白銀の世界で
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インカラマッ、谷垣、チカパシと同行者を増やし、一行は釧路へ到着した。フチの妹という女性の元にお世話になることになった。初日には海亀を狩りに行き、それをオハウにして食卓を囲んだ。独特の風味とぷるぷるの食感に、初めての者たちは驚いていた。姉畑の一件以来、杉元との関わりがぎこちなくなってしまったようにさくらは感じていた。狩りや食事のときも他愛ない会話はしていたが、視線だけはどうも合わないような気がするのだ。池での事が杉元にとって引っかかっているのかもしれない。しかし、二人で話すような時間もとれず、釧路に来て二日が経った。
朝になるとアシリパはマンボウを狩りに出かけたらしく、残った者はインカラマッについて、ハマナスを口にしたりして空腹を紛らわしていた。赤い実を口に放ると酸っぱさが広がる。目覚ましには丁度良い。しかし、男性陣の評価は芳しくなく、谷垣は渋い顔をして頬張っており、白石は「腹減ったな。ハマナスじゃないもの食べたいよ~」と、駄々をこねているところだ。白石の言葉で杉元、さくら、尾形はアシリパの進捗を見に行こうと、海岸の方へと向かい始めた。チカパシは村の子供たちと遊ぶと言って戻り、谷垣とインカラマッは谷垣のほつれたボタンを直してから合流すると言って別れた。
「やっぱり、あの二人できてんな。」
にやにやしながら白石が言った。
「一緒に旅をしていれば、あり得ないことじゃないさ。」
軽く受け流す杉元の言葉に、白石は恨めしそうな視線を向けた。
「俺にも恋の一つや二つ、あってもいいのによぉ。ねえ、さくらちゃん」
甘えたような声でさくらの名前を呼ぶと、肩に手をかけようと腕を伸ばした。しかし、さくらはするりと身をかわし、近くにいた尾形のそばへと移動した。
「それは人柄によるんじゃないですか。……尾形さん、何か見つけました?」
双眼鏡で空を確認している尾形に話を振ると、焦ったように「これは……まずいぞ」とつぶやいた。「なにが…?」とさくらが疑問に思って聞き返そうとしたところで、杉元が驚いたような声を出した。
「やだあ~。バッタきらーい!!」
杉元が胸元についた大きなバッタを払った。白石が「不死身のくせに~」と面白がって、そう言ったのもつかの間、黒い雲だと思っていたものが、驚くべき速度でこちらに向かってきていた。それが、バッタの大群だと分かるまでにそれほど時間はかからなかった。身につけているものを手当たり次第かじっていくバッタを手で追い払いながら近くの番屋まで駆け込んだ。無人の番屋だったが、戸が開いていたのが幸いだった。急いで入り込んで戸を閉める。
「一体何が起きてるんだ?」
驚きつぶやく谷垣の言葉に尾形が答えた。
「飛蝗ってやつだ。洪水やら何やらで条件が重なると大発生するときがある。」
現代でもニュースで取り上げられていたことがあったな。さくらはアフリカから大陸を横断していくバッタの群れが食物を荒らしては飛び立っていく映像を思い出した。
「……日本でもあるのですね。」
さくらの問いに尾形が話を続けた。
「北海道では明治初期から何度か大蝗災が起こって、屯田兵もバッタ退治にかり出されたそうだ。第七師団じゃ語りぐさになってる。」
「通り過ぎるまでどんぐらいかかるんだ?腹減ったぜ。」
「アシリパさん、大丈夫だろうか。」
白石、杉元が各々心配の表情をみせた。
「アシリパさんは自然をよく知っている子です。きっと、対策の仕方も知っているはずですよ。落ち着いたら探しに行きましょう。」
さくらの慰めに杉元は「そうだね…」と心配そうな表情ではあったが、頷いた。いくら心配とは言え、この状態では外に出ることも出来ない。バッタが過ぎ去るまで、番屋で時間を過ごすこととなった。
