白銀の世界で
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一歩先を歩く鶴見さんについて町を歩く。鶴見さんの顔を物珍しそうにみる人もいるが、大抵はその軍服をみて、さっと目線を逸らしていた。きっとそのような視線に気づいているのだろうが、鶴見さんは興味がないというように悠々と歩を進めている。不意に、鶴見さんがこちらを振り向いた。
「仕事中につきあわせてしまってすまないね。」
形ばかりの謝罪で、鶴見さんはさくらに少し楽しげな色を乗せて言葉をつげる。
「いえ・・・。」
「さくらくんと言ったね。君は北海道に来て長いのかい?」
「まだ来たばかりで・・・知らないことばかりです。ですが、お店の方たちが良くしてくださるので。」
「そうかそうか。あの店主も女将も気のいい人柄だ。いいところに働き口を見つけたものだよ。」
「ええ、本当にありがたいです。・・・ところで鶴見さん、これからどちらまで?」
他愛ない話をしながら歩くのもいいが、そろそろ行き先が不安になってくる。店の懇意の客であるし、変なことにはならないとは思うが、やはり、これまでの経験から身構えてしまう。
「行き先を言ってなかったね。・・・ならば、着いてからのお楽しみとしよう。きっと君も気に入る。」
そう言って微笑む様は素敵なおじ様で、不覚にも胸が高鳴る。明治の男性というのはこうも余裕のあるのか。職場でみる男性と比べてみると、その差は歴然である。毎日余裕のない生活で、相手へ向ける情だとか、心の余裕というものがない現代社会で、立ち居振る舞いの優雅さだとか、そういったものに重きを置かれないのは当然の流れである。軍服に茶目っ気のある笑みというのが現代人に比べて破壊力があるのは否めないが。
鶴見さんの言葉に従ってついて行くと、飲食店の建ち並ぶ通りへと出た。目的のものは食べ物なのだろうか。醤油のだしの香り、甘い甘味の匂い、香ばしいかおり・・・。北海道の中心地のひとつということもあり、このあたりも活気に満ちていた。香りだけで食欲をそそられる。ついつい周りの店に目が向いてしまう。鶴見さんはその様子に、さくらに気づかれないよう小さく笑った。
「ここだ。」
鶴見さんが立ち止まったのは団子屋さんで、店内で飲食できるスペースのある茶屋のようなつくりだった。店先で醤油をつけた団子が汁をしたたらせながら焼かれている。見ただけでのどが鳴るような光景だ。鶴見さんに導かれ、店内の席に腰掛ける。注文を取りに来た店員に注文の品を頼むと、しばらくして、湯気を上げた団子とお茶が入った湯飲みが運ばれてきた。
「わあ・・・!」
鼈甲色の団子のたれがつやつやとしている。みたらし団子といえば見慣れたものであるはずなのに、その甘塩っぱい香りと柔らかそうな質感に感嘆の声が漏れた。
「さあ、食べようか。」
鶴見さんの方もうれしそうに頬を緩めている。お互い、団子を口に含むと、その食感に目が輝いた。
「おいしい・・・!」
団子のうまさにさくら声を上げると、鶴見は、してやったような顔をした。
「団子のもちもちした食感とタレが合いますね!」
「そうだろう。・・・といってもできたては私も初めて食べた。これはいつもの何倍も美味い。」
鶴見の言葉に首をかしげるさくらに、さらに言葉を続けた。
「いつもは部下に買ってこさせるのだよ。男一人で甘味処に入るのは気が引けてね。」
鶴見の回答にさくらは納得した。現代ではそれほど気にならなくなってはきているものの、スイーツ店に男性だけで入るのは勇気がいるという。この時代ならばなおのことだろう。
「だから、君のおかげでうまい団子が食べられた。」
「私も、おいしいお店を教えていただいてありがとうございます。」
残りの団子に舌鼓を打ち、時間はあっという間に過ぎた。あの後、鶴見はさくら自身についての話は振れず、店の仕事のことだとか、近くのおいしい店について話したりと他愛のない内容だった。それにさくらも安堵し、いくらか鶴見さんと話せるようになった。
帰り際、持ち帰り用に団子を包んでもらっているところで、鶴見を呼ぶ軍人が走ってきた。
「鶴見中尉!こちらにおられましたか!!」
なにやら、ただ事ではない雰囲気に、先ほどまで頬を緩ませていた鶴見の表情が引き締まっった表情になった。
「何事だね。」
「実は・・・」
そう言って、その人は鶴見の耳元で事態を告げた。それを訊くや否や、鶴見さんは小さく口元をあげた。
「さくらくん、すまないが、その団子はあとで兵舎に届けてくれ。」
「はい・・・」
