白銀の世界で
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老紳士を席に通した後は、厨房の方でひたすら仕事をしていた。女将が先の一件でさくらを給仕に回すことはなくなった。それからは日が暮れるまで厨房でひたすら洗い物や簡単な調理の補佐をして過ごした。件の男たちはさくらが気付かぬうちに帰っていたようで、客足がひいたところで白石が店に顔を出し、そこで仕事は切り上げとなった。
今回の報酬で渡された茶封筒は、思ったよりも厚く、それをみた白石も驚いたような顔をしていた。「さきのお客さんが申し訳なかったと言づてがあってね。」と、追加分はあの男から払われたものらしい。
「さくらちゃん、何かあったの?」
「ええ、少し。」
はぐらかすさくらの返答に白石が言葉を継げようとしたが、それを遮るように、女将に礼を言って店を出た。白石に話すことで、また記憶をよみがえらせたくなかった。あの男を思い出すと、今までの嫌な記憶まで呼び起こしてしまいそうだった。
薄暗がりの道を二人で歩く。嫌な気持ちを振り払い、これからのことを考える。旅をするに当たって当座の資金が必要なこともあるが、実は、この金で準備しておきたいものがあった。
「白石さん。小屋に戻る前に少し寄りたい場所があるのですが。」
「いいぜ!飲み屋でも賭場でもいい店に案内するぜ!」
******
夜になる頃には小屋に戻った。
「せっかくいい酒が飲めると思ったのによ~。」
愚痴る白石に申し訳ありません、と形ばかりに謝罪し、購入した品の感触を確かめる。こちらに来るまではき慣れていたヒール付きのブーツから、登山用に機能性のあるブーツを購入した。やはり、現代よりも高価ではあったが、これからの旅で必須だろう。
「ま、安酒だがさくらちゃんのおかげでおまけもらえたし、良しとするか。」
酒のつまみにといくつか食材を分けてもらえ、今夜はそれを使って簡単に鍋にすることにした。初めは杉元とアシリパを待とう、と白石に言ったのだが、「この暗闇じゃ、むやみに動くと獣に喰われる。どっかで野宿してるさ。」と諭され、二人だけの夕食だ。
ぐつぐつと煮える鍋が小屋を暖める。そこから、互いに箸で突きながら、酒を注ぎあった。いくらか酒が回ってくると白石の頬が赤く染まり、動きも緩慢になってきた。こちらも同じく、酔いが回ってきたのか、ぼうっと火を眺めながら、ちびちびと酒を口にした。
「そういや聞いてなかったけど、杉元たちとはどこで知り合ったの?」
酔いに任せて、白石はさくらに問うた。白石にしてみれば、一般人と軍人、そしてアイヌの少女の接点というのが分からないのも無理はない。杉元たちのいないところで、こうして聞いてくるというのは、普通の出会い方ではなかったことをなんとなく察せられているのだろう。
「私が山に置き去りにされていたのを助けてくれたのがあの二人です。」
未来の話は置いておいて、鶴見たちにしたように当たり障りのない内容を話す。しかし、白石はそれに納得していないような渋い表情を浮かべている。
「あんたも訳あり?」
「ええまあ。そんなところです。」
白石は酒をぐっとあおり、じとり、とこちらを見つめた。
「杉元と何か距離あるのもその『訳』のせい?」
「距離ですか?気にしたことありませんでしたね。」
酒でぼんやりしていた思考がクリアになってくる。白石が何を探りたいのか。彼も何か企んでいるのか。白石の視線に緊張が高まってくる。それを悟られないように、鍋をつつきながら返答をして気を紛らせた。
「杉元だけじゃねえ。現に今俺とも「距離」をとろうとしてるだろ。探られたくないことでもあるのか、それとも男に警戒してるのか。」
「それを知って白石さんはどうなさるおつもりです?」
こちらも探るように白石の表情をうかがった。この男は元囚人。罪を犯すことに罪悪感など感じないだろう。金塊争奪戦に参加する人数は減らしたいに違いない。そして、この争いに邪魔になると分かれば、この状況だ。調子のいい白石だが、きっとこういう男ほど損得勘定は瞬時にできるものだ。
「私が邪魔ですか?」
私の言葉に白石はきょとんとした。そして、少し考えるようにして、思い至ったのか「俺は殺しはやらねえよ!」と大きくかぶりを振った。
「これから旅をするんだ。少しくらい信用してくれよ。あんたのために油にまみれて助けに来た男だぜ?」
きらり、と歯を見せてウインクをする姿は、いつもの調子の白石だ。
