白銀の世界で
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引き上げられた男は、杉元たちに連れられて、ニシンの加工場にある竈の火の前で座らされた。全身ぶるぶると震えている。
「あそこにある小屋で拭くものがないかみてきます。」
さくらは、そんな男の様子を見かねて、ヤン衆たちが寝泊まりする番屋まで毛布か手ぬぐいがないかと、走った。幸い、男が一人、布団で寝ているところであった。体調を崩しているのであろう。少しせき込んでいる。
「すみません…お休みのところ。海に落ちた人がいまして、体を拭くものを一枚貸していただきたいのですが」
そういうと男はだるそうにしながらも体をあげてくれた。
「そりゃ大変だ…そこにあるよ。持ってきな。」
「ありがとうございます。」
そう言って、指示された場所にあるものを手にした。しかし、ここでそのまま戻るのもはばかられ、さくらは懐から包みを取り出した。フチから持たせてもらった薬の一つだ。
「…これ、熱冷ましの薬です。」
体調の悪いなか、親切にしてくれたのだ。わずかであるが、お返しにと、手渡そうとすると、男は驚いた顔をした。
「…いいのかい?薬なんて高価なもん…俺なんかに。」
「ほんのお礼です。もらいものですし、必要な人が受け取ってください。」
そういうと、男は薬の包みを大事そうに受け取った。
「ありがとう。大事に飲ませてもらうよ。」
男のうれしそうな表情にさくらも同じく笑顔で応え、番屋を後にした。
すでに竈の前で、男は毛布にくるまって暖をとっていた。
「あ、さくらさん、ありがとう。」
さくらが戻ってきたことにいち早く気づいた杉元が声をかけた。男のまわりに衣服が丸められており、どうやら全裸で毛布にくるまっているようだった。
「いえ…まだ濡れているでしょうし、こちら渡してあげてください。」
いくら毛布にくるまっているとは言え、自らが手渡すのははばかられ、杉元にお願いをした。杉元も分かった、とさくらから受け取ると、男に毛布と手ぬぐいを渡した。
男はいきなり後ろから声をかけられ、肩をふるわせて驚いていたが、人の良さそうな笑顔で受け取っていた。そして、男は幾らか体があたたまったから、番屋へ戻り着替えてくるといって、走っていった。アチャもそれを見届けると、鯨の方が心配だと、海の方へ戻っていった。
残された釜の前でアシリパがきらきらと目を輝かせ、心なしか口元が涎で光っているようにみえた。
「アシリパさん…おいしそうね。」
「ああ、ニシンは海の魚だ!食べてみたい!」
うきうきとする姿は年相応の少女だ。せっかくここまできたのだ、何か食べさせてあげたい。
「きっと、お仕事の手伝いをすれば、いくらかお礼がもらえるんじゃ無いかしら。」
「確かにそうだな。それにアチャの話だと、鯨はあと一日は沖にいるらしいし、寝床も確保したいところだな。」
「先ほどの方に口利きお願いできるといいですよね。」
さくらの言葉に、番屋にいる男に話をつけよう、ということになった。みなで番屋まで向かい、丁度窓際にいた男に杉元が声をかけた。
「ちょっと!」
杉元が窓をたたいて呼びかけた。男がこちらに気づいて窓を開けた。
「はい、なんでしょう?」
「ここの番屋って漁場で働いてるやつしか泊まれないのか?宿代分だけでもここで働けねえかな?」
「…あとで親方に頼んでみますよ。」
そういって男は笑顔でこたえた。
親方に話しに行く前に漁場を案内したいということで、男に連れられて、仕事場をみせてもらった。ニシンを加工するにも多くの手順と人手が必要で、力仕事の面では杉元が適任そうであった。サクラとアシリパにできそうなことは、天日干しにしたり、というような作業でありそうだ。仕事をしながら、周りへ世間話のように聞き込みすることもできそうだ。
案内されるうちに杉元は男に『玉切り包丁』という大きな包丁を渡され、ニシン粕の粉砕の任された。
「あああ…とってもお似合いです。」
褒められた杉元は涼しい顔で、すぱんと両断した。さすが、大きな包丁を振り回せるとは、鍛え方が違う。ほう、と感心するさくらの隣で、男の熱い息づかいが感じられた。不思議に思って隣をみると、上気した頬で、杉元の切った粕玉を見つめている。
他にも、杉元に道具を使わせては同じように…まるで興奮しているような息づかいに身の危険を感じる。杞憂であればいいのだが、用心するに越したことはない。自然とアシリパから距離をとらせるように、行動をした。
ひととおり説明がおわると、アシリパが口を開いた。
「杉元…やっぱり白石を追った方がいい。私たちだけでここにいても意味が無い。」
先ほどの働き口を見つける算段からかけ離れた提案に、杉元は驚いた。
「え…でもせっかく説明してもらったし、働き口見つけといてからでも遅くないんじゃない。」
そういう杉元は、男の不審な面に気づいていないようだ。アシリパも何かを感じて男から離れようとしているのだ。さくらは杉元の言葉に、かぶせるように言葉を継げた。
「白石さんしか、確認できないこともありますし、早く合流した方が効率いいですよ。」
うーん、と少し考え込んだ杉元だったが、「…そうだな、アシリパさん、さくらさん、行こうか!」と、意見を通してくれた。
それに安堵したのもつかの間、男から新たな提案がされる。
「あ…あの!食事だけでもどうですか?命を救っていただいたお礼にといってはなんですが、親方に話したら温かい白米を用意して差し上げろと…」
