白銀の世界で
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金塊の手掛かりが知らされ、杉元の口の端が上がるのが手の隙間から見えた。それを見て、背筋がぞわりと逆立ったような感覚がした。彼は二瓶を見つけたらどうするつもりなのだろうか。仲間にするのか、それとも…。獲物を捕らえる前の高揚感というのだろうか。手で口元を隠しても、目元まではごまかせない。ぎらり、と鈍い光の灯った瞳は、まさに捕食者の瞳だった。
しかし、それも一瞬のことで、杉元は「さあ、明日に備えて早く寝よう。」と皆に促すと、寝床を準備し始めた。
それに従い、白石もアシリパも就寝の準備を始めた。…2人は気付いていないのか。2人の様子を窺うが、変わった様子もない。
「さくらさん?ぼーっとしてどうしたの?」
杉元が人好きのする表情でこちらを見ている。先ほどとは打って変わって、一見無害そうな雰囲気だ。
「いえ、少し疲れたようです。…明日に備えて体力を回復させないといけませんね。」
「明日も移動が多くなるから、ゆっくり寝ようね。」
「まさかさくらちゃんも連れて行く気かよ!」
驚く白石にアシリパも当然だ、という顔をしている。
「さくら一人でこの小屋には残せないからな。」
「それなら俺も残るぜ!確かに山中で女一人は危ねえ。」
「二瓶鉄造の顔を確認できるのはお前だけだろ。」
お前も連れて行く、という杉元とアシリパに、白石はくう~ん、と鼻を鳴らした。そのやりとりの中で、杉元の視線が外れ、内心ほっとした。そして、各々が火に背を向けて暖をとりながら眠りについた。背中でじんわりと熱が広がり、自然と瞼が落ちてくる。他の3人も同じようで、寝息が聞こえ始めてきた。
さくらは目は閉じたが、先ほどの杉元の表情が頭から離れない。…命をかけた旅になる。それは初めから分かっていたことだ。鶴見が銃口を向けたその時から。「こちら側」の人間の命が狙われるのならば、当然「あちら側」の命をこちらが狙うのは道理にかなったことである。自分の態度を反芻してみると、覚悟のなさが露呈しただけではないか。何のために同行するのか。ただ我が身可愛さで付いていく自分がひどく薄っぺらくみえた。
翌朝になり、皆で雪道を歩く。
購入したブーツはやはり実用的で、今までのものより幾分も歩きやすかった。先頭を歩くアシリパと杉元に遅れを取らずについて行けそうだ。杉元は、時折後ろを振り返っては、皆が付いてきているか確認していた。十中八九、さくらの歩みを気にしてくれているのだろう。そういう点で、杉元の優しさが感じられた。
しばらく山中を歩いていると、狼煙が立っているのが見えた。それを見つけたアシリパは鋭い視線をそちらへ向けて、先ほどより進める足を早くしていった。
向かった先には木々に身を潜ませながら銃口を向けている男がいた。何かを狙うように木々の開けた方へ向いているため、丁度こちらに背中を向ける形になっていた。
「ここからじゃ顔が分からねえな。アシリパさん、回り込んで援護してくれ。俺はこのまま突っ込む。」
「わかった。私は下手から回り込もう。」
アシリパは弓矢の準備をすると、足音も立てずに素早く移動していった。残ったのは白石とさくらで、正直、このあとどうすればいいのか分からなかった。
「白石とさくらさんは、後方から男の顔を確認してくれ。白石、さくらさんを頼んだぞ。」
杉元はすぐに的確に指示を飛ばし、白石もそれに応えるように親指を立てた。さくらも首を縦に振った。それをみた杉元が小さくうなずき、再び男の方へと体を向け、ゆっくりと近付いていった。
カンっという音と同時に銃声が響いた。
