白銀の世界で
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食卓には所狭しと料理が並べられ、それを囲むようにさくらと杉元、白石、谷垣そして月島が座っていた。この時代で記憶を持つ者たちだ。結婚式の後、以前からこの四人は記憶が戻った者同士で情報共有をしていたと教えてもらった。職場で杉元、白石、谷垣は同期と言うこともあり、仲の良い姿がよく見られていた。しかし、上司である月島まで連絡を取り合っていたとは気がつかなかった。
新居、結婚祝いだと、三人はケーキやプレゼントを持ち寄ってくれた。それを開けながら、箸を進める。
「さくらちゃあーん!お料理上手ぅー!」
白石がいつもの決めポーズで喜びを表現してくれる。今世でもお調子者を発揮している白石は我が社の営業部所属だ。人当たりの良さと、絶妙な話しぶりで契約を取り付けてくる。案外できる後輩だ。
「先輩、こんなに準備してもらってすみません。」
となりで恐縮している谷垣は私と同じ部署の後輩だ。いかつい見た目に反しておっちょこちょい。ミスをして涙目になるところを「泣かないでゲンジロちゃん。」と同期の女子社員達が慰めているところに遭遇したこともある。デザートのケーキは年上彼女が一緒に選んでくれたらしい。見たことはないが、写真をみた者いわくミステリアスな美人らしい。
「俺まで押しかけてすまないな。」
取り皿を並べてくれているのが月島係長、わが部署の鬼軍曹ならぬ仕事の鬼である。自分にも他人にも厳しいが、フォローもその分手厚い頼れる上司である。
「佐一くんと一緒に作ったので、楽しく準備できましたよ。それより皆さん、お土産ありがとうございます。」
ケーキにお洒落なおつまみをみつくろって来てくれて、食卓が一気に華やいだ。
「杉元も作ったのかよ~、ワイルドな味になってそうだな~」
「味付けはさくらさんがしてくれたから、うまいのは保証する。」
隣の杉元が恥ずかしげも無く言うので、こちらがやきもきしてしまう。しかし、みな口に入れては美味しそうに頬張っていくので安心する。杉元と顔を合わせて、よかったね、と笑い合う。朝から二人でキッチンに立って準備するのは楽しく、こうして喜んでもらえるとなお嬉しい。
箸が進み、酒が進むと話に上がるのは、やはり前世の記憶についてだ。皆一様に入社してから記憶が戻ったらしく、さくらは結婚式で記憶が戻ったのだと打ち明けるとみな驚いた表情になった。
「式の方は無事にできたのか…?」
心配そうな表情の月島に杉元と二人で苦笑いを浮かべる。
「実は、泣きすぎて急遽お色直しが入りまして……」
「さくらさんも俺も号泣して教会入りしたから親族が騒然になっちゃってさ。…さくらさんのご両親は落ち着いてたけどね。」
「まあ、あれだからね……」
二人の会話に疑問の声を上げたのは谷垣だった。
「どういうことだ?」
他の二人も分からない、と言うように首をかしげる。それもそのはずだ、まさか想像もしないだろう……。
「私の父が牛山さん、母が家永さんでして。両親は前世の記憶を持ちながら結婚したと後から聞きました。」
そう答えると三人は、文字通り口をあんぐりとあけてしばらく固まった。そこから一番早く回復したのは月島で、「あの二人から…そうか…」と神妙な面持ちである。何を納得されたのか分からないが、そういう反応になるのも無理はないだろう。さくら自身も教会に入ってよくよく両親をみて気がついたのだ。驚いて悲鳴を上げなかっただけ、冷静だったと思う。白石のほうは、何かを思い出したように「だから…競馬場で吹っ飛ばされたのね、そりゃ牛山の娘なら納得だ。」と頷いている。
まだ心の整理が出来ていない谷垣にはワインを注いでやって、「まあまあ飲みなって」と杉元が声をかける。
