白銀の世界で
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「俺たちが現状持っている、入れ墨は何枚だっけ?」
杉元の問いかけに皆で枚数を確認する。現状、白石を合わせた5枚だ。
「鶴見中尉が持っているのは白石が見た一枚だけなのか?」
「…さあ、どうだかな。」
「土方が囚人を集めて仲間にしているかもしれないんだよな?土方を見つけたら一気に入れ墨が集まる可能性が高いな。」
山中を歩く一行は現在所持している刺青人皮の確認をしていた。杉元の言葉に白石は軽く受け流して歩を進めている。あの老人と出会ってから、この手の話になると素っ気ないように感じるのはさくらの考えすぎだろうか。
「土方歳三か。どんな男だろう…。」
思い巡らす杉元は白石の様子に気にした風も無い。
「とても70を超えているとは思えねえ若々しさがあったな。人魚の肉でも食ったんじゃ無いかって囚人たちから言われていた。」
「にんぎょ?」
アシリパは、はて?と首をかしげた。アシリパは山で育ったアイヌだ。日本人に伝わっている海の伝承を知らないのも無理はないだろう。
「上半身が人間で下半身が魚の妖怪です。美しい女性の姿をしていて、美しい歌声と美貌で船人を海に引きずり込むと言われたりもしています。」
さくらがそう解説すると、杉元が付け加えた。
「それに、人魚の肉を食べると永遠の命と若さが手に入ると言われているんだ。」
今度は白石が続ける。
「八百比丘尼っていう伝説があってな。人魚の肉を食べた娘が不老不死になるんだが、長く生きると愛する者の最期を見送るばかり。娘は何百年も生き、尼となって最期は世をはかなみ岩窟に消えた。」
「この手の話は饒舌になるんですね。」
そう白石に嫌みを言ってやる。あの老人との関係から目を背けさせるかのように話すのだな。そう思えてならない。白石はどう受け取ったのか、焦ったように「俺はロマンチストでね…!」と指で撃つようなポーズをしてとぼけて見せた。
「死すべき時に死ねないつらさか…」
ぽつり、とつぶやいた杉元の声にさくらは無意識にそちらへと目を向けた。思いをはせるように空を見ている。杉元は一体何を思って八百比丘尼伝説を聞いていたのだろうか…。戦地での記憶をたぐり寄せているのだろうか。それともまだ帰れぬ故郷へと望郷の思いを強くしているのだろうか…。なんとなく声がかけずらく、そのまま足を動かした。
しばらく歩くと川が見えてきた。アシリパはイトウの主の伝説をみなに聞かせてくれた。熊を飲み込むほどのイトウとはいったいどれほどなのか、話を聞いただけで怖くなってくる。杉元も白石もかたずを飲んでいる。すると、川の方で水音が聞こえた。その音に近づいてみると、人影が魚を釣っているのがみてとれた。
「あの男がとっているのはイトウじゃないか?交渉して分けてもらおうぜ。」
いち発見した白石がそういうと、アシリパは「あ!」と声をあげた。
「キロランケニシパ!」
そう呼びかけると人影がこちらを向いた。
恰幅のいい男がこちらをみて、「アシリパ」と彼女の名前を呼んだ。どうやら知り合いらしい。
「あの人は父の昔の友人だ。」
アシリパがそう説明してくれ、みなでその男に近づいた。がたいの良さに反して甘いマスクの男は、威圧感を感じさせない。陽気な雰囲気が感じられる男にアシリパは懐いているようで、男に笑顔をむけている。小さい頃からの知り合いなのだろう。父親の友人と聞き、さくらはいくらか安心した。
キロランケと呼ばれた男は白石に釣り道具を貸してやり、白石はそれを使って釣りを始めた。引きが来たと思った時には白石は巨大なイトウに飲み込まれ、川へと引きずり込まれた。みなが驚き、とくに杉元とさくらは見たこともないほど大きなイトウに口をあんぐりと開けている。そこで一番に動いたのはキロランケで、すぐさま川に飛び込んだ。
「おい…!!」
「キロランケニシパ!!」
「キロランケさん…!!」
3人が心配の声を上げるなか、キロランケは岸に白石と白石を咥えたイトウを引き揚げた。先程話していた人魚のような様相である。全身ずぶ濡れの2人があたたまるよう、杉元が火をおこし、アシリパとさくらでイトウの解体をして、火に炙った。アシリパはイトウの皮は服にもなるが食べてもうまいのだと言って悩んでいたが、顔を見れば食べたいのだと誰もが分かった。
