白銀の世界で
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目覚めるとそこは銀世界だった。
そんな使い古されたキャッチコピーが出てくるくらい、本当にここには白しかなかった。さっきまで座っていたふかふかのソファーはなくなり、さくらは白い雪の上にいた。お尻からは、じわじわと冷たさが伝わってきた。それに居心地が悪くなり、立ち上がって、周りを見渡す。一面、雪が積もり、冬の雪山にいるらしかった。少し先は崖のようになっており、先ほどまでいたホテルは陰も形も見えなくなっていた。
「夢・・・なの?」
夢の割に肌に刺す冬の寒さもあるし、ぬれたお尻の感覚もリアルだ。こんなに感覚のある夢は今までみたことがない。
「疲れてるのかな・・・。」
ここ最近の激務で浅い眠りなのかもしれない。にしても、さっきまでの寒さが相当応えているのだろう。夢のなかまで寒い場所にいるなんて。ホテル到着まで寒さに不満を漏らしていた自分であるが、ここまで気にしていたわけではないのだが・・・。深層心理はわからないものだ、と他人事のように思った。
着ている服は先ほどと同じで、コートを着たまま、ブーツを履いたままうたた寝をしていたあの服装だ。空を見上げると赤く染まり初め、夕方近くであることがわかる。ホテルでうたた寝し始めた頃と変わらない位の時間だ。
さくらが雪の中、少し周りを観察しているところで、遠くから、パァン!と乾いた音がした。何かが弾けたような、爆竹のような音だ。さくらは、とっさに身を低くして周囲をうかがった。山の中、そのような音がするということは、人がいるのかもしれない。ただ、普段の生活では聞き慣れない音でもあり、近づくことが躊躇われる。すると、その音の方から、人の声、怒号というほうがいいのだろうか。数人の声がし、しかもこちらに近づいてくるのが分かった。
ただ事ではない。
さくらはとっさに木の影に身を隠した。
男が木々の間から走ってくるのが見える。片手をかばうようにして走っている。さっきの怒号はけんかの声だったのだろうか。様子を見ていると、その男の後頭部に何か細長い物が投げつけられた。
(あ!!)
それにバランスを崩し、男が体勢を崩した。この先は崖だ、しかも何も障害物のない傾斜になっているため、このまま倒れれば、崖下に真っ逆さまだ。案の定、男は前から倒れ込み、そのまま傾斜を転がっていく。
「っあ・・・!!」
木の影からさくらは身を乗り出し、男の方へと走った。距離にして10数メートル。男の体に手を伸ばし、思いっきり走った。しかし、タイトスカートでは思うように足が開かず、走る速度も阻まれてしまう。傾斜によって男の体はどんどん加速して転がっていってしまい、距離が縮められない。(助けられない・・・!)そう焦ったさくらは、恥も外聞もかなぐり捨てて、スカートをたくし上げて男の方へ駆け寄った。
「待って・・・!!」
男に必死で手を差し出す。あと数センチというところだ。
それに気づいた男がこちらに視線を向けた。さくらの手に男が自分の手を差し出す。これで捕まればなんとか・・・!と安堵した矢先、男の手はさくらの指先からするりと離れていった。
「・・・・っ!?」
(なぜ手をつかまないの!?こんな寒い中、川に落ちたら確実に凍え死んでしまうのに!!)
さくらは目を見開いて男の顔を見つめた。男は表情の見えない視線をさくらに向けたまま崖に吸い込まれていく。
ばしゃん、と水の音がして、男が川に落ちたのが分かった。
のぞき込むと、川の流れとともに、男が流されていくのが見えた。
それとほぼ同時に、青年と少女が男が転がってきた方向からやってきた。焦った様子もなく、川の流れを見つめている。きっとこの人が原因なのだ。この様子からもそれは感じ取れた。しかし、助けることもせず、ちらり、とさくらの方に視線を落とすと、
「あんた何してんだ?」
と、青年は低く、感情のこもらない声で問いかけた。
「何してる・・・ですって?」
普段出したこともない、冷たい声が自分の口から吐き出される。そして、いつもの自分では考えられない行動をしていた。
男の胸ぐらをつかんで、思い切りゆさぶる。
「人が一人、川に落ちたのよ!?あのままじゃ死んじゃうかもしれないのに、よく呑気なことが言えたもんね!!「何してんだ?」はこっちの台詞よ!助けようとしてたっていうのに何よそれ!!」
こちらが力強く揺さぶっても、男の体はびくともしない。それになお腹が立ち、思い切り胸をたたいた。
そこで、男がぐっ、と視線をキツくした。気付いたところで体の浮遊感を感じ、次に雪の上にバサッと倒され、組み敷かれた。
「ちょっと・・・!離して!!」
「お前、あいつの仲間か?」
殺気のこもった視線に背筋がぞくっとする。初めて向けられる殺気に口ごもると、頬にぴりっと鋭い感覚がした。
「杉元っ!」
一緒に表れた少女から声がかかる。しかし、その杉元という男は微動だにせず、さくらをにらみつけたままだ。さくらは痛みを感じる方へ視線を向けた。
