白銀の世界で
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二瓶と杉元の死闘の中、白石が秋田犬がくわえている銃を奪い取り、二瓶へと向けた。
「大人しくしやがれ二瓶鉄造!!」
それと同時に、林の中から男が現れた。
「お前らこそ武器を捨てろ。」
アシリパを盾にしてこちらへ銃を向けている。反射的に白石もアシリパの方を向き、そのまま銃口も向ける形となった。一瞬、その場に静寂が訪れる。幼い子を人質にとるなんて、とその男に怒りがこみ上げてくる。
「きさま…その子を…!!盾に…!!使うなッッ!!」
二瓶と対峙していた杉元も同じように、怒りの形相で、その男に詰め寄った。しかし、杉元が目を離した隙を見て二瓶が杉元に体当たりし、動きを封じた。
「卑怯だぞ!無関係な子供を人質にするなんて!!」
「嘘だな…前にあった時この娘は入れ墨の皮を隠し持っていた。全くの無関係とは言わせない。」
白石も同じように激怒している。それでも皆が動けないのはアシリパの身を案じているからだった。どうしたらアシリパを救える…?唯一武器を持たないさくらは、この中で一番油断させられる存在だろう。男の服装はあの軍人たちと同じものだ。そして、入れ墨の話が出ると言うことは、鶴見と同じ隊の可能性が高い。もしかしたら、狼より価値のあるものがあると分かれば、そちらに意識が向くかもしれない。
「…あなたは鶴見中尉から女を捜せと言われませんでした?」
さくらの言葉に今度は全員の視線が向けられた。男は怪訝そうな顔をした。こちらの話を聞く気なのか、黙っている。
「数日前、刺青人皮にかかわる女と元軍人を鶴見中尉が捕らえました。それが私と杉元さんです。彼は私の持っている情報が喉から手が出るほどほしい。私を鶴見中尉の前に連れて行けばあなたの手柄となるでしょう。」
一歩、男に近づいた。
「俺はそのとき山にいて情報が入っていない。お前の話を信用するわけにはいかない。」
「でも、ここで逃したら鶴見さんへの手土産は狼一匹。何ともお粗末ではありません?」
一瞬男の目が揺らいだ。…これならば、いける。
人質をアシリパからさくらに交換し、その隙をついて彼らを逃がすのだ。うまくいけば、白石の銃でこの男を足止めできるかもしれない。
「信じるな。女は恐ろしいぞ谷垣。」
二瓶の声に、その男…谷垣は銃を持ち直した。
「寄るな。」
「その娘一人と私、どちらに価値があるか、分からないわけではないでしょう?」
そう言って、もう一歩踏み出すと、大きな破裂音とともに、足に熱い衝撃が走った。
「口さえ動かせればいいだろう!お前も狼も持って行く…!この娘を挟んで撃ち合っても構わんぞ俺は!!」
谷垣の銃口から煙が出ている。それをみて自分が撃たれたのだと分かった。どろり、と血が伝う。撃たれたと分かると、次に痛みがやってくる。この世界で傷を負うと痛みの前に熱さがやってくるのだと実感した。痛みで、膝を折る。
谷垣の行動に一気に信憑性が生まれた。同じく銃を構えている白石も脂汗をかいていた。
「白石…すまん…捨ててくれ。」
「杉元…!!」
「その子には見せるな。遠くへ連れて行ってくれ。」
「いいだろう。谷垣…縛るものを投げろ。」
二瓶は杉元、白石、さくらを木に縛り上げた。
「その女も縛るのか。」
「あいにく狼狩りに大荷物では向かえん。後で連れて行く。」
そう言いながら、二瓶が三人を木に縛った。さくらの足から流れている血はあたりの雪を汚していく。
「谷垣よ…その子を連れて行け。悲鳴が届かないくらい遠くへ。」
それにアシリパは必死に抵抗をするが、大人の男と子供だ。力の差は歴然だった。しかし、その抵抗をみつめる二瓶の視線の外で、白石がごそごそと動きだした。それに合わせて縄が緩まり、すぐに拘束がとけた。さすが脱獄王の白石だ。格子抜けができるのだから縄抜けも難なくできるということか。だが、今は感動している場合ではない。すぐにでもここを逃げだし、アシリパの救出に向かわなくてはならない。足に力を入れてみる。
「った…!!」
激痛が走り、すぐに腰が抜けてしまった。すると、次の瞬間、体がふわりとあがった。杉元が持ち上げたのだ。いわゆるお姫様だっこというやつで。杉元がさくらを抱きかかえて立ち上がると、白石と一目散に走り出した。
全速力で走る白石に負けず、さくらを抱きかかえ、もの凄い早さで走るのは、さすが杉元だ。彼の身体能力には驚かされる。
