白銀の世界で
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「それ・・・光ってるやつ何だ?」
両腕を拘束されているさくらの手の中でスマートフォンが光っている。先ほど杉元をひるませるために使ったものだ。
「スマートフォンです。」
「すま、・・・ん?」
「電話をしたり、写真を撮ったりできる機械ですよ。」
そう説明しても杉元は分かったような分からないような微妙な表情をした。今どき若者ならばスマホを知らない者はいないはずだ。杉元のきょとんとした顔に、さくらは疑問を持った。昨日から思ってはいたが、杉元の服装もなにやら妙なのだ。軍服のようで、中に着物を着込んでいる。現代ではおおよそ着ないようなもので、よく考えればこれだけ大きな刃物を持ってうろつくなど、ありえない。
「杉元さん、スマートフォンは初めて見られました?」
「ああ、見たことも聞いたこともない。あんたはどこからそれを手に入れたんだ?」
杉元の言葉に、まさか・・・という気持ちが生まれた。ここまで殺されかかっていたのは、互いに大きな誤解をしていたからなのではないかと。
「あの・・・杉元さん。このスマホを見ていただければ私と軍のつながりはないと証明できると思います。」
生きるために、これに縋るしかない。ここで杉元を納得させられなければ、私は死ぬしかない。
杉元は、その言葉に、「一応、拘束させてもらうよ。」と手首を持っていた手ぬぐいで縛り、さくらを座らせた。話を聞いてもらえるようでさくらはほっと安堵した。スマホの画面を見ると、まだ電池は残っていた。指をすべらせ中身を確認する。インターネットはつながらないが、計算やスケジュール、写真は見れそうだ。杉元の方に画面を向け、中身を確認させていく。初めは驚いていた杉元だったが、段々と真剣な表情に変わっていった。
「日向さん。・・・こんなこと言ったら変だと思われるかもしれないんだけどさ。もしかして・・・」
「はい・・・多分私も同じことを思っていると思います。」
「今は明治なんだけど・・・日向さんの時代からどれくらい前なの?」
「おおよそ120年くらい・・・でしょうか。」
写真の上についている日付を指さす。杉元はがっくりと肩を落として大きくため息をついた。
「まさか、未来の人だったなんて・・・。」
そういうやいなや、杉元は突然、さくらの前で勢いよく頭を下げた。人様に土下座されるのは生まれてはじめてだ。
「あ、あの・・・杉元さん?!」
「日向さん!本当にごめん!君を疑って酷いことをしてしまった。怖がらせて本当にすまない。」
杉元さんは頭を下げたまま動かない。私が何か言わなければ、きっとこのまま頭を下げ続けるのだろう。
「杉元さん。」
「・・・はい。」
「アシリパさんは、あなたにとって大事な子のように見えます。その子を守るために、警戒心が強くなることは仕方がないと思います。私も、この状況を深く考えず言動していたところがあるので、杉元さんに怪しまれるのは当然だと思います。」
杉元からしてみれば、軍人と一悶着あって、もしかしたら追われる立場の中、明治では発達していない飛行技術、見知らぬことを当然のように話す女を怪しむのは仕方ないことだ。
しかし、それで私が死にかけたのも事実だ。
「杉元さんの中で、まだ私は怪しい人物ですか?」
そう聞くと、杉元はぱっと顔を上げた。
「いいや!」
「では、もう命を狙うことはありませんか?」
「もちろんだ!」
「私の素性を誰かに話すこともありませんか?」
「ああ!」
杉元は首を上下に大きくふる。
「では、このまま小樽まで連れて行ってください。もう杉元さんとは二度と会いません。」
杉元は一瞬、驚いたように固まったが、軍帽を深くかぶり、そうだよな・・・。と小さくつぶやいた。
小樽の町までは比較的すぐ到着した。町並みは友人と来たときとは様変わりしていた。木造の家々が立ち並び、舗装されていない道路は雪でぬかるんでいた。職業案内所のような場所を教えてもらった。後は、自分でどうにかしよう。
正直、不安だらけだ。見知らぬ時代の知らない土地で生きていくなんて。しかし、いくら誤解が解けたとはいえ、杉元たちと行動するのは難しいと思った。さくら自信が杉元を信頼しきれないこともあるが、なにより、人を平気で傷つけなければならない環境に身を置くのはたえられなかった。きっとこの時代にも商いは盛んであるはずで、そこで雇ってもらった方が生活も安定する。
杉元に向き直り「お世話になりました。一晩、ありがとうございました。とアシリパさんにも伝えてください。」と礼をした。
それに杉元はつらそうな表情をする。無関係な女に手を出してしまったことを悔いているのだろうか。きっと出会いがもっと違う形であれば、私たち仲良くなれたと思うのだが。・・・これも縁だ。
杉元は「すまなかった。」ともう一度、頭を下げ、「餞別だ。」
と私の手に何か握りこませた。見ると、紙幣であった。何日か分の生きる糧にありがたく受け取る。
「ありがとうございます。」
「達者でな・・・。」
