白銀の世界で
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店に到着し、席に案内された。そこで皆が落ち着いたところで、ようやく件の男はこちらの存在に気がついたようだった。
「…あんたは」
「ええ、お久しぶりです。」
一瞬、目を見開いて驚いた男に対してさくらは冷静に受け答えをした。その様子にさくらと男の他は不思議そうにしている。杉元はさくらと男の両方を交互に見ながら、「知り合い?」とさくらに問うた。
「以前、働いていた先で一度お会いしたことがあるんです。」
あえて白石の口利きで働いた場所とは明言しなかった。正直に話せば、きっとこの場の雰囲気を壊してしまうだろう。あのことは、すでに謝罪を受けているのだ。ここで蒸し返す必要は無い。杉元は呉服屋の方のことだと思ってくれたようで、「ああ、そうなんだ!」と、合点がいったように言った。男の方は申し訳なさそうな表情が見て取れる。そこでさくらはにこりと笑いかけた。
「私、洋食ってめずらしいから楽しみなんです。今日はご馳走になりますね。」
現代では珍しくもないが、ここでは素性を知っているのは杉元だけだ。そういって笑いかけると、男は、ほっとしたような表情をみせた。
「そうかい。ここはカレーがうまいんだ。みんなも好きなだけ食べてくれ。」
その言葉にアシリパやキロランケ、杉元は、ぱあっと表情を明るくして「ご馳走になります!!」と次々と料理を注文していった。
カレーライスが運ばれてくると、スパイシーな香りが卓上に広がった。久しぶりの洋食だ。ほかほかの白米が光っている。それに対してアシリパの表情は暗い。
「オソマ……」
と、じいっとカレーを見つめている。アイヌにとってはカレーは見たことも無いものなんだろう。色といい、初めてみた者にはハードルが高いのかもしれない。その様子に気がついた杉元がアシリパに声をかける。
「アシリパさん。それ『食べてもいいオソマ』だから。」
そう言われ、アシリパは恐る恐るスプーンを手に、カレーを掬った。口にした途端、アシリパは「ヒンナすぎるオソマ……!」と身もだえた。確かに、肉も野菜も柔らかく煮込まれ、スパイスがきいておいしい。さくらも久々のカレーに舌鼓を打った。
傍らでは男たちのビールの飲み比べ対決が始まった。空の瓶がテーブル並ぶごとに男たちの様子も酔いが回っているようだった。赤い顔をしながら男は瓶ごとビールをあおっている。気持ちよく酔っているのがはためからみても分かる。
「知ってるか?サッポロのビール工場を村橋久成っているお侍さんはな…箱館戦争で土方歳三と戦った新政府軍の軍艦だった。土方のやろう…戦争に負けたのは悔しいがやつの作ったビールはうまいってよ。」
「土方歳三が?」
杉元の言葉にすぐ「もしも生きてりゃそう言うだろって話よ。」と返し、豪快に笑いながらビールをあおった。
さくらは、男の様子に違和感を持った。まるで今でも生きているかのような言い方…。そして思い出すのは、あのニシン場で話した老人のことだった。やけに新撰組に詳しいあの男と、この男の言葉が言い様もない胸のわざめきを起こさせた。考えをまとめようとしたところで、アシリパが件の男の額へと飛びかかった。
「ふぬぬぬっ!みんな手伝えっ!」
「こらこらアシリパさん。とれないよ…こぶとりじいさんじゃないんだから。」
いさめる杉元の声など聞こえないと言うように、なおも男の額のこぶを引っ張るアシリパに「ほら、アシリパさん、やめなさい。」と、さくらは強制的に引きはがした。
その後なぜか男の逸物の談義となり、男たちには好評で、みな男の言葉にうんうん、と相づちを打っていた。そこで杉元がアシリパに自身のものを馬鹿にされ、必死に否定しながら、こちらへと視線を向けた。しかし、さくらは素知らぬ顔をしてビールに口をつけてお茶を濁した。へたに関わっても火傷するだけだ。静観するにとどめようと無視を決め込んでいたところで、白石からねっとりとしたいやな視線を感じた。
「さくらちゃんはどうなの?」
こういう時だけパスを回してくるところにいらいらするが、ムキになるとさらに騒ぎそうだ。みなの視線が一気にこちらへ向く。窺うような視線や、面白そうに見つめる目。現代でこの手の話題をすればセクハラと言ってはねのけるところだ。ただ、この時代にセクハラだのという概念などないのだろう。そう思うと、自然と大きなため息がでた。そして、にこりと分かりやすいほどの愛想笑いを浮かべて白石の方を見た。
「私にとって大切と思える存在になったら白石さんに教えてあげますよ。がんばってくださいね。」