「事情はしらねえが、これから一緒に行動する奴を疑ってちゃ、あんたの身がもたねえぜ。」
ほらよ、と酒瓶をこちらに傾ける。それに礼をいって盃をよせた。そして、白石の言葉に返答する代わりに酒を流し込んだ。
今回の報酬で渡された茶封筒は、思ったよりも厚く、それをみた白石も驚いたような顔をしていた。「さきのお客さんが申し訳なかったと言づてがあってね。」と、追加分はあの男から払われたものらしい。
「さくらちゃん、何かあったの?」
「ええ、少し。」
はぐらかすさくらの返答に白石が言葉を継げようとしたが、それを遮るように、女将に礼を言って店を出た。白石に話すことで、また記憶をよみがえらせたくなかった。あの男を思い出すと、今までの嫌な記憶まで呼び起こしてしまいそうだった。
薄暗がりの道を二人で歩く。嫌な気持ちを振り払い、これからのことを考える。旅をするに当たって当座の資金が必要なこともあるが、実は、この金で準備しておきたいものがあった。
「白石さん。小屋に戻る前に少し寄りたい場所があるのですが。」
「いいぜ!飲み屋でも賭場でもいい店に案内するぜ!」
******
夜になる頃には小屋に戻った。
「せっかくいい酒が飲めると思ったのによ~。」
愚痴る白石に申し訳ありません、と形ばかりに謝罪し、購入した品の感触を確かめる。こちらに来るまではき慣れていたヒール付きのブーツから、登山用に機能性のあるブーツを購入した。やはり、現代よりも高価ではあったが、これからの旅で必須だろう。
「ま、安酒だがさくらちゃんのおかげでおまけもらえたし、良しとするか。」
酒のつまみにといくつか食材を分けてもらえ、今夜はそれを使って簡単に鍋にすることにした。初めは杉元とアシリパを待とう、と白石に言ったのだが、「この暗闇じゃ、むやみに動くと獣に喰われる。どっかで野宿してるさ。」と諭され、二人だけの夕食だ。
ぐつぐつと煮える鍋が小屋を暖める。そこから、互いに箸で突きながら、酒を注ぎあった。いくらか酒が回ってくると白石の頬が赤く染まり、動きも緩慢になってきた。こちらも同じく、酔いが回ってきたのか、ぼうっと火を眺めながら、ちびちびと酒を口にした。
「そういや聞いてなかったけど、杉元たちとはどこで知り合ったの?」
酔いに任せて、白石はさくらに問うた。白石にしてみれば、一般人と軍人、そしてアイヌの少女の接点というのが分からないのも無理はない。杉元たちのいないところで、こうして聞いてくるというのは、普通の出会い方ではなかったことをなんとなく察せられているのだろう。
「私が山に置き去りにされていたのを助けてくれたのがあの二人です。」
未来の話は置いておいて、鶴見たちにしたように当たり障りのない内容を話す。しかし、白石はそれに納得していないような渋い表情を浮かべている。
「あんたも訳あり?」
「ええまあ。そんなところです。」
白石は酒をぐっとあおり、じとり、とこちらを見つめた。
「杉元と何か距離あるのもその『訳』のせい?」
「距離ですか?気にしたことありませんでしたね。」
酒でぼんやりしていた思考がクリアになってくる。白石が何を探りたいのか。彼も何か企んでいるのか。白石の視線に緊張が高まってくる。それを悟られないように、鍋をつつきながら返答をして気を紛らせた。
「杉元だけじゃねえ。現に今俺とも「距離」をとろうとしてるだろ。探られたくないことでもあるのか、それとも男に警戒してるのか。」
「それを知って白石さんはどうなさるおつもりです?」
こちらも探るように白石の表情をうかがった。この男は元囚人。罪を犯すことに罪悪感など感じないだろう。金塊争奪戦に参加する人数は減らしたいに違いない。そして、この争いに邪魔になると分かれば、この状況だ。調子のいい白石だが、きっとこういう男ほど損得勘定は瞬時にできるものだ。
「私が邪魔ですか?」
私の言葉に白石はきょとんとした。そして、少し考えるようにして、思い至ったのか「俺は殺しはやらねえよ!」と大きくかぶりを振った。
「これから旅をするんだ。少しくらい信用してくれよ。あんたのために油にまみれて助けに来た男だぜ?」
きらり、と歯を見せてウインクをする姿は、いつもの調子の白石だ。
「事情はしらねえが、これから一緒に行動する奴を疑ってちゃ、あんたの身がもたねえぜ。」
ほらよ、と酒瓶をこちらに傾ける。それに礼をいって盃をよせた。そして、白石の言葉に返答する代わりに酒を流し込んだ。