白銀の世界で
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折られた指が熱い。
今まで生きてきて、人に傷つけられる経験などなかった。せいぜい不注意で転んで、とか倒れ方が悪くて骨折して、というくらいで、こんな風に他人に指を折られるなど初めてのことだった。痛みが来るより先に折られた指は熱を持ったように熱くなっていた。
杉元は次の指に手をかけて少しずつ力を入れ始める。
痛い痛い痛い痛い痛い
呼吸が浅くなる。痛みで息がまともにできない。
目の前にいるのは同じ人間なんだろうか・・・・?
ぎらぎらと目を光らせるどう猛な男が、自分とはまるで違う生き物のように思えた。
「お前が軍と関係がないのなら、その証拠をだしてみろよ。」
なんで、こんなことをされなくちゃならないのだ。
私がいったい何をしたというのだ。
初めて来た土地で、何も知らないまま山中に放り出され、知らぬ男に痛めつけられている。痛みと、この不条理に涙があふれてきた。
「なんだよ、もう降参か?お前が軍と関わりがあるっていうなら、このまま生かして帰すことはできない。俺たちは『そちら』に足がつくのは都合が悪いんでね。」
殺されるのだ。
もう何を言っても信じてもらえない。逃げようと思っても力の差は歴然だ。アシリパのいる小屋は遠く、声を上げてもきっと気づかれないだろう。・・・逃げ道はどこにもない。
「杉元さん・・・初めからこうするつもりだったんですか?」
小屋での姿に優しさを感じた私が愚かだったの?
見つめた先の杉元が一瞬、目を見開いた。しかし、すぐ表情を堅くしてさくらをみた。
「全部を疑っていたわけじゃない。本当に助けようと思ってたさ。でも・・・・君は謎が多すぎる。」
杉元は腰から軍刀を引き抜いた。
「何か言い残すことは?」
「・・・・・っ――」
言いたいことはたくさんあるはずなのに、喉にひっかかったようにつぶれた声がでてくるだけだった。
杉元はそれを観念したと思ったのか、さくらへ刃を向けた。
首筋に軍刀が迫る。
「・・・―っや!!」
いよいよ殺されると思うと、身を捩って抵抗をしてしまう。それを杉元がさくらの肩を押さえこんで動きを封じた。
「観念しろっ・・・!!」
嫌だ・・・!死にたくない!!
やり残したことがたくさんあるのだ。
恋愛も結婚も、大切な家族や友人との思い出も・・・!
さくらは、ふとコートのなかの重みに気づいた。
これなら、油断させられるかもしれない。
・・・一か八か、何もせずに殺されるより、行動あるのみだ!
懐からスマートフォンを取り出し、杉元に向けた。
突然、杉元の目の前に鋭い光が向けられた。
「・・・っう!!」
光にひるみ、さくらを押さえ混んでいた手が緩んだ。その隙を見て、さくらは一目散に逃げ出した。アシリパのいる小屋に戻ろうとも思ったが、彼女に敵意がなくても、そこで杉元に言いくるめられてしまえばおしまいだ。なんとか自力で人里に降りるよりほかない。川沿いは昔から人が住んでいることが多い。川に沿って走れば、人影の一つでも見つけられるかもしれない。
「おらぁ!待て!!」
後ろから杉元が追ってくる。恐怖から足がもつれる。ここで捕まったら、絶対に殺される。怖くて振り向けない。今見たら、恐怖に飲み込まれて動けなくなってしまう。前だけ見るのだ。ぜったい生き抜いてやる。
布擦れの音が近づいてくる。
・・・逃げ切れないっ!
川に目を向ける。
あの川に落ちた男は助かったのだろうか?殺されるより・・・少しでも可能性があるのなら。
さくらは意を決して、川に飛び込もうと歩を進めた。
「っくそ!!」
全身に衝撃が走った。
杉元がさくらに飛びついてそれを阻止したのだ。
杉元はさくらの上に馬乗りになり、両腕を拘束する。昨日と同じように、必死に抵抗するのを両手と体重をかけて動きを止めた。
「まだやり残したことがたくさんあるの!好きな人と生きる幸せも!海外旅行も行きたかったし、親孝行だってまだ何もしてない!誰にも何も言えずに死ぬなんて絶対いや!!」
離してよ!!
そう言って暴れるのを杉元も必死で押さえ込む。窮鼠猫をかむとはよく言ったものだ。死にたくない、それが人を生かすのは戦場で嫌と言うほど学んできた。死にかけのロシア兵が最後の力で抵抗して向かってきたこともあった。この女も同じように、最後の力で、生きたいと足掻いているのだ。
「家に帰してっ!!帰る!!離してっ!!」
杉元は、泣きながら抵抗するさくらの言葉に、先ほどまで心を占めていた殺意に、心の隅にかすかに疑問が生まれた。
このまま殺してもいいのだろうか。
先ほどから、どれだけ脅しをかけても、彼女から出てくるのは、「死にたくない。」ということだけだった。指を折っても、軍刀を振りかざしても、敵へ向ける視線は微塵もない。これが軍が使う人材なのか、と疑問も生まれてくる。
しかし、不可解なことも多いことは確かだ。先ほども、閃光弾のような鋭い光が目を襲った。押さえ込んでいるさくらの手にある板のようなものが、まだ小さな穴から光を放っていた。
今まで生きてきて、人に傷つけられる経験などなかった。せいぜい不注意で転んで、とか倒れ方が悪くて骨折して、というくらいで、こんな風に他人に指を折られるなど初めてのことだった。痛みが来るより先に折られた指は熱を持ったように熱くなっていた。
杉元は次の指に手をかけて少しずつ力を入れ始める。
痛い痛い痛い痛い痛い
呼吸が浅くなる。痛みで息がまともにできない。
目の前にいるのは同じ人間なんだろうか・・・・?
