白銀の世界で
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小樽を出発して、まず向かったのは札幌だった。キロランケの知り合いの鉄砲店によるためだ。知り合いの店でなら足がつかないというキロランケの言葉で、旭川を通る前に爆薬やその他必要なものを準備をすることになった。そこの店主に聞いた情報で近くに泊まれそうな宿を教えてもらうことが出来た。
「ここが札幌世界ホテルか。」
道中ぼろぼろだった白石は、ホテルの前まで来ると、目を輝かせた。その理由というのも女将がとても魅力的だということであった。評判の女将に会うため、普段なら色街か賭場にくりだすはずが、皆と同じく宿へと向かったのだった。そんな白石にさくらは白い目を向けていたが、借金を作ってこられるよりはましか、と考え直した。西洋風の建物で、この時代の建物に比べると前衛的だった。ガラスの窓と洋風の扉。現代では当たり前の西洋の文化を取り込んだものが、明治時代にはまだまだ少なく、余計に目を引いた。
杉元は扉を開いて、ホテルの中へと入った。がらん、としたエントランスには受付係はいないようであった。女将一人で切り盛りしているのだろうか。
「すみませーん。だれかいませんか?」
杉元の呼びかけからしばらくして階段を駆け下りる軽やかな足音が聞こえた。視線を階段の方へと向けると、上質なドレスに身を包んだ、妖艶な女性がこちらへ向かっているところだった。細い手首に細い腰、透き通るような肌。女性から見ても素敵だと感じる。
「いらっしゃいませ、女将の家永です。」
ぷっくりと愛らしい唇は弧を描き、完璧な笑顔で出迎えた。それに白石は皆を押しのけて一人、女将の前に立った。
「白石ヨシタケです。独身で彼女は居ません。つきあったら一途で情熱的です。」
白石は、普段なら考えられないような爽やかな声ときりっとした視線で女将に握手を促した。女将は握手に答えたものの、その言葉を受け流し、皆を部屋へと案内してくれた。
階段を上がってから右へ左へ、方向転換を重ねて、部屋へ向かっていく。まるで迷路のようだ。
「ずいぶんと入り組んだ造りのホテルだな。」
杉元も同じように思ったのか、女将に尋ねた。
「古かったので、私が引き継いでからも改装に改装を重ねまして。」
案内する女将に白石は終始でれでれしっぱなしだ。みなが、顔を見合わせて、やれやれといった雰囲気だ。本人はそんなことに気付かず、女将に話しかける。
「家永さん、下のお名前は…?」
「カノと申します。」
「素敵な名前だ。」
さらに目を輝かせる白石に誰も何も言わなかった。ただ、余計な金さえ落とさなければそれでいい、とさえ思っていた。
宿泊する部屋は二部屋で、白石とキロランケ、杉元とアシリパ、さくらが同室で泊まることとなった。初めは杉元が白石たちと同室でと申し出たが、女二人では危険だとキロランケが進言したことで、さくらは、男三人のうちの誰かと部屋を共にするか決めなくてはならなかった。まだ得体の知れないキロランケや、危険が迫れば真っ先に我が身かわいさで逃走するだろう白石と相部屋になるなど、考えられない。となれば、残るは杉元しかいない。そうして、今回の部屋割りに決まったのだった。
案内された部屋はベッドが三つ横に並び、小さなテーブルと洋風の椅子が用意されていた。アシリパは部屋に入るやいなや、真っ先に真ん中のベッドに飛び込んだ。
「おお!!ふかふかだ!!」
アシリパは、ひとしきり寝転がってベッドの感触を堪能するも、
「なんか落ち着かないな。」
と、感想を述べた。さくらはその子供らしい様子に、くすりと笑った。大自然の中では頼りになる少女も、このような場所では年相応の反応なのだな、とかわいらしく思った。
「山では松の葉をしいて地面で寝てるもんね。」
そういいながら、扉側のベッドへ杉元は寝転んでいる。すでに寛ぐ体勢だ。さくらは残った窓側のベッドに腰を下ろした。久しぶりに感じるベッドの柔らかな感触に自然とため息がこぼれた。
「久しぶりの布団はいいよね。」
と、杉元がこちらの様子を見てそう言った。
「なんだか落ち着きますね。」
三人が思い思いに寛いでいると、どこからか物音がした。
すぐさま気付いたのは杉元であった。
「私のオナカだ。」
ぐうっと鳴るアシリパのお腹の音も確かに似ているが、先ほどとは少し違うような…。そうは思っても一瞬のことだ。しばらく物音がしないかうかがっても、静かなため、杉元も深くは追求しなかった。
キロランケも誘い、皆で夕飯へと繰り出した。白石は女将を追っていったらしく、先に行くことにした。
「「シンナキサラ」」
キロランケとアシリパの言葉に一人の男がこちらを振り向いた。
「なに?」
「それは柔道耳ってやつだ。あんた相当やってたね。俺は体質なのかそんな耳にはならなかったよ。」
見覚えのある背広とその顔。さくらが以前、そば屋で部屋に引き込まれたあの客だった。こちらは気付いたが、杉元が同じく柔道を嗜んでいたということで、そちらに意識が向いている。そのため、さくらの存在には気付いてないようだ。
「ほう…心得があるのかね?」
そういうやいなや、二人はお互いに組み手をして、にらみ合った。そばにいるさくらにさえ、二人の気迫が伝わってくる。この男も相当強いのだ、と肌で感じる。こめかみに冷や汗が浮かぶ。息をするのさえ憚られるような雰囲気を破ったのは相手の男だった。
