白銀の世界で
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馬橇を走らせ、人気のない森でアシリパと白石と合流することができた。杉元とアシリパの間には妙な沈黙があり、その後の杉元の言葉から、彼女をおいていったのか、アシリパの意思を尊重せず別行動をしていたようだった。杉元は思い切りアシリパに殴りつけられ、地面にのめりこんでいた。よけられないものではないと思うが、それが杉元なりのけじめなのかもしれない。
合流した白石は半纏姿ではなく、軍服に身を包んでいた。さくらと杉元が逃亡した際に刺青人皮を探していたらしく、兵舎に火を放ってあぶり出そうとしたが結局見つからなかったようだ。そして戻ってきた鶴見が身につけていたところを目撃し、こちらへ合流したということだった。格子を抜けられたり、いとも簡単に放火をやってのける白石はいったい何者なのだろうか。さくらは首をかしげるが、その説明を眉一つ動かさず聞いている二人は、この白石の素性を分かっているのだろう。それを聞きたいと思い、声をかけようとしたが、白石はすき焼きの材料をもらいに近くの家へと走り出してしまい、聞けずじまいであった。
再び沈黙が流れる。
それを破ったのは杉元で、二人は馬の解体に取りかかり始めた。しかし、杉元が解体するのをアシリパは遮った。
「杉元、その顔・・・ひどくやられたな。体も傷だらけなんだろ。お前は休んでいろ。」
そういって馬の方に体を向け、刃物を入れていく。いつもより幾らか冷たい対応のように感じる。それは、誰かと話すとき必ず目を見て話すアシリパが杉元にちらり、と視線を向けただけで作業に移ったことがそう思わせるのだろう。その空気に耐えきれなくなり、アシリパに声をかけた。
「あの・・・私もなにかお手伝いさせてください。」
「いや、日向も顔がはれている。お前も休んでいろ。」
有無を言わさず杉元の隣に座らされ、二人で並んでアシリパの解体を見ているよりほかなかった。隣の杉元は暗い表情で何かを考え込んでいるようだった。
「アシリパさん。」
少し堅い声がアシリパを呼んだ。
「金塊を探す道ってのはこういうことなんだ。捕まってもっとひどい目に遭って殺されるかもしれない。」
杉元の言葉には子供を諭すような響きがあった。
「もしもアシリパさんの身になにかあったら俺は・・・おばあちゃんや村のみんなに申し訳が立たない。」
「私がお荷物だといいたいんだろう。」
馬を解体する手を止めずにアシリパが言った。端から聞いていてもアシリパは聡い子だ。現代でこの年の子が言葉の裏を的確に読み取ることができるだろうか。アシリパの言葉に杉元も言い淀んでいる。そこでアシリパは杉元に切り取った肉を投げつけた。顔の傷に効くから、と相変わらず視線を合わせずに続けた。
「私は・・・すでに父を無残に殺されている。危険は覚悟のうちだ。杉元と一緒なら目的が果たせるかもしれないと・・・自分で判断したから協力すると決めたんだ。」
「私を子供扱いして相棒として信用せず・・・一人で軽率に行動して捕まったのはお前じゃないか!」
******
白石が戻って来てからも2人の雰囲気は重く、さくらも下手に話に入ることもできずにいた。白石は小屋に戻ってさくらに目配せをしてきたが、さくらがそれに軽く首を横にふると、状況を察したように小さくため息をついた。
「夫婦喧嘩は犬も食わねえからほっとくけどよ。旨い鍋食って仲直りしようぜ。」
ウインクを決める白石に少しこの場の雰囲気が柔らかくなったように感じる。この状況で白石のような存在はありがたい。
「そうですね!せっかくのご馳走ですもの。いただきましょう!」
「酒ももらってきたんだぜ!…お、肉が桜色になってきたら食べごろだ。##さくら##ちゃん、そろそろ行けそうだぜ。」
「おいしそう…杉元さんお酒が進みそうですね。」
そう言って、白石の言葉に合わせて皆に料理を取り分けていく。それまで堅い表情だった2人も桜鍋の香りに頬が緩んでいるようだった。杉元はさくらから取り分けられた肉に卵を絡めて口に含んだ。
「うまい!!こりゃたまらんな」
先ほどの表情が嘘のように、はふはふと美味しそうに肉を口に運んでいく。アシリパの方は白石に食べ方を教わりながら口に運ぶところだ。
「くう〜!うめえ!あっさりしたこくのある味噌との相性が抜群だな!味噌の分量も完璧だったな?味噌ダレが最高に効いてる。」
白石の言葉でアシリパの箸が止まった。
「杉元ぉ?今のは本当か?これオソマが入っているのか?」
オソマ?
