短編
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※露骨な性的描写があります。18歳未満の方、性的描写が苦手な方はご遠慮ください。
日差しの眩しさを感じ始める初夏。網走監獄の赤レンガが、太陽の光を浴びて鮮やかな色彩を見せる。照りつける光を跳ね返す様は、北海道の夏の到来を告げているようだ。その光と相対するように建物の影は一層深くなり、涼しい風が吹き抜ける。本土に比べれば、こちらの夏は幾分か過ごしやすい。看守たちが真面目に職務を全うしている傍ら、門倉は木陰で一服していた。自身の執務室のある庁舎から、気分転換に外に出てみれば、いい風が吹いているのだ。普段、分刻みで働いている身としては、これくらいの贅沢させてもらってもいいだろう、と理由をつけ、出入りの面会たちを見物しながら、深く吸い込んだ煙を肺へと送り込んだ。
北の大地の最果てにある監獄。そこへやってくる者は多くない。重大犯罪を犯した囚人たちは家族との縁が途切れた者が多い。その中でも、足を運んでくる者は限られているのだ。ゆえに、見知った顔をぼんやりと眺める、という暇つぶしでしかない。照りつく監獄の入り口で下っ端の看守が見張をしている。門倉は、ぼんやりとそれを眺める。何度か紫煙をくゆらせると、指に挟んだ煙草が短くなっていく。そろそろ戻るか、と重い腰を上げ庁舎へ戻ろうとした時だった。監獄の前に架かる橋を一人の女が渡ってくる。白い着物に日よけの白い傘。赤いレンガ造りの網走監獄で、白い着物が映える。日傘で顔が隠れているのが、想像を掻き立てられ、目が離せない。段々と近づいてくると、日傘の下から女の顔がチラリと垣間見えた。透き通るような肌に涼やかな目元。そのかんばせに惹き込まれそうになる。
「あちっ。」
短い煙草に僅かばかり残った灰が、門倉の指にかかった。それを払うように煙草を地面へと打ち捨てた。火種を足で消して、入り口の方へ再び目をやる。
一瞬、女と目が合った。
時間が止まったように思えたその瞬間、心臓が跳ねた。しかし、その涼やかな目がこちらを見たかと思えば、受付の看守へと視線が移っていった。
(……年甲斐もなく、馬鹿なことを。)
若い女だった。
門倉は自身の考えを打ち消すように大きく息を吐いた。男ばかりの職場で、物珍しいだけだろう。誰に言うでもなく、心の中で言い訳を並べる。
「門倉部長っ!お疲れ様です!」
新米看守の元気な挨拶に、ひらひらと適当に手を振る。
「お疲れさん。面会者か?」
「はい!最近、収監された、あの男の親族だそうです。」
「結婚詐欺だったか…確か、日向と言う名前の若い奴だったな。」
若い時分に金持ちの未亡人ばかり狙った詐欺に手を染め、身元が割れそうになったところで相手を殺害し、逃亡。逃亡先でも同じように金づるを見つけては潜伏していた男だ。調書によれば家族は姉が一人だけ。あの女がたった一人の肉親ということか。元気な返事と希望に満ちた瞳の新米看守だ。これが数年もすれば門倉や他の看守たちの様な清濁飲み込んだ面構えになるのか、と思えば何とも感慨深い。…とは言っても、門倉自身が希望に満ち溢れた新人看守ではなかったので、一概には言えないが。
「あの男なら、お前一人で連行しても大丈夫だろう。だが、気を引き締めて連れてくるんだぞ。」
看守部長として尤もらしいことを言えば、新米看守は元気に返事をして房舎へと向かっていった。それを見届けると、門倉も自身の執務室へと踵を返した。
数日が経ち、同じ様に日差しの強い、昼下がり。同じ場所で門倉が一服していると、くだんの女がやって来ていた。今日は別の看守が受付をしている。わざわざ受付から出て、女の所で何やら話し込んでいる。看守の方の表情を見れば、それが何かは明らかだった。上気した頬と、だらしなく緩んだ頬。……頼むから厄介ごとを起こさんでくれ、と心のうちでぼやきながら、受付の方へと歩を進めた。
「何か問題でもあったか?」
素知らぬ顔で看守の方へ声をかける。すると、たった今気がついたのか、びくりと大きく肩を揺らした。……囚人相手だったら死んでるぞ、お前。
「か、門倉部長っ……!いえ、こちらの方を面会室へご案内しようと。」
「そうか、仕事熱心で何よりだ。…日向さん、でしたっけね。仕事に一生懸命でも、ご婦人を怖がらせちゃ、いけませんね。うちの部下が申し訳ない。」
「いいえ……そんな。」
視線を下げる女のうなじに、後れ毛がするり、と滑り落ちた。露わになった白いうなじに黒髪が映える。歩いて来たためだろう、首筋に薄らとかいた汗は、しっとりときめ細やかな肌を強調させた。自然と喉が鳴る。それは隣にいた看守も同じようで、女の首筋に熱い視線を注いでいる。
「次の面会者が待っているので、今日は私が案内しましょう。お前は仕事へ戻ってくれ。」
言い募ろうとした看守を目で制する。流石に看守部長のひと睨みには効果があったらしい。大人しく引き下がるのを見届けると、女の方へ向き直った。女の方は心なしか顔の表情を緩ませたようだった。
やはり、年長者としての余裕が見えるのか、門倉自身の下心までは女の方に気取られることはなかったらしい。
「日向さん、こちらへ。」
短く言葉を継げると、女は小さく頷いた。門倉の後をついて歩くのを、肩越しに確認する。伏し目がちな憂いを帯びた表情に、不安な様子が伺えた。弟との面会で緊張しているのだろうか、それとも、先ほどの男のことが尾を引いているのか。詮索することも憚られ、ただ、面会室への歩を進めるだけだ。しばらく静かな時間が流れる。時より吹く風に乗って、女の香が門倉の鼻腔をくすぐった。わずかに甘く、控えめに香るのが、女の人となりを示しているようだ。細身の体躯に、自身の後を静かに歩いているのが、何とも庇護欲を掻き立てられる。
「あの、」
後ろで静かに付き従っていた女が口を開いた。
「あ、はい。」
邪な想像を働かせていた門倉は、突然のことに素っ頓狂な声を上げた。……さっきまで、格好よくできる男を見せていたのがぶち壊しだ。己の爪の甘さを不甲斐なく思いながらも、女はそれを気にした様子でもなく、言葉を続けた。