自分の瞳が写る。小型ナイフが顔をかすめていた。
そんな使い古されたキャッチコピーが出てくるくらい、本当にここには白しかなかった。さっきまで座っていたふかふかのソファーはなくなり、さくらは白い雪の上にいた。お尻からは、じわじわと冷たさが伝わってきた。それに居心地が悪くなり、立ち上がって、周りを見渡す。一面、雪が積もり、冬の雪山にいるらしかった。少し先は崖のようになっており、先ほどまでいたホテルは陰も形も見えなくなっていた。
「夢・・・なの?」
夢の割に肌に刺す冬の寒さもあるし、ぬれたお尻の感覚もリアルだ。こんなに感覚のある夢は今までみたことがない。
「疲れてるのかな・・・。」
ここ最近の激務で浅い眠りなのかもしれない。にしても、さっきまでの寒さが相当応えているのだろう。夢のなかまで寒い場所にいるなんて。ホテル到着まで寒さに不満を漏らしていた自分であるが、ここまで気にしていたわけではないのだが・・・。深層心理はわからないものだ、と他人事のように思った。
着ている服は先ほどと同じで、コートを着たまま、ブーツを履いたままうたた寝をしていたあの服装だ。空を見上げると赤く染まり初め、夕方近くであることがわかる。ホテルでうたた寝し始めた頃と変わらない位の時間だ。
さくらが雪の中、少し周りを観察しているところで、遠くから、パァン!と乾いた音がした。何かが弾けたような、爆竹のような音だ。さくらは、とっさに身を低くして周囲をうかがった。山の中、そのような音がするということは、人がいるのかもしれない。ただ、普段の生活では聞き慣れない音でもあり、近づくことが躊躇われる。すると、その音の方から、人の声、怒号というほうがいいのだろうか。数人の声がし、しかもこちらに近づいてくるのが分かった。
ただ事ではない。
さくらはとっさに木の影に身を隠した。
男が木々の間から走ってくるのが見える。片手をかばうようにして走っている。さっきの怒号はけんかの声だったのだろうか。様子を見ていると、その男の後頭部に何か細長い物が投げつけられた。
(あ!!)
それにバランスを崩し、男が体勢を崩した。この先は崖だ、しかも何も障害物のない傾斜になっているため、このまま倒れれば、崖下に真っ逆さまだ。案の定、男は前から倒れ込み、そのまま傾斜を転がっていく。
「っあ・・・!!」
木の影からさくらは身を乗り出し、男の方へと走った。距離にして10数メートル。男の体に手を伸ばし、思いっきり走った。しかし、タイトスカートでは思うように足が開かず、走る速度も阻まれてしまう。傾斜によって男の体はどんどん加速して転がっていってしまい、距離が縮められない。(助けられない・・・!)そう焦ったさくらは、恥も外聞もかなぐり捨てて、スカートをたくし上げて男の方へ駆け寄った。
「待って・・・!!」
男に必死で手を差し出す。あと数センチというところだ。
それに気づいた男がこちらに視線を向けた。さくらの手に男が自分の手を差し出す。これで捕まればなんとか・・・!と安堵した矢先、男の手はさくらの指先からするりと離れていった。
「・・・・っ!?」
(なぜ手をつかまないの!?こんな寒い中、川に落ちたら確実に凍え死んでしまうのに!!)
さくらは目を見開いて男の顔を見つめた。男は表情の見えない視線をさくらに向けたまま崖に吸い込まれていく。
ばしゃん、と水の音がして、男が川に落ちたのが分かった。
のぞき込むと、川の流れとともに、男が流されていくのが見えた。
それとほぼ同時に、青年と少女が男が転がってきた方向からやってきた。焦った様子もなく、川の流れを見つめている。きっとこの人が原因なのだ。この様子からもそれは感じ取れた。しかし、助けることもせず、ちらり、とさくらの方に視線を落とすと、
「あんた何してんだ?」
と、青年は低く、感情のこもらない声で問いかけた。
「何してる・・・ですって?」
普段出したこともない、冷たい声が自分の口から吐き出される。そして、いつもの自分では考えられない行動をしていた。
男の胸ぐらをつかんで、思い切りゆさぶる。
「人が一人、川に落ちたのよ!?あのままじゃ死んじゃうかもしれないのに、よく呑気なことが言えたもんね!!「何してんだ?」はこっちの台詞よ!助けようとしてたっていうのに何よそれ!!」
こちらが力強く揺さぶっても、男の体はびくともしない。それになお腹が立ち、思い切り胸をたたいた。
そこで、男がぐっ、と視線をキツくした。気付いたところで体の浮遊感を感じ、次に雪の上にバサッと倒され、組み敷かれた。
「ちょっと・・・!離して!!」
「お前、あいつの仲間か?」
殺気のこもった視線に背筋がぞくっとする。初めて向けられる殺気に口ごもると、頬にぴりっと鋭い感覚がした。
「杉元っ!」
一緒に表れた少女から声がかかる。しかし、その杉元という男は微動だにせず、さくらをにらみつけたままだ。さくらは痛みを感じる方へ視線を向けた。
自分の瞳が写る。小型ナイフが顔をかすめていた。