谷垣がもらったラッコを鍋にして煮始めると、あたりには独特な香りが広がった。それに比例するように、皆の様子が変わりはじめていた。荒い息と、顔のほてり。さくらも含め、皆が苦しそうに息を吐いている。匂いに当てられたらしい尾形がめまいがすると訴えると、普段からは考えられないほど俊敏に杉元が介抱に回った。
「胸元を開けて楽にした方が良い。」
そう言って尾形の胸元のボタンを外す谷垣と杉元を見ながら、なぜか白石は自身のシャツのボタンを外し初め、「下も脱がせろ…!いや、全部だ!全部脱がせろっ!!」と鼻息荒く言い始める。
酒に酔ったときのように頭がぼうっとしてくる。さくらは壁に寄りかかって、その様子をおかしいとは思いながらも、何か言えるほどの力は残っていなかった。そうしている内に、一行を探しに来たキロランケが番屋にやってきた。
そこからさらに、おかしな雰囲気になっていった。半裸の男たちが顔を赤らめながらお互いの肉体を褒め合っている。さくらは普段ならば何とも思わない男たちの胸板や、シャツからのぞく逞しい腕に熱い視線を送っていた。そんな自分のおかしさに気付くも、このほてりをどうすればいいのか分からずにいた。胸が苦しい。全てを脱ぎ去ってしまいたい。苦し紛れに胸元をくつろげると、一瞬で男たちの視線が鋭く刺さった。最初にさくらに声をかけたのは白石だった。
「さくらちゃん…肌きれいだよね。」
続いてキロランケがうわ目でこちらをじっと見つめた。その視線が何を示しているか、すぐに分かった。危険だ、と思いながらも抗えない自分がいる。……ここで身を任せれば。あらぬ想像が頭をよぎったとき、男たちの視線から遮るように杉元の背が目の前に現れた。
「だめだ……俺、もう我慢できねえ…」
杉元の色っぽい吐息に頭がくらくらする。目の前に立ちはだかった杉元は上着もズボンも脱いだ。
「相撲しようぜ!!」
杉元の一声に男たちは大きく頷いた。先ほどまでの雄の視線は消え、皆で服を脱いで取り組みを始めた。杉元が守ってくれたのだろうか……。彼の声で一心に相撲に取り組む男たちは、もはやさくらのことなど忘れているようだった。さくらはほっとしたのと、僅かばかりの落胆を感じながら、ふと、窓の外を見てみた。バッタは向こうの空へと過ぎ去っていくところだ。これならば、少し外に出ても大丈夫だろう。混乱した頭を冷やすため、男たちのそばから静かに立ち去った。
外はすでに夜で、先ほどまで黒い雲のようにバッタに覆われていた空は星が輝いていた。春の夜の冷たい風に磯の香りが運ばれてくる。遠くから聞こえる波音を聞きながら、幾分か落ち着いてきた。番屋から少し離れた草原に寝転がり、夜空を見つめる。こんな夜更けに海岸まで来る者はいないだろうし、近くには杉元たちもいる。あの相撲大会が終わるまで、しばらくここで休んでいようと、瞼を閉じた。
そこからどれくらい経ったのだろう。夢うつつから覚めようというところで、自身の片側にぬくもりを感じた。隣にいたのは尾形で、脱がされた服を乱雑に着て、横になって眠っている。知らない間に尾形もあそこから抜けてきたのだろう。いつもきっちり着込まれている軍服の詰め襟が開き、ボタンをあけたシャツから普段見えない肌が垣間見える。先ほどの熱が戻ってきたように、尾形の首筋から目が離せない。
「…あまり見つめられると照れるな。」
声に驚き、目線を上に上げると、尾形がにやり、と笑った。
「…すみません」
今、何をしていた?自身の行動に恥ずかしさがこみ上げ、尾形の視線から逃れるように半身を起こした。
「なんだ、欲しくないのか?」