二瓶の姿が見えなくなったところで白石が口を開いた。
「さくらちゃん、大丈夫か?」
「ええ…。」
痛いと言ったところで、どうしようもできまい。今、重要なのはアシリパの奪還だ。
「…我慢させちゃってごめんね。」
さくらを抱きかかえる杉元が申し訳なさそうに言った。
「私が軽率でした…最終的に杉元さんに負担をおわせて申し訳ありません…。」
こんなお荷物がなければ、杉元だけでも一歩先に動けたかもしれない。そう思うと、アシリパを救おうとした自分がいかに分不相応なことをしていたのか思い知らされる。
「丸腰であそこまで出来るのはすごいよ。さくらさん、軽すぎて負担にもならないよ。こんなに細い腰で…むしろもっと食べて?」
爽やかに笑う杉元の隣で白石が、苦々しい顔をしている。
「…素面でよく言えるな。で、どうすんだ!?こっちは丸腰だぞ!?」
「隠れてやつらの隙をついて…アシリパさんを取り戻す!さくらさん、傷に響くと思うけど、もう少しだけ我慢してね。」
杉元はさくらをしっかりと抱え直した。なるべく体が動かないよう、腰のあたりをぎゅっと、胸に抱きかかえられた。厚い手のひらで引きせられると、先ほどよりも安定感がでた。さくらが「はい…。」と頷くと、先ほどよりも速度を上げて走り始めた。
杉元の厚い手のひらが触れた部分から熱が伝わってくる。無骨な手が、男の手なのだと一気に意識させられる。頭の上では規則的な息づかいが感じられる。足はまだじんじんと熱を持ち、痛みを伴っているが、それ以上に、顔に熱が集まってくる。毒気のない笑顔と台詞に、太い腕に抱かれているこの状況に、年甲斐もなく恥ずかしさがこみ上げてくる。
獣のような瞳をするときも、冷たい視線を寄越すときもあった。しかし、素面の杉元は顔がいい。一見、好青年なのだ。そんな部分を間近で見せられるとは思わず、何の心構えもしていなかった。
「さくらさんの楽な姿勢でいてね。」
「はい…すみません。」
今は体格差のおかげでさくらの顔は杉元の首筋あたりで、そちらに顔を傾けてしまえば表情は見られない。前を向いたままの杉元の首筋に頭を傾け、顔をうつむかせて、小さくなった。
冬の空気ではやく火照った顔が冷めるようにと願いながら、杉元の腕の中で大人しくすることにした。
「大人しくしやがれ二瓶鉄造!!」
それと同時に、林の中から男が現れた。
「お前らこそ武器を捨てろ。」
アシリパを盾にしてこちらへ銃を向けている。反射的に白石もアシリパの方を向き、そのまま銃口も向ける形となった。一瞬、その場に静寂が訪れる。幼い子を人質にとるなんて、とその男に怒りがこみ上げてくる。
「きさま…その子を…!!盾に…!!使うなッッ!!」
二瓶と対峙していた杉元も同じように、怒りの形相で、その男に詰め寄った。しかし、杉元が目を離した隙を見て二瓶が杉元に体当たりし、動きを封じた。
「卑怯だぞ!無関係な子供を人質にするなんて!!」
「嘘だな…前にあった時この娘は入れ墨の皮を隠し持っていた。全くの無関係とは言わせない。」
白石も同じように激怒している。それでも皆が動けないのはアシリパの身を案じているからだった。どうしたらアシリパを救える…?唯一武器を持たないさくらは、この中で一番油断させられる存在だろう。男の服装はあの軍人たちと同じものだ。そして、入れ墨の話が出ると言うことは、鶴見と同じ隊の可能性が高い。もしかしたら、狼より価値のあるものがあると分かれば、そちらに意識が向くかもしれない。
「…あなたは鶴見中尉から女を捜せと言われませんでした?」
さくらの言葉に今度は全員の視線が向けられた。男は怪訝そうな顔をした。こちらの話を聞く気なのか、黙っている。
「数日前、刺青人皮にかかわる女と元軍人を鶴見中尉が捕らえました。それが私と杉元さんです。彼は私の持っている情報が喉から手が出るほどほしい。私を鶴見中尉の前に連れて行けばあなたの手柄となるでしょう。」
一歩、男に近づいた。
「俺はそのとき山にいて情報が入っていない。お前の話を信用するわけにはいかない。」
「でも、ここで逃したら鶴見さんへの手土産は狼一匹。何ともお粗末ではありません?」
一瞬男の目が揺らいだ。…これならば、いける。
人質をアシリパからさくらに交換し、その隙をついて彼らを逃がすのだ。うまくいけば、白石の銃でこの男を足止めできるかもしれない。