「食べちゃえば〜〜?」
と誘惑する杉元にアシリパの気持ちは傾いているようだ。
「皮をつけたまま焼けば肉の旨味を流さない。塩焼きが簡単だしおすすめだ。鮭は大きいほどうまい、イトウも鮭の仲間だから、このイトウの主も美味いはずだ。」
キロランケのその言葉に後押しされてアシリパは皮付きでイトウの身を切り出した。
「まずは刺身だな。」
杉元のその言葉で、さくらはアシリパと切り出していた身の幾らかを薄く切って皆に取り分けた。先程山中を歩いていた時に見つけた木の皮に盛り付け、みながそれに箸をつけた。
「うんうん、たしかに脂が多くて皮のトロだ。」
「ヒンナヒンナ!」
美味しそうに頬張る2人にさくらを微笑ましく見つめた。
「嬢ちゃんは食べないのか?」
キセルをふかして暖をとるキロランケがさくらに声をかけた。
「いえ、私も頂きます。…キロランケさんもどうぞ。」
取り分けたものをキロランケに手渡すと、ありがとう。と受け取ってくれた。自身も取り分けたものを口に運んだ。
「美味しい!」
臭みがなく、口の中でとろける。白石は手持ちの醤油をつけて頬張っている。
「鮭より臭みが少なくて上品な味だね」
そういう白石に皆がうんうん、と頷き次々と口の中にほうりこんだ。
次は切り身を食べようと杉元、アシリパ、白石はそのまま口を付けた。その豪快な食べっぷりをさくらとキロランケは静かに見守った。3人には申し訳ないが、正直このような食べ方をするのは抵抗がある。みなが落ち着いたところで少しいただこう。目玉を取り出したアシリパは杉元に差し出し、食べるように言った。
杉元、と名前を聞き、キロランケがぴくりと反応した。
「杉元…不死身の杉元か?」
その呼び方は軍に関係したものしか知らないはず。杉元の表情に緊張が走る。
「なぜそれを?」
「俺は第7師団だ」
その言葉にさくらの表情もかたくなった。…あの鶴見のいる師団。不快な笑みが頭の中を駆け巡る。ぎり、と歯を食いしばってその不快感に耐えた。杉元は一瞬こちらに目を向けると左手を短剣へとのばした。
「鶴見中尉の手下か?」
杉元はいつでも斬りかかれるように研ぎ澄ました空気を纏う。これが鶴見の罠であるのなら、大したものだ。ならば近くで彼らが待ち構えている可能性は大いにある。さくらは周辺に目を光らせた。
杉元の問いかけに皆で枚数を確認する。現状、白石を合わせた5枚だ。
「鶴見中尉が持っているのは白石が見た一枚だけなのか?」
「…さあ、どうだかな。」
「土方が囚人を集めて仲間にしているかもしれないんだよな?土方を見つけたら一気に入れ墨が集まる可能性が高いな。」
山中を歩く一行は現在所持している刺青人皮の確認をしていた。杉元の言葉に白石は軽く受け流して歩を進めている。あの老人と出会ってから、この手の話になると素っ気ないように感じるのはさくらの考えすぎだろうか。
「土方歳三か。どんな男だろう…。」
思い巡らす杉元は白石の様子に気にした風も無い。
「とても70を超えているとは思えねえ若々しさがあったな。人魚の肉でも食ったんじゃ無いかって囚人たちから言われていた。」
「にんぎょ?」
アシリパは、はて?と首をかしげた。アシリパは山で育ったアイヌだ。日本人に伝わっている海の伝承を知らないのも無理はないだろう。
「上半身が人間で下半身が魚の妖怪です。美しい女性の姿をしていて、美しい歌声と美貌で船人を海に引きずり込むと言われたりもしています。」
さくらがそう解説すると、杉元が付け加えた。
「それに、人魚の肉を食べると永遠の命と若さが手に入ると言われているんだ。」
今度は白石が続ける。
「八百比丘尼っていう伝説があってな。人魚の肉を食べた娘が不老不死になるんだが、長く生きると愛する者の最期を見送るばかり。娘は何百年も生き、尼となって最期は世をはかなみ岩窟に消えた。」
「この手の話は饒舌になるんですね。」
そう白石に嫌みを言ってやる。あの老人との関係から目を背けさせるかのように話すのだな。そう思えてならない。白石はどう受け取ったのか、焦ったように「俺はロマンチストでね…!」と指で撃つようなポーズをしてとぼけて見せた。
「死すべき時に死ねないつらさか…」
ぽつり、とつぶやいた杉元の声にさくらは無意識にそちらへと目を向けた。思いをはせるように空を見ている。杉元は一体何を思って八百比丘尼伝説を聞いていたのだろうか…。戦地での記憶をたぐり寄せているのだろうか。それともまだ帰れぬ故郷へと望郷の思いを強くしているのだろうか…。なんとなく声がかけずらく、そのまま足を動かした。
