白銀の世界で
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「お前、あいつの仲間か?」
そういって振り下ろされたナイフを見て、さくらは、殺されると感じた。脅しでもなく、純粋に必要があれば殺すのだろう。何の情けもない、圧倒的な殺意に体が震えた。
「ち、違うわ・・・」
「お前もアレを狙ってるんじゃないのか?」
そういって、ナイフが、ぐっっと押しつけられる。頬からさらに温かい血が流れた。
アレが何を指すのか分からない。それを杉元たちが探しているのは分かった。しかし、さくらはこの男のいうアレに何一つとして心当たりがない。それにも関わらず、先ほど川に流されていった男を助けようとしただけで仲間だと疑われ、敵のような扱いを受けている。
「しら・・知らな・・・」
「それともお前も入れ墨の囚人か?」
そういいながら、男はさくらの服に手をかけた。
(っ・・・!?なにこの男!!?)
「いやっ!・・・やめて!!」
必死に抵抗をするも、男に軽々と暴れる手を片手で押さえ込まれ、上着をたくし上げられる。
男はさくらの体をまじまじと見つめながら、「囚人じゃねえのか・・・」とつぶやいた。
さくらの方はこのまま犯されると思い、体をよじってなんとか杉元の手から逃れようとした。ナイフが顔を何度も傷つけ、涙と一緒に顔を濡らす。
「杉元・・・!いい加減にしろ!!」
少女が男の頭を思い切り殴った。それに、男は少し涙を浮かべながら少女の方を向いた。
「痛いな、アシリパさあん。」
「この人は関係ない。先ほどの兵士と関わりがあるのなら、丸腰の女がお前に向かってくるはずがない。遠くから様子をうかがっているはずだろう。」
「確かにそうだな・・・。」
「それに、よく見ろ。」
アシリパはさくらに視線を向けた。
「お前の下で恐怖で泣いている人を、まだ傷つけるつもりか。それがシサムの戦士の戦い方なのか?」
その言葉に杉元は再びさくらに目を向けた。
その視線の先には、服を乱し、涙と血の混じったもので顔を汚し、体を震わせる姿があった。まるでけだものを見るような目で自分を見つめる女に、今、自分がナニをしているか自覚し、杉元は慌てて身を離した。
「すまない・・・!そういうつもりじゃないんだ!ただ、君があいつの仲間だったら、と」
先ほどとは打って変わり、あたふたし始めた杉元の様子に、殺されないことを感じ取ったが、さくらは警戒して、杉元から距離をとった。
アシリパはさくらのほうに近寄っていく。それにさくらは身構えたが、自分の頬を優しく確かめるように触る様子に、少し安心して、ほんの少し警戒を解いた。
「すこし傷が深いな。これで押さえておけ。」
アシリパはさくらにはぎれを手渡し、出血を押さえさせた。
「私はアシリパ、こっちはスギモトだ。巻き込んでしまってすまない。お前はなぜここにいたんだ?」
アシリパが心配そうにさくらを見つめる。「女一人で山に来るのは危険だぞ。」と続けた。先ほどの杉元という男は怖いが、自分を心配してくれる様子にさくらは、この少女ならば、と感じ、ここに来た経緯を話した。
小樽のホテルに友人と宿泊していたこと。そこで居眠りをしていたが、気付いたらここにいて、先ほどの現場に遭遇したこと。二人は半信半疑という表情をしていた。そして、さくらから少し距離をとって二人で何か話した後、アシリパから提案があった。
もうすぐ日が暮れてしまい、夜の山は危険なこと。近くに自分の小屋があるから、そこで一晩過ごしてから町まで送ってやる、というものだ。
さくらとしても、この寒空の中、野宿はご免こうむるし、このまま野生動物のえさになるより、この少女について行った方がいいだろうという考えに至った。しかし・・・、杉元の方に目を向けた。
「本当にいいんですか?」
「もちろんだ!」
アシリパはそう言ってくれるが、杉元の方が一番心配なのだ。なにかの誤解でまた襲われたらたまったものではない。
「杉元さん、あの、本当に付いて行っていいですか?」
「君がアシリパさんに危害を加えない、って約束してくれるなら。ただし、なにか妙なことしてたら、そのときは…分かるよな?」
そう、眼光鋭くなる杉元にさくらは反射的に身をすくませた。それをみたアシリパが、杉元にストゥで殴りかかった。
「杉元!そんな言い方では日向が怖がってしまうぞ!安心しろ日向!もしスギモトが襲いそうになったら私がスギモトをストゥで殴ってやる。」
こんな風に!といってアシリパは杉元の頭を木の棒のようなもので殴りつけた。鈍い音がして、杉元は半泣きだ。
