さくらに渡したタオルが目に止まった。濡れたブラウスが下着の線を拾い、その曲線を強調するようだった。年甲斐もなく目が離せなかった。
何年も思いを寄せていた人物の姿とあれば、尚更だった。
入社してから、ほとんど一目惚れだった。数多いる新入社員の同期たちの中でさくらの存在だけが際立っているように、菊田の視線を捉えて離さなかった。さくらへの思いを知っている月島と家永だけに伝えると、「そんなに目立ってたか?」「恋は盲目って言葉はまさに菊田くんにぴったりね」と面白がられたものだ。それから何度となく4人で飲みに行く機会を作り、親睦を深め、優しく介抱して、このままいけば……と淡い期待を持っていた。しかし、さくらはいつの間にか彼氏が出来、飲み会の頻度は減り……結婚式の招待状が届いた。ただ『いい人』だった昔の自分に教えてやりたい。優しいだけじゃ、さくらは掻っ攫われちまうぞ、と。
しかし、今日とて菊田は意気地がなかった。
せっかく2人きりで、アクシデントさえ男としての自分を見せる絶好の機会ではなかったか。嫉妬に任せてさくらの腕を掴んだ時、自分の思いを伝えていれば……。傷心のさくらの心につけ込んででも、あのまま……。
そこまで考えたところで、自身の思考を打ち消すように頭を振った。
「そんな卑怯な真似…」
菊田の普段見せない男の部分にさくらは戸惑っていた。何なら、怯えていたようにもみえる。そんな相手に、一体なにができただろうか。
「はぁ、やめだやめだ。どうせ俺は意気地なしさ。」
1人愚痴ると、洗濯機にタオルを投げ込んだ。
しかし、一枚だけ、大きめのタオルだけは手元に残ったままだ。
ごくり、と喉が鳴った。
理性では、やめろと声がする。しかし、手に持ったタオルは徐々に顔は近付いていく。柔らかなタオルの感触を鼻先に感じる。そこから家の洗剤とは違うさくらの香水の香りがした。いつもなら、ほのかに香る芳香が、今ははっきりと感じられる。まるで抱きしめた時にさくらの首筋から香るように…。その場面を思い浮かべてみると、先ほどの濡れたブラウスが蘇ってくる。雫のこぼれる胸元へ口付けを落とし、服に隠れた中を暴いて……。
年甲斐もなく自身の下半身が熱くなってくる。罪悪感を感じながらも下着から取り出せば、硬さを持ち始めている。自身の手で、それを掴んだ。
さくらの乱れた姿を想像する。
半ば脱がされたブラウスから下着で隠された豊かな胸が現れる。胸元はまだ雫が垂れている。それは丁寧に舐め取っていく。その度にさくらの肩が揺れる。下着の内まで垂れた雫を追うように、胸を覆う下着をずらしてその頂まで舌を這わせていく。固くなったそれに吸い付けば、さくらの口から甘い声が漏れる。
『菊田くん……』
悩ましい視線をこちらに向ける。想像するだけでさらに自身が固くなった。
さくらの手が菊田のズボンへと伸びていく。その手が硬くなった自身の形をなぞるように動く。それを想像したように、菊田は自分の手を上下させた。タオルに押し付けた口から荒い息が漏れる。
さくらは菊田の弱い部分を何度も撫で上げていく。筋をなぞるように緩急をつけて上下され、その快感を逃すようにさくらの胸をきつく吸い上げた。舌で転がし、先端をつつけばさくらの息も上がってくる。
甘い声が断続的に上がり、いつものスカートへ手を伸ばす。ストッキング越しに下着に指を這わせると、すでにそこは湿っている。さくらの手が菊田のそれを上下に扱くように、菊田もさくらの割れ目を上下になぞった。
『あっ、ぁっ、きく、た…くん』
さくらの声が上擦る。その声が更に菊田を熱くさせる。なぞるたびに濡れるさくらのそれと、熱くなる自身の先端から先走りの液が出ている。
『も、だめ、っぁ、ぁぁ』
さくらの太ももが震える。互いに限界か近いようだ。互いに強く擦り合うと、指先が愛液で濡れた。菊田は小さくうめくと自身から欲を吐き出した。
脱衣室にどろり、とした性液が飛び散る。
「……なに、やってんだ」
自分の行った行為に、すぐさま罪悪感と情けなさが襲ってくる。若造のように、こんなバカな真似を。気を紛らわせるように、菊田は自身の髪を乱暴に掻きむしった。
ピンポーン
インターホンに気を取り直してディスプレイをみると、月島と家永2人の姿が映っている。
…こんなのがバレた日には、どれだけネタにされるか。そう思うと、急いで脱衣室の吹き上げ、証拠を隠滅する。
しかし、さくらを無事に返した菊田の意気地のなさを2人にいじられることになるとは、焦っている菊田は思い至ることもないのだった。
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