ぎらぎらと目を光らせるどう猛な男が、自分とはまるで違う生き物のように思えた。
「お前が軍と関係がないのなら、その証拠をだしてみろよ。」
なんで、こんなことをされなくちゃならないのだ。
私がいったい何をしたというのだ。
初めて来た土地で、何も知らないまま山中に放り出され、知らぬ男に痛めつけられている。痛みと、この不条理に涙があふれてきた。
「なんだよ、もう降参か?お前が軍と関わりがあるっていうなら、このまま生かして帰すことはできない。俺たちは『そちら』に足がつくのは都合が悪いんでね。」
殺されるのだ。
もう何を言っても信じてもらえない。逃げようと思っても力の差は歴然だ。アシリパのいる小屋は遠く、声を上げてもきっと気づかれないだろう。・・・逃げ道はどこにもない。
「杉元さん・・・初めからこうするつもりだったんですか?」
小屋での姿に優しさを感じた私が愚かだったの?
見つめた先の杉元が一瞬、目を見開いた。しかし、すぐ表情を堅くしてさくらをみた。
「全部を疑っていたわけじゃない。本当に助けようと思ってたさ。でも・・・・君は謎が多すぎる。」
杉元は腰から軍刀を引き抜いた。
「何か言い残すことは?」
「・・・・・っ――」
言いたいことはたくさんあるはずなのに、喉にひっかかったようにつぶれた声がでてくるだけだった。
杉元はそれを観念したと思ったのか、さくらへ刃を向けた。
首筋に軍刀が迫る。
「・・・―っや!!」
いよいよ殺されると思うと、身を捩って抵抗をしてしまう。それを杉元がさくらの肩を押さえこんで動きを封じた。
「観念しろっ・・・!!」
嫌だ・・・!死にたくない!!
やり残したことがたくさんあるのだ。
恋愛も結婚も、大切な家族や友人との思い出も・・・!
さくらは、ふとコートのなかの重みに気づいた。
これなら、油断させられるかもしれない。
・・・一か八か、何もせずに殺されるより、行動あるのみだ!
懐からスマートフォンを取り出し、杉元に向けた。
突然、杉元の目の前に鋭い光が向けられた。
「・・・っう!!」
光にひるみ、さくらを押さえ混んでいた手が緩んだ。その隙を見て、さくらは一目散に逃げ出した。アシリパのいる小屋に戻ろうとも思ったが、彼女に敵意がなくても、そこで杉元に言いくるめられてしまえばおしまいだ。なんとか自力で人里に降りるよりほかない。川沿いは昔から人が住んでいることが多い。川に沿って走れば、人影の一つでも見つけられるかもしれない。
「おらぁ!待て!!」
後ろから杉元が追ってくる。恐怖から足がもつれる。ここで捕まったら、絶対に殺される。怖くて振り向けない。今見たら、恐怖に飲み込まれて動けなくなってしまう。前だけ見るのだ。ぜったい生き抜いてやる。
布擦れの音が近づいてくる。
・・・逃げ切れないっ!
川に目を向ける。
あの川に落ちた男は助かったのだろうか?殺されるより・・・少しでも可能性があるのなら。
さくらは意を決して、川に飛び込もうと歩を進めた。
「っくそ!!」
全身に衝撃が走った。
杉元がさくらに飛びついてそれを阻止したのだ。
杉元はさくらの上に馬乗りになり、両腕を拘束する。昨日と同じように、必死に抵抗するのを両手と体重をかけて動きを止めた。
「まだやり残したことがたくさんあるの!好きな人と生きる幸せも!海外旅行も行きたかったし、親孝行だってまだ何もしてない!誰にも何も言えずに死ぬなんて絶対いや!!」
離してよ!!
そう言って暴れるのを杉元も必死で押さえ込む。窮鼠猫をかむとはよく言ったものだ。死にたくない、それが人を生かすのは戦場で嫌と言うほど学んできた。死にかけのロシア兵が最後の力で抵抗して向かってきたこともあった。この女も同じように、最後の力で、生きたいと足掻いているのだ。
「家に帰してっ!!帰る!!離してっ!!」
杉元は、泣きながら抵抗するさくらの言葉に、先ほどまで心を占めていた殺意に、心の隅にかすかに疑問が生まれた。
このまま殺してもいいのだろうか。
先ほどから、どれだけ脅しをかけても、彼女から出てくるのは、「死にたくない。」ということだけだった。指を折っても、軍刀を振りかざしても、敵へ向ける視線は微塵もない。これが軍が使う人材なのか、と疑問も生まれてくる。
しかし、不可解なことも多いことは確かだ。先ほども、閃光弾のような鋭い光が目を襲った。押さえ込んでいるさくらの手にある板のようなものが、まだ小さな穴から光を放っていた。