聞き慣れないフレーズにさくらも白石も首を傾げた。アイヌの言葉だろうか。今は分からないが、アシリパにとっていいものでないのはなんとなく表情として分かった。杉元はオソマの意味がわかるようで申し訳なさそうに桜鍋には味噌が必要なことを伝えた。
「アシリパちゃん味噌が嫌いなの?」
白石もオソマの意味に予想がついたようだ。しかし、杉元はそれに首を横に振った。
「嫌いというか…うんこだと思ってる。」
「うんこ?アイヌと和人の違いなのかねぇ?意外な部分で分かちあえなかったりするんだな。」
「たしかに小さい時から食べ物だと認識していないと、そう見えるかもしれませんね。」
ずーんと落ち込む様子に杉元が箸を置いた。
「アシリパさん、肉はまだたくさんある。味噌なしで作り直そう。」
文化の違いで分かり合えない部分があるというのは仕方がない。私も作り直しを手伝おうと同じく箸を置いたところで、アシリパが味噌だれのついた肉を口に近づけはじめた。ちいさく息を吐きながら果敢に挑戦する姿に大人3人が固唾を飲んで見守る。
「オソマおいしい。」
「うんこじゃねっつーの。」
そう言って嬉しそうにアシリパを見つめる杉元が、アシリパの空になった器に桜鍋を何度も注いでやった。
合流した白石は半纏姿ではなく、軍服に身を包んでいた。さくらと杉元が逃亡した際に刺青人皮を探していたらしく、兵舎に火を放ってあぶり出そうとしたが結局見つからなかったようだ。そして戻ってきた鶴見が身につけていたところを目撃し、こちらへ合流したということだった。格子を抜けられたり、いとも簡単に放火をやってのける白石はいったい何者なのだろうか。さくらは首をかしげるが、その説明を眉一つ動かさず聞いている二人は、この白石の素性を分かっているのだろう。それを聞きたいと思い、声をかけようとしたが、白石はすき焼きの材料をもらいに近くの家へと走り出してしまい、聞けずじまいであった。
再び沈黙が流れる。
それを破ったのは杉元で、二人は馬の解体に取りかかり始めた。しかし、杉元が解体するのをアシリパは遮った。
「杉元、その顔・・・ひどくやられたな。体も傷だらけなんだろ。お前は休んでいろ。」
そういって馬の方に体を向け、刃物を入れていく。いつもより幾らか冷たい対応のように感じる。それは、誰かと話すとき必ず目を見て話すアシリパが杉元にちらり、と視線を向けただけで作業に移ったことがそう思わせるのだろう。その空気に耐えきれなくなり、アシリパに声をかけた。
「あの・・・私もなにかお手伝いさせてください。」
「いや、日向も顔がはれている。お前も休んでいろ。」
有無を言わさず杉元の隣に座らされ、二人で並んでアシリパの解体を見ているよりほかなかった。隣の杉元は暗い表情で何かを考え込んでいるようだった。
「アシリパさん。」
少し堅い声がアシリパを呼んだ。
「金塊を探す道ってのはこういうことなんだ。捕まってもっとひどい目に遭って殺されるかもしれない。」
杉元の言葉には子供を諭すような響きがあった。
「もしもアシリパさんの身になにかあったら俺は・・・おばあちゃんや村のみんなに申し訳が立たない。」
「私がお荷物だといいたいんだろう。」