同じく尾形も半身を起こした。そしてさくらの耳元で吐息混じりにつぶやいた。
「俺は…お前が欲しい。」
その色を帯びた声がさくらの体に甘い痺れをもたらす。小さく反応を見せたさくらの様子に気をよくしたのか、尾形の手が太ももへと伸びた。優しく擦る手に本能では次を期待してしまう。むずがるように内股を動かすと、その隙間にするりと尾形の手が入り込んだ。敏感な所に指が触れると自然と艶めいた声が出ていた。
「…そんな声も出せるのか。あのときより…随分と色っぽい。」
尾形のさす、あのときとは……第七師団のあの場所のことか。演技だったのが、今は…。
尾形が覆い被さるようにさくらを押し倒した。尾形のズボンの中がかたくなり、さくらの濡れた場所に押しつけられる。尾形の息が荒くなる。この男も、普段からは想像ができないほど色っぽい声を出している。お互いの敏感な部分を擦り合わせ、次第に息が上がってくる。
「さくら…」
悩ましそうな視線にずきり、と胸が痛んだ。それまで快感に身を任せていたさくらの脳裏に池の中での杉元の表情が思い出された。さくらを怒鳴りつけた杉元の顔もつらそうに歪んでいた。あの顔を思い出すと、今している行為が杉元を裏切っているようで、そう思ったときには尾形の胸を押し返していた。
「ごめんなさい…できません」
尾形はさくらの言葉に一瞬面食らったような顔をした。しかし、さくらの言葉を察するといつもの表情にもどり、小さく笑った。
「俺ではだめか…。」
「…ごめんなさい。」
尾形の気持ちを分かっていた。それを一時の快楽のために利用しようとしたのだ。自身の浅はかさで尾形を傷つけたのだ。弁明のしようが無い。
しばらく動かなかった尾形がさくらの上から退いた。
「あの鍋は多分催淫効果があるんだろう。人間の本能に賭けてみたが、やはりお前は思慮深いな。」
尾形は乱れていた服をきちんと着こなすと、立ち上がった。
「だが、あと少しで堕ちそうだったんだがなあ。」
そして腰を折るようにさくらの顔をのぞき込んだ。尾形の右手が頬をするりと撫でた。その瞬間、収まっていた熱が広がった。さくらの様子に満足そうな尾形は、鼻を鳴らすと、再び上体を起こした。
「せいぜい他の男に食われないようにな。」
そういうと尾形は番屋の方へと戻っていった。
朝になるとアシリパはマンボウを狩りに出かけたらしく、残った者はインカラマッについて、ハマナスを口にしたりして空腹を紛らわしていた。赤い実を口に放ると酸っぱさが広がる。目覚ましには丁度良い。しかし、男性陣の評価は芳しくなく、谷垣は渋い顔をして頬張っており、白石は「腹減ったな。ハマナスじゃないもの食べたいよ~」と、駄々をこねているところだ。白石の言葉で杉元、さくら、尾形はアシリパの進捗を見に行こうと、海岸の方へと向かい始めた。チカパシは村の子供たちと遊ぶと言って戻り、谷垣とインカラマッは谷垣のほつれたボタンを直してから合流すると言って別れた。
「やっぱり、あの二人できてんな。」
にやにやしながら白石が言った。
「一緒に旅をしていれば、あり得ないことじゃないさ。」
軽く受け流す杉元の言葉に、白石は恨めしそうな視線を向けた。
「俺にも恋の一つや二つ、あってもいいのによぉ。ねえ、さくらちゃん」
甘えたような声でさくらの名前を呼ぶと、肩に手をかけようと腕を伸ばした。しかし、さくらはするりと身をかわし、近くにいた尾形のそばへと移動した。
「それは人柄によるんじゃないですか。……尾形さん、何か見つけました?」
双眼鏡で空を確認している尾形に話を振ると、焦ったように「これは……まずいぞ」とつぶやいた。「なにが…?」とさくらが疑問に思って聞き返そうとしたところで、杉元が驚いたような声を出した。
「やだあ~。バッタきらーい!!」
