白銀の世界で
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酒が回ったのか白石は小屋の中で寝息を立てていた。男と二人きりで過ごすということで身構えていた部分もあったが、心配には及ばなかった。今頃、アシリパと杉元はどうしているだろうか。この寒さの中、暖をとっているだろうか。自分よりサバイバルに慣れている二人のことだ。きっと、無事に違いない。
隣にいる男に今一度目をやった。飲んでいるとはいえ、この男もやはり鋭い。伊達に監獄を抜け出していない。こういう環境に身を置かれる者はみな人の感情に敏感なのだろうか。これまで会ってきた男たちを思うと、白石の言っていたように距離をとって構えてしまうのは仕方のないことではないか。自分の身を守ることのできない女だからこそ、相手の動向を注視してしまうのだ。白石も、それくらいのことは予想しているだろうに、それでも信用しろというのだろうか。
同行する身としてはある程度の信用はする。しかし、訳もなく全てを信頼して身を預けられるかというと、そこまで青くない。現代とて同じことだろう。仕事ぶりを信用する、されるのと、その人を信頼するのとではハードルの高さが大いに違うのだ。寝入っている男に文句のひとつでも言ってやりたかったが、やめにして、同じく火に背を向けてさくらも眠りについた。
翌日、杉元たちは戦利品を携えて帰ってきた。鹿の脳みそを食べさせられている男二人を横目に、肉の塊を食べやすいように切っていく。アシリパの指示を受けながら炙っていく。肉のおいしそうな香りが小屋を満たす。隣では白石と杉元でチタタプをして、それにアシリパが熱い指導をしているところだ。いつのまにか片手に酒瓶を持っており、それも相まって熱くなっているようだった。一通り料理が出来上がると大人たちも酒を片手に肉をつまんでいく。ほどよい臭みと肉の柔らかさにいくらでも箸が進む。杉元たちもおいしそうにがっついている。
しかし、あまりに大量で、後半になってくると白石は音をあげ始めた。それに対して、アシリパは思い切り白石の頬をたたいた。
「懸命に走る鹿の姿!内蔵の熱さ肉の味。全てが生きた証だ!全部食べて全部忘れるな!!それが獲物に対する責任の取り方だ!」
そういうアシリパの表情は真剣で、自然とともに暮らす人間としての重みのある言葉だった。
「もし俺が死んだらアシリパさんは俺を忘れないでいてくれるかい?」
熱く語るアシリパに杉元がそう言葉を投げた。酒が回って赤くなった顔とは似つかわしくない静かな声だった。それは、彼にとってアシリパが特別な存在であることを物語っているようだった。アシリパは杉元の言葉を聞くと嗚咽を漏らしながら号泣し始め、なだめるために白石が餌付けし始め、気持ちの昂ぶったアシリパが屋根につっこむという事態となった。
「アシリパさん…!」
久しぶりに酔っ払いの暴挙を間近でみて、とっさに名前を呼ぶが、生返事が屋根の外から聞こえてくるだけだ。
「よし、みんなで引っ張るぞ!白石そっち持て、さくらさんは体持って!」
3人がかりで少女を引っ張り小屋の中へ戻す。先ほどまでのしっとりした雰囲気とは違い、杉元が的確に指示を飛ばす。思ったよりも簡単に抜くことができた。
「す、すまない」
酔いが覚めたのかアシリパが小さな声で謝罪した。髪や衣服に草の葉が付いている。さくらは隣に座ってアシリパについた葉をとってやりながら、少女の身なりを整えてやる。
「さくらちゃん、お母さんみたい」
ピュウっと口笛をふく白石に苦笑いを浮かべた。いくらなんでも私の歳でこの年頃の娘はいないだろう。しかし、隣で大人しくしているアシリパは満更でもなさそうで、さくらは抗議することが憚られた。
再び4人は小屋の中で料理を囲んだ。
「そうだ杉元。そもそも俺がここに来たには、街である情報をつかんだからだ。」
白石の言葉にその場にいた全員が、鋭い視線を向けた。料理屋で働いている間、白石も仕事をしていたということか。昨夜はおくびも見せずにいた情報を、こうして出してくるのだ。
「金塊の暗号を体に彫られた囚人の情報さ。」
めっぽう腕の立つ漁師で冬眠中の熊もうなされる悪夢の熊撃ち二瓶鉄造。その話を白石だけでなくアシリパも知っていたらしく、2人から事情を聞いた。網走監獄に入った経緯までを聞くと、何と荒々しい男なのだろう、と自然と体を守るように背を丸めた。
「その二瓶ってのはどんなやつだ?容姿は?」
「毛皮商が数週間前に見たときは茶色のアイヌ犬を連れて一八年式の単発銃を持っていた。髪は白髪まじりで初老の男さ」
「アシリパさん。昼間に見た男かも…!兵士の装備をした男の連れだ!」
「それともうひとつ。「もし白い狼の毛皮が手に入ったらいくらで買う?」と聞いていたらしいぜ。」
「なんでそれを早く言わない!」
「アシリパさん朝を待とう。しっかり休まないと。レタラが心配なのは分かるけど。」
(来た…!金塊の手がかり…!!)