馬を解体する手を止めずにアシリパが言った。端から聞いていてもアシリパは聡い子だ。現代でこの年の子が言葉の裏を的確に読み取ることができるだろうか。アシリパの言葉に杉元も言い淀んでいる。そこでアシリパは杉元に切り取った肉を投げつけた。顔の傷に効くから、と相変わらず視線を合わせずに続けた。
「私は・・・すでに父を無残に殺されている。危険は覚悟のうちだ。杉元と一緒なら目的が果たせるかもしれないと・・・自分で判断したから協力すると決めたんだ。」
「私を子供扱いして相棒として信用せず・・・一人で軽率に行動して捕まったのはお前じゃないか!」
******
白石が戻って来てからも2人の雰囲気は重く、さくらも下手に話に入ることもできずにいた。白石は小屋に戻ってさくらに目配せをしてきたが、さくらがそれに軽く首を横にふると、状況を察したように小さくため息をついた。
「夫婦喧嘩は犬も食わねえからほっとくけどよ。旨い鍋食って仲直りしようぜ。」
ウインクを決める白石に少しこの場の雰囲気が柔らかくなったように感じる。この状況で白石のような存在はありがたい。
「そうですね!せっかくのご馳走ですもの。いただきましょう!」
「酒ももらってきたんだぜ!…お、肉が桜色になってきたら食べごろだ。##さくら##ちゃん、そろそろ行けそうだぜ。」
「おいしそう…杉元さんお酒が進みそうですね。」
そう言って、白石の言葉に合わせて皆に料理を取り分けていく。それまで堅い表情だった2人も桜鍋の香りに頬が緩んでいるようだった。杉元はさくらから取り分けられた肉に卵を絡めて口に含んだ。
「うまい!!こりゃたまらんな」
先ほどの表情が嘘のように、はふはふと美味しそうに肉を口に運んでいく。アシリパの方は白石に食べ方を教わりながら口に運ぶところだ。
「くう〜!うめえ!あっさりしたこくのある味噌との相性が抜群だな!味噌の分量も完璧だったな?味噌ダレが最高に効いてる。」
白石の言葉でアシリパの箸が止まった。
「杉元ぉ?今のは本当か?これオソマが入っているのか?」
オソマ?
聞き慣れないフレーズにさくらも白石も首を傾げた。アイヌの言葉だろうか。今は分からないが、アシリパにとっていいものでないのはなんとなく表情として分かった。杉元はオソマの意味がわかるようで申し訳なさそうに桜鍋には味噌が必要なことを伝えた。
「アシリパちゃん味噌が嫌いなの?」
白石もオソマの意味に予想がついたようだ。しかし、杉元はそれに首を横に振った。
「嫌いというか…うんこだと思ってる。」
「うんこ?アイヌと和人の違いなのかねぇ?意外な部分で分かちあえなかったりするんだな。」
「たしかに小さい時から食べ物だと認識していないと、そう見えるかもしれませんね。」
ずーんと落ち込む様子に杉元が箸を置いた。
「アシリパさん、肉はまだたくさんある。味噌なしで作り直そう。」
文化の違いで分かり合えない部分があるというのは仕方がない。私も作り直しを手伝おうと同じく箸を置いたところで、アシリパが味噌だれのついた肉を口に近づけはじめた。ちいさく息を吐きながら果敢に挑戦する姿に大人3人が固唾を飲んで見守る。
「オソマおいしい。」
「うんこじゃねっつーの。」
そう言って嬉しそうにアシリパを見つめる杉元が、アシリパの空になった器に桜鍋を何度も注いでやった。