杉元が胸元についた大きなバッタを払った。白石が「不死身のくせに~」と面白がって、そう言ったのもつかの間、黒い雲だと思っていたものが、驚くべき速度でこちらに向かってきていた。それが、バッタの大群だと分かるまでにそれほど時間はかからなかった。身につけているものを手当たり次第かじっていくバッタを手で追い払いながら近くの番屋まで駆け込んだ。無人の番屋だったが、戸が開いていたのが幸いだった。急いで入り込んで戸を閉める。
「一体何が起きてるんだ?」
驚きつぶやく谷垣の言葉に尾形が答えた。
「飛蝗ってやつだ。洪水やら何やらで条件が重なると大発生するときがある。」
現代でもニュースで取り上げられていたことがあったな。さくらはアフリカから大陸を横断していくバッタの群れが食物を荒らしては飛び立っていく映像を思い出した。
「……日本でもあるのですね。」
さくらの問いに尾形が話を続けた。
「北海道では明治初期から何度か大蝗災が起こって、屯田兵もバッタ退治にかり出されたそうだ。第七師団じゃ語りぐさになってる。」
「通り過ぎるまでどんぐらいかかるんだ?腹減ったぜ。」
「アシリパさん、大丈夫だろうか。」
白石、杉元が各々心配の表情をみせた。
「アシリパさんは自然をよく知っている子です。きっと、対策の仕方も知っているはずですよ。落ち着いたら探しに行きましょう。」
さくらの慰めに杉元は「そうだね…」と心配そうな表情ではあったが、頷いた。いくら心配とは言え、この状態では外に出ることも出来ない。バッタが過ぎ去るまで、番屋で時間を過ごすこととなった。
谷垣がもらったラッコを鍋にして煮始めると、あたりには独特な香りが広がった。それに比例するように、皆の様子が変わりはじめていた。荒い息と、顔のほてり。さくらも含め、皆が苦しそうに息を吐いている。匂いに当てられたらしい尾形がめまいがすると訴えると、普段からは考えられないほど俊敏に杉元が介抱に回った。
「胸元を開けて楽にした方が良い。」
そう言って尾形の胸元のボタンを外す谷垣と杉元を見ながら、なぜか白石は自身のシャツのボタンを外し初め、「下も脱がせろ…!いや、全部だ!全部脱がせろっ!!」と鼻息荒く言い始める。
酒に酔ったときのように頭がぼうっとしてくる。さくらは壁に寄りかかって、その様子をおかしいとは思いながらも、何か言えるほどの力は残っていなかった。そうしている内に、一行を探しに来たキロランケが番屋にやってきた。
そこからさらに、おかしな雰囲気になっていった。半裸の男たちが顔を赤らめながらお互いの肉体を褒め合っている。さくらは普段ならば何とも思わない男たちの胸板や、シャツからのぞく逞しい腕に熱い視線を送っていた。そんな自分のおかしさに気付くも、このほてりをどうすればいいのか分からずにいた。胸が苦しい。全てを脱ぎ去ってしまいたい。苦し紛れに胸元をくつろげると、一瞬で男たちの視線が鋭く刺さった。最初にさくらに声をかけたのは白石だった。
「さくらちゃん…肌きれいだよね。」
続いてキロランケがうわ目でこちらをじっと見つめた。その視線が何を示しているか、すぐに分かった。危険だ、と思いながらも抗えない自分がいる。……ここで身を任せれば。あらぬ想像が頭をよぎったとき、男たちの視線から遮るように杉元の背が目の前に現れた。
「だめだ……俺、もう我慢できねえ…」
杉元の色っぽい吐息に頭がくらくらする。目の前に立ちはだかった杉元は上着もズボンも脱いだ。
「相撲しようぜ!!」
