白銀の世界で
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言われるままに男に案内され、先ほどの番屋に舞い戻った。中は人の気配がない。先程さくらが薬を渡した男の姿が消えていた。あの様子ではしばらく休んでいると思っていたのだが、どこへいってしまったのだろうか。
「あの…」
さくらが男に聞こうと口を開いたところで、寝込んでいた男のいた場所に見覚えのあるものが目に入った。それは、フチからもらった薬の包みであった。潰されたように、だだの丸めた紙屑のようになっていたが、間から薬草がこぼれ出ていた。
あれだけ大事そうに持っていたのに…。ずきり、と胸が痛む。
「どうしました?」
男が怪訝そうにさくらの方を見た。
「…先程こちらで男の方を見たのですが、姿が見えないので、どうされたのかな、と。」
一瞬、男の目が暗く濁った。瞬きの間に感じた違和感を男は瞬時に取り払い、笑顔を向けた。
「ああ…その人でしたら、薬をもらいにいくと言っていましたよ。」
何でもないことのように答えるが、先程さくらが自ら薬を分け与えたのだ。その必要などないはずだ。しかし、ここに薬は捨ておかれ、男の姿もない。矛盾ばかりのこの状況で、目の前にいる男は微笑みを崩さない。それが、かえって不気味であった。
「そうでしたか。」
さくらはこれ以上、この話題に触れてはいけない、と感じ、話を終わらせた。杉元、アシリパの方は、食事に気をとられているのか、部屋の中にただよう匂いを吸っては、幸せそうな笑顔であたりを見回していた。
男の用意してくれたものは、ニシン漬けとほかほかの白米であった。こちらに来てから白米を見るなど、ほとんどなかった。やはり、明治時代も白米は貴重なものなのだろう。その証拠に杉元もアシリパもニシンよりも、白米に釘付けだ。さくらにとっても久しぶりの白米だ。懐かしい香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
3人で手を合わせて食事を取り始めた。
「さくらさん、白米だよ!ニシンの程よい酸味と麹漬けの野菜の甘みが白米にあうね!」
杉元の食レポさながらの感想は、的確だ。アシリパはヒンナヒンナと頬に米粒をたくさんつけながら頬張っている。
「本当に、美味しいですね。こんなご馳走、食べられるなんて杉元さんのおかげですね。」
そういうと、杉元は「よせやぁい。」と、頬をぽりぽり掻いた。
男の方は、こちらの様子を微笑みながら眺めている。一見すれば、人当たりの良さそうな人物であるが、さくらの得体の知れない不安は少しもなくならなかった。杉元、アシリパに意識を集中させ、男を警戒していることを知られないようにして食事を進めた。
一通り食事がおわり、アシリパが席を立った。用を足しにいくらしい。さくらはこのまま残るか、アシリパの後を追うかで迷った。この男から目を離しては危ない、という気持ちと、アシリパを1人にさせる不安とを天秤にかけた。
この男が危ない行動を取るのであれば、実力行使ができるのは杉元だけだ。さくらが残っていたところで戦力にはならないだろう。しかし、アシリパ1人にさせるのはどうか。ここには殺人犯も紛れ込んでいる。いつ襲われるかなど予想もできない。アシリパの弓の腕前があれば、どんな的も外さないだろう。ただ、相手が力技でやってきたら、少女になす術はない。ならば、微力ながらも協力したほうが生存率はあがる。ここまでの思考を一瞬のうちですませ、さくらは、すっと立ち上がった。
「アシリパさんの方を見てきます。杉元さん、その方とお話して、しばらく待っていてくださいね。」
何てことないように杉元に告げると、人のいい笑顔で了承してもらうことができた。そして、アシリパのいる厠に足をすすめた。
「なんだ、これは…?」
アシリパの声の方へ駆け寄ると、便器のなかから、人間の顔がのぞいていた。
「あの…」
さくらが男に聞こうと口を開いたところで、寝込んでいた男のいた場所に見覚えのあるものが目に入った。それは、フチからもらった薬の包みであった。潰されたように、だだの丸めた紙屑のようになっていたが、間から薬草がこぼれ出ていた。
あれだけ大事そうに持っていたのに…。ずきり、と胸が痛む。
「どうしました?」
男が怪訝そうにさくらの方を見た。
「…先程こちらで男の方を見たのですが、姿が見えないので、どうされたのかな、と。」
一瞬、男の目が暗く濁った。瞬きの間に感じた違和感を男は瞬時に取り払い、笑顔を向けた。
「ああ…その人でしたら、薬をもらいにいくと言っていましたよ。」
何でもないことのように答えるが、先程さくらが自ら薬を分け与えたのだ。その必要などないはずだ。しかし、ここに薬は捨ておかれ、男の姿もない。矛盾ばかりのこの状況で、目の前にいる男は微笑みを崩さない。それが、かえって不気味であった。
「そうでしたか。」
さくらはこれ以上、この話題に触れてはいけない、と感じ、話を終わらせた。杉元、アシリパの方は、食事に気をとられているのか、部屋の中にただよう匂いを吸っては、幸せそうな笑顔であたりを見回していた。
男の用意してくれたものは、ニシン漬けとほかほかの白米であった。こちらに来てから白米を見るなど、ほとんどなかった。やはり、明治時代も白米は貴重なものなのだろう。その証拠に杉元もアシリパもニシンよりも、白米に釘付けだ。さくらにとっても久しぶりの白米だ。懐かしい香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
3人で手を合わせて食事を取り始めた。
「さくらさん、白米だよ!ニシンの程よい酸味と麹漬けの野菜の甘みが白米にあうね!」
杉元の食レポさながらの感想は、的確だ。アシリパはヒンナヒンナと頬に米粒をたくさんつけながら頬張っている。
「本当に、美味しいですね。こんなご馳走、食べられるなんて杉元さんのおかげですね。」
そういうと、杉元は「よせやぁい。」と、頬をぽりぽり掻いた。
男の方は、こちらの様子を微笑みながら眺めている。一見すれば、人当たりの良さそうな人物であるが、さくらの得体の知れない不安は少しもなくならなかった。杉元、アシリパに意識を集中させ、男を警戒していることを知られないようにして食事を進めた。
一通り食事がおわり、アシリパが席を立った。用を足しにいくらしい。さくらはこのまま残るか、アシリパの後を追うかで迷った。この男から目を離しては危ない、という気持ちと、アシリパを1人にさせる不安とを天秤にかけた。
この男が危ない行動を取るのであれば、実力行使ができるのは杉元だけだ。さくらが残っていたところで戦力にはならないだろう。しかし、アシリパ1人にさせるのはどうか。ここには殺人犯も紛れ込んでいる。いつ襲われるかなど予想もできない。アシリパの弓の腕前があれば、どんな的も外さないだろう。ただ、相手が力技でやってきたら、少女になす術はない。ならば、微力ながらも協力したほうが生存率はあがる。ここまでの思考を一瞬のうちですませ、さくらは、すっと立ち上がった。
「アシリパさんの方を見てきます。杉元さん、その方とお話して、しばらく待っていてくださいね。」
何てことないように杉元に告げると、人のいい笑顔で了承してもらうことができた。そして、アシリパのいる厠に足をすすめた。
「なんだ、これは…?」
アシリパの声の方へ駆け寄ると、便器のなかから、人間の顔がのぞいていた。