「俺も最初は驚いたけど、今は家永に感謝してるよさくらさんを産んでくれてありがとうって。じゃなきゃ、俺はさくらさんに出会えなかったし、こうしてそばにいることもできなかったと思う。」
「私はあの時代に飛ばされて、本気で愛する人を見つけられました。それも父と母が出会ってくれたからだと思いますし、佐一君が今世で私を見つけてくれたから今があると思っています。」
「全部が繋がって今があるんだな……」
ようやく復旧した谷垣がつぶやいた。
新居の飾り棚にある写真立てに白石がいち早く気がついた。モノクロの杉元とアシリパの立ち姿とさくらの写真だ。
「こりゃ、すごいな。あの頃の写真じゃねえか。」
白石の声で谷垣と月島もそちらを向いた。
「あれは……」
「おう、お前が渡してくれた写真だよ。こっちで記憶が戻ってから自分の墓をあばいてとってきたんだ。」
さらっと問題発言をしているが、杉元は逝く前にアシリパに写真を遺骨と共に埋葬して欲しいと頼んでいたそうだ。骨壺に入っていたのか、損傷もほとんどなく、綺麗な状態である。谷垣が杉元の言葉で目を潤ませた。
「すまない、俺が担いでこれば……」
「谷垣さん、あなたは私の言ったことを守ってくれたんですね。ありがとうございます。」
暗に責めないで欲しいと、言葉を継げればさらに谷垣の目が潤んだ。谷垣は本当に何も悪くないのだ。自身の死体をおいていけ、と言ったのはさくら自身なのだから。
「あなたのおかげで佐一君に写真が渡り、こうして記憶を取り戻すことができたんですよ。」
優しく声をかけると、くぐもったこえで「うん…」と頷いた。
この空気を破るように白石が大きくため息をついた。
「いいなあ、俺も昔の后にでも会いたいぜ~」
「后?なんでそんな者が…?」
首をかしげる月島に白石は、五稜郭にアイヌの金塊があったこと、それを元手に自身の国をつくって自分の顔を模した通過を流通させていたことを説明した。
「まさか…!あそこは陸軍訓練所もあったんだぞ…そんな大量の金塊をどうやって」
陸軍のお膝元で着々と金塊が持ち出されていたとは。なぜ気がつかなかったのか、月島が驚きの表情をしている。
「そこは脱獄王の腕の見せ所~!」
得意げに白石はいつものポーズを決めた。
そうして時間が過ぎ、会がお開きになって杉元と二人で片付けをする。杉元が洗った皿をタオルで拭いていく。
「……さくらさん、今日はお酒飲んでなかったけど体調悪かった?無理してない?」
杉元は心配そうにこちらをのぞき込む。大型犬のようなつぶらな瞳がこちらを見つめている。思わず頭をなでると、嬉しそうに「なあに~?」と自分から頭を押しつけてくる。この可愛らしい反応にさらによしよしと続ける。
「かわいいなあ、佐一君」
「ええ~?さくらさんの方が可愛い~」
いつの間に手を拭いたのか、杉元の手が腰に回った。
「可愛い可愛い俺の奥さん」
ちゅ、と軽く唇が重なった。愛おしそうにさくらを見つめる。
「幸せね、佐一君」
「うん」
「もういっこ幸せなニュース聞きたい?」
「聞きたい聞きたい」
「佐一君、…パパになるの」
面食らったように固まったのが、言葉の意味に気がついてさくらのお腹にゆっくりと視線を向けた。それに小さく頷くと、杉元の目に涙があふれた。
「俺、パパになれるんだ…!ここに俺達の…」
分厚くて大きな手のひらがさくらのお腹を優しく撫でた。
「ありがとう、さくらさんありがとう。」
微笑みながら杉元の頬に伝う涙をぬぐってやる。
「本当に泣いてばっかりね、」
「だって嬉しくて、…あ、さくらさん座ってて!俺が残りやっちゃうから!家事も負担ないように俺に任せてゆっくりして!」
杉元がさくらをソファに誘導する。そして、「からだあったかくしないと!」と甲斐甲斐しく毛布を用意したり、温かいお茶を入れたりお世話を始めると、さくらは小さく笑った。
「頼もしいパパですね~」
まだ膨らんでいないお腹を撫でて声をかける。