「信じるな。女は恐ろしいぞ谷垣。」
二瓶の声に、その男…谷垣は銃を持ち直した。
「寄るな。」
「その娘一人と私、どちらに価値があるか、分からないわけではないでしょう?」
そう言って、もう一歩踏み出すと、大きな破裂音とともに、足に熱い衝撃が走った。
「口さえ動かせればいいだろう!お前も狼も持って行く…!この娘を挟んで撃ち合っても構わんぞ俺は!!」
谷垣の銃口から煙が出ている。それをみて自分が撃たれたのだと分かった。どろり、と血が伝う。撃たれたと分かると、次に痛みがやってくる。この世界で傷を負うと痛みの前に熱さがやってくるのだと実感した。痛みで、膝を折る。
谷垣の行動に一気に信憑性が生まれた。同じく銃を構えている白石も脂汗をかいていた。
「白石…すまん…捨ててくれ。」
「杉元…!!」
「その子には見せるな。遠くへ連れて行ってくれ。」
「いいだろう。谷垣…縛るものを投げろ。」
二瓶は杉元、白石、さくらを木に縛り上げた。
「その女も縛るのか。」
「あいにく狼狩りに大荷物では向かえん。後で連れて行く。」
そう言いながら、二瓶が三人を木に縛った。さくらの足から流れている血はあたりの雪を汚していく。
「谷垣よ…その子を連れて行け。悲鳴が届かないくらい遠くへ。」
それにアシリパは必死に抵抗をするが、大人の男と子供だ。力の差は歴然だった。しかし、その抵抗をみつめる二瓶の視線の外で、白石がごそごそと動きだした。それに合わせて縄が緩まり、すぐに拘束がとけた。さすが脱獄王の白石だ。格子抜けができるのだから縄抜けも難なくできるということか。だが、今は感動している場合ではない。すぐにでもここを逃げだし、アシリパの救出に向かわなくてはならない。足に力を入れてみる。
「った…!!」
激痛が走り、すぐに腰が抜けてしまった。すると、次の瞬間、体がふわりとあがった。杉元が持ち上げたのだ。いわゆるお姫様だっこというやつで。杉元がさくらを抱きかかえて立ち上がると、白石と一目散に走り出した。
全速力で走る白石に負けず、さくらを抱きかかえ、もの凄い早さで走るのは、さすが杉元だ。彼の身体能力には驚かされる。
二瓶の姿が見えなくなったところで白石が口を開いた。
「さくらちゃん、大丈夫か?」
「ええ…。」
痛いと言ったところで、どうしようもできまい。今、重要なのはアシリパの奪還だ。
「…我慢させちゃってごめんね。」
さくらを抱きかかえる杉元が申し訳なさそうに言った。
「私が軽率でした…最終的に杉元さんに負担をおわせて申し訳ありません…。」
こんなお荷物がなければ、杉元だけでも一歩先に動けたかもしれない。そう思うと、アシリパを救おうとした自分がいかに分不相応なことをしていたのか思い知らされる。
「丸腰であそこまで出来るのはすごいよ。さくらさん、軽すぎて負担にもならないよ。こんなに細い腰で…むしろもっと食べて?」
爽やかに笑う杉元の隣で白石が、苦々しい顔をしている。
「…素面でよく言えるな。で、どうすんだ!?こっちは丸腰だぞ!?」
「隠れてやつらの隙をついて…アシリパさんを取り戻す!さくらさん、傷に響くと思うけど、もう少しだけ我慢してね。」
杉元はさくらをしっかりと抱え直した。なるべく体が動かないよう、腰のあたりをぎゅっと、胸に抱きかかえられた。厚い手のひらで引きせられると、先ほどよりも安定感がでた。さくらが「はい…。」と頷くと、先ほどよりも速度を上げて走り始めた。
杉元の厚い手のひらが触れた部分から熱が伝わってくる。無骨な手が、男の手なのだと一気に意識させられる。頭の上では規則的な息づかいが感じられる。足はまだじんじんと熱を持ち、痛みを伴っているが、それ以上に、顔に熱が集まってくる。毒気のない笑顔と台詞に、太い腕に抱かれているこの状況に、年甲斐もなく恥ずかしさがこみ上げてくる。
獣のような瞳をするときも、冷たい視線を寄越すときもあった。しかし、素面の杉元は顔がいい。一見、好青年なのだ。そんな部分を間近で見せられるとは思わず、何の心構えもしていなかった。
「さくらさんの楽な姿勢でいてね。」
「はい…すみません。」
今は体格差のおかげでさくらの顔は杉元の首筋あたりで、そちらに顔を傾けてしまえば表情は見られない。前を向いたままの杉元の首筋に頭を傾け、顔をうつむかせて、小さくなった。
冬の空気ではやく火照った顔が冷めるようにと願いながら、杉元の腕の中で大人しくすることにした。