「先ほどは、ありがとうございました。……あまりに熱心な方で少し驚いてしまって。」
言葉を濁しているが、要は職権を使った体のいい口説きだったのだろうと、察しがつく。
「あれは本来、受付を担当するだけで、それ以上でも以下でもありません。驚かれるのも無理はないですよ。後から私の方で、よく言って聞かせますから、次の面会では安心していらっしゃって下さい。」
女の方は、門倉の言葉に安堵したように胸に手を置いて小さく息を吐いた。その様子に気をよくして更に言葉を続けた。
「日向さんがよろしければ、次も私がご案内でもしましょうか。」
軽口を叩いて女の方を見ると、驚いたように一瞬目を見開いた。そんな表情もできるのか、と思う反面、調子に乗りすぎてしまったか、と後悔したが時すでに遅し。覆水盆に返らずだ。
薄目で女の様子を窺う。怪訝な表情をしているだろうか。こんな親父が何を、と顔を歪めてはいないだろうか。
「……門倉看守部長様が付いてくださるなら安心です。」
思いもよらぬ言葉に、今度は門倉の方が惚ける番だった。その様子に、女の方が慌てたように言葉を並べた。
「…お忙しい方に何てことを。今日、こうしてよくして下さっただけで十分ですので、お気になさらないで。」
焦った姿でさえ可愛らしく思えてくる。自然と門倉の口元が上がる。
「大丈夫ですよ、次も私がご案内しましょう。……さあ、着きましたよ。こちらでお待ちください。」
到着した面会室の扉を開けてやる。女は礼を述べて、門倉の開けた部屋の中へと入っていく。距離の近さに比例して、先ほど香った香の甘さが強く感じられた。扉を閉じた後も、女の甘やかな香りが門倉の鼻腔に残り続けた。
定期的に女が来るたびに、看守部長が案内するという厚遇に、初めは周りの看守たちは訝しんだ。しかし、楚々とした女の姿と先に起こったことに尾鰭がついて広まっているのか、最近では当たり前の光景のようになっている。白い着物に白い傘、昼下がりの煙草休憩をしながら見知った姿を捉えれば、吸い始めたばかりの煙草の火を足で踏み消した。白い着物の裾に藍色の花が咲き乱れている。いつも女の着物は白地に控えめな花が描かれているものや、麻の柔らかさを感じられるようなものだった。それが、今日は鮮やかな杜若か菖蒲か、初夏の花が描かれた着物に身を包んでいる。元女房の身だしなみなんぞに興味もなかったのが、この女の僅かな変化にはいち早く気がついてしまう。
「今日もお世話になります。」
初対面の頃に比べると、自然な笑顔が多くなった女に、門倉も軽く手を上げて挨拶を交わす。
「華やかなお召し物ですね。夏らしくていい。」
自然と出てくる世辞とも取れる本音を軽口に乗せる。いつもならば、にこりと微笑み返すはずの女の表情が強張る。
何か、ある。
長年の勘から違和感を感じる。女の手に乗せられた小さな風呂敷包みに目をやった。ここへ面会へ来るたびに、弟への差し入れを持って来ている。その『いつもの風呂敷包み』への視線に気がついた女の指先が僅かに包みを握り直した。
「さあ、参りましょうか。」
素知らぬふりをして、女を案内する。しかし、今回はいつもの面会室ではない。門倉の執務室だ。途中で進路が変わったことに気がついたのか、後ろでついて来ている女が小さく息を呑む音が聞こえた。
「お入り下さい。」
いつもの面会室の扉を開けるように執務室の扉を開ける。
「あ、……っ、」
女は小さく声をあげ、後ずさった。しかし、門倉の視線にいつもの柔らかさはなく、鋭いものを感じると、意を決したように一歩進み出た。女の甘い香が門倉の鼻腔をかすめた。
門倉は音を立てないよう、ゆっくりと部屋の内鍵を閉めた。俯く女の後ろ姿に、優しい声音で話しかけた。
「そう固くならんでいいですよ。こういうことは、よくありますんでね。」
体を小さくして俯いている。まさか、包みを広げる前に見咎められるとは想定していなかったのだろう。門倉は、執務室の真ん中にある応接用の重厚感のあるソファに腰をかけ、女には向かいのソファを指し示し、腰を下ろしてもらった。
「持ち込み禁止物は没収させてもらってますんでね。今回は口頭注意で終わらせますけど、次は面会が難しくなりますよ。」
「……申し訳ありません。」
「包みの中を拝見させてもらいます。」
手を差し出すと、女はおずおずと風呂敷包みを門倉の手の上に乗せた。手に乗せた重みから、食べ物か、と見当をつけながら、中身を開く。曲げわっぱの弁当箱が顔をみせる。それの蓋を開けると、手作りの大福が並べられている。
「うまそうな大福だ。日向さんが作られたんで?」
「……ええ、弟が好きなものですから。」
「それで、この中に仕込んだわけですね。」
綺麗に並べられた大福を一つ一つ割っていく。中には丁寧に作られた粒あんが詰まっていて、うまそうだ。いくつか中身を見ていくうち、最後のひとつに手をかけたところで女が声を上げた。
「あ、それは…」
「止めても無駄です。今更ですよ。」
「違うんです、あの」
女が言いかけたところで、門倉は大福を割ろうと親指をかけた。少し力を入れると、親指に鋭い痛みが襲った。中身を改めれば、餡子に紛れて剃刀が顔を出している。親指から、ぷくりと赤い粒のように血が溢れてくる。女は門倉の指を見ると、慌てて懐から白いハンカチを取り出した。そして、門倉の隣に座り直して、その指を抑えるようにハンカチ越しに強く握り込んだ。
「す、すみません。きちんとお伝えすれば、こんなことには……。」
突然の出来事に、今度は門倉の方が息を呑んだ。甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。眼前には濡れた瞳を揺らし、心配そうに傷を負った指と門倉を交互に確認する女の顔。
「まさか刃物とは、穏やかじゃありませんねえ。」
「も、申し訳」
女の言葉に被せるように門倉が畳み掛けた。
「これで脱獄でもさせようって腹ですか?あんた見かけによらず、大胆だな。」
濡れた瞳が門倉の目を捕らえた。
「弟は体が弱いんです。……きっと、ここの冬は越せないでしょう。」
涙に濡れた中に、意志の強さを感じさせる鋭さが見え隠れする。たった一人の家族だ。女にとっては、自身の身を投げ打ってでも何とかしやりたかったのだろう。菖蒲柄の着物に仕込みの饅頭。それが弟への合図だったということか。
