白銀の世界で
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村の者たちにアシリパの家で谷垣の治療をしてもらい、その間さくら、杉元、アシリパ、白石は食事の準備に取りかかっていた。オハウといって、山中の小屋でもアシリパがよく作ってくれていたものだ。杉元はフチに指示されたように凍った鮭をさばいている。
「杉元さん、お料理上手なんですね。」
隣で、野菜を切っているさくらはその様子に感心した。現代ではこんなにも手際よく魚をさばけるのは珍しい。スーパーには切り身の魚が陳列されているし、わざわざ自分でさばく必要のない環境であれば、そういうことができるのは料理好きな人くらいだろう。
さくらに褒められて杉元は頬をかきながら照れ笑いした。
「山の中で生活してると熊の解体とかアシリパさんに教えてもらえるから。」
「最初の頃の杉元は魚の身をぼろぼろにしていたな。熊の骨に刃がうまく通らないこともあったが、今ではこの通りだ。」
自分の教えたことで腕が上達していくのが誇らしいのだろう。アシリパも鹿の肉をさばきながら、ふふん、と胸をはった。
「白石は飲んだくれているだけで、何も手伝わないがな。」
白石には冷ややかな目を向けながらアシリパが言った。
「俺は食材の調達したり貢献してたでしょー。」
そういいながらも白石は小屋の隅でアイヌの持っている酒に手を伸ばしているところだった。アシリパはすぐさまストゥで制裁を加えはじめ、料理の方は杉元とさくらで続行することになった。
「それで、さくらさんの足は大丈夫だって?」
「数日安静にすれば、元のように歩けるようです。」
アシリパによれば、谷垣の銃によって負った傷は幸いかすり傷で、縫い合わせずとも、薬草と数日の休息で回復するようだ。料理をするまでに簡単に処置をしてもらい、足には包帯が巻かれている。さくらの言葉に杉元が「よかったあ。」と胸をなでおろした。
杉元の反応に、仲間として心配してくれているのだと伝わってくる。彼の気遣いは鶴見の元から脱出する時から感じている。きっと懐に入れた者には、情をかけるのだろう。だからこそ、初めの時はアシリパを守るために警戒されていた。これからは杉元やアシリパの仲間として共に行動していくのだ。であれば、杉元の心配も純粋にありがたかった。
できあがったオハウと鮭のルイペを皆で囲んで食事をはじめた。杉元、白石は、はふはふと勢いよく椀を傾けた。さくらは両手の使えない谷垣のために食事を用意して、谷垣の口へ匙を向けた。
谷垣はまさかさくらが自身を看病してくれるとは思っていなかったのか、困惑した表情をみせた。
「いいのか…?俺はお前を撃ったんだぞ。」
谷垣の戸惑いは当たり前である。威嚇射撃とはいえ、自身を傷つけた男に優しくなれるのか。
「私は私にできることをしているだけです。」
戦闘に参加することもできず、この状況で特別な知識もない自分にできることは限られている。確かに、幼い女の子を人質にとった行動は今でも許されるものではないと思っているし、憤っている。しかし、人質にされたアシリパが谷垣を救おうとしている。ならば、さくらがとやかくいうことではない。
「アシリパさんが助けると言った命です。私もそのために動くだけです。」
あなたを許したわけではない。
さくらの鋭い視線で、谷垣はある程度くみ取ったらしい。
「すまない…世話になる。」
と短く答え、さくらのするに任せた。大人しく匙を口に含む。しかし、寝たきりでは口に含んでも、飲み込むのが難しいようだ。さくらは小屋のなかに手頃なものがないか探すが、見当たらず、仕方なしに、傷を負っていない方の膝に谷垣の頭をのせた。谷垣はぎょっとした顔でさくらをみるが、当の本人がなんともない顔でいるので何も言い出せず、ちいさく唸っただけだった。
「居心地が悪いでしょうが、食べ終わるまで辛抱してください。」
今更、膝枕程度で頬を染めるような年頃でもない。ましてやけが人の看病でのことだ。さくらの色のかけらも感じられないやり方に、谷垣も察したのか大人しく口に運ばれるまま、食事をすすめた。しかし、その光景に声をあげる人物がいることまでは考えていなかった。
「おいいい!!なんでさくらちゃんが敵に膝枕してんの!?」
ルイペに夢中だった白石が大げさに騒ぎ出した。
「寝たままでは食事ができませんから。」