その音を合図に杉元が男の背後へと一気に距離をつめた。
「銃をこっちへ投げろ。」
「…どうりでなかなか狼が出てこなかった訳だ。そんなに殺気を撒き散らかされては木化けも無意味だな。」
こちらをむいた男に、杉元が大声で白石に確認をとった。髭面の、体格の良い男だ。遠くても、その眼光の鋭さに自然と体が強張った。
「間違いねえ。そいつが二瓶鉄造だ!」
「なるほど目当ては俺の体の入れ墨か。」
二瓶はそう言いながら、銃は手放さない。
「その単発銃…離さんつもりか?弾薬盒から弾を取り出し、ボルトを引いて装填する間に俺は5発全て、お前に打ち込める。」
杉元はそういうと、銃を構えた。それを見て、さくらの心臓は早鐘を打った。命の取り合い。その緊張感に胸のおくからせりあがってくるような感覚になった。あの引き金をひけば、絶命する。分かってはいても、その瞬間を目の前で見なければならない、言いようのない恐怖が襲った。第7師団での杉元と双子の軍人との死闘は、自身にとっても生きるか死ぬかの状況であった。しかし、この二瓶との戦いはそれとは毛色が違う。2人の男が命の取り合いを楽しむような、そんな雰囲気があるのだ。どちらかが死ぬ。それは、2人が相対したときに漠然と理解することができた。
「勝負するかね?どちらがこの山で生き残るか?」
「俺は不死身だぜ?」
杉元が引き金をひくその瞬間、勢いよく犬が飛び出して襲い掛かった。このままでは杉元の命が危ないのそう思うと、自然と叫んでいた。
「杉元さん…!!」
「でかしたぞ駄犬!」
二瓶は脇から取り出したナタで杉元に振りかぶった。あんなものまともに当たれば、頭は真っ二つだ。それを、杉元は自身の短刀で防ぎ、二瓶の指を切り落とした。ナタと細切れになった指が地面へと落ちた。間髪入れず、短刀を持ち替え、二瓶の胸へと突いた。しかし、二瓶はそれを片手で防ぎながら自身の猟銃で杉元の頭を思い切り打ち付けた。鮮血が白い雪を赤に染める。
「獣の糞になる覚悟は出来てるか?」
男の瞳は鈍く光っていた。昨夜見た杉元のように、獰猛な捕食者の瞳だった。
しかし、それも一瞬のことで、杉元は「さあ、明日に備えて早く寝よう。」と皆に促すと、寝床を準備し始めた。
それに従い、白石もアシリパも就寝の準備を始めた。…2人は気付いていないのか。2人の様子を窺うが、変わった様子もない。
「さくらさん?ぼーっとしてどうしたの?」
杉元が人好きのする表情でこちらを見ている。先ほどとは打って変わって、一見無害そうな雰囲気だ。
「いえ、少し疲れたようです。…明日に備えて体力を回復させないといけませんね。」
「明日も移動が多くなるから、ゆっくり寝ようね。」
「まさかさくらちゃんも連れて行く気かよ!」
驚く白石にアシリパも当然だ、という顔をしている。
「さくら一人でこの小屋には残せないからな。」
「それなら俺も残るぜ!確かに山中で女一人は危ねえ。」
「二瓶鉄造の顔を確認できるのはお前だけだろ。」
お前も連れて行く、という杉元とアシリパに、白石はくう~ん、と鼻を鳴らした。そのやりとりの中で、杉元の視線が外れ、内心ほっとした。そして、各々が火に背を向けて暖をとりながら眠りについた。背中でじんわりと熱が広がり、自然と瞼が落ちてくる。他の3人も同じようで、寝息が聞こえ始めてきた。
さくらは目は閉じたが、先ほどの杉元の表情が頭から離れない。…命をかけた旅になる。それは初めから分かっていたことだ。鶴見が銃口を向けたその時から。「こちら側」の人間の命が狙われるのならば、当然「あちら側」の命をこちらが狙うのは道理にかなったことである。自分の態度を反芻してみると、覚悟のなさが露呈しただけではないか。何のために同行するのか。ただ我が身可愛さで付いていく自分がひどく薄っぺらくみえた。