「アシリパさん、ひどーい!」
「黙れスギモト!お前がこの女性にしたことに比べれば痛くもかゆくもないだろ!」
「うぅ”・・・」
「日が暮れると、襲われても反撃できない。もう行くぞ。」
そう言って、立ち上がったアシリパにさくらと杉元は続いた。
「私の狩猟小屋で食事の支度だ。」
そういうアシリパの前には葉で覆われた小屋があった。その中に入って、食事の準備を手伝った。
「生でとれたリスを食べよう。チタタプにする。」
「チタタプ?」
杉元は顔を傾けた。先ほどの鋭い目線からは想像もできない、子供っぽい仕草だ。あの後、杉元も、もう乱暴はしないと約束してくれたのだが、やはり出会いが衝撃的すぎた。さくらは、なるべくアシリパの近くで料理を手伝っていた。
「刃物でたたいて挽肉にする。アイヌの料理だ。」
アシリパはリスの皮をするり、と簡単に剥いてみせる。そこから脳みそをスプーンにとって杉元に渡した。
「スギモト、脳みそ食っていいぞ。」
「え!?アシリパさん、それ生で食うの?」
「どういう意味だ?私たちの食べ方に文句があるのか?」
「あ、いや・・・・俺そういうの食べ慣れてないし・・・」
そう言って杉元が戸惑うのも分かる。正直、見た目は食欲をそそるとは言い難いものだ。それでもアシリパの好意を受け取って恐る恐る、口を付けている。
「うまいか?」
杉元はなんとも言えない表情をしていた。だが、まずいとは言わなかった。他文化の受け入れづらいところを、はなから否定しない姿勢は気遣いができる人なのだな、と感じる。
狩猟の技術は父親から受け継いだもの。アイヌの女性は裁縫や料理をやるが、アシリパさんには狩猟の方が性に合っているらしい。
「交代しろ。チタタプは我々が刻む物、という意味だ。交代して叩くから我々という意味なんだ。」
チタタプ、チタタプ
大きな体を丸めて杉元がチタタプをしている。そのアンバランスさがなんとも言えない。その様子を横目に、さくらは食材の用意や、火の様子を見たりしていた。しばらくして、隣で音が聞こえなくなって目を向けると杉元がこちらを見ていた。
反射的に体を揺らしてしまう。
「どうしました…?」
愛想笑いで問いかけると、杉元はモジモジしながら、先程まで叩いていたナイフをこちらに渡してきた。
「これって我々で刻むものだろう?そしたら君もどうかなって。」無理にとは言わないけど。と杉元は、断りやすい言葉も付けながら提案する。
「日向お前もチタタプしろ!」
傷を見てくれていた優しさとは打って変わり、アシリパは厳しい。このチタタプはこの少女にとって大切なことなのかもしれない。見たところ服装も不思議だし、どこかの部族の文化なのかもしれない。さくらは素直に杉元からナイフを受け取ってチタタプをした。その様子にアシリパは満足そうな息を吐き、ふたたび食事の支度にとりかかった。
チタタプが終わり、アシリパに手渡す。それをアシリパはスプーンのような木の匙で肉を丸め始めた。
「お上品なシサムのスギモトと日向が食べやすいように、全部丸めてオハウに入れてやる。」
「肉のつみれ汁か、かたじけない。」
グツグツ煮込まれたオハウは肉の脂が染み出し、つやつやとしている。何とも食欲を誘う香りが小屋じゅうに漂った。杉元とさくらはよそってもらったオハウに口をつけた。
「おしいし…!」
「うん!うまい!」
杉元は目を輝かせ、汁をかきこんだ。
「肉は臭みがなく、ほんのり甘くて、柔らかい肉の中に細かく刻んだ骨のこりこりした食感がいい!」
「ヒンナヒンナ。」
「ん?」
「何だいそれ?」
「感謝を表す言葉だ。食事にも言うんだ。」
「ヒンナ・・・」
それを聞いて、杉元はヒンナヒンナとアシリパに合わせて復唱した。さくらもそれに合わせヒンナと呟いた。
そういって振り下ろされたナイフを見て、さくらは、殺されると感じた。脅しでもなく、純粋に必要があれば殺すのだろう。何の情けもない、圧倒的な殺意に体が震えた。
「ち、違うわ・・・」
「お前もアレを狙ってるんじゃないのか?」
そういって、ナイフが、ぐっっと押しつけられる。頬からさらに温かい血が流れた。
アレが何を指すのか分からない。それを杉元たちが探しているのは分かった。しかし、さくらはこの男のいうアレに何一つとして心当たりがない。それにも関わらず、先ほど川に流されていった男を助けようとしただけで仲間だと疑われ、敵のような扱いを受けている。
「しら・・知らな・・・」
「それともお前も入れ墨の囚人か?」
そういいながら、男はさくらの服に手をかけた。
(っ・・・!?なにこの男!!?)