しばらく歩くと川が見えてきた。アシリパはイトウの主の伝説をみなに聞かせてくれた。熊を飲み込むほどのイトウとはいったいどれほどなのか、話を聞いただけで怖くなってくる。杉元も白石もかたずを飲んでいる。すると、川の方で水音が聞こえた。その音に近づいてみると、人影が魚を釣っているのがみてとれた。
「あの男がとっているのはイトウじゃないか?交渉して分けてもらおうぜ。」
いち発見した白石がそういうと、アシリパは「あ!」と声をあげた。
「キロランケニシパ!」
そう呼びかけると人影がこちらを向いた。
恰幅のいい男がこちらをみて、「アシリパ」と彼女の名前を呼んだ。どうやら知り合いらしい。
「あの人は父の昔の友人だ。」
アシリパがそう説明してくれ、みなでその男に近づいた。がたいの良さに反して甘いマスクの男は、威圧感を感じさせない。陽気な雰囲気が感じられる男にアシリパは懐いているようで、男に笑顔をむけている。小さい頃からの知り合いなのだろう。父親の友人と聞き、さくらはいくらか安心した。
キロランケと呼ばれた男は白石に釣り道具を貸してやり、白石はそれを使って釣りを始めた。引きが来たと思った時には白石は巨大なイトウに飲み込まれ、川へと引きずり込まれた。みなが驚き、とくに杉元とさくらは見たこともないほど大きなイトウに口をあんぐりと開けている。そこで一番に動いたのはキロランケで、すぐさま川に飛び込んだ。
「おい…!!」
「キロランケニシパ!!」
「キロランケさん…!!」
3人が心配の声を上げるなか、キロランケは岸に白石と白石を咥えたイトウを引き揚げた。先程話していた人魚のような様相である。全身ずぶ濡れの2人があたたまるよう、杉元が火をおこし、アシリパとさくらでイトウの解体をして、火に炙った。アシリパはイトウの皮は服にもなるが食べてもうまいのだと言って悩んでいたが、顔を見れば食べたいのだと誰もが分かった。
「食べちゃえば〜〜?」
と誘惑する杉元にアシリパの気持ちは傾いているようだ。
「皮をつけたまま焼けば肉の旨味を流さない。塩焼きが簡単だしおすすめだ。鮭は大きいほどうまい、イトウも鮭の仲間だから、このイトウの主も美味いはずだ。」
キロランケのその言葉に後押しされてアシリパは皮付きでイトウの身を切り出した。
「まずは刺身だな。」
杉元のその言葉で、さくらはアシリパと切り出していた身の幾らかを薄く切って皆に取り分けた。先程山中を歩いていた時に見つけた木の皮に盛り付け、みながそれに箸をつけた。
「うんうん、たしかに脂が多くて皮のトロだ。」
「ヒンナヒンナ!」
美味しそうに頬張る2人にさくらを微笑ましく見つめた。
「嬢ちゃんは食べないのか?」
キセルをふかして暖をとるキロランケがさくらに声をかけた。
「いえ、私も頂きます。…キロランケさんもどうぞ。」
取り分けたものをキロランケに手渡すと、ありがとう。と受け取ってくれた。自身も取り分けたものを口に運んだ。
「美味しい!」
臭みがなく、口の中でとろける。白石は手持ちの醤油をつけて頬張っている。
「鮭より臭みが少なくて上品な味だね」
そういう白石に皆がうんうん、と頷き次々と口の中にほうりこんだ。
次は切り身を食べようと杉元、アシリパ、白石はそのまま口を付けた。その豪快な食べっぷりをさくらとキロランケは静かに見守った。3人には申し訳ないが、正直このような食べ方をするのは抵抗がある。みなが落ち着いたところで少しいただこう。目玉を取り出したアシリパは杉元に差し出し、食べるように言った。
杉元、と名前を聞き、キロランケがぴくりと反応した。
「杉元…不死身の杉元か?」
その呼び方は軍に関係したものしか知らないはず。杉元の表情に緊張が走る。
「なぜそれを?」
「俺は第7師団だ」
その言葉にさくらの表情もかたくなった。…あの鶴見のいる師団。不快な笑みが頭の中を駆け巡る。ぎり、と歯を食いしばってその不快感に耐えた。杉元は一瞬こちらに目を向けると左手を短剣へとのばした。
「鶴見中尉の手下か?」
杉元はいつでも斬りかかれるように研ぎ澄ました空気を纏う。これが鶴見の罠であるのなら、大したものだ。ならば近くで彼らが待ち構えている可能性は大いにある。さくらは周辺に目を光らせた。