あなたのパパは世界一優しくて可愛くてかっこいい自慢の人。
だから、早く生まれておいで。
モノクロの写真が飾られた飾り棚に、来年にはこの子の写真が増えるのだろう。それを想像しながらさくらは微笑んだ。
新居、結婚祝いだと、三人はケーキやプレゼントを持ち寄ってくれた。それを開けながら、箸を進める。
「さくらちゃあーん!お料理上手ぅー!」
白石がいつもの決めポーズで喜びを表現してくれる。今世でもお調子者を発揮している白石は我が社の営業部所属だ。人当たりの良さと、絶妙な話しぶりで契約を取り付けてくる。案外できる後輩だ。
「先輩、こんなに準備してもらってすみません。」
となりで恐縮している谷垣は私と同じ部署の後輩だ。いかつい見た目に反しておっちょこちょい。ミスをして涙目になるところを「泣かないでゲンジロちゃん。」と同期の女子社員達が慰めているところに遭遇したこともある。デザートのケーキは年上彼女が一緒に選んでくれたらしい。見たことはないが、写真をみた者いわくミステリアスな美人らしい。
「俺まで押しかけてすまないな。」
取り皿を並べてくれているのが月島係長、わが部署の鬼軍曹ならぬ仕事の鬼である。自分にも他人にも厳しいが、フォローもその分手厚い頼れる上司である。
「佐一くんと一緒に作ったので、楽しく準備できましたよ。それより皆さん、お土産ありがとうございます。」
ケーキにお洒落なおつまみをみつくろって来てくれて、食卓が一気に華やいだ。
「杉元も作ったのかよ~、ワイルドな味になってそうだな~」
「味付けはさくらさんがしてくれたから、うまいのは保証する。」
隣の杉元が恥ずかしげも無く言うので、こちらがやきもきしてしまう。しかし、みな口に入れては美味しそうに頬張っていくので安心する。杉元と顔を合わせて、よかったね、と笑い合う。朝から二人でキッチンに立って準備するのは楽しく、こうして喜んでもらえるとなお嬉しい。
箸が進み、酒が進むと話に上がるのは、やはり前世の記憶についてだ。皆一様に入社してから記憶が戻ったらしく、さくらは結婚式で記憶が戻ったのだと打ち明けるとみな驚いた表情になった。
「式の方は無事にできたのか…?」
心配そうな表情の月島に杉元と二人で苦笑いを浮かべる。
「実は、泣きすぎて急遽お色直しが入りまして……」
「さくらさんも俺も号泣して教会入りしたから親族が騒然になっちゃってさ。…さくらさんのご両親は落ち着いてたけどね。」
「まあ、あれだからね……」
二人の会話に疑問の声を上げたのは谷垣だった。
「どういうことだ?」
他の二人も分からない、と言うように首をかしげる。それもそのはずだ、まさか想像もしないだろう……。
「私の父が牛山さん、母が家永さんでして。両親は前世の記憶を持ちながら結婚したと後から聞きました。」
そう答えると三人は、文字通り口をあんぐりとあけてしばらく固まった。そこから一番早く回復したのは月島で、「あの二人から…そうか…」と神妙な面持ちである。何を納得されたのか分からないが、そういう反応になるのも無理はないだろう。さくら自身も教会に入ってよくよく両親をみて気がついたのだ。驚いて悲鳴を上げなかっただけ、冷静だったと思う。白石のほうは、何かを思い出したように「だから…競馬場で吹っ飛ばされたのね、そりゃ牛山の娘なら納得だ。」と頷いている。
まだ心の整理が出来ていない谷垣にはワインを注いでやって、「まあまあ飲みなって」と杉元が声をかける。
「俺も最初は驚いたけど、今は家永に感謝してるよさくらさんを産んでくれてありがとうって。じゃなきゃ、俺はさくらさんに出会えなかったし、こうしてそばにいることもできなかったと思う。」
「私はあの時代に飛ばされて、本気で愛する人を見つけられました。それも父と母が出会ってくれたからだと思いますし、佐一君が今世で私を見つけてくれたから今があると思っています。」