「いやっ!・・・やめて!!」
必死に抵抗をするも、男に軽々と暴れる手を片手で押さえ込まれ、上着をたくし上げられる。
男はさくらの体をまじまじと見つめながら、「囚人じゃねえのか・・・」とつぶやいた。
さくらの方はこのまま犯されると思い、体をよじってなんとか杉元の手から逃れようとした。ナイフが顔を何度も傷つけ、涙と一緒に顔を濡らす。
「杉元・・・!いい加減にしろ!!」
少女が男の頭を思い切り殴った。それに、男は少し涙を浮かべながら少女の方を向いた。
「痛いな、アシリパさあん。」
「この人は関係ない。先ほどの兵士と関わりがあるのなら、丸腰の女がお前に向かってくるはずがない。遠くから様子をうかがっているはずだろう。」
「確かにそうだな・・・。」
「それに、よく見ろ。」
アシリパはさくらに視線を向けた。
「お前の下で恐怖で泣いている人を、まだ傷つけるつもりか。それがシサムの戦士の戦い方なのか?」
その言葉に杉元は再びさくらに目を向けた。
その視線の先には、服を乱し、涙と血の混じったもので顔を汚し、体を震わせる姿があった。まるでけだものを見るような目で自分を見つめる女に、今、自分がナニをしているか自覚し、杉元は慌てて身を離した。
「すまない・・・!そういうつもりじゃないんだ!ただ、君があいつの仲間だったら、と」
先ほどとは打って変わり、あたふたし始めた杉元の様子に、殺されないことを感じ取ったが、さくらは警戒して、杉元から距離をとった。
アシリパはさくらのほうに近寄っていく。それにさくらは身構えたが、自分の頬を優しく確かめるように触る様子に、少し安心して、ほんの少し警戒を解いた。
「すこし傷が深いな。これで押さえておけ。」
アシリパはさくらにはぎれを手渡し、出血を押さえさせた。
「私はアシリパ、こっちはスギモトだ。巻き込んでしまってすまない。お前はなぜここにいたんだ?」
アシリパが心配そうにさくらを見つめる。「女一人で山に来るのは危険だぞ。」と続けた。先ほどの杉元という男は怖いが、自分を心配してくれる様子にさくらは、この少女ならば、と感じ、ここに来た経緯を話した。
小樽のホテルに友人と宿泊していたこと。そこで居眠りをしていたが、気付いたらここにいて、先ほどの現場に遭遇したこと。二人は半信半疑という表情をしていた。そして、さくらから少し距離をとって二人で何か話した後、アシリパから提案があった。
もうすぐ日が暮れてしまい、夜の山は危険なこと。近くに自分の小屋があるから、そこで一晩過ごしてから町まで送ってやる、というものだ。
さくらとしても、この寒空の中、野宿はご免こうむるし、このまま野生動物のえさになるより、この少女について行った方がいいだろうという考えに至った。しかし・・・、杉元の方に目を向けた。
「本当にいいんですか?」
「もちろんだ!」
アシリパはそう言ってくれるが、杉元の方が一番心配なのだ。なにかの誤解でまた襲われたらたまったものではない。
「杉元さん、あの、本当に付いて行っていいですか?」
「君がアシリパさんに危害を加えない、って約束してくれるなら。ただし、なにか妙なことしてたら、そのときは…分かるよな?」
そう、眼光鋭くなる杉元にさくらは反射的に身をすくませた。それをみたアシリパが、杉元にストゥで殴りかかった。
「杉元!そんな言い方では日向が怖がってしまうぞ!安心しろ日向!もしスギモトが襲いそうになったら私がスギモトをストゥで殴ってやる。」
こんな風に!といってアシリパは杉元の頭を木の棒のようなもので殴りつけた。鈍い音がして、杉元は半泣きだ。
「アシリパさん、ひどーい!」