「罪を犯したとしても、大切な家族なんです。たった一人の…」
女の瞳が大きく揺れた。濡れた瞳から宝石のような涙のしずくがこぼれ落ちた。
どうしてこうも庇護欲を掻き立てられるのか。頼りなげに肩を小さく揺らして、はらはらと涙を流す。それが男をどんな気持ちにさせるのか、この人は分かっているのか。門倉の指を握る手に、自身のもう片方の手を重ねた。女が門倉を見つめる。
「私なら、何とかできなくもない…でしょう。」
看守部長の権限でどこまで出来るか。医者にひとつ握らせて、大病だと診断させれば医療刑務所か、本土の刑務所へ移動させることくらいは出来るだろう。仮に本土で誤診と分かったとして、諸々の手続きの煩雑さを考えれば一冬を本土で越させることはできるかもしれない。
しかし、それをしたところで門倉自身になんの旨みがある?下手に目立ってしまうのは得策ではない。だが……。柔らかそうな頬を伝う涙を指で拭ってやる。想像した通りの滑らかな肌が、ささくれだった指に吸い付くようだ。そのまま指を滑らせ、女の唇まで辿り着くと、紅を引いた唇をなぞった。血とは違う鮮やかな赤が門倉の指を色付ける。女の形のいい唇を彩った赤が、乱れたように口端で滲む。まるで、激しく口付けをしたかのように……。少し開いた唇から女の舌がチラリと見える。門倉は吸い込まれるように、その唇に自身の唇を重ねた。
「…っん……、」
小さな口に己の舌をねじ込む。女の舌に絡ませるように動くと、さくらの肩がぴくりと揺れた。抵抗するわけでもなく、女は門倉を受け入れるかのようだ。これが弟の待遇への見返りになるのだと思えば、と言うことかもしれないが。門倉はこの機を逃すつもりはなかった。この美しい人を手に入れることができるならば。ひとときのまぐわいでもいい。女の細い腰に手を回し、口付けを深くしていく。たどたどしい舌が門倉の動きに応えようと動く。それに自身の舌を絡ませると女の口からくぐもった声が漏れた。口付けを交わしながら、すでに出血の止まった方の手で女の背中をゆっくりと撫で上げた。その動きに合わせるように背中が弓なりになる。
「あっ……ん」
小さく声を上げ、快感を逃すようにのけぞったために、伸ばした首筋が門倉の眼前にやってくる。思わず白い首筋に吸い付いた。耳元からさくらの愛用する香の香りが強く感じられる。甘い香りを確かめるように舌で舐め上げた。その度にさくらの首筋がぴくりと跳ねる。これだけで感じるのならば、この先を思うと……、門倉の体の奥が熱くなる。さくらの着物の合わせをくつろげる。
浮き上がるような鎖骨に沿って舌を這わせる。
「んんっ…」
さくらは下唇を緩く噛み、快感に耐えている。その表情を下から見上げる。さくらの着物を大きく肌けさせた。外気に晒されてなのか、すでにその先端は固くなっている。
「感じやすいんですね。」
「そんな…こと」
「みてください。乳首が固くなってる。」
「いや……」
さくらは恥ずかしそうに顔を背ける。着痩せしていたのか、着物の帯で押し上げるようにされ、形のいい胸があらわになる。その主張する先を指で弾くように刺激を加える。断続的に加えられる刺激に合わせてさくらの胸が揺れる。引き結んだ唇からくぐもった声が漏れる。その様子を見つめながら、片方の胸に吸い付いた。自身の唾液を絡ませ、音を立てて吸い付く。背けていたさくらの視線がこちらへ向けられる。濡れた瞳には恥ずかしさ以外の感情も混じっているように思える。
「赤くなってきましたよ」
門倉は赤くぷくりと熟れたそれを見せつけるように、突き出した舌の上に乗せた。門倉を見る視線に何かを期待するような色が滲んでいる。さくらの目を見つめながら、ゆっくり、舌の上に乗せた先端を口に含んだ。唇ではむように刺激を加える。
「っはぁ……っ」
望んだ刺激に背中が大きくのけぞる。突き出された胸に指と舌で刺激を与え続ける。さくらは刺激に耐えきれずソファに倒れ込みそうになる。門倉は、その頭に片手を添え、組み敷く形になった。
「胸が弱いんですか?それとも……」
門倉はさくらの乱れた裾に手を入れると、その奥へと進めた。くちゅ、と淫猥な音が聞こえる。
「こっちの方ですか。」
割れ目はすでに湿っている。その愛液をさくらの秘部で主張する陰核に擦り付ける。
「ああっ…!」
突然の刺激にさくらの口から嬌声が上がった。そのまま上下に指を動かして弱い刺激を与える。それさえも良いようで、さくらの腰が逃げるように上へと登った。しかし、頭上にはソファの肘置きがあるため、それ以上進めない。門倉はのしかかるようにしてさくらの体をソファへと沈み込ませた。上気するさくらの色っぽい顔を至近距離で見つめる。
「見なくても、こっちの豆が勃起してるのが分かりますよ。ヌルヌルを擦り付けられるのが良いんですね。こうやって、指で」
「っや、…あぁ……っ…それ……やっめ…」
擦るたびにさくらの口から甘い声が漏れる。鼻先が触れる距離で、その甘い吐息を感じながら、秘部に刺激を与え続ける。後から後から溢れる愛液で、門倉の指がさくらの陰核を擦り、時折、潰すように刺激を加える。力無く開いた口から聞こえる声が、段々と高くなっていく。
「気を、遣ってしまいそうですか?」
問いかけながらも指を動かし続ける。門倉の問いに、答えることはなく、快感から抜け出そうとするように、力無い腕が門倉の胸を押し返そうとする。そんな抵抗は、男の劣情を煽るだけだ。
「イっていいですよ。我慢できないでしょう?」
さくらの両腕を頭の上で抑え、赤く熟れた胸の先端を舌で執拗に舐める。舌で弾くように刺激を加え、陰核も同時に指で弄ぶ。甘い嬌声と太腿が震えるのに、さくらの絶頂が近いと察せられる。陰核を強く潰すように捏ねるとさくらの腰が大きく揺れた。それと同時に秘部からどろり、と溢れ出てくる。絶頂を迎えたばかりのそこに指を当てがう。中に入れると、そこだけ別の生き物のように波打っている。奥へ進み、指を折るようにして動かす。その指の動きに合わせるように中が痙攣する。
「やあっ、……っだめぇ」