後ろ髪を引かれるように、杉元はゆっくりと来た道の方へ体を向け、歩を進めた。さくらもそれを見届けると、背を向けて歩き始めた。
両腕を拘束されているさくらの手の中でスマートフォンが光っている。先ほど杉元をひるませるために使ったものだ。
「スマートフォンです。」
「すま、・・・ん?」
「電話をしたり、写真を撮ったりできる機械ですよ。」
そう説明しても杉元は分かったような分からないような微妙な表情をした。今どき若者ならばスマホを知らない者はいないはずだ。杉元のきょとんとした顔に、さくらは疑問を持った。昨日から思ってはいたが、杉元の服装もなにやら妙なのだ。軍服のようで、中に着物を着込んでいる。現代ではおおよそ着ないようなもので、よく考えればこれだけ大きな刃物を持ってうろつくなど、ありえない。
「杉元さん、スマートフォンは初めて見られました?」
「ああ、見たことも聞いたこともない。あんたはどこからそれを手に入れたんだ?」
杉元の言葉に、まさか・・・という気持ちが生まれた。ここまで殺されかかっていたのは、互いに大きな誤解をしていたからなのではないかと。
「あの・・・杉元さん。このスマホを見ていただければ私と軍のつながりはないと証明できると思います。」
生きるために、これに縋るしかない。ここで杉元を納得させられなければ、私は死ぬしかない。
杉元は、その言葉に、「一応、拘束させてもらうよ。」と手首を持っていた手ぬぐいで縛り、さくらを座らせた。話を聞いてもらえるようでさくらはほっと安堵した。スマホの画面を見ると、まだ電池は残っていた。指をすべらせ中身を確認する。インターネットはつながらないが、計算やスケジュール、写真は見れそうだ。杉元の方に画面を向け、中身を確認させていく。初めは驚いていた杉元だったが、段々と真剣な表情に変わっていった。
「日向さん。・・・こんなこと言ったら変だと思われるかもしれないんだけどさ。もしかして・・・」
「はい・・・多分私も同じことを思っていると思います。」
「今は明治なんだけど・・・日向さんの時代からどれくらい前なの?」
「おおよそ120年くらい・・・でしょうか。」
写真の上についている日付を指さす。杉元はがっくりと肩を落として大きくため息をついた。
「まさか、未来の人だったなんて・・・。」
そういうやいなや、杉元は突然、さくらの前で勢いよく頭を下げた。人様に土下座されるのは生まれてはじめてだ。
「あ、あの・・・杉元さん?!」
「日向さん!本当にごめん!君を疑って酷いことをしてしまった。怖がらせて本当にすまない。」
杉元さんは頭を下げたまま動かない。私が何か言わなければ、きっとこのまま頭を下げ続けるのだろう。
「杉元さん。」
「・・・はい。」
「アシリパさんは、あなたにとって大事な子のように見えます。その子を守るために、警戒心が強くなることは仕方がないと思います。私も、この状況を深く考えず言動していたところがあるので、杉元さんに怪しまれるのは当然だと思います。」
杉元からしてみれば、軍人と一悶着あって、もしかしたら追われる立場の中、明治では発達していない飛行技術、見知らぬことを当然のように話す女を怪しむのは仕方ないことだ。
しかし、それで私が死にかけたのも事実だ。
「杉元さんの中で、まだ私は怪しい人物ですか?」
そう聞くと、杉元はぱっと顔を上げた。
「いいや!」
「では、もう命を狙うことはありませんか?」
「もちろんだ!」
「私の素性を誰かに話すこともありませんか?」
「ああ!」
杉元は首を上下に大きくふる。
「では、このまま小樽まで連れて行ってください。もう杉元さんとは二度と会いません。」
杉元は一瞬、驚いたように固まったが、軍帽を深くかぶり、そうだよな・・・。と小さくつぶやいた。
小樽の町までは比較的すぐ到着した。町並みは友人と来たときとは様変わりしていた。木造の家々が立ち並び、舗装されていない道路は雪でぬかるんでいた。職業案内所のような場所を教えてもらった。後は、自分でどうにかしよう。
正直、不安だらけだ。見知らぬ時代の知らない土地で生きていくなんて。しかし、いくら誤解が解けたとはいえ、杉元たちと行動するのは難しいと思った。さくら自信が杉元を信頼しきれないこともあるが、なにより、人を平気で傷つけなければならない環境に身を置くのはたえられなかった。きっとこの時代にも商いは盛んであるはずで、そこで雇ってもらった方が生活も安定する。
杉元に向き直り「お世話になりました。一晩、ありがとうございました。とアシリパさんにも伝えてください。」と礼をした。
それに杉元はつらそうな表情をする。無関係な女に手を出してしまったことを悔いているのだろうか。きっと出会いがもっと違う形であれば、私たち仲良くなれたと思うのだが。・・・これも縁だ。
杉元は「すまなかった。」ともう一度、頭を下げ、「餞別だ。」
と私の手に何か握りこませた。見ると、紙幣であった。何日か分の生きる糧にありがたく受け取る。
「ありがとうございます。」
「達者でな・・・。」
後ろ髪を引かれるように、杉元はゆっくりと来た道の方へ体を向け、歩を進めた。さくらもそれを見届けると、背を向けて歩き始めた。