事態が飲み込めないながらも、団子を持って走るには不釣り合いな事態なのだということは察せられる。走って行く鶴見と部下を見つめ、さくらは一度店へと兵舎に向かう旨を伝えに来た道を戻っていった。
「仕事中につきあわせてしまってすまないね。」
形ばかりの謝罪で、鶴見さんはさくらに少し楽しげな色を乗せて言葉をつげる。
「いえ・・・。」
「さくらくんと言ったね。君は北海道に来て長いのかい?」
「まだ来たばかりで・・・知らないことばかりです。ですが、お店の方たちが良くしてくださるので。」
「そうかそうか。あの店主も女将も気のいい人柄だ。いいところに働き口を見つけたものだよ。」
「ええ、本当にありがたいです。・・・ところで鶴見さん、これからどちらまで?」
他愛ない話をしながら歩くのもいいが、そろそろ行き先が不安になってくる。店の懇意の客であるし、変なことにはならないとは思うが、やはり、これまでの経験から身構えてしまう。
「行き先を言ってなかったね。・・・ならば、着いてからのお楽しみとしよう。きっと君も気に入る。」
そう言って微笑む様は素敵なおじ様で、不覚にも胸が高鳴る。明治の男性というのはこうも余裕のあるのか。職場でみる男性と比べてみると、その差は歴然である。毎日余裕のない生活で、相手へ向ける情だとか、心の余裕というものがない現代社会で、立ち居振る舞いの優雅さだとか、そういったものに重きを置かれないのは当然の流れである。軍服に茶目っ気のある笑みというのが現代人に比べて破壊力があるのは否めないが。
鶴見さんの言葉に従ってついて行くと、飲食店の建ち並ぶ通りへと出た。目的のものは食べ物なのだろうか。醤油のだしの香り、甘い甘味の匂い、香ばしいかおり・・・。北海道の中心地のひとつということもあり、このあたりも活気に満ちていた。香りだけで食欲をそそられる。ついつい周りの店に目が向いてしまう。鶴見さんはその様子に、さくらに気づかれないよう小さく笑った。
「ここだ。」
鶴見さんが立ち止まったのは団子屋さんで、店内で飲食できるスペースのある茶屋のようなつくりだった。店先で醤油をつけた団子が汁をしたたらせながら焼かれている。見ただけでのどが鳴るような光景だ。鶴見さんに導かれ、店内の席に腰掛ける。注文を取りに来た店員に注文の品を頼むと、しばらくして、湯気を上げた団子とお茶が入った湯飲みが運ばれてきた。
「わあ・・・!」
鼈甲色の団子のたれがつやつやとしている。みたらし団子といえば見慣れたものであるはずなのに、その甘塩っぱい香りと柔らかそうな質感に感嘆の声が漏れた。
「さあ、食べようか。」
鶴見さんの方もうれしそうに頬を緩めている。お互い、団子を口に含むと、その食感に目が輝いた。
「おいしい・・・!」
団子のうまさにさくら声を上げると、鶴見は、してやったような顔をした。
「団子のもちもちした食感とタレが合いますね!」
「そうだろう。・・・といってもできたては私も初めて食べた。これはいつもの何倍も美味い。」
鶴見の言葉に首をかしげるさくらに、さらに言葉を続けた。
「いつもは部下に買ってこさせるのだよ。男一人で甘味処に入るのは気が引けてね。」
鶴見の回答にさくらは納得した。現代ではそれほど気にならなくなってはきているものの、スイーツ店に男性だけで入るのは勇気がいるという。この時代ならばなおのことだろう。
「だから、君のおかげでうまい団子が食べられた。」
「私も、おいしいお店を教えていただいてありがとうございます。」
残りの団子に舌鼓を打ち、時間はあっという間に過ぎた。あの後、鶴見はさくら自身についての話は振れず、店の仕事のことだとか、近くのおいしい店について話したりと他愛のない内容だった。それにさくらも安堵し、いくらか鶴見さんと話せるようになった。
帰り際、持ち帰り用に団子を包んでもらっているところで、鶴見を呼ぶ軍人が走ってきた。
「鶴見中尉!こちらにおられましたか!!」
なにやら、ただ事ではない雰囲気に、先ほどまで頬を緩ませていた鶴見の表情が引き締まっった表情になった。
「何事だね。」
「実は・・・」
そう言って、その人は鶴見の耳元で事態を告げた。それを訊くや否や、鶴見さんは小さく口元をあげた。
「さくらくん、すまないが、その団子はあとで兵舎に届けてくれ。」
「はい・・・」
事態が飲み込めないながらも、団子を持って走るには不釣り合いな事態なのだということは察せられる。走って行く鶴見と部下を見つめ、さくらは一度店へと兵舎に向かう旨を伝えに来た道を戻っていった。