まじめに答えるさくらに白石が坊主頭をかきむしった。
「そうじゃなくってぇ!…もうさくらちゃん意外と脇が甘い!」
わめく白石を半ば無視をして、谷垣の食事を勧めていると、オソマとフチがそばにやってきた。
「カンビョウ カワル!」
オソマは少し日本語ができるらしく、片言でそう伝えた。しかし、椀の中身は残りわずかだ。手伝ってもらいたいほどの量でもない。
「ありがとう、でもあと少しだから、大丈夫よ。今度お願いね。」
そう言って断ろうとするが、杉元がかぶせるように言葉を継げた。
「さくらさん、まだご飯食べてないでしょ。オソマもやる気だし、甘えていいんじゃない?」
笑顔で提案してくれる杉元だが、その口調はなんとなく堅い。その理由を探ろうとしたところでオソマが「ハヤク!ハヤク!」とせがむので、そちらに谷垣を任せて食事をとることにした。
杉元が鍋から取り分けてくれたオハウを受け取る。肉と野菜の香りが鼻孔をくすぐる。あたたかな湯気をくゆらせるのをひと匙すくって口に入れた。
「…おいしい。」
さくらのつぶやきに杉元は小さくほほえんだ。
皆の食事に区切りがついたところで、フチから金塊に関わる言い伝えを聞くことができた。アイヌの歴史と金塊がこうして脈々と受け継がれ、今は日本人の手に渡ろうとしている。言い伝えを聞きながら、白石が口を開いた。
「ばあちゃんの言い伝えが本当なら、俺たちが聞かされていた20貫より…もっとたくさんあるんじゃねえのか?」
村々から集められた金塊が20貫で終わるわけがない。それは、この場にいる皆の頭によぎった。
「桁が違う。」
しん、と静まりかえった小屋で谷垣の言葉が響いた。
「そのばあさんが言うように埋蔵金の話はあちこちのアイヌの間でひそかに伝わっている。俺たちを率いている中尉は情報将校で情報収集や分析能力に長けている。」
「鶴見中尉か…」
杉元の言葉で、あの男の顔が思い出される。額あての下からのぞく、どう猛な瞳と、嘲笑うような表情。そして、体中を這い回る、あの手の感触…。いやな感覚を追い払うように、自身の腕を思い切りつかんだ。爪が食い込む感覚で気持ちを紛らわせた。隣にいる杉元がこちらに目を向けた。心配ないという代わりに谷垣に問うた。
「では、本当のところはどれだけ隠されているのです?」
「鶴見中尉の推測では…囚人がきかされていた量の千倍はある。」
その答えにその場にいた全員が息をのんだ。
「杉元さん、お料理上手なんですね。」
隣で、野菜を切っているさくらはその様子に感心した。現代ではこんなにも手際よく魚をさばけるのは珍しい。スーパーには切り身の魚が陳列されているし、わざわざ自分でさばく必要のない環境であれば、そういうことができるのは料理好きな人くらいだろう。
さくらに褒められて杉元は頬をかきながら照れ笑いした。
「山の中で生活してると熊の解体とかアシリパさんに教えてもらえるから。」
「最初の頃の杉元は魚の身をぼろぼろにしていたな。熊の骨に刃がうまく通らないこともあったが、今ではこの通りだ。」
自分の教えたことで腕が上達していくのが誇らしいのだろう。アシリパも鹿の肉をさばきながら、ふふん、と胸をはった。
「白石は飲んだくれているだけで、何も手伝わないがな。」
白石には冷ややかな目を向けながらアシリパが言った。
「俺は食材の調達したり貢献してたでしょー。」
そういいながらも白石は小屋の隅でアイヌの持っている酒に手を伸ばしているところだった。アシリパはすぐさまストゥで制裁を加えはじめ、料理の方は杉元とさくらで続行することになった。
「それで、さくらさんの足は大丈夫だって?」
「数日安静にすれば、元のように歩けるようです。」
アシリパによれば、谷垣の銃によって負った傷は幸いかすり傷で、縫い合わせずとも、薬草と数日の休息で回復するようだ。料理をするまでに簡単に処置をしてもらい、足には包帯が巻かれている。さくらの言葉に杉元が「よかったあ。」と胸をなでおろした。
杉元の反応に、仲間として心配してくれているのだと伝わってくる。彼の気遣いは鶴見の元から脱出する時から感じている。きっと懐に入れた者には、情をかけるのだろう。だからこそ、初めの時はアシリパを守るために警戒されていた。これからは杉元やアシリパの仲間として共に行動していくのだ。であれば、杉元の心配も純粋にありがたかった。