翌朝になり、皆で雪道を歩く。
購入したブーツはやはり実用的で、今までのものより幾分も歩きやすかった。先頭を歩くアシリパと杉元に遅れを取らずについて行けそうだ。杉元は、時折後ろを振り返っては、皆が付いてきているか確認していた。十中八九、さくらの歩みを気にしてくれているのだろう。そういう点で、杉元の優しさが感じられた。
しばらく山中を歩いていると、狼煙が立っているのが見えた。それを見つけたアシリパは鋭い視線をそちらへ向けて、先ほどより進める足を早くしていった。
向かった先には木々に身を潜ませながら銃口を向けている男がいた。何かを狙うように木々の開けた方へ向いているため、丁度こちらに背中を向ける形になっていた。
「ここからじゃ顔が分からねえな。アシリパさん、回り込んで援護してくれ。俺はこのまま突っ込む。」
「わかった。私は下手から回り込もう。」
アシリパは弓矢の準備をすると、足音も立てずに素早く移動していった。残ったのは白石とさくらで、正直、このあとどうすればいいのか分からなかった。
「白石とさくらさんは、後方から男の顔を確認してくれ。白石、さくらさんを頼んだぞ。」
杉元はすぐに的確に指示を飛ばし、白石もそれに応えるように親指を立てた。さくらも首を縦に振った。それをみた杉元が小さくうなずき、再び男の方へと体を向け、ゆっくりと近付いていった。
カンっという音と同時に銃声が響いた。
その音を合図に杉元が男の背後へと一気に距離をつめた。
「銃をこっちへ投げろ。」
「…どうりでなかなか狼が出てこなかった訳だ。そんなに殺気を撒き散らかされては木化けも無意味だな。」
こちらをむいた男に、杉元が大声で白石に確認をとった。髭面の、体格の良い男だ。遠くても、その眼光の鋭さに自然と体が強張った。
「間違いねえ。そいつが二瓶鉄造だ!」
「なるほど目当ては俺の体の入れ墨か。」
二瓶はそう言いながら、銃は手放さない。
「その単発銃…離さんつもりか?弾薬盒から弾を取り出し、ボルトを引いて装填する間に俺は5発全て、お前に打ち込める。」
杉元はそういうと、銃を構えた。それを見て、さくらの心臓は早鐘を打った。命の取り合い。その緊張感に胸のおくからせりあがってくるような感覚になった。あの引き金をひけば、絶命する。分かってはいても、その瞬間を目の前で見なければならない、言いようのない恐怖が襲った。第7師団での杉元と双子の軍人との死闘は、自身にとっても生きるか死ぬかの状況であった。しかし、この二瓶との戦いはそれとは毛色が違う。2人の男が命の取り合いを楽しむような、そんな雰囲気があるのだ。どちらかが死ぬ。それは、2人が相対したときに漠然と理解することができた。
「勝負するかね?どちらがこの山で生き残るか?」
「俺は不死身だぜ?」
杉元が引き金をひくその瞬間、勢いよく犬が飛び出して襲い掛かった。このままでは杉元の命が危ないのそう思うと、自然と叫んでいた。
「杉元さん…!!」
「でかしたぞ駄犬!」
二瓶は脇から取り出したナタで杉元に振りかぶった。あんなものまともに当たれば、頭は真っ二つだ。それを、杉元は自身の短刀で防ぎ、二瓶の指を切り落とした。ナタと細切れになった指が地面へと落ちた。間髪入れず、短刀を持ち替え、二瓶の胸へと突いた。しかし、二瓶はそれを片手で防ぎながら自身の猟銃で杉元の頭を思い切り打ち付けた。鮮血が白い雪を赤に染める。
「獣の糞になる覚悟は出来てるか?」
男の瞳は鈍く光っていた。昨夜見た杉元のように、獰猛な捕食者の瞳だった。