さくらの言葉に従って大人しく指を抜いてやる。イったばかりで息が荒い。上下に動く胸、とろんと力無い瞳がこちらを見つめている。美しい菖蒲の着物を散らして、あられもない姿でソファに体を投げ出している。既に、門倉の下衣は帆を張っている。
「だめなら、こっちにしますか。」
そういうと、下衣をくつろげた。隆起した自身が顔を出した。それに怖気付いたのか、さくらは内腿に力を入れた。しかし、門倉が腰を進めたことで足を閉じることは叶わない。愛液の滴るそこに、門倉の硬い先が当てがわれた。再びさくらの上に体重をかけるように覆い被さると、耳元で囁いた。
「弟のためでしょう?今更、遅いですよ。」
「……っ」
唇をかむ姿でさえ扇情的だ。さくらの瞳から一雫の涙が流れた。それを、勿体無いと舌で舐めとった。甘い肌を堪能したゆえか、一段としょっぱく感じる。動けないのをいいことに、門倉はそのまま腰を進めた。
「……いっ…あ…っ」
言葉とは裏腹に中は滑りよく、門倉を受け入れる。進めるたびにさくらの中が動き、こちらが気を遣ってしまいそうになる。
「っく……あんまり、締め付けんでください。」
軽口を言いながら、全てを挿入終わると、門倉は緩く腰を動かし始めた。
「っあぁ……」
ある一点を付くと、さくらの声が上がった。そこを突くように腰を打ちつける。ぐちゅぐちゅと接合部から淫猥な音がする。
「犯されても、…っ感じるもんなんですねぇ。」
押さえつけられ、快感から逃れることもできず、門倉の動きに合わせてさくらが喘ぐ。さくらは嫌々と首を振り、否定をするが、口からは甘い声が出るばかりだ。大きく腰を動かし、ぱんぱんと肌がぶつかる。その合わさった部分から、どちらのものとも知れない愛液が溢れ、ソファを汚していく。容易に男を咥え込むそれに、頭の隅で、女のこれまでの男たちを思い、ぎり、と歯を食いしばった。これだけの美貌だ。男なんぞ、いくらでも群がってくる。この人の手を握って、口付けをかわして、……抱き合って。こんな脅すような真似をせずとも、彼女を手に入れた男たちは、若く才気に溢れ、こんなくたびれた男と比べるまでもない。自然と腰を強く打ち付ける。
「ナカの具合もいい……これで、どんだけ咥え込んだんだよ。」
八つ当たりなのは重々承知だ。
「っあ、…っぁ…あっ」
眉を寄せて悩ましい表情をするさくら。目を合わせて口付けをできても、喘ぎ声を出させることはできても、名前を呼んで求められることはない。
門倉は動かしていた腰を止め、上半身を起き上がらせた。繋がったままのそこは、さくらの一番いい場所を掠めるようにしている。突然、止んだ刺激にさくらは門倉を見上げた。
「さくらさんから、口付けをしてくれませんか。」
突然の要望にさくらは困惑したような表情を見せた。さっきまで散々人の体を弄んだ人が、何を言うのか。そういうのが見てとれた。門倉自身も馬鹿なことを、と内心自嘲した。しかし、口から滑り出た言葉は戻せない。
求められたい。
理不尽な要求であり、門倉の本心だった。
どうしていいか分からない、というようなさくらは動かない。動けない、と言った方がいいか。
「口付けを、」
もう一度、そう言いながら、さくらの陰核に指を添え、緩く刺激を与えた。
「っや、…やめ……」
絶頂に達しない弱い刺激を与え続ける。さくらの中が快感に反応するように動く。しかし、決定的な刺激とならず、自ら腰を押し付けるように揺れる。そこで門倉は指を離した。
「いきたいでしょう?」
さくらの赤く勃起した陰核がひくひくと小さく動いた。門倉は鼻先が触れ合うほどの距離に顔を近づけた。さくらは唇を噛んで、動かない。そこまでは落ちたくない、とでも言うように。門倉はその反応に、眉を動かした。ならば、懇願したくなるようにすればいい。さくらの中でいい場所に自身の先を当てると、揺するように刺激を与える。動かないように両手で腰を固定し、それ以上さくらが快感を拾わないように、緩い刺激だけを与える。ひくつくそこから、ソファの染みが広がっていく。
「っあ、…っぁ…あっ…ん…め、て……」
涙を浮かべるさくらの様子を見ても、門倉は変わらず、腰を緩く動かし続ける。もっとドロドロになってしまえば良い。我慢できなくなったのか、自然とさくらの指が自身の秘部へと伸びていく。それを絡めとる。
「ほら、楽になりたいでしょう。」
再び顔を近づける。涙を浮かべた瞳がこちらを睨むようにするが、快感のせいで蕩けた表情にしか見えない。しばらく動かなかったさくらの唇が、門倉の唇に近づいた。触れるだけの口付けを受けると、門倉はそのまま食いつくようにさくらの唇に口付けを落とした。そして、絡め取ったさくらの手をそのまま陰核へと当てがうと、潰すように刺激を加え、腰の動きを早めた。
「……っんぅ」
口内でさくらの喘ぎ声が伝わる。外と中からの刺激でさくらの中が一段と収縮する。門倉の性液を搾り取るように動く中で、さらに激しく腰を打ちつける。
「中、もう出ちまいそうだっ……」
「あっあっ……もう……だめ…っ」
口付けの合間に漏れるさくらの声も甲高くなていく。門倉はさくらの腰を両手で支え、激しく打ちつけた。もう絶頂を迎えそうなのはさくらも同じのようだ。挿入に合わせて胸が揺れる。赤い唇は、激しい口付けで色があせ、形のいい唇から、はみ出すように滲んでいる。そこの口端を、どちらのものか唾液がてらてらと妖しく光っている。それだけで気を遣りそうな光景だ。さくらのいい場所を重点的に突く。
「イって、っいいですよ…っ」
「あっあ…!あぁっ!」
さくらの中が大きく収縮した。その動きで門倉の男根が白濁した液で中を満たした。どくどくと流し込むそれを引き抜くと、入り切らなかった性液がさくらの秘部から溢れ出た。艶やかな菖蒲の着物を散らして、門倉の子種を受け入れた女の姿が眼前にある。この美しい人を手に入れたという愉悦と同時に、虚しさが胸を満たした。
日差しの強い、昼下がり。門倉は例の如く、木陰で一服していた。秋には弟の移送の手筈を整える予定だ。それまで、何度、この橋を渡ってきてくれるだろうか。何本目と知れない吸殻が足元に転がっている。
監獄の前に架かる橋を一人の女が渡ってくる。白い着物に日よけの白い傘。赤いレンガ造りの網走監獄で、白い着物が映える。形のいい赤い唇が見える。