そう言うと白石はちえ、と頬を膨らませた。そこで話は終わったとばかりに男は「よしっ帰るぞ!」と言って席を立った。皆もそれに続いて店を後にした。
「…あんたは」
「ええ、お久しぶりです。」
一瞬、目を見開いて驚いた男に対してさくらは冷静に受け答えをした。その様子にさくらと男の他は不思議そうにしている。杉元はさくらと男の両方を交互に見ながら、「知り合い?」とさくらに問うた。
「以前、働いていた先で一度お会いしたことがあるんです。」
あえて白石の口利きで働いた場所とは明言しなかった。正直に話せば、きっとこの場の雰囲気を壊してしまうだろう。あのことは、すでに謝罪を受けているのだ。ここで蒸し返す必要は無い。杉元は呉服屋の方のことだと思ってくれたようで、「ああ、そうなんだ!」と、合点がいったように言った。男の方は申し訳なさそうな表情が見て取れる。そこでさくらはにこりと笑いかけた。
「私、洋食ってめずらしいから楽しみなんです。今日はご馳走になりますね。」
現代では珍しくもないが、ここでは素性を知っているのは杉元だけだ。そういって笑いかけると、男は、ほっとしたような表情をみせた。
「そうかい。ここはカレーがうまいんだ。みんなも好きなだけ食べてくれ。」
その言葉にアシリパやキロランケ、杉元は、ぱあっと表情を明るくして「ご馳走になります!!」と次々と料理を注文していった。
カレーライスが運ばれてくると、スパイシーな香りが卓上に広がった。久しぶりの洋食だ。ほかほかの白米が光っている。それに対してアシリパの表情は暗い。
「オソマ……」
と、じいっとカレーを見つめている。アイヌにとってはカレーは見たことも無いものなんだろう。色といい、初めてみた者にはハードルが高いのかもしれない。その様子に気がついた杉元がアシリパに声をかける。
「アシリパさん。それ『食べてもいいオソマ』だから。」
そう言われ、アシリパは恐る恐るスプーンを手に、カレーを掬った。口にした途端、アシリパは「ヒンナすぎるオソマ……!」と身もだえた。確かに、肉も野菜も柔らかく煮込まれ、スパイスがきいておいしい。さくらも久々のカレーに舌鼓を打った。
傍らでは男たちのビールの飲み比べ対決が始まった。空の瓶がテーブル並ぶごとに男たちの様子も酔いが回っているようだった。赤い顔をしながら男は瓶ごとビールをあおっている。気持ちよく酔っているのがはためからみても分かる。
「知ってるか?サッポロのビール工場を村橋久成っているお侍さんはな…箱館戦争で土方歳三と戦った新政府軍の軍艦だった。土方のやろう…戦争に負けたのは悔しいがやつの作ったビールはうまいってよ。」
「土方歳三が?」
杉元の言葉にすぐ「もしも生きてりゃそう言うだろって話よ。」と返し、豪快に笑いながらビールをあおった。
さくらは、男の様子に違和感を持った。まるで今でも生きているかのような言い方…。そして思い出すのは、あのニシン場で話した老人のことだった。やけに新撰組に詳しいあの男と、この男の言葉が言い様もない胸のわざめきを起こさせた。考えをまとめようとしたところで、アシリパが件の男の額へと飛びかかった。
「ふぬぬぬっ!みんな手伝えっ!」
「こらこらアシリパさん。とれないよ…こぶとりじいさんじゃないんだから。」
いさめる杉元の声など聞こえないと言うように、なおも男の額のこぶを引っ張るアシリパに「ほら、アシリパさん、やめなさい。」と、さくらは強制的に引きはがした。
その後なぜか男の逸物の談義となり、男たちには好評で、みな男の言葉にうんうん、と相づちを打っていた。そこで杉元がアシリパに自身のものを馬鹿にされ、必死に否定しながら、こちらへと視線を向けた。しかし、さくらは素知らぬ顔をしてビールに口をつけてお茶を濁した。へたに関わっても火傷するだけだ。静観するにとどめようと無視を決め込んでいたところで、白石からねっとりとしたいやな視線を感じた。
「さくらちゃんはどうなの?」
こういう時だけパスを回してくるところにいらいらするが、ムキになるとさらに騒ぎそうだ。みなの視線が一気にこちらへ向く。窺うような視線や、面白そうに見つめる目。現代でこの手の話題をすればセクハラと言ってはねのけるところだ。ただ、この時代にセクハラだのという概念などないのだろう。そう思うと、自然と大きなため息がでた。そして、にこりと分かりやすいほどの愛想笑いを浮かべて白石の方を見た。
「私にとって大切と思える存在になったら白石さんに教えてあげますよ。がんばってくださいね。」
そう言うと白石はちえ、と頬を膨らませた。そこで話は終わったとばかりに男は「よしっ帰るぞ!」と言って席を立った。皆もそれに続いて店を後にした。