白銀の世界で
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馬橇には杉元とさくら、そして2人の軍人が乗り込んだ。初め鶴見はさくらが付き添うことに難色を示していたが、杉元が協力する条件としてさくらの同行を提示したため、のまざるを得なかったのだ。
「杉元さん!もうすぐ病院ですよ!」
瀕死の容体の杉元に必死に声をかける。隣に控える軍人もその様子に表情硬くしていた。きっともう永くないと悟っているのだろう。しばらく杉元は唸るように苦しんでいた。しかし、いくらか第七師団の建物から離れたとことで、むくりと起き上がった。
「おい起き上がるな!出血がひどくなるぞ!」
そういって慌てる軍人を杉元は無言で橇から投げ落とした。その物音に気づいた馬橇の手綱を握る軍人が振り返る。
「誰か落ちたのか?」
軍人が振り返った先には仁王立ちする杉元の姿があった。そして、無言でその軍人も投げ落とした。
「さくらさん。しっかり掴まっててね。」
杉元は盗んだはらわたを投げ捨て、勢いよく馬橇を走らせた。かけ声にあわせて馬が速度を上げていく。雪道を滑るように走りながら冷たい風が頬を横切った。
これで鶴見たちを撒けるだろうか。逃亡に成功した高揚感と同じく、これほど簡単に逃げ切れるはずないという不安とが胸の中でせめぎ合う。あの鶴見が偽装に気づかないはずはない。杉元もそれはわかっているのだろう。目的の病院とは別のルートを走ろうと馬に必死で指示を出している。
「曲がれっつってんだよこの馬野郎!」
しかし、馬橇に慣れていないらしい杉元に馬は反応せず、ただただまっすぐに走っている。
「・・・杉元さん!」
後ろから蹄の音がする。振り返ると銀の額あてがきらりと光り、件の男が追ってきていた。杉元もそれを確認すると小さく舌打ちをした。
「くそ、案外早く気づきやがった。」
遠くに見えていた人影がだんだんと表情がうかがえる程の距離になる。馬橇と単騎では速度は雲泥の差だ。このままでは追いつかれてしまう。
「さくらさん。」
呼ばれて杉元の方を見る。
「手綱かわってくれ。俺が引き留める。」
「追っているのは鶴見中尉だけではありません!死ににいく気ですか!?」
「どっちにしろこのままじゃ二人とも死ぬ。俺が時間を引き延ばす間にできるだけ遠くへ逃げろ。森に入ればアシリパさんの小屋を使うかチセで匿ってくれるはずだ。」
「そんな・・・!」
この人はそうやって何でも抱え込む気なのか。
脱出できたのは杉元のおかげだ。自分一人だけでは絶対にできなかった。そう思うさくらの気持ちなど知らず、杉元は手綱を握らせる。
「あんたは前だけ見てればいい。」
そう言って橇から飛び降りようとする杉元の服の裾を必死で引っ張った。
「あなた一人を犠牲にするもんですか!!」
「っおい!」
バランスを崩した杉元が橇の上で盛大に倒れた。
「逃げ切るのも一緒です!なんなら私も馬投げてでも鶴見さんと戦います。」
さくらの返答に一瞬呆けた顔になった杉元だが、意味を理解すると吹き出した。
「投げるって・・・そんな細腕で。」
「・・・っそれくらいの覚悟はあるという意味です!」
勢いで言い切った部分もあるが、それくらいの気持ちはあった。さくらがそう言った直後に後ろから何かが倒れるような音がした。
鶴見の乗っていた馬が倒れている。鶴見はすぐに起き上がって走り向かってきたが、今度はこちらの方が優勢だ。
「さくらさんは思いっきり手綱を振って!前見て!」
杉元の言うとおり必死で手綱を振って馬に鞭打つ。後ろでは杉元が鶴見の方をみて立っていた。まるで壁のようにさくらの背後を隠すように。少しして、杉元が後ろから手綱をつかんだ。
「もういいよ。俺が代わるね。」
杉元におとなしく手綱を渡し、後ろに控えた。振り向いて鶴見のいる方向を見やると、その手には黒く光るものが握られていた。まさか、本当に壁になっていたのか。銃との間に入って、身を挺していたのか。