門倉は吸い始めた煙草を急いで踏み消した。
日差しの眩しさを感じ始める初夏。網走監獄の赤レンガが、太陽の光を浴びて鮮やかな色彩を見せる。照りつける光を跳ね返す様は、北海道の夏の到来を告げているようだ。その光と相対するように建物の影は一層深くなり、涼しい風が吹き抜ける。本土に比べれば、こちらの夏は幾分か過ごしやすい。看守たちが真面目に職務を全うしている傍ら、門倉は木陰で一服していた。自身の執務室のある庁舎から、気分転換に外に出てみれば、いい風が吹いているのだ。普段、分刻みで働いている身としては、これくらいの贅沢させてもらってもいいだろう、と理由をつけ、出入りの面会たちを見物しながら、深く吸い込んだ煙を肺へと送り込んだ。
北の大地の最果てにある監獄。そこへやってくる者は多くない。重大犯罪を犯した囚人たちは家族との縁が途切れた者が多い。その中でも、足を運んでくる者は限られているのだ。ゆえに、見知った顔をぼんやりと眺める、という暇つぶしでしかない。照りつく監獄の入り口で下っ端の看守が見張をしている。門倉は、ぼんやりとそれを眺める。何度か紫煙をくゆらせると、指に挟んだ煙草が短くなっていく。そろそろ戻るか、と重い腰を上げ庁舎へ戻ろうとした時だった。監獄の前に架かる橋を一人の女が渡ってくる。白い着物に日よけの白い傘。赤いレンガ造りの網走監獄で、白い着物が映える。日傘で顔が隠れているのが、想像を掻き立てられ、目が離せない。段々と近づいてくると、日傘の下から女の顔がチラリと垣間見えた。透き通るような肌に涼やかな目元。そのかんばせに惹き込まれそうになる。
「あちっ。」
短い煙草に僅かばかり残った灰が、門倉の指にかかった。それを払うように煙草を地面へと打ち捨てた。火種を足で消して、入り口の方へ再び目をやる。
一瞬、女と目が合った。
時間が止まったように思えたその瞬間、心臓が跳ねた。しかし、その涼やかな目がこちらを見たかと思えば、受付の看守へと視線が移っていった。
(……年甲斐もなく、馬鹿なことを。)
若い女だった。
門倉は自身の考えを打ち消すように大きく息を吐いた。男ばかりの職場で、物珍しいだけだろう。誰に言うでもなく、心の中で言い訳を並べる。
「門倉部長っ!お疲れ様です!」
新米看守の元気な挨拶に、ひらひらと適当に手を振る。
「お疲れさん。面会者か?」
「はい!最近、収監された、あの男の親族だそうです。」
「結婚詐欺だったか…確か、日向と言う名前の若い奴だったな。」
若い時分に金持ちの未亡人ばかり狙った詐欺に手を染め、身元が割れそうになったところで相手を殺害し、逃亡。逃亡先でも同じように金づるを見つけては潜伏していた男だ。調書によれば家族は姉が一人だけ。あの女がたった一人の肉親ということか。元気な返事と希望に満ちた瞳の新米看守だ。これが数年もすれば門倉や他の看守たちの様な清濁飲み込んだ面構えになるのか、と思えば何とも感慨深い。…とは言っても、門倉自身が希望に満ち溢れた新人看守ではなかったので、一概には言えないが。
「あの男なら、お前一人で連行しても大丈夫だろう。だが、気を引き締めて連れてくるんだぞ。」
看守部長として尤もらしいことを言えば、新米看守は元気に返事をして房舎へと向かっていった。それを見届けると、門倉も自身の執務室へと踵を返した。
数日が経ち、同じ様に日差しの強い、昼下がり。同じ場所で門倉が一服していると、くだんの女がやって来ていた。今日は別の看守が受付をしている。わざわざ受付から出て、女の所で何やら話し込んでいる。看守の方の表情を見れば、それが何かは明らかだった。上気した頬と、だらしなく緩んだ頬。……頼むから厄介ごとを起こさんでくれ、と心のうちでぼやきながら、受付の方へと歩を進めた。
「何か問題でもあったか?」
素知らぬ顔で看守の方へ声をかける。すると、たった今気がついたのか、びくりと大きく肩を揺らした。……囚人相手だったら死んでるぞ、お前。
「か、門倉部長っ……!いえ、こちらの方を面会室へご案内しようと。」
「そうか、仕事熱心で何よりだ。…日向さん、でしたっけね。仕事に一生懸命でも、ご婦人を怖がらせちゃ、いけませんね。うちの部下が申し訳ない。」
「いいえ……そんな。」
視線を下げる女のうなじに、後れ毛がするり、と滑り落ちた。露わになった白いうなじに黒髪が映える。歩いて来たためだろう、首筋に薄らとかいた汗は、しっとりときめ細やかな肌を強調させた。自然と喉が鳴る。それは隣にいた看守も同じようで、女の首筋に熱い視線を注いでいる。
「次の面会者が待っているので、今日は私が案内しましょう。お前は仕事へ戻ってくれ。」
言い募ろうとした看守を目で制する。流石に看守部長のひと睨みには効果があったらしい。大人しく引き下がるのを見届けると、女の方へ向き直った。女の方は心なしか顔の表情を緩ませたようだった。
やはり、年長者としての余裕が見えるのか、門倉自身の下心までは女の方に気取られることはなかったらしい。
「日向さん、こちらへ。」
短く言葉を継げると、女は小さく頷いた。門倉の後をついて歩くのを、肩越しに確認する。伏し目がちな憂いを帯びた表情に、不安な様子が伺えた。弟との面会で緊張しているのだろうか、それとも、先ほどの男のことが尾を引いているのか。詮索することも憚られ、ただ、面会室への歩を進めるだけだ。しばらく静かな時間が流れる。時より吹く風に乗って、女の香が門倉の鼻腔をくすぐった。わずかに甘く、控えめに香るのが、女の人となりを示しているようだ。細身の体躯に、自身の後を静かに歩いているのが、何とも庇護欲を掻き立てられる。
「あの、」
後ろで静かに付き従っていた女が口を開いた。
「あ、はい。」
邪な想像を働かせていた門倉は、突然のことに素っ頓狂な声を上げた。……さっきまで、格好よくできる男を見せていたのがぶち壊しだ。己の爪の甘さを不甲斐なく思いながらも、女はそれを気にした様子でもなく、言葉を続けた。
「先ほどは、ありがとうございました。……あまりに熱心な方で少し驚いてしまって。」
言葉を濁しているが、要は職権を使った体のいい口説きだったのだろうと、察しがつく。
