白銀の世界で
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炭鉱では、すでに人だかりが出来ており、それを縫うように逃げてきた人たちを確認していく。みな一様に煤にまみれている。中にはガスにやられたのか、苦しそうにしている者もおり、悲惨な状況だ。すでに炭鉱のいくつかの道は無事だった者たちでふさがれつつあった。
「キロランケさん、あれは…?」
さくらは初めて見る光景にキロランケに疑問を投げかけた。
「あれ以上被害が出ないように道をふさいでるんだ。…中に人がいようがいまいが通気を遮断して鎮火しているんだよ。」
「じゃあ、あの中に杉元さんたちがいたら…」
背筋に冷たい汗が流れた。泥と木の板でふさがれては、出てくることもかなわない。最悪を想像して、地面が揺れるようなめまいをおぼえた。
「きっと杉元たちは大丈夫だ。」
そういうアシリパも冷や汗をながしていた。今は信じるより他に無い。この少女でさえ、気丈に振る舞っているのだ。自分が弱気になってどうする。さくらは自分を叱咤した。
「これだけの騒ぎです。私たちのように様子を窺いに来ているかも知れません。探しましょう。」
炭鉱にはいくつもの通路や通風口がある。そこを確認しながら探していく。一つ一つしらみ潰しに探していく。あの軍服と半纏姿があることを願って、必死に当たりを探して回った。ひとつ見る度に期待が不安へと変わっていく。どうか無事であってほしい。何事も無かったように「みんな大丈夫だった?」と駆け寄ってくる姿を思い描いてはあたりを見回した。
しかし、最後のひとつである通路はすでにかたく閉ざされ、人一人が通れるような隙間は残されていなかった。その周囲にも見知った姿はない。みな、何も言わなかった。誰もが、その意味するところを分かっていたからだ。
「誰か出てくるぞ!!」
どこかから聞こえる大声に、さくらは人をかき分けて入り口のそばまで走り寄った。
「おい!危ないぞ!」
そう言って引き留めるキロランケを振り払って、人影の見える方へと走った。それにキロランケとアシリパも同じように近寄った。
「すげえ!!あの旦那ふたりも助け出したぞ!」
見慣れた背広の男が、杉元と白石を抱えて出てくるところだった。驚きで声を出せない3人に牛山が声をかけた。
「よお嬢ちゃんたち。また会ったな。」
抱えられている杉元たちは煤にまみれて汚れてはいたが、意識があるようだった。
「杉元さん…。よかった……。無事でよかった。」
緊張の糸が切れたように、さくらの目から涙がこぼれる。それを見てあたふたし始めた杉元に牛山が自分の持っていたハンカチを差し出してやった。
「泣かせた女くらい慰めな。」
そういって渡されたハンカチをもって杉元がさくらに駆け寄った。
「泣かないでさくらさん。」
杉元は優しくさくらの頬を伝う涙をぬぐってやる。
「俺は大丈夫。心配かけちゃってごめんね。」
感情を表してくれるようになったさくらに内心は嬉しく思っているが、そんなことはおくびにも出さないで、柔らかいさくらの頬に触れながら慰めてやった。
「すみません…私より杉元さんの方がハンカチ必要ですよね。安心したら出てきてしまって。」
いくらか落ち着いたさくらがそう言って、杉元の手から「もう大丈夫です。」とハンカチを渡してもらい、代わりに自身のハンカチで杉元の煤けた顔を拭いてやった。
さくらにとっても自分が泣き出すとは思ってもみなかったが、それだけ杉元は旅の中でも大きな存在となっていたということだろう。第七師団から共に逃げ延びたときから、多くの死線を共にし、今まで過ごしてきた。アシリパも同じく、さくらにとっては一番信頼のおける人物である。その一人を失ったかもしれない。その喪失感は想像を絶するものであった。自身の一部を失ったかのようなショックは杉元の生存を確認したことで安心へと変わった。我慢していたものが、あふれ出してしまったのだ、致し方ない。人前で泣くなど何年ぶりか、と今更ながら恥ずかしくなるも、気を取り直して杉元の煤けた顔を拭いていく。今度は杉元自身が介抱される側となり、恥ずかしそうにしている。さくらは、されるがままの杉元の姿に見た目に似合わず可愛らしいな、と口元を上げた。
一方でアシリパの方は、今まで大事にしていたはんぺんを取り出すと、牛山に大事そうに見せた。
「チンポ先生……!」
アシリパにとって牛山がかなりの上位のポジションにいることが分かる場面であった。白石が一連の流れをみながら「俺のことは?俺もいるよ?」とさくらに呼びかけるも相手にされず、キロランケは「あきらめろ。」とでも言うように大きく首を振った。
杉元と白石に水を用意してたり、杉元は落ち着いたところで牛山に問うた。
「なんであんたがこんなところに?」