白米、という言葉にアシリパが反応した。
先ほどまでの警戒心はどこへいったのか、男のいうままに番屋へと案内された。
「あそこにある小屋で拭くものがないかみてきます。」
さくらは、そんな男の様子を見かねて、ヤン衆たちが寝泊まりする番屋まで毛布か手ぬぐいがないかと、走った。幸い、男が一人、布団で寝ているところであった。体調を崩しているのであろう。少しせき込んでいる。
「すみません…お休みのところ。海に落ちた人がいまして、体を拭くものを一枚貸していただきたいのですが」
そういうと男はだるそうにしながらも体をあげてくれた。
「そりゃ大変だ…そこにあるよ。持ってきな。」
「ありがとうございます。」
そう言って、指示された場所にあるものを手にした。しかし、ここでそのまま戻るのもはばかられ、さくらは懐から包みを取り出した。フチから持たせてもらった薬の一つだ。
「…これ、熱冷ましの薬です。」
体調の悪いなか、親切にしてくれたのだ。わずかであるが、お返しにと、手渡そうとすると、男は驚いた顔をした。
「…いいのかい?薬なんて高価なもん…俺なんかに。」
「ほんのお礼です。もらいものですし、必要な人が受け取ってください。」
そういうと、男は薬の包みを大事そうに受け取った。
「ありがとう。大事に飲ませてもらうよ。」
男のうれしそうな表情にさくらも同じく笑顔で応え、番屋を後にした。
すでに竈の前で、男は毛布にくるまって暖をとっていた。
「あ、さくらさん、ありがとう。」
さくらが戻ってきたことにいち早く気づいた杉元が声をかけた。男のまわりに衣服が丸められており、どうやら全裸で毛布にくるまっているようだった。
「いえ…まだ濡れているでしょうし、こちら渡してあげてください。」
いくら毛布にくるまっているとは言え、自らが手渡すのははばかられ、杉元にお願いをした。杉元も分かった、とさくらから受け取ると、男に毛布と手ぬぐいを渡した。
男はいきなり後ろから声をかけられ、肩をふるわせて驚いていたが、人の良さそうな笑顔で受け取っていた。そして、男は幾らか体があたたまったから、番屋へ戻り着替えてくるといって、走っていった。アチャもそれを見届けると、鯨の方が心配だと、海の方へ戻っていった。
残された釜の前でアシリパがきらきらと目を輝かせ、心なしか口元が涎で光っているようにみえた。
「アシリパさん…おいしそうね。」
「ああ、ニシンは海の魚だ!食べてみたい!」
うきうきとする姿は年相応の少女だ。せっかくここまできたのだ、何か食べさせてあげたい。
「きっと、お仕事の手伝いをすれば、いくらかお礼がもらえるんじゃ無いかしら。」
「確かにそうだな。それにアチャの話だと、鯨はあと一日は沖にいるらしいし、寝床も確保したいところだな。」
「先ほどの方に口利きお願いできるといいですよね。」
さくらの言葉に、番屋にいる男に話をつけよう、ということになった。みなで番屋まで向かい、丁度窓際にいた男に杉元が声をかけた。
「ちょっと!」
杉元が窓をたたいて呼びかけた。男がこちらに気づいて窓を開けた。
「はい、なんでしょう?」
「ここの番屋って漁場で働いてるやつしか泊まれないのか?宿代分だけでもここで働けねえかな?」
「…あとで親方に頼んでみますよ。」
そういって男は笑顔でこたえた。
親方に話しに行く前に漁場を案内したいということで、男に連れられて、仕事場をみせてもらった。ニシンを加工するにも多くの手順と人手が必要で、力仕事の面では杉元が適任そうであった。サクラとアシリパにできそうなことは、天日干しにしたり、というような作業でありそうだ。仕事をしながら、周りへ世間話のように聞き込みすることもできそうだ。
案内されるうちに杉元は男に『玉切り包丁』という大きな包丁を渡され、ニシン粕の粉砕の任された。
「あああ…とってもお似合いです。」
褒められた杉元は涼しい顔で、すぱんと両断した。さすが、大きな包丁を振り回せるとは、鍛え方が違う。ほう、と感心するさくらの隣で、男の熱い息づかいが感じられた。不思議に思って隣をみると、上気した頬で、杉元の切った粕玉を見つめている。
他にも、杉元に道具を使わせては同じように…まるで興奮しているような息づかいに身の危険を感じる。杞憂であればいいのだが、用心するに越したことはない。自然とアシリパから距離をとらせるように、行動をした。
ひととおり説明がおわると、アシリパが口を開いた。
「杉元…やっぱり白石を追った方がいい。私たちだけでここにいても意味が無い。」
先ほどの働き口を見つける算段からかけ離れた提案に、杉元は驚いた。
「え…でもせっかく説明してもらったし、働き口見つけといてからでも遅くないんじゃない。」
そういう杉元は、男の不審な面に気づいていないようだ。アシリパも何かを感じて男から離れようとしているのだ。さくらは杉元の言葉に、かぶせるように言葉を継げた。
「白石さんしか、確認できないこともありますし、早く合流した方が効率いいですよ。」
うーん、と少し考え込んだ杉元だったが、「…そうだな、アシリパさん、さくらさん、行こうか!」と、意見を通してくれた。
それに安堵したのもつかの間、男から新たな提案がされる。
「あ…あの!食事だけでもどうですか?命を救っていただいたお礼にといってはなんですが、親方に話したら温かい白米を用意して差し上げろと…」
白米、という言葉にアシリパが反応した。
先ほどまでの警戒心はどこへいったのか、男のいうままに番屋へと案内された。