できあがったオハウと鮭のルイペを皆で囲んで食事をはじめた。杉元、白石は、はふはふと勢いよく椀を傾けた。さくらは両手の使えない谷垣のために食事を用意して、谷垣の口へ匙を向けた。
谷垣はまさかさくらが自身を看病してくれるとは思っていなかったのか、困惑した表情をみせた。
「いいのか…?俺はお前を撃ったんだぞ。」
谷垣の戸惑いは当たり前である。威嚇射撃とはいえ、自身を傷つけた男に優しくなれるのか。
「私は私にできることをしているだけです。」
戦闘に参加することもできず、この状況で特別な知識もない自分にできることは限られている。確かに、幼い女の子を人質にとった行動は今でも許されるものではないと思っているし、憤っている。しかし、人質にされたアシリパが谷垣を救おうとしている。ならば、さくらがとやかくいうことではない。
「アシリパさんが助けると言った命です。私もそのために動くだけです。」
あなたを許したわけではない。
さくらの鋭い視線で、谷垣はある程度くみ取ったらしい。
「すまない…世話になる。」
と短く答え、さくらのするに任せた。大人しく匙を口に含む。しかし、寝たきりでは口に含んでも、飲み込むのが難しいようだ。さくらは小屋のなかに手頃なものがないか探すが、見当たらず、仕方なしに、傷を負っていない方の膝に谷垣の頭をのせた。谷垣はぎょっとした顔でさくらをみるが、当の本人がなんともない顔でいるので何も言い出せず、ちいさく唸っただけだった。
「居心地が悪いでしょうが、食べ終わるまで辛抱してください。」
今更、膝枕程度で頬を染めるような年頃でもない。ましてやけが人の看病でのことだ。さくらの色のかけらも感じられないやり方に、谷垣も察したのか大人しく口に運ばれるまま、食事をすすめた。しかし、その光景に声をあげる人物がいることまでは考えていなかった。
「おいいい!!なんでさくらちゃんが敵に膝枕してんの!?」
ルイペに夢中だった白石が大げさに騒ぎ出した。
「寝たままでは食事ができませんから。」
まじめに答えるさくらに白石が坊主頭をかきむしった。
「そうじゃなくってぇ!…もうさくらちゃん意外と脇が甘い!」
わめく白石を半ば無視をして、谷垣の食事を勧めていると、オソマとフチがそばにやってきた。
「カンビョウ カワル!」
オソマは少し日本語ができるらしく、片言でそう伝えた。しかし、椀の中身は残りわずかだ。手伝ってもらいたいほどの量でもない。
「ありがとう、でもあと少しだから、大丈夫よ。今度お願いね。」
そう言って断ろうとするが、杉元がかぶせるように言葉を継げた。
「さくらさん、まだご飯食べてないでしょ。オソマもやる気だし、甘えていいんじゃない?」
笑顔で提案してくれる杉元だが、その口調はなんとなく堅い。その理由を探ろうとしたところでオソマが「ハヤク!ハヤク!」とせがむので、そちらに谷垣を任せて食事をとることにした。
杉元が鍋から取り分けてくれたオハウを受け取る。肉と野菜の香りが鼻孔をくすぐる。あたたかな湯気をくゆらせるのをひと匙すくって口に入れた。
「…おいしい。」
さくらのつぶやきに杉元は小さくほほえんだ。
皆の食事に区切りがついたところで、フチから金塊に関わる言い伝えを聞くことができた。アイヌの歴史と金塊がこうして脈々と受け継がれ、今は日本人の手に渡ろうとしている。言い伝えを聞きながら、白石が口を開いた。
「ばあちゃんの言い伝えが本当なら、俺たちが聞かされていた20貫より…もっとたくさんあるんじゃねえのか?」
村々から集められた金塊が20貫で終わるわけがない。それは、この場にいる皆の頭によぎった。
「桁が違う。」
しん、と静まりかえった小屋で谷垣の言葉が響いた。
「そのばあさんが言うように埋蔵金の話はあちこちのアイヌの間でひそかに伝わっている。俺たちを率いている中尉は情報将校で情報収集や分析能力に長けている。」
「鶴見中尉か…」
杉元の言葉で、あの男の顔が思い出される。額あての下からのぞく、どう猛な瞳と、嘲笑うような表情。そして、体中を這い回る、あの手の感触…。いやな感覚を追い払うように、自身の腕を思い切りつかんだ。爪が食い込む感覚で気持ちを紛らわせた。隣にいる杉元がこちらに目を向けた。心配ないという代わりに谷垣に問うた。
「では、本当のところはどれだけ隠されているのです?」
「鶴見中尉の推測では…囚人がきかされていた量の千倍はある。」
その答えにその場にいた全員が息をのんだ。