「連れと夕張に来ていたが、ふらっと居なくなってな。探していたらお前らがトロッコに乗ってるのを見つけたんだ。」
「連れ?」
いぶかしそうにする杉元、その他一同も首をかしげた。
「…なんだか猫みたいな人。」
さくらが誰に言うでもなくぼそりとつぶやくと、背後から男の声がした。
「誰が猫だって?」
振り向くと煤まみれの軍人が立っていた。軍服と言うことでさくらは自然と身構えた。気だるげな瞳は、どこかで見たような気がする…。
「あ……」
邪魔そうに前髪を掻き上げて、男はさくらの反応にかまわず言葉を継いだ。
「しょうがねえ。そいつら、連れてこい。」
そう言ってすたすた歩き始める男に、鶴見の罠か?と思い、足が止まる。
「ここじゃ人目もある。ついてきな。」
牛山の言葉にしぶしぶながらついて行くことにした。
向かった先は、聞き込みをして特定したなめし職人の家だった。小高い丘の上に洋風の建築の一軒家だ。中に入ると、様々な動物の剥製が所狭しと並べられていた。今にも動きだしそうな剥製に、ここの職人の腕の良さを感じる。男が案内したのは、その部屋からさらに奥に入った場所だった。部屋に案内されると、数人の男たちの顔が見えた。
「ひいっ!!」
最初に声を上げたのは白石で、男たちの首から下は皮が剥ぎ取られている。まるで『生きた人間』のように今にもしゃべり出しそうだ。明らかに本物の人間が剥製にされている。…不快感に胸の中からせり上がってくるような感覚がしてくる。耐えきれずに目をそらしてやり過ごす。
「贋物は…おそらくこの6体の剥製を利用して作られた。」
「なんてこった…気色悪い。」
さすがに牛山も顔をしかめている。他の者も気味悪そうにしているが、男は気にせずに説明を続けた。
「剥製屋の坊やが死んでいるのは確認した。月島軍曹は屈強な兵士だ…炭鉱から死体が出なければ6枚の贋作が出回ってしまう事を想定しなければなるまい。」
月島と職人とを追って杉元たちは先の炭鉱に乗り込んだのだ。もし、月島が生きているとなれば、あの鶴見に這ってでも贋作を届けに行くだろう。さくらの顔が自然とこわばる。男はそれを目の端でとらえながら、牛山に声をかけた。
「ジジイは呼んだか?」
「もうすぐ来るはずだ。」
牛山が答えたところで、近くの扉が開いた。新手か、と身構える中、最初にその緊張を解いたのは牛山だった。
「贋作か本物か…」
扉から入ってくる初老の男には見覚えがあった。あの蕎麦屋で牛山を迎えに来たあの男だ。
「この忘れ物がどっちなのか、判別する方法を探さねば。」
男の手には刺青人皮が握られていた。
「キロランケさん、あれは…?」
さくらは初めて見る光景にキロランケに疑問を投げかけた。
「あれ以上被害が出ないように道をふさいでるんだ。…中に人がいようがいまいが通気を遮断して鎮火しているんだよ。」
「じゃあ、あの中に杉元さんたちがいたら…」
背筋に冷たい汗が流れた。泥と木の板でふさがれては、出てくることもかなわない。最悪を想像して、地面が揺れるようなめまいをおぼえた。
「きっと杉元たちは大丈夫だ。」
そういうアシリパも冷や汗をながしていた。今は信じるより他に無い。この少女でさえ、気丈に振る舞っているのだ。自分が弱気になってどうする。さくらは自分を叱咤した。
「これだけの騒ぎです。私たちのように様子を窺いに来ているかも知れません。探しましょう。」
炭鉱にはいくつもの通路や通風口がある。そこを確認しながら探していく。一つ一つしらみ潰しに探していく。あの軍服と半纏姿があることを願って、必死に当たりを探して回った。ひとつ見る度に期待が不安へと変わっていく。どうか無事であってほしい。何事も無かったように「みんな大丈夫だった?」と駆け寄ってくる姿を思い描いてはあたりを見回した。
しかし、最後のひとつである通路はすでにかたく閉ざされ、人一人が通れるような隙間は残されていなかった。その周囲にも見知った姿はない。みな、何も言わなかった。誰もが、その意味するところを分かっていたからだ。
「誰か出てくるぞ!!」
どこかから聞こえる大声に、さくらは人をかき分けて入り口のそばまで走り寄った。
「おい!危ないぞ!」
そう言って引き留めるキロランケを振り払って、人影の見える方へと走った。それにキロランケとアシリパも同じように近寄った。
「すげえ!!あの旦那ふたりも助け出したぞ!」
見慣れた背広の男が、杉元と白石を抱えて出てくるところだった。驚きで声を出せない3人に牛山が声をかけた。
「よお嬢ちゃんたち。また会ったな。」
抱えられている杉元たちは煤にまみれて汚れてはいたが、意識があるようだった。
「杉元さん…。よかった……。無事でよかった。」