口元を隠していたが杉元の口の端が上がったのがわずかに見えた。
隣にいる男に今一度目をやった。飲んでいるとはいえ、この男もやはり鋭い。伊達に監獄を抜け出していない。こういう環境に身を置かれる者はみな人の感情に敏感なのだろうか。これまで会ってきた男たちを思うと、白石の言っていたように距離をとって構えてしまうのは仕方のないことではないか。自分の身を守ることのできない女だからこそ、相手の動向を注視してしまうのだ。白石も、それくらいのことは予想しているだろうに、それでも信用しろというのだろうか。
同行する身としてはある程度の信用はする。しかし、訳もなく全てを信頼して身を預けられるかというと、そこまで青くない。現代とて同じことだろう。仕事ぶりを信用する、されるのと、その人を信頼するのとではハードルの高さが大いに違うのだ。寝入っている男に文句のひとつでも言ってやりたかったが、やめにして、同じく火に背を向けてさくらも眠りについた。
翌日、杉元たちは戦利品を携えて帰ってきた。鹿の脳みそを食べさせられている男二人を横目に、肉の塊を食べやすいように切っていく。アシリパの指示を受けながら炙っていく。肉のおいしそうな香りが小屋を満たす。隣では白石と杉元でチタタプをして、それにアシリパが熱い指導をしているところだ。いつのまにか片手に酒瓶を持っており、それも相まって熱くなっているようだった。一通り料理が出来上がると大人たちも酒を片手に肉をつまんでいく。ほどよい臭みと肉の柔らかさにいくらでも箸が進む。杉元たちもおいしそうにがっついている。
しかし、あまりに大量で、後半になってくると白石は音をあげ始めた。それに対して、アシリパは思い切り白石の頬をたたいた。
「懸命に走る鹿の姿!内蔵の熱さ肉の味。全てが生きた証だ!全部食べて全部忘れるな!!それが獲物に対する責任の取り方だ!」
そういうアシリパの表情は真剣で、自然とともに暮らす人間としての重みのある言葉だった。
「もし俺が死んだらアシリパさんは俺を忘れないでいてくれるかい?」
熱く語るアシリパに杉元がそう言葉を投げた。酒が回って赤くなった顔とは似つかわしくない静かな声だった。それは、彼にとってアシリパが特別な存在であることを物語っているようだった。アシリパは杉元の言葉を聞くと嗚咽を漏らしながら号泣し始め、なだめるために白石が餌付けし始め、気持ちの昂ぶったアシリパが屋根につっこむという事態となった。
「アシリパさん…!」
久しぶりに酔っ払いの暴挙を間近でみて、とっさに名前を呼ぶが、生返事が屋根の外から聞こえてくるだけだ。
「よし、みんなで引っ張るぞ!白石そっち持て、さくらさんは体持って!」
3人がかりで少女を引っ張り小屋の中へ戻す。先ほどまでのしっとりした雰囲気とは違い、杉元が的確に指示を飛ばす。思ったよりも簡単に抜くことができた。
「す、すまない」
酔いが覚めたのかアシリパが小さな声で謝罪した。髪や衣服に草の葉が付いている。さくらは隣に座ってアシリパについた葉をとってやりながら、少女の身なりを整えてやる。
「さくらちゃん、お母さんみたい」
ピュウっと口笛をふく白石に苦笑いを浮かべた。いくらなんでも私の歳でこの年頃の娘はいないだろう。しかし、隣で大人しくしているアシリパは満更でもなさそうで、さくらは抗議することが憚られた。
再び4人は小屋の中で料理を囲んだ。
「そうだ杉元。そもそも俺がここに来たには、街である情報をつかんだからだ。」
白石の言葉にその場にいた全員が、鋭い視線を向けた。料理屋で働いている間、白石も仕事をしていたということか。昨夜はおくびも見せずにいた情報を、こうして出してくるのだ。
「金塊の暗号を体に彫られた囚人の情報さ。」
めっぽう腕の立つ漁師で冬眠中の熊もうなされる悪夢の熊撃ち二瓶鉄造。その話を白石だけでなくアシリパも知っていたらしく、2人から事情を聞いた。網走監獄に入った経緯までを聞くと、何と荒々しい男なのだろう、と自然と体を守るように背を丸めた。
「その二瓶ってのはどんなやつだ?容姿は?」
「毛皮商が数週間前に見たときは茶色のアイヌ犬を連れて一八年式の単発銃を持っていた。髪は白髪まじりで初老の男さ」
「アシリパさん。昼間に見た男かも…!兵士の装備をした男の連れだ!」
「それともうひとつ。「もし白い狼の毛皮が手に入ったらいくらで買う?」と聞いていたらしいぜ。」
「なんでそれを早く言わない!」
「アシリパさん朝を待とう。しっかり休まないと。レタラが心配なのは分かるけど。」
(来た…!金塊の手がかり…!!)
口元を隠していたが杉元の口の端が上がったのがわずかに見えた。