それを気づかせないよう振る舞う杉元に問うことはできなかった。知らないふりをすることも彼の行為を尊重することである。
「ありがとうございます・・・。」
感謝を述べると杉元はにこり、と笑った。
「杉元さん!もうすぐ病院ですよ!」
瀕死の容体の杉元に必死に声をかける。隣に控える軍人もその様子に表情硬くしていた。きっともう永くないと悟っているのだろう。しばらく杉元は唸るように苦しんでいた。しかし、いくらか第七師団の建物から離れたとことで、むくりと起き上がった。
「おい起き上がるな!出血がひどくなるぞ!」
そういって慌てる軍人を杉元は無言で橇から投げ落とした。その物音に気づいた馬橇の手綱を握る軍人が振り返る。
「誰か落ちたのか?」
軍人が振り返った先には仁王立ちする杉元の姿があった。そして、無言でその軍人も投げ落とした。
「さくらさん。しっかり掴まっててね。」
杉元は盗んだはらわたを投げ捨て、勢いよく馬橇を走らせた。かけ声にあわせて馬が速度を上げていく。雪道を滑るように走りながら冷たい風が頬を横切った。
これで鶴見たちを撒けるだろうか。逃亡に成功した高揚感と同じく、これほど簡単に逃げ切れるはずないという不安とが胸の中でせめぎ合う。あの鶴見が偽装に気づかないはずはない。杉元もそれはわかっているのだろう。目的の病院とは別のルートを走ろうと馬に必死で指示を出している。
「曲がれっつってんだよこの馬野郎!」
しかし、馬橇に慣れていないらしい杉元に馬は反応せず、ただただまっすぐに走っている。
「・・・杉元さん!」
後ろから蹄の音がする。振り返ると銀の額あてがきらりと光り、件の男が追ってきていた。杉元もそれを確認すると小さく舌打ちをした。
「くそ、案外早く気づきやがった。」
遠くに見えていた人影がだんだんと表情がうかがえる程の距離になる。馬橇と単騎では速度は雲泥の差だ。このままでは追いつかれてしまう。
「さくらさん。」
呼ばれて杉元の方を見る。
「手綱かわってくれ。俺が引き留める。」
「追っているのは鶴見中尉だけではありません!死ににいく気ですか!?」
「どっちにしろこのままじゃ二人とも死ぬ。俺が時間を引き延ばす間にできるだけ遠くへ逃げろ。森に入ればアシリパさんの小屋を使うかチセで匿ってくれるはずだ。」
「そんな・・・!」
この人はそうやって何でも抱え込む気なのか。
脱出できたのは杉元のおかげだ。自分一人だけでは絶対にできなかった。そう思うさくらの気持ちなど知らず、杉元は手綱を握らせる。
「あんたは前だけ見てればいい。」
そう言って橇から飛び降りようとする杉元の服の裾を必死で引っ張った。
「あなた一人を犠牲にするもんですか!!」
「っおい!」
バランスを崩した杉元が橇の上で盛大に倒れた。
「逃げ切るのも一緒です!なんなら私も馬投げてでも鶴見さんと戦います。」
さくらの返答に一瞬呆けた顔になった杉元だが、意味を理解すると吹き出した。
「投げるって・・・そんな細腕で。」
「・・・っそれくらいの覚悟はあるという意味です!」
勢いで言い切った部分もあるが、それくらいの気持ちはあった。さくらがそう言った直後に後ろから何かが倒れるような音がした。
鶴見の乗っていた馬が倒れている。鶴見はすぐに起き上がって走り向かってきたが、今度はこちらの方が優勢だ。
「さくらさんは思いっきり手綱を振って!前見て!」
杉元の言うとおり必死で手綱を振って馬に鞭打つ。後ろでは杉元が鶴見の方をみて立っていた。まるで壁のようにさくらの背後を隠すように。少しして、杉元が後ろから手綱をつかんだ。
「もういいよ。俺が代わるね。」
杉元におとなしく手綱を渡し、後ろに控えた。振り向いて鶴見のいる方向を見やると、その手には黒く光るものが握られていた。まさか、本当に壁になっていたのか。銃との間に入って、身を挺していたのか。
それを気づかせないよう振る舞う杉元に問うことはできなかった。知らないふりをすることも彼の行為を尊重することである。
「ありがとうございます・・・。」
感謝を述べると杉元はにこり、と笑った。