杉元の一声に男たちは大きく頷いた。先ほどまでの雄の視線は消え、皆で服を脱いで取り組みを始めた。杉元が守ってくれたのだろうか……。彼の声で一心に相撲に取り組む男たちは、もはやさくらのことなど忘れているようだった。さくらはほっとしたのと、僅かばかりの落胆を感じながら、ふと、窓の外を見てみた。バッタは向こうの空へと過ぎ去っていくところだ。これならば、少し外に出ても大丈夫だろう。混乱した頭を冷やすため、男たちのそばから静かに立ち去った。
外はすでに夜で、先ほどまで黒い雲のようにバッタに覆われていた空は星が輝いていた。春の夜の冷たい風に磯の香りが運ばれてくる。遠くから聞こえる波音を聞きながら、幾分か落ち着いてきた。番屋から少し離れた草原に寝転がり、夜空を見つめる。こんな夜更けに海岸まで来る者はいないだろうし、近くには杉元たちもいる。あの相撲大会が終わるまで、しばらくここで休んでいようと、瞼を閉じた。
そこからどれくらい経ったのだろう。夢うつつから覚めようというところで、自身の片側にぬくもりを感じた。隣にいたのは尾形で、脱がされた服を乱雑に着て、横になって眠っている。知らない間に尾形もあそこから抜けてきたのだろう。いつもきっちり着込まれている軍服の詰め襟が開き、ボタンをあけたシャツから普段見えない肌が垣間見える。先ほどの熱が戻ってきたように、尾形の首筋から目が離せない。
「…あまり見つめられると照れるな。」
声に驚き、目線を上に上げると、尾形がにやり、と笑った。
「…すみません」
今、何をしていた?自身の行動に恥ずかしさがこみ上げ、尾形の視線から逃れるように半身を起こした。
「なんだ、欲しくないのか?」
同じく尾形も半身を起こした。そしてさくらの耳元で吐息混じりにつぶやいた。
「俺は…お前が欲しい。」
その色を帯びた声がさくらの体に甘い痺れをもたらす。小さく反応を見せたさくらの様子に気をよくしたのか、尾形の手が太ももへと伸びた。優しく擦る手に本能では次を期待してしまう。むずがるように内股を動かすと、その隙間にするりと尾形の手が入り込んだ。敏感な所に指が触れると自然と艶めいた声が出ていた。
「…そんな声も出せるのか。あのときより…随分と色っぽい。」
尾形のさす、あのときとは……第七師団のあの場所のことか。演技だったのが、今は…。
尾形が覆い被さるようにさくらを押し倒した。尾形のズボンの中がかたくなり、さくらの濡れた場所に押しつけられる。尾形の息が荒くなる。この男も、普段からは想像ができないほど色っぽい声を出している。お互いの敏感な部分を擦り合わせ、次第に息が上がってくる。
「さくら…」
悩ましそうな視線にずきり、と胸が痛んだ。それまで快感に身を任せていたさくらの脳裏に池の中での杉元の表情が思い出された。さくらを怒鳴りつけた杉元の顔もつらそうに歪んでいた。あの顔を思い出すと、今している行為が杉元を裏切っているようで、そう思ったときには尾形の胸を押し返していた。
「ごめんなさい…できません」
尾形はさくらの言葉に一瞬面食らったような顔をした。しかし、さくらの言葉を察するといつもの表情にもどり、小さく笑った。
「俺ではだめか…。」
「…ごめんなさい。」
尾形の気持ちを分かっていた。それを一時の快楽のために利用しようとしたのだ。自身の浅はかさで尾形を傷つけたのだ。弁明のしようが無い。
しばらく動かなかった尾形がさくらの上から退いた。
「あの鍋は多分催淫効果があるんだろう。人間の本能に賭けてみたが、やはりお前は思慮深いな。」
尾形は乱れていた服をきちんと着こなすと、立ち上がった。
「だが、あと少しで堕ちそうだったんだがなあ。」
そして腰を折るようにさくらの顔をのぞき込んだ。尾形の右手が頬をするりと撫でた。その瞬間、収まっていた熱が広がった。さくらの様子に満足そうな尾形は、鼻を鳴らすと、再び上体を起こした。
「せいぜい他の男に食われないようにな。」
そういうと尾形は番屋の方へと戻っていった。