「あれは本来、受付を担当するだけで、それ以上でも以下でもありません。驚かれるのも無理はないですよ。後から私の方で、よく言って聞かせますから、次の面会では安心していらっしゃって下さい。」
女の方は、門倉の言葉に安堵したように胸に手を置いて小さく息を吐いた。その様子に気をよくして更に言葉を続けた。
「日向さんがよろしければ、次も私がご案内でもしましょうか。」
軽口を叩いて女の方を見ると、驚いたように一瞬目を見開いた。そんな表情もできるのか、と思う反面、調子に乗りすぎてしまったか、と後悔したが時すでに遅し。覆水盆に返らずだ。
薄目で女の様子を窺う。怪訝な表情をしているだろうか。こんな親父が何を、と顔を歪めてはいないだろうか。
「……門倉看守部長様が付いてくださるなら安心です。」
思いもよらぬ言葉に、今度は門倉の方が惚ける番だった。その様子に、女の方が慌てたように言葉を並べた。
「…お忙しい方に何てことを。今日、こうしてよくして下さっただけで十分ですので、お気になさらないで。」
焦った姿でさえ可愛らしく思えてくる。自然と門倉の口元が上がる。
「大丈夫ですよ、次も私がご案内しましょう。……さあ、着きましたよ。こちらでお待ちください。」
到着した面会室の扉を開けてやる。女は礼を述べて、門倉の開けた部屋の中へと入っていく。距離の近さに比例して、先ほど香った香の甘さが強く感じられた。扉を閉じた後も、女の甘やかな香りが門倉の鼻腔に残り続けた。
定期的に女が来るたびに、看守部長が案内するという厚遇に、初めは周りの看守たちは訝しんだ。しかし、楚々とした女の姿と先に起こったことに尾鰭がついて広まっているのか、最近では当たり前の光景のようになっている。白い着物に白い傘、昼下がりの煙草休憩をしながら見知った姿を捉えれば、吸い始めたばかりの煙草の火を足で踏み消した。白い着物の裾に藍色の花が咲き乱れている。いつも女の着物は白地に控えめな花が描かれているものや、麻の柔らかさを感じられるようなものだった。それが、今日は鮮やかな杜若か菖蒲か、初夏の花が描かれた着物に身を包んでいる。元女房の身だしなみなんぞに興味もなかったのが、この女の僅かな変化にはいち早く気がついてしまう。
「今日もお世話になります。」
初対面の頃に比べると、自然な笑顔が多くなった女に、門倉も軽く手を上げて挨拶を交わす。
「華やかなお召し物ですね。夏らしくていい。」
自然と出てくる世辞とも取れる本音を軽口に乗せる。いつもならば、にこりと微笑み返すはずの女の表情が強張る。
何か、ある。
長年の勘から違和感を感じる。女の手に乗せられた小さな風呂敷包みに目をやった。ここへ面会へ来るたびに、弟への差し入れを持って来ている。その『いつもの風呂敷包み』への視線に気がついた女の指先が僅かに包みを握り直した。
「さあ、参りましょうか。」
素知らぬふりをして、女を案内する。しかし、今回はいつもの面会室ではない。門倉の執務室だ。途中で進路が変わったことに気がついたのか、後ろでついて来ている女が小さく息を呑む音が聞こえた。
「お入り下さい。」
いつもの面会室の扉を開けるように執務室の扉を開ける。
「あ、……っ、」
女は小さく声をあげ、後ずさった。しかし、門倉の視線にいつもの柔らかさはなく、鋭いものを感じると、意を決したように一歩進み出た。女の甘い香が門倉の鼻腔をかすめた。
門倉は音を立てないよう、ゆっくりと部屋の内鍵を閉めた。俯く女の後ろ姿に、優しい声音で話しかけた。
「そう固くならんでいいですよ。こういうことは、よくありますんでね。」
体を小さくして俯いている。まさか、包みを広げる前に見咎められるとは想定していなかったのだろう。門倉は、執務室の真ん中にある応接用の重厚感のあるソファに腰をかけ、女には向かいのソファを指し示し、腰を下ろしてもらった。
「持ち込み禁止物は没収させてもらってますんでね。今回は口頭注意で終わらせますけど、次は面会が難しくなりますよ。」
「……申し訳ありません。」
「包みの中を拝見させてもらいます。」
手を差し出すと、女はおずおずと風呂敷包みを門倉の手の上に乗せた。手に乗せた重みから、食べ物か、と見当をつけながら、中身を開く。曲げわっぱの弁当箱が顔をみせる。それの蓋を開けると、手作りの大福が並べられている。
「うまそうな大福だ。日向さんが作られたんで?」
「……ええ、弟が好きなものですから。」
「それで、この中に仕込んだわけですね。」
綺麗に並べられた大福を一つ一つ割っていく。中には丁寧に作られた粒あんが詰まっていて、うまそうだ。いくつか中身を見ていくうち、最後のひとつに手をかけたところで女が声を上げた。
「あ、それは…」
「止めても無駄です。今更ですよ。」
「違うんです、あの」
女が言いかけたところで、門倉は大福を割ろうと親指をかけた。少し力を入れると、親指に鋭い痛みが襲った。中身を改めれば、餡子に紛れて剃刀が顔を出している。親指から、ぷくりと赤い粒のように血が溢れてくる。女は門倉の指を見ると、慌てて懐から白いハンカチを取り出した。そして、門倉の隣に座り直して、その指を抑えるようにハンカチ越しに強く握り込んだ。
「す、すみません。きちんとお伝えすれば、こんなことには……。」
突然の出来事に、今度は門倉の方が息を呑んだ。甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。眼前には濡れた瞳を揺らし、心配そうに傷を負った指と門倉を交互に確認する女の顔。
「まさか刃物とは、穏やかじゃありませんねえ。」
「も、申し訳」
女の言葉に被せるように門倉が畳み掛けた。
「これで脱獄でもさせようって腹ですか?あんた見かけによらず、大胆だな。」
濡れた瞳が門倉の目を捕らえた。
「弟は体が弱いんです。……きっと、ここの冬は越せないでしょう。」
涙に濡れた中に、意志の強さを感じさせる鋭さが見え隠れする。たった一人の家族だ。女にとっては、自身の身を投げ打ってでも何とかしやりたかったのだろう。菖蒲柄の着物に仕込みの饅頭。それが弟への合図だったということか。