緊張の糸が切れたように、さくらの目から涙がこぼれる。それを見てあたふたし始めた杉元に牛山が自分の持っていたハンカチを差し出してやった。
「泣かせた女くらい慰めな。」
そういって渡されたハンカチをもって杉元がさくらに駆け寄った。
「泣かないでさくらさん。」
杉元は優しくさくらの頬を伝う涙をぬぐってやる。
「俺は大丈夫。心配かけちゃってごめんね。」
感情を表してくれるようになったさくらに内心は嬉しく思っているが、そんなことはおくびにも出さないで、柔らかいさくらの頬に触れながら慰めてやった。
「すみません…私より杉元さんの方がハンカチ必要ですよね。安心したら出てきてしまって。」
いくらか落ち着いたさくらがそう言って、杉元の手から「もう大丈夫です。」とハンカチを渡してもらい、代わりに自身のハンカチで杉元の煤けた顔を拭いてやった。
さくらにとっても自分が泣き出すとは思ってもみなかったが、それだけ杉元は旅の中でも大きな存在となっていたということだろう。第七師団から共に逃げ延びたときから、多くの死線を共にし、今まで過ごしてきた。アシリパも同じく、さくらにとっては一番信頼のおける人物である。その一人を失ったかもしれない。その喪失感は想像を絶するものであった。自身の一部を失ったかのようなショックは杉元の生存を確認したことで安心へと変わった。我慢していたものが、あふれ出してしまったのだ、致し方ない。人前で泣くなど何年ぶりか、と今更ながら恥ずかしくなるも、気を取り直して杉元の煤けた顔を拭いていく。今度は杉元自身が介抱される側となり、恥ずかしそうにしている。さくらは、されるがままの杉元の姿に見た目に似合わず可愛らしいな、と口元を上げた。
一方でアシリパの方は、今まで大事にしていたはんぺんを取り出すと、牛山に大事そうに見せた。
「チンポ先生……!」
アシリパにとって牛山がかなりの上位のポジションにいることが分かる場面であった。白石が一連の流れをみながら「俺のことは?俺もいるよ?」とさくらに呼びかけるも相手にされず、キロランケは「あきらめろ。」とでも言うように大きく首を振った。
杉元と白石に水を用意してたり、杉元は落ち着いたところで牛山に問うた。
「なんであんたがこんなところに?」
「連れと夕張に来ていたが、ふらっと居なくなってな。探していたらお前らがトロッコに乗ってるのを見つけたんだ。」
「連れ?」
いぶかしそうにする杉元、その他一同も首をかしげた。
「…なんだか猫みたいな人。」
さくらが誰に言うでもなくぼそりとつぶやくと、背後から男の声がした。
「誰が猫だって?」
振り向くと煤まみれの軍人が立っていた。軍服と言うことでさくらは自然と身構えた。気だるげな瞳は、どこかで見たような気がする…。
「あ……」
邪魔そうに前髪を掻き上げて、男はさくらの反応にかまわず言葉を継いだ。
「しょうがねえ。そいつら、連れてこい。」
そう言ってすたすた歩き始める男に、鶴見の罠か?と思い、足が止まる。
「ここじゃ人目もある。ついてきな。」
牛山の言葉にしぶしぶながらついて行くことにした。
向かった先は、聞き込みをして特定したなめし職人の家だった。小高い丘の上に洋風の建築の一軒家だ。中に入ると、様々な動物の剥製が所狭しと並べられていた。今にも動きだしそうな剥製に、ここの職人の腕の良さを感じる。男が案内したのは、その部屋からさらに奥に入った場所だった。部屋に案内されると、数人の男たちの顔が見えた。
「ひいっ!!」
最初に声を上げたのは白石で、男たちの首から下は皮が剥ぎ取られている。まるで『生きた人間』のように今にもしゃべり出しそうだ。明らかに本物の人間が剥製にされている。…不快感に胸の中からせり上がってくるような感覚がしてくる。耐えきれずに目をそらしてやり過ごす。
「贋物は…おそらくこの6体の剥製を利用して作られた。」
「なんてこった…気色悪い。」
さすがに牛山も顔をしかめている。他の者も気味悪そうにしているが、男は気にせずに説明を続けた。
「剥製屋の坊やが死んでいるのは確認した。月島軍曹は屈強な兵士だ…炭鉱から死体が出なければ6枚の贋作が出回ってしまう事を想定しなければなるまい。」
月島と職人とを追って杉元たちは先の炭鉱に乗り込んだのだ。もし、月島が生きているとなれば、あの鶴見に這ってでも贋作を届けに行くだろう。さくらの顔が自然とこわばる。男はそれを目の端でとらえながら、牛山に声をかけた。
「ジジイは呼んだか?」
「もうすぐ来るはずだ。」
牛山が答えたところで、近くの扉が開いた。新手か、と身構える中、最初にその緊張を解いたのは牛山だった。
「贋作か本物か…」
扉から入ってくる初老の男には見覚えがあった。あの蕎麦屋で牛山を迎えに来たあの男だ。
「この忘れ物がどっちなのか、判別する方法を探さねば。」
男の手には刺青人皮が握られていた。