「このままでは殺し合いになる。こんな強いやつは気に入った。」
「おごってやる!飲みに行こう!」
男に言われるまま、みなで近くの西洋料理店へ向かうことになった。
「ここが札幌世界ホテルか。」
道中ぼろぼろだった白石は、ホテルの前まで来ると、目を輝かせた。その理由というのも女将がとても魅力的だということであった。評判の女将に会うため、普段なら色街か賭場にくりだすはずが、皆と同じく宿へと向かったのだった。そんな白石にさくらは白い目を向けていたが、借金を作ってこられるよりはましか、と考え直した。西洋風の建物で、この時代の建物に比べると前衛的だった。ガラスの窓と洋風の扉。現代では当たり前の西洋の文化を取り込んだものが、明治時代にはまだまだ少なく、余計に目を引いた。
杉元は扉を開いて、ホテルの中へと入った。がらん、としたエントランスには受付係はいないようであった。女将一人で切り盛りしているのだろうか。
「すみませーん。だれかいませんか?」
杉元の呼びかけからしばらくして階段を駆け下りる軽やかな足音が聞こえた。視線を階段の方へと向けると、上質なドレスに身を包んだ、妖艶な女性がこちらへ向かっているところだった。細い手首に細い腰、透き通るような肌。女性から見ても素敵だと感じる。
「いらっしゃいませ、女将の家永です。」
ぷっくりと愛らしい唇は弧を描き、完璧な笑顔で出迎えた。それに白石は皆を押しのけて一人、女将の前に立った。
「白石ヨシタケです。独身で彼女は居ません。つきあったら一途で情熱的です。」
白石は、普段なら考えられないような爽やかな声ときりっとした視線で女将に握手を促した。女将は握手に答えたものの、その言葉を受け流し、皆を部屋へと案内してくれた。
階段を上がってから右へ左へ、方向転換を重ねて、部屋へ向かっていく。まるで迷路のようだ。
「ずいぶんと入り組んだ造りのホテルだな。」
杉元も同じように思ったのか、女将に尋ねた。
「古かったので、私が引き継いでからも改装に改装を重ねまして。」
案内する女将に白石は終始でれでれしっぱなしだ。みなが、顔を見合わせて、やれやれといった雰囲気だ。本人はそんなことに気付かず、女将に話しかける。
「家永さん、下のお名前は…?」
「カノと申します。」
「素敵な名前だ。」
さらに目を輝かせる白石に誰も何も言わなかった。ただ、余計な金さえ落とさなければそれでいい、とさえ思っていた。
宿泊する部屋は二部屋で、白石とキロランケ、杉元とアシリパ、さくらが同室で泊まることとなった。初めは杉元が白石たちと同室でと申し出たが、女二人では危険だとキロランケが進言したことで、さくらは、男三人のうちの誰かと部屋を共にするか決めなくてはならなかった。まだ得体の知れないキロランケや、危険が迫れば真っ先に我が身かわいさで逃走するだろう白石と相部屋になるなど、考えられない。となれば、残るは杉元しかいない。そうして、今回の部屋割りに決まったのだった。
案内された部屋はベッドが三つ横に並び、小さなテーブルと洋風の椅子が用意されていた。アシリパは部屋に入るやいなや、真っ先に真ん中のベッドに飛び込んだ。
「おお!!ふかふかだ!!」
アシリパは、ひとしきり寝転がってベッドの感触を堪能するも、
「なんか落ち着かないな。」
と、感想を述べた。さくらはその子供らしい様子に、くすりと笑った。大自然の中では頼りになる少女も、このような場所では年相応の反応なのだな、とかわいらしく思った。
「山では松の葉をしいて地面で寝てるもんね。」
そういいながら、扉側のベッドへ杉元は寝転んでいる。すでに寛ぐ体勢だ。さくらは残った窓側のベッドに腰を下ろした。久しぶりに感じるベッドの柔らかな感触に自然とため息がこぼれた。
「久しぶりの布団はいいよね。」
と、杉元がこちらの様子を見てそう言った。
「なんだか落ち着きますね。」
三人が思い思いに寛いでいると、どこからか物音がした。
すぐさま気付いたのは杉元であった。
「私のオナカだ。」
ぐうっと鳴るアシリパのお腹の音も確かに似ているが、先ほどとは少し違うような…。そうは思っても一瞬のことだ。しばらく物音がしないかうかがっても、静かなため、杉元も深くは追求しなかった。
キロランケも誘い、皆で夕飯へと繰り出した。白石は女将を追っていったらしく、先に行くことにした。
「「シンナキサラ」」
キロランケとアシリパの言葉に一人の男がこちらを振り向いた。
「なに?」
「それは柔道耳ってやつだ。あんた相当やってたね。俺は体質なのかそんな耳にはならなかったよ。」
見覚えのある背広とその顔。さくらが以前、そば屋で部屋に引き込まれたあの客だった。こちらは気付いたが、杉元が同じく柔道を嗜んでいたということで、そちらに意識が向いている。そのため、さくらの存在には気付いてないようだ。
「ほう…心得があるのかね?」
そういうやいなや、二人はお互いに組み手をして、にらみ合った。そばにいるさくらにさえ、二人の気迫が伝わってくる。この男も相当強いのだ、と肌で感じる。こめかみに冷や汗が浮かぶ。息をするのさえ憚られるような雰囲気を破ったのは相手の男だった。
「このままでは殺し合いになる。こんな強いやつは気に入った。」
「おごってやる!飲みに行こう!」
男に言われるまま、みなで近くの西洋料理店へ向かうことになった。