「罪を犯したとしても、大切な家族なんです。たった一人の…」
女の瞳が大きく揺れた。濡れた瞳から宝石のような涙のしずくがこぼれ落ちた。
どうしてこうも庇護欲を掻き立てられるのか。頼りなげに肩を小さく揺らして、はらはらと涙を流す。それが男をどんな気持ちにさせるのか、この人は分かっているのか。門倉の指を握る手に、自身のもう片方の手を重ねた。女が門倉を見つめる。
「私なら、何とかできなくもない…でしょう。」
看守部長の権限でどこまで出来るか。医者にひとつ握らせて、大病だと診断させれば医療刑務所か、本土の刑務所へ移動させることくらいは出来るだろう。仮に本土で誤診と分かったとして、諸々の手続きの煩雑さを考えれば一冬を本土で越させることはできるかもしれない。
しかし、それをしたところで門倉自身になんの旨みがある?下手に目立ってしまうのは得策ではない。だが……。柔らかそうな頬を伝う涙を指で拭ってやる。想像した通りの滑らかな肌が、ささくれだった指に吸い付くようだ。そのまま指を滑らせ、女の唇まで辿り着くと、紅を引いた唇をなぞった。血とは違う鮮やかな赤が門倉の指を色付ける。女の形のいい唇を彩った赤が、乱れたように口端で滲む。まるで、激しく口付けをしたかのように……。少し開いた唇から女の舌がチラリと見える。門倉は吸い込まれるように、その唇に自身の唇を重ねた。
「…っん……、」
小さな口に己の舌をねじ込む。女の舌に絡ませるように動くと、さくらの肩がぴくりと揺れた。抵抗するわけでもなく、女は門倉を受け入れるかのようだ。これが弟の待遇への見返りになるのだと思えば、と言うことかもしれないが。門倉はこの機を逃すつもりはなかった。この美しい人を手に入れることができるならば。ひとときのまぐわいでもいい。女の細い腰に手を回し、口付けを深くしていく。たどたどしい舌が門倉の動きに応えようと動く。それに自身の舌を絡ませると女の口からくぐもった声が漏れた。口付けを交わしながら、すでに出血の止まった方の手で女の背中をゆっくりと撫で上げた。その動きに合わせるように背中が弓なりになる。
「あっ……ん」
小さく声を上げ、快感を逃すようにのけぞったために、伸ばした首筋が門倉の眼前にやってくる。思わず白い首筋に吸い付いた。耳元からさくらの愛用する香の香りが強く感じられる。甘い香りを確かめるように舌で舐め上げた。その度にさくらの首筋がぴくりと跳ねる。これだけで感じるのならば、この先を思うと……、門倉の体の奥が熱くなる。さくらの着物の合わせをくつろげる。
浮き上がるような鎖骨に沿って舌を這わせる。
「んんっ…」
さくらは下唇を緩く噛み、快感に耐えている。その表情を下から見上げる。さくらの着物を大きく肌けさせた。外気に晒されてなのか、すでにその先端は固くなっている。
「感じやすいんですね。」
「そんな…こと」
「みてください。乳首が固くなってる。」
「いや……」
さくらは恥ずかしそうに顔を背ける。着痩せしていたのか、着物の帯で押し上げるようにされ、形のいい胸があらわになる。その主張する先を指で弾くように刺激を加える。断続的に加えられる刺激に合わせてさくらの胸が揺れる。引き結んだ唇からくぐもった声が漏れる。その様子を見つめながら、片方の胸に吸い付いた。自身の唾液を絡ませ、音を立てて吸い付く。背けていたさくらの視線がこちらへ向けられる。濡れた瞳には恥ずかしさ以外の感情も混じっているように思える。
「赤くなってきましたよ」
門倉は赤くぷくりと熟れたそれを見せつけるように、突き出した舌の上に乗せた。門倉を見る視線に何かを期待するような色が滲んでいる。さくらの目を見つめながら、ゆっくり、舌の上に乗せた先端を口に含んだ。唇ではむように刺激を加える。
「っはぁ……っ」
望んだ刺激に背中が大きくのけぞる。突き出された胸に指と舌で刺激を与え続ける。さくらは刺激に耐えきれずソファに倒れ込みそうになる。門倉は、その頭に片手を添え、組み敷く形になった。
「胸が弱いんですか?それとも……」
門倉はさくらの乱れた裾に手を入れると、その奥へと進めた。くちゅ、と淫猥な音が聞こえる。
「こっちの方ですか。」
割れ目はすでに湿っている。その愛液をさくらの秘部で主張する陰核に擦り付ける。
「ああっ…!」
突然の刺激にさくらの口から嬌声が上がった。そのまま上下に指を動かして弱い刺激を与える。それさえも良いようで、さくらの腰が逃げるように上へと登った。しかし、頭上にはソファの肘置きがあるため、それ以上進めない。門倉はのしかかるようにしてさくらの体をソファへと沈み込ませた。上気するさくらの色っぽい顔を至近距離で見つめる。
「見なくても、こっちの豆が勃起してるのが分かりますよ。ヌルヌルを擦り付けられるのが良いんですね。こうやって、指で」
「っや、…あぁ……っ…それ……やっめ…」
擦るたびにさくらの口から甘い声が漏れる。鼻先が触れる距離で、その甘い吐息を感じながら、秘部に刺激を与え続ける。後から後から溢れる愛液で、門倉の指がさくらの陰核を擦り、時折、潰すように刺激を加える。力無く開いた口から聞こえる声が、段々と高くなっていく。
「気を、遣ってしまいそうですか?」
問いかけながらも指を動かし続ける。門倉の問いに、答えることはなく、快感から抜け出そうとするように、力無い腕が門倉の胸を押し返そうとする。そんな抵抗は、男の劣情を煽るだけだ。
「イっていいですよ。我慢できないでしょう?」
さくらの両腕を頭の上で抑え、赤く熟れた胸の先端を舌で執拗に舐める。舌で弾くように刺激を加え、陰核も同時に指で弄ぶ。甘い嬌声と太腿が震えるのに、さくらの絶頂が近いと察せられる。陰核を強く潰すように捏ねるとさくらの腰が大きく揺れた。それと同時に秘部からどろり、と溢れ出てくる。絶頂を迎えたばかりのそこに指を当てがう。中に入れると、そこだけ別の生き物のように波打っている。奥へ進み、指を折るようにして動かす。その指の動きに合わせるように中が痙攣する。
「やあっ、……っだめぇ」
さくらの言葉に従って大人しく指を抜いてやる。イったばかりで息が荒い。上下に動く胸、とろんと力無い瞳がこちらを見つめている。美しい菖蒲の着物を散らして、あられもない姿でソファに体を投げ出している。既に、門倉の下衣は帆を張っている。