「全部が繋がって今があるんだな……」
ようやく復旧した谷垣がつぶやいた。
新居の飾り棚にある写真立てに白石がいち早く気がついた。モノクロの杉元とアシリパの立ち姿とさくらの写真だ。
「こりゃ、すごいな。あの頃の写真じゃねえか。」
白石の声で谷垣と月島もそちらを向いた。
「あれは……」
「おう、お前が渡してくれた写真だよ。こっちで記憶が戻ってから自分の墓をあばいてとってきたんだ。」
さらっと問題発言をしているが、杉元は逝く前にアシリパに写真を遺骨と共に埋葬して欲しいと頼んでいたそうだ。骨壺に入っていたのか、損傷もほとんどなく、綺麗な状態である。谷垣が杉元の言葉で目を潤ませた。
「すまない、俺が担いでこれば……」
「谷垣さん、あなたは私の言ったことを守ってくれたんですね。ありがとうございます。」
暗に責めないで欲しいと、言葉を継げればさらに谷垣の目が潤んだ。谷垣は本当に何も悪くないのだ。自身の死体をおいていけ、と言ったのはさくら自身なのだから。
「あなたのおかげで佐一君に写真が渡り、こうして記憶を取り戻すことができたんですよ。」
優しく声をかけると、くぐもったこえで「うん…」と頷いた。
この空気を破るように白石が大きくため息をついた。
「いいなあ、俺も昔の后にでも会いたいぜ~」
「后?なんでそんな者が…?」
首をかしげる月島に白石は、五稜郭にアイヌの金塊があったこと、それを元手に自身の国をつくって自分の顔を模した通過を流通させていたことを説明した。
「まさか…!あそこは陸軍訓練所もあったんだぞ…そんな大量の金塊をどうやって」
陸軍のお膝元で着々と金塊が持ち出されていたとは。なぜ気がつかなかったのか、月島が驚きの表情をしている。
「そこは脱獄王の腕の見せ所~!」
得意げに白石はいつものポーズを決めた。
そうして時間が過ぎ、会がお開きになって杉元と二人で片付けをする。杉元が洗った皿をタオルで拭いていく。
「……さくらさん、今日はお酒飲んでなかったけど体調悪かった?無理してない?」
杉元は心配そうにこちらをのぞき込む。大型犬のようなつぶらな瞳がこちらを見つめている。思わず頭をなでると、嬉しそうに「なあに~?」と自分から頭を押しつけてくる。この可愛らしい反応にさらによしよしと続ける。
「かわいいなあ、佐一君」
「ええ~?さくらさんの方が可愛い~」
いつの間に手を拭いたのか、杉元の手が腰に回った。
「可愛い可愛い俺の奥さん」
ちゅ、と軽く唇が重なった。愛おしそうにさくらを見つめる。
「幸せね、佐一君」
「うん」
「もういっこ幸せなニュース聞きたい?」
「聞きたい聞きたい」
「佐一君、…パパになるの」
面食らったように固まったのが、言葉の意味に気がついてさくらのお腹にゆっくりと視線を向けた。それに小さく頷くと、杉元の目に涙があふれた。
「俺、パパになれるんだ…!ここに俺達の…」
分厚くて大きな手のひらがさくらのお腹を優しく撫でた。
「ありがとう、さくらさんありがとう。」
微笑みながら杉元の頬に伝う涙をぬぐってやる。
「本当に泣いてばっかりね、」
「だって嬉しくて、…あ、さくらさん座ってて!俺が残りやっちゃうから!家事も負担ないように俺に任せてゆっくりして!」
杉元がさくらをソファに誘導する。そして、「からだあったかくしないと!」と甲斐甲斐しく毛布を用意したり、温かいお茶を入れたりお世話を始めると、さくらは小さく笑った。
「頼もしいパパですね~」
まだ膨らんでいないお腹を撫でて声をかける。
あなたのパパは世界一優しくて可愛くてかっこいい自慢の人。
だから、早く生まれておいで。
モノクロの写真が飾られた飾り棚に、来年にはこの子の写真が増えるのだろう。それを想像しながらさくらは微笑んだ。
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