「黙れスギモト!お前がこの女性にしたことに比べれば痛くもかゆくもないだろ!」
「うぅ”・・・」
「日が暮れると、襲われても反撃できない。もう行くぞ。」
そう言って、立ち上がったアシリパにさくらと杉元は続いた。
「私の狩猟小屋で食事の支度だ。」
そういうアシリパの前には葉で覆われた小屋があった。その中に入って、食事の準備を手伝った。
「生でとれたリスを食べよう。チタタプにする。」
「チタタプ?」
杉元は顔を傾けた。先ほどの鋭い目線からは想像もできない、子供っぽい仕草だ。あの後、杉元も、もう乱暴はしないと約束してくれたのだが、やはり出会いが衝撃的すぎた。さくらは、なるべくアシリパの近くで料理を手伝っていた。
「刃物でたたいて挽肉にする。アイヌの料理だ。」
アシリパはリスの皮をするり、と簡単に剥いてみせる。そこから脳みそをスプーンにとって杉元に渡した。
「スギモト、脳みそ食っていいぞ。」
「え!?アシリパさん、それ生で食うの?」
「どういう意味だ?私たちの食べ方に文句があるのか?」
「あ、いや・・・・俺そういうの食べ慣れてないし・・・」
そう言って杉元が戸惑うのも分かる。正直、見た目は食欲をそそるとは言い難いものだ。それでもアシリパの好意を受け取って恐る恐る、口を付けている。
「うまいか?」
杉元はなんとも言えない表情をしていた。だが、まずいとは言わなかった。他文化の受け入れづらいところを、はなから否定しない姿勢は気遣いができる人なのだな、と感じる。
狩猟の技術は父親から受け継いだもの。アイヌの女性は裁縫や料理をやるが、アシリパさんには狩猟の方が性に合っているらしい。
「交代しろ。チタタプは我々が刻む物、という意味だ。交代して叩くから我々という意味なんだ。」
チタタプ、チタタプ
大きな体を丸めて杉元がチタタプをしている。そのアンバランスさがなんとも言えない。その様子を横目に、さくらは食材の用意や、火の様子を見たりしていた。しばらくして、隣で音が聞こえなくなって目を向けると杉元がこちらを見ていた。
反射的に体を揺らしてしまう。
「どうしました…?」
愛想笑いで問いかけると、杉元はモジモジしながら、先程まで叩いていたナイフをこちらに渡してきた。
「これって我々で刻むものだろう?そしたら君もどうかなって。」無理にとは言わないけど。と杉元は、断りやすい言葉も付けながら提案する。
「日向お前もチタタプしろ!」
傷を見てくれていた優しさとは打って変わり、アシリパは厳しい。このチタタプはこの少女にとって大切なことなのかもしれない。見たところ服装も不思議だし、どこかの部族の文化なのかもしれない。さくらは素直に杉元からナイフを受け取ってチタタプをした。その様子にアシリパは満足そうな息を吐き、ふたたび食事の支度にとりかかった。
チタタプが終わり、アシリパに手渡す。それをアシリパはスプーンのような木の匙で肉を丸め始めた。
「お上品なシサムのスギモトと日向が食べやすいように、全部丸めてオハウに入れてやる。」
「肉のつみれ汁か、かたじけない。」
グツグツ煮込まれたオハウは肉の脂が染み出し、つやつやとしている。何とも食欲を誘う香りが小屋じゅうに漂った。杉元とさくらはよそってもらったオハウに口をつけた。
「おしいし…!」
「うん!うまい!」
杉元は目を輝かせ、汁をかきこんだ。
「肉は臭みがなく、ほんのり甘くて、柔らかい肉の中に細かく刻んだ骨のこりこりした食感がいい!」
「ヒンナヒンナ。」
「ん?」
「何だいそれ?」
「感謝を表す言葉だ。食事にも言うんだ。」
「ヒンナ・・・」
それを聞いて、杉元はヒンナヒンナとアシリパに合わせて復唱した。さくらもそれに合わせヒンナと呟いた。