「だめなら、こっちにしますか。」
そういうと、下衣をくつろげた。隆起した自身が顔を出した。それに怖気付いたのか、さくらは内腿に力を入れた。しかし、門倉が腰を進めたことで足を閉じることは叶わない。愛液の滴るそこに、門倉の硬い先が当てがわれた。再びさくらの上に体重をかけるように覆い被さると、耳元で囁いた。
「弟のためでしょう?今更、遅いですよ。」
「……っ」
唇をかむ姿でさえ扇情的だ。さくらの瞳から一雫の涙が流れた。それを、勿体無いと舌で舐めとった。甘い肌を堪能したゆえか、一段としょっぱく感じる。動けないのをいいことに、門倉はそのまま腰を進めた。
「……いっ…あ…っ」
言葉とは裏腹に中は滑りよく、門倉を受け入れる。進めるたびにさくらの中が動き、こちらが気を遣ってしまいそうになる。
「っく……あんまり、締め付けんでください。」
軽口を言いながら、全てを挿入終わると、門倉は緩く腰を動かし始めた。
「っあぁ……」
ある一点を付くと、さくらの声が上がった。そこを突くように腰を打ちつける。ぐちゅぐちゅと接合部から淫猥な音がする。
「犯されても、…っ感じるもんなんですねぇ。」
押さえつけられ、快感から逃れることもできず、門倉の動きに合わせてさくらが喘ぐ。さくらは嫌々と首を振り、否定をするが、口からは甘い声が出るばかりだ。大きく腰を動かし、ぱんぱんと肌がぶつかる。その合わさった部分から、どちらのものとも知れない愛液が溢れ、ソファを汚していく。容易に男を咥え込むそれに、頭の隅で、女のこれまでの男たちを思い、ぎり、と歯を食いしばった。これだけの美貌だ。男なんぞ、いくらでも群がってくる。この人の手を握って、口付けをかわして、……抱き合って。こんな脅すような真似をせずとも、彼女を手に入れた男たちは、若く才気に溢れ、こんなくたびれた男と比べるまでもない。自然と腰を強く打ち付ける。
「ナカの具合もいい……これで、どんだけ咥え込んだんだよ。」
八つ当たりなのは重々承知だ。
「っあ、…っぁ…あっ」
眉を寄せて悩ましい表情をするさくら。目を合わせて口付けをできても、喘ぎ声を出させることはできても、名前を呼んで求められることはない。
門倉は動かしていた腰を止め、上半身を起き上がらせた。繋がったままのそこは、さくらの一番いい場所を掠めるようにしている。突然、止んだ刺激にさくらは門倉を見上げた。
「さくらさんから、口付けをしてくれませんか。」
突然の要望にさくらは困惑したような表情を見せた。さっきまで散々人の体を弄んだ人が、何を言うのか。そういうのが見てとれた。門倉自身も馬鹿なことを、と内心自嘲した。しかし、口から滑り出た言葉は戻せない。
求められたい。
理不尽な要求であり、門倉の本心だった。
どうしていいか分からない、というようなさくらは動かない。動けない、と言った方がいいか。
「口付けを、」
もう一度、そう言いながら、さくらの陰核に指を添え、緩く刺激を与えた。
「っや、…やめ……」
絶頂に達しない弱い刺激を与え続ける。さくらの中が快感に反応するように動く。しかし、決定的な刺激とならず、自ら腰を押し付けるように揺れる。そこで門倉は指を離した。
「いきたいでしょう?」
さくらの赤く勃起した陰核がひくひくと小さく動いた。門倉は鼻先が触れ合うほどの距離に顔を近づけた。さくらは唇を噛んで、動かない。そこまでは落ちたくない、とでも言うように。門倉はその反応に、眉を動かした。ならば、懇願したくなるようにすればいい。さくらの中でいい場所に自身の先を当てると、揺するように刺激を与える。動かないように両手で腰を固定し、それ以上さくらが快感を拾わないように、緩い刺激だけを与える。ひくつくそこから、ソファの染みが広がっていく。
「っあ、…っぁ…あっ…ん…め、て……」
涙を浮かべるさくらの様子を見ても、門倉は変わらず、腰を緩く動かし続ける。もっとドロドロになってしまえば良い。我慢できなくなったのか、自然とさくらの指が自身の秘部へと伸びていく。それを絡めとる。
「ほら、楽になりたいでしょう。」
再び顔を近づける。涙を浮かべた瞳がこちらを睨むようにするが、快感のせいで蕩けた表情にしか見えない。しばらく動かなかったさくらの唇が、門倉の唇に近づいた。触れるだけの口付けを受けると、門倉はそのまま食いつくようにさくらの唇に口付けを落とした。そして、絡め取ったさくらの手をそのまま陰核へと当てがうと、潰すように刺激を加え、腰の動きを早めた。
「……っんぅ」
口内でさくらの喘ぎ声が伝わる。外と中からの刺激でさくらの中が一段と収縮する。門倉の性液を搾り取るように動く中で、さらに激しく腰を打ちつける。
「中、もう出ちまいそうだっ……」
「あっあっ……もう……だめ…っ」
口付けの合間に漏れるさくらの声も甲高くなていく。門倉はさくらの腰を両手で支え、激しく打ちつけた。もう絶頂を迎えそうなのはさくらも同じのようだ。挿入に合わせて胸が揺れる。赤い唇は、激しい口付けで色があせ、形のいい唇から、はみ出すように滲んでいる。そこの口端を、どちらのものか唾液がてらてらと妖しく光っている。それだけで気を遣りそうな光景だ。さくらのいい場所を重点的に突く。
「イって、っいいですよ…っ」
「あっあ…!あぁっ!」
さくらの中が大きく収縮した。その動きで門倉の男根が白濁した液で中を満たした。どくどくと流し込むそれを引き抜くと、入り切らなかった性液がさくらの秘部から溢れ出た。艶やかな菖蒲の着物を散らして、門倉の子種を受け入れた女の姿が眼前にある。この美しい人を手に入れたという愉悦と同時に、虚しさが胸を満たした。
日差しの強い、昼下がり。門倉は例の如く、木陰で一服していた。秋には弟の移送の手筈を整える予定だ。それまで、何度、この橋を渡ってきてくれるだろうか。何本目と知れない吸殻が足元に転がっている。
監獄の前に架かる橋を一人の女が渡ってくる。白い着物に日よけの白い傘。赤いレンガ造りの網走監獄で、白い着物が映える。形のいい赤い唇が見える。
門倉は吸い始めた煙草を急いで踏み消した。